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アドネル・アポクリファ アドネル-Y-ニクド神話クロニクル

作者: ひすいゆめ

今回は今までのアドネル神話のセブンズドラゴンズとバアルのラッパの創生秘話が含まれています。この前後の話を楽しめる為にもこの話は要になると思うので、是非ご拝読頂けると嬉しいです。

                    プロローグ

 虚界の創生の王の1柱、高潔の海宙かいちゅうは右腕の4番目に生んだ存在、運命を司る者の1柱のエヴァを玉座の前に呼んだ。

 高明宮は一気に凍てついた空気に満ちた。

 「下級の次元の主が2柱生み出した。そこで、その中の1柱を何とかして欲しい」

 その言葉に彼女は表情を微妙に動かした。

 「それはアドネル-イサカスのことでしょうか」

 「無論。理由はあれが招かれざる存在だからだ」

 「バランスを崩すことでしょうか」

 海宙は目を細める。

 「確かに次元を自由に渡り歩くことはそれに当たる。しかし、それだけではない。あれは集めるのだよ、禁じられし存在をな」

 「ああ、セブンズドラゴンズですね。しかし、それは無界の運命を司る存在、ニクドによって制御されているから…」

 彼はそこでエヴァの言葉を絶って立ち上がった。

 「吸収されたのだよ、とっくにな」

 そこで初めてエヴァは表情を崩した。

 「吸収?ありえない。では」

 そこで手で制して彼は言う。

 「だからだよ、言わずとも分かる。消さずに封印させる。しかも、その能力を流させながらな」

 そこで、エヴァが自分が選ばれて呼ばれた理由を知る。

 「…御意。では、無界に直ちに」


 彼女は高明宮の奥にあるクリスタルゴートに行く。中には13つのクリスタル型の高濃度粒子性次元効果エネルギー体が円を描いて立っている。

 中央で力を高めていると周りの結晶はエネルギーを放出させて、部屋中の空間が一気に高濃度の次元移送粒子が飽和になる。

 「私は私ではなくなる。しかし、私は私になる」

 彼女は一瞬にして消えた。

 次の瞬間に無界の淵に精神体として存在していた。

 虚界の存在から転生した無界の存在となったエヴァはアドネル-イサカスのアポリオを感知しようとした。すると、強力なエネルギー弾を受けて彼女は倒れた。

 「お主は高界の」

 彼は鎧を着ていた。剣を彼女に向ける。

 「ああ、運命を司る御子、フェイト。我のパラレルワールドの同一存在は色々やっているようだが、我は一味違うぞ」

 彼は剣を振り下ろすがすぐにエヴァは剣を波動で弾いて後ろに跳んだ。

 「高界の存在が何故、邪魔を」

 彼は剣を向けながら言う。

 「愚問だな。同じ運命の使徒とは思えん。アドネルはパラレルワールドにて唯一この世界を保つ存在」

 「だから、その力を次元を安定させて…」

 「それを阻止しようというのだ。安定させるということは言わば封印。必要最低限の能力を発生させてはいても、肝心なエネルギーはその安定の為に抹消される」

 彼女は立ち上がって言う。

 「では、セブンズドラゴンを揃えて全次元を崩壊させると?」

 「ドラゴンが揃っても必ず次元が崩壊する訳ではない。彼らの一部をこの世界の武具に移せばいい」

 そして、彼は7つのそれぞれ異なった質の鍵を見せる。

 「とりあえず、この世界の武具を集めた。これに一部を集めれば封印の必要はない。これらをバアルのラッパとでも呼ぶか」

 そこで、無界の主が2つの大きな力を感知して現れる。

 「これは転生のエヴァ様に高界の」

 「お主に任せよう。このバアルのラッパにアドネル-イサカス、いや、ニクドを吸収したのだからアドネル-イサカス-ニクドか。彼の力の一部を移すのだ」

 エヴァは鍵を奪おうとするが、主は瞬間移動でフェイトから鍵を7つ受け取った。

 「御意。エヴァ様、貴方は既に無界の者、つまり、私の支配下。しかし、フェイト様は位相は違えど我が上の次元のお方。従うのは必然」

 「しかし。例え、バアルのラッパに移行しても、その武具が7つ揃えば結局同じ…」

 その刹那、フェイトと主が共に声を揃えた。

 「揃えなければ良いのだ」

 エヴァは目を見開く。

 「そんな…」

 「不安定で集めると次元が崩壊すると流布しても、危険は0にならない。あえてそれを望む者が現れるかもしれん。しかし、全ての解決策が『今は』この方法しかないのだ。ここはフェイト様に従おう」

