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無名  作者: 天空瞳
10/21

 10 何か見つけました?

調査、はじめます。

監視するような清水の視線を背に受けながら、弓木は昔から使っている白い手袋を嵌める。


「僕はリビングを見てくるよ。八重垣くんはバスルームを、健哉は寝室をお願いするね」


「わかりました」


「はい!」


三人がバラバラに動くとは思っていなかったのか、清水が少し慌てる。


「えっ!……っと……」


「大丈夫ですよ。みんな調査には慣れているので。心配なら他の警官の方をそれぞれに付けてもらってもいいですよ」


「そうですか。では……」


そう言って清水は入り口にいた警官を健哉に付け、他に二人呼んできて、一人を入り口に置いて、もう一人を八重垣に付けた。


清水自身は、弓木の後を追ってリビングへ向かった。


弓木はため息を吐いて、横目で清水を盗み見た。


腕を組んで、仁王立ちになって弓木を監視する清水は、正しく警察犬のイメージだな、と弓木は思った。


「まあ、関係ないか」


ぼそりと呟いて、弓木はリビングの入り口から部屋全体を見回す。


入り口から見て、正面にバルコニーに続く窓があり、左側にキッチン、右側にソファとテレビがあった。


家具類は華美ではなく、簡素。


弓木は、まずキッチンへ向かった。


対面型キッチンには、調味料などがきれいに整頓されており、住人が几帳面であったのだろうと予測する。


食器棚にも、種類に応じて皿、コップ、茶碗類が分けてある。


シンクの排水溝にはゴミはなく、ゴミ箱にゴミがない。


「ゴミって捨ててないですよね」


清水に聞くと、清水もおかしいと思っていたのか、眉根を寄せて頷いた。


「はい。ゴミの収集日を調べたところ、事件が起きた三日前でした」


「そのことは捜査会議で、取り上げられなかったんですか?」


痛いところを突かれた、というような顔をして、清水は眉間にシワを寄せる。


「もちろん、進言はしました。しかし……」


「重要視はされなかった、と」


「はい」


弓木は、洋介の言葉を思い出していた。


「裏がある、か」


「え?」


「いえ、何も。さて、他の二人はどうなったかな」


首を傾げる清水を放っておいて、弓木は八重垣と健哉の元へ向かった。


 ☆  ☆  ☆


健哉は、寝室と思しき部屋に入り、全体を見回した。


「ふむー」


六畳ほどの部屋に、ベッドと本棚。床はカーペットが敷いてあり、ローテーブルがあった。


角部屋だからなのか、ベッドのそばに、小さいながら窓がある。


ベッドにはクリーム色の布団がしっかり敷かれており、まるで歪みがなかった。


呟いて、本棚の前に立ち、陳列されている本の背表紙をじっくり眺める。


「さて、ここの住人の方は、どんな人だったのでしょうか」


本棚に並んでいたのは、辞書や小説、画集などもあった。


「んー?」


近づいて見ていた本棚を、数歩下がって見つめる。


「なんか、違和感……」


英語やフランス語で書かれた背表紙。


どこかで見たことのあるような、そんな感想を抱いた。


健哉が記憶を掘り起こそうと唸っていると、弓木が声をかけた。


「健哉、どんな感じかな?」


「あ、弓木さん!」


清水が警察犬としたら、健哉はポメラニアンかな、と弓木が思った瞬間だった。


「なんか、この部屋違和感があるんですが、それがなにかわからなくて……」


しょんぽりと俯く健哉の肩を、励ますように叩き、弓木は笑顔を向ける。


「ありがとう。じゃあここも写真を撮ってあとで検証してみようか」


「はい!」


「八重垣くんのところにいくが、健哉も来るかい?」


「いいえ、もう少しこの部屋を調べてみます」


「そうか、頼んだよ」


「はい!」


健哉の返事に笑顔を返し、弓木は風呂場を調べている八重垣のところへ向かった。


 ☆  ☆  ☆


「……」


八重垣は黙々と現場を調べていた。


風呂場には、廊下にあった白いテープと同じ、人型を囲んでいるものが浴槽の中にあった。


全体の写真を撮り、各場所の写真も撮っていく。


排水溝には、髪の毛一つ落ちていない。


それどころか、なにかが詰まっていたような跡がある。


「……」


写真を撮りながら、ふと考える。


外まで流れでるまでの水量。


例えば風呂場の排水溝をなにかで塞いで、水を流しっぱなしにすると、外に漏れ出る可能性はある。


しかし、それだけの水量だと、部屋全体が水浸しになるような気がする。たとえすべてのドアを閉めていたとしても、隙間から。


なのに、流れ出たのは玄関のドアからだけ。他の部屋に濡れた跡はない。


八重垣は写真を撮る手を止め、今は開け放たれている玄関のドアを見る。


そして床に貼ってある白い人型のテープ。


「……」


「何か気づいたかい?」


「っ!弓木さん」


「ごめん、驚かせた?」


申し訳なさそうな顔の弓木に、八重垣は慌てて首を横に振った。


「いいえ、大丈夫です。考え事をしていたので」


「そう、ごめんね。何か気づいたことがあるのかな?」


「あ、はい。水の流れが……」


「水の流れ、ね。ありがとう。健哉が調べている部屋の写真をお願いできるかな?」


「はい。わかりました」


八重垣が寝室に向かう後ろ姿を見ながら、弓木は考える。


キッチンの様子、寝室の違和感、そして風呂場からの水の流れ。


「ふーん……」


「何かわかったんですか?」


清水の言葉に、弓木は刑事の頃のように、口元に笑みを浮かべる。


それは、清水に向けた作り笑いでも、八重垣たちに向ける笑顔でもない。


獲物を見つけた獰猛な獣を背負った、笑みだった。



獰猛な獣って、イメージはライオンとかですかね。

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