テンプレートな勝者と敗者
地の文が多めの作品となります
読み辛いと思ったら是非ご意見ください
「ニッカァアアアアアア! 今日こそは私が勝利させていただきますわよォォオオオオオ!」
「……とうとう呼び捨てされるに至った。どうやらこのお嬢様からは、礼儀礼節を傾けるに足らない人間だと判断されたらしい」
汐 丹柄は辟易と溜め息を吐く。
ずびしぃ! と指差しまでやらかして言葉の通り、自身に礼節を傾けない金髪お嬢様の行動には慣れているようだ。
慣れてはいても、ツッコミやら思うところやらと、常識的な配慮はそれなりに浮かぶ。
そうした『色々な』思考が綯い交ぜになって、最終的に何とも形容のし難い感情を向ける破目になっているのだから、真っ先に出てくるのが『溜め息』という反応なのだろう。
「とりあえず。他人を指で差すな。無礼にも程がある」
「ムキィーーー! その淡泊な反応ォ! どちらが無礼なのか勝負で白黒つけるのですわ!」
そうした淡々としたシニカルな反応を返されて、金髪のお嬢様――学園のトップ5を爆走する、1学年上の英国出身、アリーシオ・白龍・フランシア・フランセル――は憤慨続けてギリリと歯軋りを晒して見せた。
入学してから1週間、そんな先輩に向けるニッカの尊敬の念は皆無である。
当然の帰結であった。
■
【勝負】を決定付ける、学園の設備は競技場のような形式になっている。
例えるならば任●堂のコロシアム的な。
その両端に選手が対峙して【対立】を開始する。
どうでもいいことだが、アリーシオの吶喊は今に始まった事でもない。
本日の『現場』も衆人環視の多数あった学園校門前だったので、校外学習の見学者宜しく、そんな観客をぞろぞろと引き連れて彼らはこの場に立っていた。
競技場の外周を担う観客席にて、彼らは漫ろに観戦を楽しんでいる。
『ゲーム』と呼ばないのは、『此れ』が実戦形式に当たるための配慮である。
戦争に至らなくなって10年経つが、それが『兵器』を取り扱う【勝負】であることは変わりはない。
しかし、この学園のある日本は専守防衛。
喩え兵器を取り扱う実戦形式でなかったとしても、その配慮は本当に最低限度のおざなりな言葉遊びに過ぎないのであろう。
「ルールは従来通り! 3on3の掃討戦! どちらかの【従神】が全滅するか使い手が負けを認めれば勝負は終了! 追撃はNGですわ!」
「了承。お先にどうぞ」
コートの両端に立ち、アリーシオとニッカは睨み合う。
いや、睨んでいるのはお嬢の方で、ニッカの瞳は実に平坦なままだった。
灰色の目が、感情も感傷も無しに眺めている。
それを受け止めたのだろう。
アリーシアは再度憤慨するように、グッと奥歯を噛み締める。
しかしなるたけ表に出さないように、彼女は片手を掲げ刻印を示した。
其れが出来てるなら最初からやればいいのに!
「お出でなさい! 【竜殺し】ジークフリート! 【邪竜】ファフニール! 【戦乙女】ブリュンヒルデ! これが私の全戦力、名付けて『ニーベルンゲンの唄』デッキ!」
「デッキ云うなや」
白銀の鎧を纏った大男、濁った眼の巨竜、蒼い甲冑の美女がそれぞれ、召喚士の魔力によって実体化する。
現実的とは言い難い実に神秘的な光景だが、それはそれとして。
ドイツの神話じゃねーか! お前英国出身だろうが!