 彼女は俯いて力を落とした。


 海宙の指示を従えない。無界に転生した意義もかつての使命を捨てた意味もなくなったのだ。そこにアダムが現れる。

 「ここには2つの神族がある。古の神々のトーラル神族と転生者が主のソラ神族がいる。トーラル神族は主を頂点にアラム、我ら四天王が続く。ソラ神族はアドネルが頂点で並列に並んでいる。ところが、トーラル神族の運命を司る者、ニクドが吸収したからアドネルはトーラル神族に属するようになるが、以前よりの自由さから少し距離を持っている」

 「じゃあ、私はソラ神族の神殿へ行かないと…」

 そこで彼は首を横に振る。

 「今回は特殊な事例だからな。フェイトと父と共に今回の危機を防ぎに行こう」

 2柱は無界の上空にあるトーラルのマルス神殿のあるマルス山脈とソラのバシリウス神殿のバシリウス大河の間に位置する暗黒の谷に行った。

 その谷に降りると、とある空間が創造されていた。大地に降りて周りを見回すとそこには主、フェイトと対峙する邪神アドネルがいた。

 その後ろには巨大な船が半分岩山に溶け込んでいる。

 「まさか、アークか?」

 アダムはエヴァを遠ざけた。あれは別次元の巨大次元航行機関である。

 「ロシェが何故こんなところに。エネルギー源は?ガドは何をしているのだ」

 ロシェシステムとはオーラコードという力で動かす機械システムである。ソラ神族の無界のガドがオーラコードを使えて作成も出来た。そもそも、転生前の次元の能力と機械システムである。

本来はアポリオという無界、その下の空界の存在が能力を使う為の力である。この世界では通用しないものであった。

 「違う、これは別次元から突っ込んできたのだ」

 フェイトがアダム達に視線を向けずにそう言った。

 「ガドの転生前の次元から下界に来て、次元の裂け目に引かれてここに辿り着いたのか」

 アダムがそう呟くと、主とフェイトがアドネルに向かって光弾を放った。それを光の壁で防ごうとするが突き抜けた。光弾はアドネルと包んで中から何かを天に引き抜いた。

 アドネルの力と次元の破壊のエネルギーは、バアルのラッパと呼ばれる7つの聖武具の変化した姿の鍵に吸い込まれた。その鍵はフェイトが力を放つと7つに分かれて出来るだけ遠くにバラバラに飛んで行ってしまった。

