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相棒

果たして主人公はどうしたのか…!?


なんだかシリアスに煽ってますけど要するにオチです

 講堂に、すんすんとすすり泣く、女性の声が(コダマ)する。

 音源の主はレクリエーションを差配していた冴島 マドカ、なのだが……。

 居合わせた新入生らはもうひとつ、別に女性の泣き声が聴こえているように感じていた。


 ――幻聴である。


 それを決定付けた当の本人は、まあ他でもないニッカだが。


 彼は()()され続けたある存在を、絶対的に拒絶し続けた。

 その回数、既に百十数回。


 それだけ同一個体が当たり続けるのも妙な話だが、それを小一時間で済ませたニッカのリセットに掛ける熱意も中々侮れない。

 謂わば、一日一万回感謝の正拳突きに勤しんだ何処かの武闘家のような、または狙撃手(スナイパー)でもないのに無心になってセンターに目標を入れて引き金を引き続けさせられる中学生のような、または緊急時以外押したらダメだよと言われているのに中毒患者のようにカチカチと大量破壊兵器のスイッチを入れ続ける妹皇女のような趣で。

 彼は、リセマラを続けたのである。

 その心意気、最早『(意地)』の如し。



「なんでですかぁ……、ふぇっ、ヒッゥ、どうしてとめてくれないんですかぁ……、ふぇぇ……、同じ記憶を持つ神格が、出続ける、とか、研究すれば、すごいことに、なるのにぃ……!」



 心は痛まないのか小僧(二度目。


 当然、地の文の冷ややかな眼差しなどは届きはしないのだろうが。

 何百万回彼女が泣いても拒否を繰り返し続けた鋼のニッカは、消せない罪を刻まれながらもマドカへと振り返る。


 次の召喚に至る休憩の意を兼ねていたのだが、新入生らからも刺さる『えーかげんにせーよ、お前』とでも言いたげな眼差しも理由になっているのだと思いたい。

 最低でも、そういう機微を感じ取れる『人の心』が彼にも残っているのだと、そう思いたい。



「あー……、のですね、俺はこの通り新入生で、初心者なわけでして。それがいきなり高ランクのを扱えるとは自負も出来ないんですよ、無理っす」



 すん……、と泣き声が鎮まる。

 敬語になっていない言葉遣いなのは、ニッカなりの『若者らしさ』を演じたためだ。


 肉体に引かれて精神も若返っている可能性もあるが、これまでの自分の言動から察するに、経験からくる人格は『前世』を補強したようになってしまっている。

 何せ前世は40過ぎ、年下を見下しまではせずとも、『いい大人』としての『落ち着こう』という態度が言動に先走るのだ。たぶん。

 言い分も記憶も自身由来なので、『今』では相当あやふやだが。


 そのうえで、ニッカは早めに切り上げるべきだと己でも自覚できるが、しかし流石に流される儘にはいかない『現状』について申告した。

 誰彼の言い分だと自分にも資質のようなモノがあるらしいのだが、それでも初手からハードルを上げられるのは勘弁願いたい。


 かつての社会に似ては居ようと、『今』生きているのは感覚の異なる『異世界』だ。

 ジュブナイル小説みたいに根本的に違う『剣と魔法の世界』ならば、若返ったことも実感として感じつつもっとはっちゃけるような生き方に傾倒していたかも知れない。

 しかし、かつての日本と然程も変わらない世界で在る以上、社会の足並みを無駄に搔き乱す行為は『大人として』は控えるべきだと羞恥心(ゴースト)が囁くのである。



「……あと、見た感じ完全に年頃の、美人じゃないですか。それを取り扱える自信は、無いです……」


『(なんだ、ヘタレか……)』



 周囲の新入生らの心中が見事に揃った。

 むしろこっちの方がニッカの本音で、本当の理由だったと言っても過言では無いためかも知れない。


 マドカが顔を上げる。

 しゃがみ込んで泣き続けていたために、ニッカは自然と彼女を見降ろす形となってしまっていた。

 その顔は、目は赤く腫れぼってはいたが、もう泣いてはいない。

 生徒に向き合おうとする、教師の顔を見せていた。



「わかりましたっ、不肖冴島マドカ、汐くんの学習に全力で手助けすることを決めますっ」


「は、はい。よろしく、おねがいします……?」


『(かわいいかよ)』



 再び、新入生らの心中が一つとなった。

 流石、青春真っ盛りの24歳。

 前を向く姿すら気力がある。


 その気力はニッカの前世では中々に興せない、失われたと言っても過言では無いモノだ。

 思わず、彼女の雰囲気に呑まれて、返事をしてしまう。


 だが、何かニュアンスが可笑しいと、ニッカ自身感じてはいた。



「なので! さぁ、次の召喚です。どれだけ高ランクな子が来ても、全身全力でお手伝いしますからね!」


「あ、はい」



 次もアレが来ると、確信犯的な気負いのようである。


 しかしまあ、次もくるだろうなぁ、と。

 ニッカは半ば自棄気味にもなって、茫然と召び喚す。


 だが――、



「――おっ?」


「あれぇ!?」



 光の奔流(確定演出)、無し。

 集約する魔法陣の中の粒子は、今までとは全く違う姿を顕わとした。



「………………スライム、でしょうかね」



 エリート自称の先ほどの男子が呼び出したモノとは別の、桃色の葛餅みたいなモノがプルプルと揺れていた。

 明らかに、落胆した様子のマドカの声が、静かになった講堂に響く。



「――よし。キミに決めた!」


「ええっ!?」



 止めようとする間も無しに、桃色の葛餅は粒子となってニッカの【刻印】へと吸い込まれていった。

 結果、またマドカが泣きそうになったのは、言うまでもない。


このままだとマドカちゃんがヒロインムーヴ始めちゃいそうなのでぶった切りますね(外道

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