もうひとつ、ニッカ的にはそう言いたかった。
それはそれとして、
「パビルサグ、ギルタブルル、アメミト。食い潰すぞ……!」
すっかり口にするのもお馴染みとなった『力ある言葉』で、意気込みと共に勝負へ臨む。
ギラリ、と野趣の滲む眼差しに、アリーシオはひぃと身を竦ませた。
■
遡ること20と数年前、平成という時代に日本が慣れて来た頃。
――数えて『3回目』の世界大戦が勃発。
脅威は鎌首を擡げて襲い掛かり、日々の発展と平和を享受していた日本もまた、世界の例外に漏れることは無かった。
とはいっても、世界を脅かしたのは火薬や電気や原子力などにエネルギーを頼る、目に見えて脅威足り得た近代兵器の数々では無かった。
振るわれた『最新現代兵器』とは――【神話】。
特殊な刻印へ対価を支払うことで、神話や幻想であった者たちを現実に召び喚し現実を蹂躙する、類稀なる悪逆の技術だ。
彼らには基本として既存兵器らでは手が負えず、軍事を遥かに凌駕する『魔法』を駆使し、それを数多く従えられる者たちにこそ軍配は上がった。
無論、破壊だけではなく、切り崩した社会を回復させることも彼らは可能とした。
死者を蘇らせることは流石に無かったが、『彼ら』の中には【豊穣】や【治水】や【大陸の変遷】などを可能とする神格だって存在する。
テラフォーミングにも近い『新たなる技術』の前には、かつての人間文明など霞のようなモノであったという。
そうした『3次』を勝ち残ったのが、他でもない日本だ。
そもそも、彼らを従えられる技術が世界を席巻した際、真っ先に多様的に取り入れ始めたのがこの国だ。
元々、多神教文化であり、一定の宗教に染まっていなかったことが優位に働いたのだろう。
負けた国々はそう見做した。
全ては、『後の祀り』であったのだが。
さておき。
世界は神を聖者を仙仏を、悪魔を妖を怪異を、精霊を天使を怪物を、そして英雄を。
幻想に成って逝ったかつての法則を、もう一度この世界へ引き戻すことに成功した。
そして、それら神格を従えて、ヒトの采配によって神話を駆る。
それらの技術を世界は【神話堕胎】と名付けて呼んだ。
……今更だが。
【フォークロア】とは普通に和訳すると【民話】のことを指す。
【神話】は【ミソロジィ】になる。
試験なんかで間違えないようにご注意するべし。
■
『勝って兜の緒を締めよ』。
そんな教訓に倣うように、この『学園』が創建された経緯は『勝ったからこそ』の『技術の保持と革新』だ。
数多くの『使い手』を、より強靭な【従神】を。
時代は変わっても戦争で勝利する神髄は『数と質』だ。
また『次』が無いとも限らないことを世界が知っており、日本が独り勝ちしてしまったことを見逃されるわけもない。
故に、学園は実力至上主義。
年頃のティーンエイジャーっぽく日常を謳歌することも可能ではあるが、その日常に【従神】という『幻想の住人』らが紛れ込んでいる以上は、先に控えている戦争を回避することは容易では無いのだろうと、誰もが伺っていた。
その『先』が、出来ることならば容易く目先ではないことを、誰もが辛抱するのだが。
話を戻すが、アリーシオはそんな学園のトップ5に籍を置く。
元々は敗戦下位5ヶ国に名を連ねる英国の出身であったにも関わらず、彼女は努力と課金のチカラでその席を維持し続けている。
元々は高貴な身分であると自負と尊厳を集める彼女であるが、名が示す通りクォーターであり、その血を頼って留学生として来日したというバッグストーリーが存在した。
「ミドルネーム中国語じゃねーか」
かなり無理を通されたのだなぁ、とニッカは初対面でそうツッコミを入れた。
斯く言う彼も、名前だけだと某酒造連話を想起させて日本人ならざると疑いそうになる。
さておいて。
ニッカの召び喚した【従神】らは総じて邪悪だ。
半人半馬にサソリの尾を携えたパビルサグ。