 「これでひとまず危機は先延ばしされた」

 主はそう呟いて姿を消した。フェイトはアダム達に近寄ってきた。

 「後は頼んだぞ」

 その意味は何となく分かった。その後、次元の光を開いて元の次元に去って行った。


                    1

 しばらくして、アークの扉がゆっくりと機械音を立てて開いた。

 人型ロシェが現れて、後ろから5体のスチールゴーレムのような存在が付いてきた。

 すぐにアダムはエヴァと彼らの前に駆け寄る。

 「何が目的だ。何者なんだ」

 人型ロシェは人間のように口を開いた。

 「私は異界の存在より作られし存在。アドネルなる存在に呼ばれてここに来た」

 そこでエヴァは戦慄を感じた。

 ――やられた。

 アドネルは既にフェイトの裏をかいていたのだ。セブンズドラゴンを集める力をニクドから吸収しても封じられることを既に推測していたのだ。

 だから、ニクドを吸収してすぐに別の者を呼び寄せて代わりに集めさせることにしたのだ。

 エヴァはすぐに人型ロシェを倒そうと剣を出して立ち向かった。しかし、鉄の兵の1人が銃のようなロシェを構えて撃った。

 すぐに何者かが光の翼で舞い降りて、光の剣で放たれた光弾を弾いた。

 「…ガド」

 駆け付けようとしたアダムは足を止めてそう呟いた。

 「我が眷属を派遣しよう」

 紳士の姿の彼は埃を払ってそう言った。彼を護るように7柱のガドの眷属が立ちはだかった。

 「エヴァさん、でしたね。ロシェブラスターはオーラコードを充填して放つ。撃った後はオーラコードを充填する隙が出来るから、それがチャンスだ」

 しかし、オーラコードを充填しているスチールゴーレムはエヴァの剣の打撃を受けて、簡単に弾いて剣は高みの岩に刺さった。

 「防御も力も充分という訳ね」

 エヴァをすぐに庇ってアダムは剣を振り下ろした。しかし、ゴーレムは傷1つ付かない。

 「アダム、それらは通常攻撃は効かない。しかも、防御力と火力もかなり高いから、一旦引け」

 エヴァはその時あることを思い付いた。スチールゴーレムも人型ロシェもロシェシステムの機械である。オーラコードというエネルギーで高次元から力を借りて動く機械なのだ。つまり、これらの機械を操っているガドの転生前の異界の存在。いるとしたらアークの中である。

 「眷属の1人を連れていけ」

 ガドの言葉と共に、使者の1柱が前に出て彼女に微笑んだ。

 「私はアンドリュ、光の守護の1角を担っています」

 彼に向かって頷くと、エヴァ達はアークの中に突っ込んでいった。しかし、人型ロシェが立ちはだかる。そこにアダムが対峙した。

 「ここは私が相手させてもらおう」

 しかし、残りの5体の機械がロシェブラスターを構えて前に並んだ。

 「ファイアストーム」

 炎の竜巻が巻き上がる。しかし、ロシェのロボット達はダメージを受けなかった。

 振り返ると巨大な白いドラゴンが舞い降りて来た。

 「自然系の力か」

 アダムが呟いた。

 「我は百尾巻ひゃくびかん。契約しアラムが作りし無界の存在、ファディにより召喚されてはせ参じた。助太刀致す」

 そこで頷くと、アンドリュは凄まじいアポリオを放った。ロボットの1機は一瞬動きを止める。その上をエヴァと共に飛び越えて光の翼をバーストさせて、全力でアークの中に入った。

 そこは次元が歪んだ空間であった。大きなロシェシステムが動いている感覚だけは分かる。

 「外のロシェを動かしている敵を早く倒さないと」

 エヴァはそう言うが、アンドリュはオーラコードを感知し始める。しかし、中には誰もオーラコードを発揮していなかった。振り返るとスチールゴーレムが追ってきていた。

 「…まさか、その中に入っているのか」

 そう、ゴーレムと思っていたのは鎧を着た戦士だったのだ。

 5人が一斉にロシェを撃ってくる。アンドリュは光の壁を手のひらに出して防いだ。うち、1人が高く跳んで腕から出した大砲で光弾を撃ってエヴァがそれに包まれて消えた。

 「しまった、次元変換か」

 すぐに光の剣をバーストさせて凄まじい剣を振り下ろした。次元を操る鎧はすぐに切れて爆破した。中の戦士はすぐに部屋から飛び去った。

 「ロシェブースターに鎧ロシェの2つを同時に作動させるとは」

 しかし、ロシェを起動させる時と威力を出す時以外は、アイドリング状態はそんなにオーラコードを使わないのだと推測した。つまり、どちらか1つは強い力を使うことはないのだ。

 「エヴァをどこにやった」

 アンドリュの言葉に1人が口を開いた。

 「既に別次元に移行させた」

 考えられることは上下の次元まで動かす能力は考えられない。同位次元に違いない。高界のフェイトが来ているので、その下の上界に飛ばされた可能性を考えた。

 自分も上界に行く必要があると考えた。

 「どけ、侵略者共」

 アークの中でアポリオを全開にするとどうなるか分からないが、最大の力を発した。光の翼と剣をバーストさせて1体を切った。中の戦士は寸前で脱出するとアークの奥に跳んで姿を隠す。

