第4話 これまさか出オチってヤツでは?
一人が逃げ出すと、あとは早かった。
続々と聴衆が逃げ出し、裁判官たちも逃げ出し、場に残されたのはトーヤとククリ。
そして一般席の端、ゆらりと幽鬼のように立ち尽くす漆黒の僧衣姿。
それこそが、トーヤの危惧していた、ククリの天敵となる『スキル』持ち。
「不殺のガレア……!」
トーヤは戦慄する。
何故、軍事施設でも国会堂でもなく裁判所に来たら“集約戦争代理人”に出くわすのか。
あまりの運のなさに運命すら感じたくなるが、トーヤは逆の発想を思いつく。
(まさかとは思うけど、襲撃がバレてた?)
だが、そんなわけはないとすぐに思い直す。
なんせ襲撃が決まったのはつい15分ほど前だ。
トーヤもゴリ押しで連れてこられたにすぎない。
つまり、単純に、
「運が悪いなぁ……」
そういうことであった。
トーヤがさめざめと呟く先では、ククリが僧衣の男、不殺のガレアと対峙していた。
目元を覆うアイマスクが、まるで仮想人間のような無機質さを感じさせる。
だが、ククリは全く臆することなく話しかけていく。
「お兄さん、だれ?」
「……それは、こちらのセリフなのですが……」
「わたし? わたしは御薬袋ククリ! ぜひククリちゃんって呼んで!」
「(アイツまじか……)」
“集約戦争代理人”を前にして、自分の時と全く同じ口上を述べやがったククリに、トーヤは呆れを通り越して、もはや尊敬の念を抱き始めていた。
「ククリ=チャンですか。不思議な名前ですねぇ」
「うん! わたしもそう思う!」
致命的にその呼び方が違うのだが、もはやトーヤは何も言わなかった。
トーヤが空気に徹していると、ガレアは困ったように口元を歪め、ゆっくりと首を左右に振った。
そして、再びククリの方に顔を向け、たずねる。
「それで、ククリ=チャン。人がいなくなっているようなのですが、何かあったのですか?」
「え? あー、もう閉廷時間なんですって! みんな帰っちゃいました!」
「(いやそれは無理があるだろ!)」
トーヤが思わず小声で突っ込むと、ククリは大丈夫と言わんばかりに、後ろ手で親指をサムズアップする。
何も大丈夫ではない。
今。
ここでガレアに動かれれば、二人が無事で済む確率は皆無に近い。
だからトーヤはガレアがいつ攻撃を仕掛けてきても反応できるように身構えていた。
だが、ガレアはいつまで経っても仕掛けてこない。
それどころか、ククリの返答にふむふむと頷きを返すと、
「そうだったのですか。みなさんお帰りが早いですね。ならば私もおいとまさせていただきましょう。お二方も、夜道には十分お気をつけください」
「お兄さんも気をつけてください!」
「はい。それではまた、機会がありましたら」
にこやかな笑みを口元に浮かべ、出て行ってしまった。
「……今のはなんだったんだ」
「さぁ……?」
平然と話していたククリですら、よくわからなかったらしい。
ひとまず危機は去った。
だが、ここから先どうするかも全くの未定。
「……なぁ、このあとどうするんだ?」
ひとまずククリに伺い立ててみるトーヤ。
だが、ククリの返答には、当初の目的達成以外の予定は入っていないらしかった。
「もちろんトーヤのときの裁判長を探すよ! さっきの人はものすっごい小声で「私じゃないです。私じゃないです」って言って逃げてっちゃったもん」
「そら逃げるでしょうよ! 空から人が降ってきて逃げない奴なんかいないよ!」
「え……?」
「なんで僕を指差すの……?」
と。
ククリとトーヤが一向に進まない会話を繰り広げていると、先ほどガレアが出ていった扉の方からいくつもの足音が聞こえてきた。
「やばいやばい人が来る、絶対警察隊だ捕まったらやばい! どうしようククリ!?」
「えーっと……」
ククリが2秒思考し、そして動いた3秒後。