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第3話 フライア、ウェーイなどと言っている場合ではない

 

「トーヤを追い出したっていう国に、今から行こう!」


「はい!? どうしてそうなった!??」


 飛躍(ハイジャンプ)どころか飛翔(フライアウェイ)している論理にトーヤが面食らう。


「だって、わたしは()()()()()()()始まりの最果てに行きたいのに、その裁判のせいでトーヤはどこにも行けないんでしょ? しかも、その裁判に納得いってないんでしょ? なら、おかしいよって言いに行かなきゃ!」


「う、うん。それは確かにそうなんだけど」


 トーヤと一緒に、の部分を強調して言われ、嬉しさと恥ずかしさが入り混じるが、トーヤは気持ちを抑えて腕を振り払う。

 そして咳払いを一つして反論する。


「ククリは知らないだろうから言うけど、オズガルディアは西方大陸(バキア)を二分する二大勢力の一つ、グラム=ナウト五国同盟の主導国なんだ。国力は西方大陸(バキア)でも頭一つ抜けていて、特に軍事力が高い。“集約戦争代理人(ウォー・ケーン)”だって13人も存在するんだ」


「……あん?」


 ククリは本気で何を言っているのかわからないという表情を浮かべていた。

 思いっきり眉根を寄せ、「わかるように話してよ( ・᷄ὢ・᷅ )」と無言で意思表示を示してくる。

 肩を落としたくなる気持ちをおさえ、トーヤは言葉を継ぐ。


「要するに、僕を追い出した国はめちゃくちゃ強い。いくらククリの『スキル』が強力だといっても、“集約戦争代理人(ウォー・ケーン)”13人を相手にするのは不可能だ!」


 トーヤの知る限りでもククリの天敵と呼べるであろう『スキル』持ちが二人、即座に思い起こせるくらいには、彼らの名と実力は西方大陸(バキア)中に広まっている。

 “集約戦争代理人(ウォー・ケーン)”に選ばれるほどの『スキル』持ちや魔法使いならば、どんな小国であろうとほとんど西方大陸(バキア)中に知られる知名度と名声を得る。

 それほどに“集約戦争代理人(ウォー・ケーン)”は人外じみている。



 だが、ククリはまだ不思議そうな顔をしてトーヤを見つめていた。

 そして、小首を傾げて言葉を紡ぐ。


「わたし、戦争をしに行くだなんて一言も言ってないよ?」


 至極まっとうなククリの返答に、トーヤは思わずたじろぐ。


「そ、そうだよね。あはは……」


 安心したのと同時、トーヤは自分がどこかで残念がっている事実に、驚いていた。

 ククリなら、もしかしたら。

 なんて、心のどこかで思っていたのかも知れない。


 ひとまずホッとしたのも一瞬、トーヤは再び腕をつかまれて引きずられていた。


「向こうから吹っかけてきたら、反撃はするけどね!」


 言いながら、ククリが向かう先は断崖だった。


「いやいやいやいや、ちょちょちょちょ!」


「なになにどうしたの?」


 トーヤは総毛立つ身体をバネのように跳ね上げさせながら全力であらがい、ククリから距離を取る。

 出会ってからまだ二時間程度しか経っていないが、ククリの性格や言動、『スキル』その他諸々を(かんが)みなくても、今からやろうとしていた行動が余裕でわかる。


「まさか飛び込み(ダイブ)するつもりだったの!? アホなの!?」


「うん……。だってそれ以外に何か方法ある?」


「いや……、そんな悲しそうな顔で言われても……」


(これ、もしかして僕の方が間違ってるのか? そんなことないよな?)