 3体は鎧を接続させて巨大なストーンゴーレムになった。バーストした強力なアンドリュの剣が鎧の表面に傷さえ付けられなかった。

 「強化したのか」

 そこで百尾巻は口から黒いブレスを吐いた。巨大ゴーレムはそれを腕で防いだ。

 その時、ドラゴンの口の中に煌めくものがあった。口から吐き出されたのは鞘に鎖で封印されし剣であった。

 咄嗟にそれを掴んだアンドリュはオーラコードを最大にした。すると、封印が外れて剣を抜くことが出来た。

 思わず振るったその剣はゴーレムの表面を傷付けることが出来た。

 「これは…」

 聖武具の剣に力を込めて振り続ける。光弾は弾かれ鉄壁の腹部の表面は削られていった。

 刹那、剣が輝き出して周りの空間が歪んでいった。気付くと剣は手にはなく光の壁で敵の攻撃を防いでいた。

 そう、先ほどの状態に戻ったのだ。

 頭が混乱していると、同様に百尾巻が現れて聖武具を吐き出した。

 ―――そう、時間が戻ったのだ。

 リバース。それがこの聖武具の能力であった。

 この能力を理解した瞬間、賢明なアンドリュは即時に行動をした。剣を受け取るとすぐにアークから飛び出した。今のままではあのスチールゴーレムには叶わない。そこで新たな力が必要なのだ。幸い、記憶も受けた心身の影響もリバースしても受け継いでいるようだ。受けた傷も疲労も残っている。

 新な能力を得るには別次元に行くしかない。彼は光の翼で無界の西の黒の渓谷、サン・フランツ山に向かった。アークにいた存在は幸い追ってこない。

 サン・フランツは異次元に繋がる聖なる場所とされていた。未知の場所である。山頂にある神殿に降りると、そこから見知らぬ存在が現れた。

 「貴方は?」

 彼は日本刀を握った巨漢の剣士であった。

「我は断界の12刀将の1将、天万あまよろずの斬月である」

 すぐに剣を抜いて振りかざした。

 「ここは無界と断界、上界の林桃会りんとうえが行われている。ここを通す訳にはあいならん」

 そこで、アンドリュは新たな力を求めていることを告げる。その話を聞くと斬月は腕を組んで考えて、1本の日本刀を奥から取り出して差し出した。

 「これは特別な聖武具、天御鏡あまのみかがみである。これは異界の能力を剣技の能力に変化させて、強力な力を使える。何しろ、この武具の元は断界の英霊であるからな」

 その上、断界の者の剣技を1つ、脳裏にインプットしてもらった。

 「その技はかなり高度だが、強力でお主なら使えるだろう」

 それをもらうと礼を言ってすぐにリバースを使った。

 

 リバースしても天御鏡と剣技の知識はそのままであった。

 スチールゴーストの前に戻ると、脇に差した天御鏡にアポリオを発揮すると、断界の能力に変換された。剣技の力が発せられると、ドラゴンの口から出る剣を受け取り封印を解いて構えた。逆持ちした刃を下に向けて、柄に底に左手を開いて置いた。

 目を閉じて精神を集中させると、一言囁いた。

 「流閃りゅうせん

 左手を離して剣を振り上げた。剣先はスチールゴーレムの腹を割った。さらに追い打ちを掛ける。

 「流閃」

 今度は刻みながら回転して跳んだ。完全に切断された鎧から3柱の存在がさっと散ってアークの中に消えて行った。彼らを追う為に奥に行こうとしたが、百尾巻は尾で出口を塞いだ。