彼女は縦に割いた黄土の瞳孔を見開いてゲラゲラと嗤い、墨のように濃淡な肌を晒して狂気を振り撒く。
銀糸のような髪は無造作に伸ばされて身体に貼り付いており、何処か妖艶な面影はしかし振り撒かれた感情の所為でか怖気にも換わる。
ギルタブルルはヒトの上半身にサソリの身体に猛禽の脚。
屍蠟か石膏のような真白い肌を惜し気も無く晒すが、時折キシキシと歯を鳴らすそれは茫々としていて――まるで感情の無い少女人形の様だと想起させる。
紅の複眼はルビーのような宝石に似ているが、それがまた何を考えているのかを予測させ難くもする要因の一つだ。
獅子の胴と偶蹄目の後ろ脚に鰐の貌を晒したアメミト。
静かにそいつは佇んでいる。
しかし神話上、死者の心臓を幾つも喰らってきた怪物であり神である。
何が恐ろしいかと言えばこの怪物こそが最たるモノ、のはずだ。
そしてアリーシオが知る限り、これらはニッカの備えるメインメンバーではない、という事実。
以前に幾度と自分を蹂躙した、空に浮かぶ両拳の形をした名も知らぬ従神ではない。
このところはそのメインを使用せず、それが彼に舐められているのだと、アリーシオは歯噛みした。
「……ッ、そう何度も、負けていられるものですかァ……ッ!!」
吠えるように、少女は少年へ向けて配下らを吶喊させる。
そうして――、
――早々に、また負けた。
■
「アアアアアアアアアアアア! ジークフリードぉォォォ!!! 私の従神がフラグメントにぃぃぃ!!!!」
生徒らが従える【神話】は原典こそ有れど、それぞれがそれぞれの手の下に呼び出されて遵う列記とした個だ。
その形成に至るまでの経験に伴って違いが生まれ、それぞれの強弱が僅かながら差異を造る。
従神の備える核たるモノを神話と呼ぶのに対して、それらを断章と名付けられもした。
したのだが、そういう恰好付けた言い方はあまり定着せずに、単純に『経験値』と呼ばれている。
悲しい話だ。
更に悲しい話だが、敗北した従神が其処に至るまでに重ねた経験を簡略化して、勝利した片方へ再分配させることを『簒奪』と呼ぶ。
このとき、形成された従神の位階によっては、再召喚に適応しない程度にまで神話へと還元されてしまうときがある。
その位階を明確に示したモノを『紲星』と呼び、それもまた経験によって育て繋いで重ねることができる。
最低でも☆3は無いと彼らは自身の神格を維持できずに、召喚士らが呼ぶフラグメントへと還元されて往くのだという。
尚、最高位は☆10だ。
アリーシオのジークフリード、並びに他の従神らは彼女の手元へ還ることなく、神話へと還元して逝った。
つまりは、そういうことだ。
「くゥううう! 折角お小遣い叩いて当てましたのに! これではまた引き直しですわよ!」
「育てが甘いんだろ……。つーか、仮にも神なんだからもうちょっと惜し気にしろよ……」
「役に立つなら考えますわ」
悔やむ気分もそこそこに、アリーシオは踵を返す。
これで終わったと思わないことね! と捨て科白を吐いて去る、その後ろ姿にどうしようもない小者臭を感じたニッカは心中で呟いた。そういうとこやぞ。
どうしてこうなったのか。
良くも悪くも、人気者の上級生が去ったことで、衆人環視も収束迎えた。
人気の無くなった競技場でひとり、ホームルームに間に合わない時間になってしまったことも気にせずに、ニッカは回顧して溜め息を吐く。
それを語るには、物語を1週間前へ遡ることを必要としていた――。
もうわかったと思うけど、運命な夜のアレとか、無限の空のアレとか、デジタルなモンスターをテイマーするアレとかにこちょこちょと他作品言語混ぜてこの場に在ります
なぁに、商業作で堂々と読み手の性癖にドストレートな廉価ヒロインぶっこんだエロスなパクリモノもあったんだから、ネットの片隅でやる分にはへーきへーき(震え