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ひとつめのこと 江戸の町娘の朝は早い

 明け六つの鐘が鳴る前、冴え冴えとした空気の中であたしはようやく目を覚ます。

 もう卯月に入ったというのにまだまだ空気が冷たい。お父っつぁんの羽織でも借りてくれば良かったかしらと思いながら、手ぬぐいで顔を覆って冷たい空気を少しでも吸い込まないようにする。胸の中から冷えてしまうとあったまるのに時間がかかる気がするからだ。


「ひぇえ、寒い寒い」


 朝の寒い中を草履を履いて足早に手習い小屋へと歩く。これは日課だ。あたしの(うち)は大したことのない呉服屋だけど、ほかの家と同様に6つの時から手習いに行っている。これに留まらないから面倒なことこの上ない。


(そんなにいいもんなのかねえ?)


 商人の娘として生まれて今この年まで何の苦労もなく過ごしてきたと自負しているけれど、お武家様のところへお嫁に行けるというのがいいことなのかどうかも分からない。まぁ、それでも娘の教育にやたらと力を入れているおっ母さんの気持ちを無碍にすることも出来ない。

 手習い小屋に着くと他の女の子たちもすでに来ていた。みんな早いなぁ。


「お千代ちゃん、おはよ」


 聞きなれた声が後ろからしたので振り返ると、ふんわりとした笑顔をした幼馴染が立っていた。


「おはよう、およしちゃん」


「今日もまだまだ寒いねぇ」


 およしちゃんは家の裏にある長屋に住んでいる大工の政さんのところの娘さんだ。柔らかい雰囲気が何というかこう、いい。とてもいい。器量よしだってお父っつぁんたちも言ってたやつだと思う。


「お千代ちゃんはいつも朝早いね」


「一番乗りは出来てないけどね」


「うふふ」


 笑うとへにゃっと目が線みたいになってお多福みたいで、なんというかありがたーい気持ちになるのだ。あたしなんか生来の狐顏なもんだから、そんな福福しい笑顔にはなれない。というか笑うと何か企んでるの? って聞かれることもあるくらいだ。


「三味線もこのまま行くでしょう? わたしも一緒に行っていい?」


「うん。行こう行こう」


 朝ご飯にはまだまだありつけない。花のお江戸の町娘の朝は、けっこう忙しいのだ。


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