 「これ以上行くと、奴らの思うツボだ」

 「何」

 アンドリュはドラゴンを見上げて表情を読んだ。

 しかし、次の危惧が起こった。奥の部屋で何かのロシェが発動したようだった。すぐにアンドリュは百尾巻と奥に行く。通路を進むと2番目の部屋の扉が開いていた。そこはロシェの倉庫になっていた。先ほどの1柱が細長い棒のような刃を柄型のロシェに取り付けてドラグモーターを指導させていた。飽和状態になり、発動条件が揃うとその剣は振り下ろされた。次元が割れて中からドラゴンが現れた。龍凰機である。

 「そうか、セブンズドラゴンを集めるつもりなのか」

 アンドリュは咄嗟に倉庫の中の銀色の飛行形態のロシェを抱えると、天御鏡を使ってアポリオを変化させたオーラコードを発した。

 すると、ドラゴンの龍凰機はそれに吸い込まれていった。封印したつもりである。しかし、そのロシェに憑依させただけであった。

 さらに異界の存在は近くにあった大砲のようなロシェを向けた。そこで、アンドリュは光の剣を出して光の羽根を広げて飛び出した。

 「流閃」

 光の剣で先ほどの剣義を発した。大砲のドラグモーターが飽和状態になる前に粉々になって爆破した。それに巻き込まれて異界の民は消滅した。

 「今のは我が眷属の転生前の…。ここにいるのは理界の存在なのか」

 気付くと、別の逃れた敵が光の剣を握って構えていた。勿論、柄にはドラグモーターが回っている。

 そこに大きな声がアンドリュの頭に響いた。

 「そこからすぐに離脱しろ。百尾巻は次元を超えられる」

 しかし、彼は逃げることをしなかった。彼らをアークに残すということが、どれだけ危険か肌で感じていたのだ。

 「グリーンウォーター」

 アークを含むアンドリュがいた暗黒の谷の窪地に緑色の岩の結界が張られた。それを感じても彼は微笑んで受け入れた。

 「行くぞ」

 光の剣の敵に天御鏡を抜こうとするが、封印の鎖が解けなかった。これはいつでも使える訳ではないのだ。

 微妙な条件があるようである。

 突如、恐ろしい気配を感じた。

 「まさか…」

 振り返ると、巨大な機械のドラゴンが起動していた。その頭にはもう1人の敵が乗っている。

 「十分な時間稼ぎだな」

 挟まれて背後に巨大な敵に阻まれたアンドリュはアポリオを最大に高める。ロシェのドラゴンは口から光線を吐いた。それを光の壁を作った。光線は光の壁を押していた。最大の力でも押されるということは、今のアンドリュではロシェドラゴンには叶わないということである。

 そこに封印されし地のはずの目の前に2つの影が現れた。

 「苦戦しているようだな」

 次元を超えてきたのはドラゴンと角が1本額にある長い金髪の天使のような存在であった。

 「上界の龍気翔りゅうきしょうにエイシェントドラゴンの王、ノガードか」

 ドラゴンは低く唸った。

 「噂通りに龍皇の強力な力を封印したのか」

 天使は微笑んで頷いた。

 「まあ。あんな強大な力は危機しか起こさん。剣に封印した。それより、林桃会が行われていなければ、ここのディメンションハザードに気付かなかったな」

 アンドリュはドラゴンに目を向ける。

 「ノガード、別界のロ・エト王国の洞窟に隠居をしに行ったのでは?」

 すると、炎の溜息を落とした老龍は濁った声を出した。

 「1度は召喚されたが、ディメンションハザードに何もしない程落ちぶれてはおらんよ」

 強力な助っ人が2柱来てくれたのは嬉しいが、アンドリュはある危惧を感じていた。

 龍王ノガード、元龍皇の龍気翔。百尾巻に龍凰機もそうであろう。彼ら4柱はセブンズドラゴンである。龍皇は力を大部分封印して神格を落としている。龍凰機は鎧ロシェに憑依させている。

