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入学式

連続です

 そもそも、無患子 來來とは縁は無かった。


 『幼馴染』などとは評したが『家が近所で幼稚園から中学まで同じの女子(異性)』なんていうのは、普通の義務教育を請けられれば『石を投げれば適度に当たる』程度にはそこいらに居るものだ。

 それが偶々同じクラスで顔を付き合わせる回数が比較的多かったからといって、それ以上に何かの運命めいたものを見出せるかと云えば答えはNoになる。


 青い鳥は近くに居るモノだとか、

 身の丈を知って自分相応のお相手だと認めろだとか、

 お前の程度を超す幸福なんざありゃしないぜ現実見ろやだとか、


 とりあえず誰に対しても失礼な物言いな上に、『お前』が選ぶ立場なのかよ、とツッコミしたくなる『余計なお世話』相当の脳内科白(という建前のかつての同級生の言い分)は丸っと無視した。

 そもそもが、彼女を女性とは見ても、其処になんらかの魅力や安心感と云った異性に傾けるべき感情を抱けていないのだ。

 ツィートしてきた件の同級生と結婚していたと聞いた三十路の夜、危機感も無ければ喪失感すら抱かなかった程度の『縁』であった彼女に、


 ――生まれ変わったも同然の立場で再会したからといって、其処から何かが始まるのだとは到底思えやしない。


 そんなわけで。

 汐 丹柄は、今更彼女と何かの縁を繕うだとかは、大きく人生の舵を切ったりはしない。

 それが喩え、ぽっちゃりめの不細工だと思っていたら、隠れ巨乳の可能性が浮かんできた『見れる』程度の地味子だったのだとしても、だ。



「大体それで考えを換える方が失礼だろうに」


「……? なにか、言った……?」


「いいや、何も」



 マイペースにたどたどしい、口調ものんびり屋なクライに対しては、心配はあっても保護とまでは行かない。

 守護(まも)らねばならぬ、などと何処かの武闘家のように牙を砥ぐほどの『お姫様』とは思えない。

 彼女だって受諾するはずも無いことだろう。


 そう連想したところで、ふと気づく。

 マイペースだからこそ、自分に対して失礼且つおざなりな態度であったニッカを、『彼女』なればそのままに済ませて粛々と連れ立ったであろうか、と。



「なあ、そういやライは、俺に何か無いのか?」



 気になったので、訊いてみた。



「……? なにか、って……?」


「いや。今更ながらさっきから失礼な物言いばかりしているな、と自己嫌悪に陥ってた」


「……うん。ニッカの、『そういうところ』は知ってるから、別に、無いし……」



 ……。

 これは、呆れられているのだろうか……。


 言葉少なめで、意図の汲めない返事で会話が終わってしまった。

 ニッカの云えることではないが、会話のレスポンスが微妙で終わるのは如何なモノか。

 察せて貰えているのか、はたまた諦められているのか。

 返答に困る台詞が吐かれたことに、思わず何を返せば良いのか間を講じてしまっていた。


 ニッカ的にも。

 地の文としても。




  ■




 何処か義務的、且つ番号を割り振った程度の名称の『学園』。

 幾人かの同年代(少年少女)らが、思い思いに友と連れ立って、時に独りで校門へと集まって往く。

 その数は膨大であり、下手に足を停めれば人ごみを無駄に遮ってしまうのでは、と伺えるくらいには皆自動的に前へと突き進んでいた。


 結局、ニッカとクライは碌な会話も無いままに到着していた。

 齟齬がどうなのか、というニッカの疑惑は晴れることも無く。

 これからの生活このままで良いのか、という疑念も解消できないままに。


 ある意味嵌められた気分で、ニッカは幼馴染の少女に微かな苛立ちを覚える。

 完全に八つ当たりなのだが、そうしても可笑しくない程度にはクライの在り様は『根が暗い』。

 周囲を伺うように傍に寄り、実際伺って(そばだ)てる。

 姿勢の如くに心理まで拠っているわけでは無かろうが、背に縋られると青少年のパーソナルスペース浸食問題として非常に危ない。


 触れる、ことが。



「、いや目的地には着いたんだから近づくことも無いんじゃないかな」


「ま、迷子になるのは、こまる」



 僅かな逡巡の後、ワンブレスで抵抗を試みたが即座に否定を窘められた。

 可笑しい、少女の心根に敵愾心を抱く話を述べていたはずなのに、気づけばラブコメのような空気が出来上がっている。


 周りの少年少女ら(同類)も、生暖かい目で見るか舌打ちするか。

 二択だ。辛い。



「……まあ、人間誰しも、性根は暗いモノだものな、仕方がねぇか」


「とつぜん、なんのはなし……?」



 オルタナティブな外気に、ニッカの敵愾心に関する構想は萎むように消失していた。


 そもそも性根とは心理の陰、位置的な意味でも暗くて当然のモノである。

 人間誰しも根暗で当然。

 それを認められないのは、年を喰って未だに自己を顧みられない能天気か莫迦、または自分を認められない臆病者だけである。


 そう結論付けてニッカはクライを許すことにした。

 広大無辺の仏心からすれば人間心理に大した違いも無い、と。


 要するに、おっぱいは偉大である。

 やわらけぇ!



「はい其処のカッポゥ、いちゃついてないで。キミらの番だよ」


「割烹じゃねーし」


「割烹じゃねーよカッポゥ(couple)だよ。フィーリングで気づけやクソガキ」



 ヤダ、口悪い……。


 やさぐれた白衣の女性に、思わず慄いて息を呑んだ。

 むぐぅ、と噤むのも致し方なし。



「はい、手出して」


「手?」



 謂われて、並んでいる皆のように手を差し出す。

 ニッカが出したのは右手だが、誰しもが同じではなく、それは利き手を伸ばしているようにも伺えた。



「使い辛かったら調整で移動できるから。浮いてきたらそのまま進んでね、講堂でレクリエーションやるから」



 気づけば、手のひらに燦然と輝く、刺青のような紋様が。

 本日最大級に慌てつつ、ニッカはしかしその内心を外へ漏らすことは無かった。

 しかし、ひとつだけ言いたかったことがある。


 ヤダ、ナニコレ令呪っぽい……。


 非常に、危なかった。


言葉にしなけりゃ…

多分平気…!

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