表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

初召喚

漸くあらすじに追い付きます

「……神格はD、スライムですね……」


「う、嘘だ、エリートたるこの僕が、よりにもよってDランク……ッ、な、何かの間違いだァーーッ!?」



 入学案内(パンフ)を読み込んでいると、気づけば慄いた声が講堂に響いていた。

 ユーヒの言い分を尊重する意も込めて、この場で時間の許す限り読んでみたのだが、思いのほか面白くてついつい読み耽ってしまっていた。


 この先を知るのはキミにはまだ早い、とか。

 この謎が解けるかな? とか。

 此処から先はキミたち次第だ! とか。


 なんだかちょいちょい煽ってくるのだ。

 攻略本かな? と、読み易さから次の(ページ)を捲る手が止まらなくなって仕舞っていた。

 お蔭で色々と知識が増えた。そんな気がする。


 さておいて。



「出ちゃったかー」


「ああ。さっき言ってた、俺らにとっての最低ランクか」



 ユーヒは殊の外、意外でもなさそうで。

 ニッカもまた、『他人は他人』がデフォルトで、隣の芝生を羨むことも無い精神性なので、そんなこともあるか程度で納得の声を上げ(済ませ)る。

 ただひとつ、この先の生活大変そう。と、これまた他人事である。



「要するにガチャみたいなもんだろう? ハズレ籤のひとつやふたつ、入っていそうだが」


「身も蓋も無い言い方するよね、ニッカは……」



 ジト目に似た視線が、ユーヒから注がれていた。


 この数分で、同級生との絆が育めた気がする。

 これが教師の言っていたことなのだろうか、とニッカは忌憚なく頷いた。


 違う、そうじゃない。

 そんな危ういルート分岐させるような意図は、教師だって含めていない。



「この大召喚陣は学園が用意した、いわゆる高ランク召喚用の大規模構築らしいんだ。けど、中身とかそういうことに関しては、どうしても調整は出来ないって聞いたけど」


「? プログラムみたいに、これを引きたいって選択できないか?」


「それを出来てたら戦争でももっと上手く事が進められただろうね」



 プロローグで語られた第3次の話である。

 が、ニッカは未だ其処を知らない。

 内心で小首を傾げるのみに留めておいたのは、英断だろう。



「『召喚できる従神は選べない、誰だって自分が生まれることを選択できないように。』そういう一文が此処(パンフ)にも載ってるし、『縁が在る』以外は完全にランダムみたい」


「なるほど。つまり、彼はスライムに縁が在る、と」


「やめてあげて」



 ある意味イジメにも取られそうなことを口走る。


 そんなニッカの言い分は届いていなかったらしい。

 眼前でぷるぷる震える、スライムと呼ばれた不定形の緑色の粘体を受け入れられずに、自意識高そうな男子は悲鳴にも似た声を上げて後退っていた。

 宛ら、夜道で怪奇と出会ったホラー小説の登場人物の如くである。違うか。違うな。



「だ、大丈夫ですよ! こういう事態に備えて、引き直しができますから!」



 申し訳なさそうな顔をして判定を下していたお下げの女性が、男子生徒を押し留めて奮起を促す。

 年の頃は、20代前半だろうか。



「えっ。そういうの、アリなのか?」


「みたいだよ? こういう最初のレクリエーションだけみたいだけど。本人に適さない従神を付けるのも酷だろう、っていう気なんじゃないかな?」



 思わず驚いてユーヒに問うと、平然と答えは返ってきた。

 それもパンフに載っていたのだろうか。

 煽られてまだ読んでいない部分かも知れない。



「しかし、そうなるとアレだな。次の人に順番が回ってこないだろう、その辺はどうなんだ?」


「まあ、よっぽど酷い縁の人でなければそんなに時間はかからないよ。元々、適性があるか無いかでこの学園だって生徒を集めている節があるんだし、『強い生徒』を確保したいっていう思惑だってあるんだろうしね」



 ユーヒの言う通り、先ほどの男子はそれなりのモノを召び喚せたらしい。

 ランクCのハルピュイアという半人半鳥を刻印に納めて、安堵した表情で次へと廻る。



「――はい、次は……汐 丹柄くん」


「呼ばれた。逝ってくる」


「ニュアンス可笑しいけど……、行ってらっしゃい」



 若妻に送られる旦那の如く、ユーヒが手を振ってニッカは赴いた。

 だから、そんな変則的なルート開拓は教師だって意図してない。



「とりあえず、リラックスして、鏡を前にするように、ね?」


「はい」



 そう聞くと今朝の自己確認が先立つが、心持ち緊張はしなかった。

 そもそも、やり直しが利くと見たばかりだ。

 何が強いか、何を手にしては駄目か、そんなこともわからないので、運を天に任せるしかニッカに執れる道は無い。


 だから、これは流石に予想外が過ぎた。



「――ん?」


「ッ!? え、ちょっ、これって高ランク……! SSS(トリプルエス)相当の発現……!?」



 キラキラと、今まで見た淡雪が昇るような輝きではない。


 それは流星群の奔流――。


 斜光にも似た輝きが講堂中の魔法陣から解き放たれて、ニッカの目の前へと集約する。


 女性の言葉の意味は理解できなかったが、要するに確定演出のようなモノだろう。

 胡乱な頭で、ニッカはそんなことを思っていた。


 そうこう考えるうちに、光は人の形を模して形作る。



 透き通るような金糸のストレートロングを振り撒いて、


 細過ぎず太過ぎない、女性らしい魅力的なラインで背筋を伸ばした彫刻のように真白い肌を顕わにし、


 その身を網目のようなシースルーを細部に繕われた深紅のドレスで包み、


 不敵な笑みを浮かべた黒紅(こっこう)に揺れる宝玉のような瞳に見下ろされ、


 豪奢に拵えられた黄金の金冠を片手にする美女が、悠然と顕現――、



「――私を召び喚そうだなんて、良い度胸をしているわ。イイわ、この力、存分に振る舞ってあげr」


「リセットで」


「ホギャーーーーーー!?」


『ハァアアアアアアアアアアアア!???』



 ――顕現したそれを、ニッカはあっさりとお断りした。

 美女の姿は、巻き戻しのように光となって魔法陣へ還る。

 何やら口走り、最後には悲鳴も上げた気がするが、ニッカには関係無かった。

 あと、後ろの方で新入生らが絶叫したことも。



次回、地の文多め

心して読んでね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