 セブンズドラゴンの次元崩壊は免れるだろう。でなければ、危険を承知でノガード達が次元を超えてアークに来るはずはない。

 ノガードはアンドリュの持つ剣を見た。それをアンドリュが持つ百尾巻から得た剣であった。

 「それはリバースの能力を持った聖武具リジルだ。本来は剣技の能力がないと使えないのだが、それはアポリオでも発動出来るようだから役に立つだろう」

 そして、機械のドラゴンに強力なブレスを放った。一瞬にしてロシェドラゴンは蒸発した。敵は逃げてしまった。

 上界では龍皇、ロー、カオスと並ぶ四天王と称されるだけある全次元のドラゴンの王である。

 光のロシェソードを持った敵も逃げてしまった。

 「ここは我々に任せて逃げろ。というより邪魔だ」

 アンドリュは落ちていた次元を切るロシェ、ダーインスレイヴを持つと前世の力、オーラコードを発して発動させた。そして、次元を切ると2柱に礼をして、その中に入っていった。

 空に出たアンドリュは光の翼を羽ばたかせた。下にはグリーンの岩がポリゴンのようにごつごつと封印のバリアを張っていた。中にアークがあるのだ。

 林桃会が行われていたので、気付いた3つの次元の代表達が動いたのだ。後ろにアダムが現れた。

 「後は彼らに任せよう」

 彼の言葉に頷くとアンドリュは腰に天御鏡がないのに気付いた。アークに落としてきたらしい。しかし、気付かないのもおかしい。何か違和感を感じた。

 「アダム様、まさか」

 彼はアンドリュの表情にはっとして周りを見回した。

 下の封印の緑の岩から不気味な雰囲気が漂っていた。

 「すまん、これは下の連中では荷が重いかもしれん。次元の聖武具で中に入って虚界の存在を召喚して力を貸してくれ。虚界の助っ人なら誰でもいいし、上手くいけばすぐに避難して来るんだ。このグリーンウォーターはあれがアークから出たら10分と持たないだろう」

 アンドリュは頷いて剣を振るって次元の隙間をすり抜けて行った。


                       2

 アークの中に再び現れたアンドリュは百尾巻にもらった剣を出した。聖武具リジルを掴んで思い切り周りの暗闇で振り下ろした。

 周りの暗闇が2つに割れて徐々に光が辺りに満ちて行った。やはり、視界を奪っていたのは異界の能力であった。右斜め前方に巨大なドラゴンが存在していた。その邪悪で強力なドラゴンは敵の生き残りの理界の民が召喚したものであることは明らかであった。

 「貴様か、我が目論見を阻む者は」

 そのドラゴンは知性があるようだ。頭の中にバリトンの声が鳴った。

 「まさか、セブンズドラゴンの1番の邪龍、龍鬼ヘイムダルか…」

 アンドリュはその恐ろしさに後ずさった。まさか、虚界の最強5牙王の1柱、龍鬼、ヘイムダルが召喚されるとは思ってもみなかったのだ。

 龍気翔とノガードはどうしたのか。おそらく、外にいたロシェのサイボーグと戦っているのだろう。下手な力では簡単に勝てる者はいないだろう。少なくとも、この無界にはいないはずだ。四天王の1柱、アダムの眷属カペナウムがいれば或いは。

 しかし、今は絶界の存在を召喚すべきである。アンドリュはダーインスレイヴを抜いて次元を切った。

 次元の隙間から出てきたのは亜龍のドラゴニュートであった。やはり、うまく上の次元と次元を繋げることは困難でコントロールでないのだ。まともな戦力も召喚出来ないのだ。

 しかし、そのドラゴニュートは剣を抜いて口を開いた。

 「がっかりさせたようだが、少々諦観的になるのは早すぎるのでは」

 彼は微笑む。

 「絶界の下人が何を言う」

 ヘイムダルはドラゴニュートに強烈な光線を放った。それを彼は高く跳んで避けると天井に立って指を鳴らした。すると、カペナウムが召喚された。彼は四天王で1番強力な無界の存在である。彼はアダムから状況を聞いて把握していた。剣を構えて巨大なドラゴンに立ち向かった。