 だんだん麻痺してきている感覚に、だんだん麻痺した頭でトーヤが疑問を抱いていると、ククリが何かを察したように手をポンと打った。


「わかったよ! そんなに心配なら先に『スキル』発動させてくるよ! そうしたらトーヤが不時着する心配もなくなるでしょ!」


「いやっ、違うそうじゃない! 僕が心配しているのはそれ以前の問題だ!」


 トーヤは必死で止めようとするが、ククリが自分の身体を抱きすくめながら「エッチ!」と言ってきたため、その場から動けなかった。

 数分後、森の奥が一瞬光り、その後すぐに戻ってきたククリは襟元が赤く染まっていた。

 思わず頬が引きつるのを抑えながら、トーヤは恐る恐るたずねる。


「……一応聞くけど、どうやって死んだんだ?」


「女の子に死因聞くなんて、トーヤったらデリカシーないよ!」


 ククリがまるで恥じらう乙女のように身体をよじるが、襟元が血まみれなため、それを隠す動作にしか見えない。


「聞いといてなんだけど、デリカシーで済む問題なのか……?」


 あくまで反応が常人のそれであることに、トーヤが呆れかえっている中、ククリがガウチョパンツのポケットから小さなナイフを取り出して見せる。


「自決用のナイフ。これで首をスパッと!」


 首を掻っ切る動作を笑顔で行うククリに、トーヤはもはや引くことすら忘れてナイフを指差す。


「肉切った後のナイフは血脂きちんと拭かないと、冷えて固まって切れ味がガクンと落ちるよ」


「ほえ?」


「ちょっと貸して」


 トーヤはナイフを受け取り、ククリの血で赤く(くす)む刀身を人差し指の腹で()でていく。

 すると、ナイフは撫でた端から銀の煌めきを取り戻した。

 両面撫で終わり、最後に確認すると、トーヤは無造作にククリへナイフを渡す。

 ククリはナイフを食い入るように見つめている。


「はぇ〜……。トーヤ、凄いね! 撫でるだけでナイフがこんなに綺麗になった!」


「汚れたら言ってくれれば手入れくらいはしてあげるよ」


 褒められても、特に反応することなくトーヤが言った。

 ナイフを見つめていたククリだが、ふとトーヤの方へと向き直り、たずねる。


「そういえば、トーヤも何か『スキル』持ってるんでしょ? ランゴノを受け止めてたあれってなんなの? 血に関係してるの?」


「……どうってことはない、ただの手品だよ」


「ふーん……」


「ほら、行くんでしょ、オズガルディア。いかないの?」


 トーヤのぶっきらぼうな返答に、ククリは納得がいっていないようだったが、促がされ本来の目的を思い出すと一転して笑みを浮かべた。


「そうだった! 早くいかないと裁判所しまっちゃう!」


 言いながら、断崖に駆けていったククリの後を追い、トーヤも遅れて隣に立つ。


「うおお……怖いな……」


 眼下に広がる西方大陸(バキア)の国々。

 東にはローン連峰、西には西海が望めた。

 そして、真下にあるのが、


「あった、あそこだ」


 トーヤが指差した先、大きな建造物がいくつも密集している地域。

 オズガルディアの国営に関する主要な機関と、そこに従事する人達が住む高級住宅が軒を連ねる一角に、オズガルディア最高裁判所の輪郭が街の灯りで浮かび上がっていた。


「オッケー、行こう!」


「ちょっと待って心の準んんんんんんんんん!!!!?」


 ククリが掛け声と同時に飛び出す。

 一瞬遅れて、トーヤも宙空に連れ出された。


「うおおおああああああああああああああああああああああああ!?」


 満点の星々が西方大陸(バキア)の夜空を埋め尽くす中、

 自由都市(フリーダム)から一組の少年少女がオズガルディアに降り立った。



 轟音。

 去来する静寂、声。


「な……」


 人々は絶句していた。

 一向に進まない裁判に苛立ちながら、被告人の証言を今か今かと粘り待ちしていたら轟音と共に天井が抜け、人が降ってきたのだ。

 驚かないほうがどうかしている。

 そして、一斉に逃げ出した。


 がれきの砂塵と叫び声。

 もうもうと舞い上がる中、二つある人影の片方が立ち上がると、裁判長を指差しながら、裁判所の外にまで響くほどの大音量で言った。


「異議あり!!!」


 ダンッ! と一歩踏み込み、大理石の床が砕け散る。

 踏み込みと声で建物全体を揺るがしながら、ククリは続ける。


「先に行われたトーヤー・ガルニウスの虚偽裁判について異議を唱える! 裁判のやり直し、もとい罪状の取り消しを即刻要求するものとする!」


「あわ、あわわわわ……」


 本当に真っ向から言い放ったククリだが、トーヤはそれどころではなかった。


 聴衆が闖入者(ちんにゅうしゃ)に完全に意識を持っていかれ、我先にと逃げ出す中、端のほうで静かに席を立つ者が見えていた。

 それこそが、トーヤの危惧していた、ククリの天敵となる『スキル』持ち。


「『不殺』のガレア……!」



 オズガルディアの、長い夜が始まろうとしていた。


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