 カペナウムがヘイムダルの攻撃を避けている間に、アンドリュは再び絶界への次元を切った。そこにドラゴニュートが力を貸して光を放った。

 すると、今度は奇跡が起こった。

 ―――否、不運と言うべきかもしれない。

 絶界の龍帝、ランスロットを召喚出来たのだ。そのドラゴンは絶界で最も強力な存在の1柱であった。

 …これで奇しくも、龍気翔、ノガード、百尾巻、龍凰機、ヘイムダル、ランスロットのセブンズドラゴンの6龍が揃ってしまった。

 そこでアンドリュは気付いた。他の存在はどうしたのだろうか。他の理界の者4柱と人造理界人と戦っているのだろうか。

 ランスロットはアンドリュに言った。

 「我を召喚した理由を述べよ」

 そこで彼は目の前のドラゴンの討伐を依頼した。

 「それは出来ん。別の種族のように契約はいらんが、お主を知っているだろう。ドラゴン種族を滅すると死せる存在と化す。さらにそれを滅すると呪詛を受けてしまうのだぞ」

 「しかし、封印は困難ではないでしょうか」

 アンドリュの言葉にランスロットは眉を細めた。

 「そうでもないかもしれん。ある種族には、自己の次元を作成出来る存在がいると聞く。少し先の時代に生まれるSNOWCODEの血を引く者の上級者、救世主なる種族である」

 「その存在に次元を作らせて封印すれば、或いは」

 しかし、ランスロットは首を横に振る。

 「否、彼は下界の人間だったと思う。先の時代に行き連れてきたとしても、封印後に短過ぎる寿命ですぐに復活してしまう」

 「それでは、上界の存在に転生させるか不老不死の存在にするしかないということでしょうか」

 ランスロットはうむと唸った。

 「そんな安易な問題ではない」

 そこで、ランスロットは思い切り能力を発揮する。周りに強力な磁場が発生した。直に大きな黒い存在が現れる。

 その存在にランスロットは視線を向けると徐々に人間の形になっていった。

 「これは禁断の呪法では。だが、今は迷っている暇はない」

 そのまま人影とともにドラゴンは姿を消した。

 ランスロットの準備が終わるまで、アンドリュは時間を稼ぐことにした。光の剣を出して光の翼を広げて素早くヘイムダルに接近した。

 刹那、ヘイムダルが口から禍々しい暗黒を吐き出した。咄嗟にアンドリュは翼と剣をなくして光の球体を周囲に張った。

 カペナウムは次元の狭間に吸い込まれそうになっていた。流される瞬間、ドラゴニュートが彼を捕まえて虚界の力でブレスから避けて天井に張り付いた。

 そこで、カペナウムがアポリオを最大に高めて次元ブレスを飛び越えて強烈な電撃帯びたパンチを放った。ヘイムダルは翼を羽ばたかせると、カペナウムは邪気に撃たれて拳が届くことはなかった。

 精神体が保てなくなって粒子となって漂い始めるカペナウムに、ドラゴニュートは息を吹き掛けた。粒子のカペナウムはアンドリュに向かって流れて光のバリアの中に吸い込まれていった。アンドリュはカペナウムの粒子を吸収して強力な力を手に入れた。

 左手でバリアを保ちながら、ロシェの剣を抜いた。次元を切る能力を工夫してキャンセルの力で自分の光のバリアと共にヘイムダルの次元ブレスまでも切った。

 「まだ、ランスロットは戻って来ないのか、これじゃもたないぞ」

 アンドリュは増加したアポリオを高めながら、さらに剣技の構えを取った。

 「流閃」

 凄まじい速さでヘイムダルとの距離を詰めると刀を振り上げた。火花が散るがドラゴンの皮膚に傷は付かなかった。そのまま天井に跳んで炎のブレスを避けた。ドラゴニュートと同じ場所に留まり、次の行動を考えた。

 そこに百尾巻がやってきて邪龍と対峙した。ヘイムダルは次元ブレスを吐くが、ドラゴンは次元を自由に移動する性質を持っているので意味がなかった。

 さらに飛行形態の龍凰機もブレスを避けてやってくる。

 アンドリュはアポリオを最大限に高めると彼は巨大なドラゴンに変化した。

 「何故、体がドラゴンに?」

 百尾巻が口を開いた。

 「お主はカペナウムを吸収した時に、最後のセブンズドラゴンのカリスがヘイムダルの次元ブレスとアークの影響で召喚されて憑依してしまったのだ。理界人に図られたな」

 カリスの姿、能力を持ったアンドリュは光のブレスを放った。ヘイムダルは尻尾を振って簡単に弾いてしまった。

 「龍聖カリスでも、やはり叶わないのか」

 そこにランスロットが帰ってきた。

 「まずい、アークにセブンズドラゴンが集まってしまった」

 すぐにアークが起動を停止して周りのライトと空調がストップした。徐々に空間が崩れ始める。

 アンドリュは元の姿に戻るとドラゴンは1柱消えた状態になると考えた。

 邪龍は咆哮を上げて翼を羽ばたかせた。ロシェに封じられた龍凰機は上手く次元を超えられずにアークの奥の次元の彼方に飛ばされていった。

 その上、百尾巻がヘイムダルの邪視によってアンドリュの差していた天御鏡に封印されてしまった。その刀は鍵と化して次元ブレスによってアークの奥の次元の彼方に消えて行った。

 ランスロットは人型の影に多次元で持ってきた呪法の聖具、マルスの聖杯を投げた。その陰は金属の人物像に変化してヘイムダルはその像に封印された。

 「ぎりぎり、と言ったところか」

 囁くランスロットの言葉に全員が俯いた。

 ふと、凄まじい気を感じてランスロットとドラゴニュート、アンドリュは別の場所に向かった。通路を通る間、アンドリュは光の弾を手の裏に浮かせて視界を保っている。

 とてつもなく巨大な空間に出る。ドーム状の天井に床にはタッチパネルのような床材が広がっている。横にビームや粒子、波動を出すシステムがあり、それが空中に操作パネルを出すシステムであると推測した。電源のない今はただのガラクタであるのだが。

 そこにノガードと龍気翔がロシェのアンドロイドと戦っていた。その奥に群集の気配がする。

 「まさか、ここは召喚の部屋か。ヘイムダルもここで召喚されたのだ」

 ランスロットがそう呟くと、ドラゴニュートがそれに続ける。

 「さらに、理界の民を移住させる為に呼び寄せて奥に避難させているようだ」

 「しかし、何故、あのロシェは動いているんだ?アークの動力でなければ、他にあのロシェを動かしている敵がいるはず。しかし、その気配が今までの中で感じられない」

 アンドリュの言葉にドラゴニュートは答えた。

 「一緒に来た残ったアークの中に散った3人の理界人は今はオーラコードを発揮していない。すると、自律式と考えた方が良い」

 アンドリュは目を見開いた。

 「動力、オーラコードを自ら生み出して発生させて動いているというのか」

 3柱は神妙にアンドロイドとドラゴン達の戦いを眺めていた。

 「それでは、次元の危機が去ったので我は去ろう」

 ランスロットは次元を超えて帰って行った。

 「ヘイムダルも封印されてこの谷は封印された。無理にここの民を攻撃しなくてもこの空間では何も出来ないだろう」

 ドラゴニュートはドラゴンではないので次元を超えることは出来ないようだ。アークの別の場所に去って行った。

 残ったアンドリュは天御鏡がないので他の能力が使えなくなっている。剣技が使えない状態でダーインスレイヴを抜いた。

 「ダメだ、あれには叶わん。とにかく逃げろ」

 AIロシェが氷の風を放った。それをかわしながらダーインスレイヴを振り下ろす。次元切断の効力で精神エネルギーをキャンセルさせようとしたが、全く効かなかった。

 そこでノガードが言う。

 「ダーインスレイヴは次元を切る。しかし、今のお主の力では目的次元のランダム接続と次元攻撃の解除が精一杯だ。精神攻撃のキャンセル能力は完全ではない」

 しかし、ここで逃げ帰る訳にも負ける訳にはいかなかった。

 カリスの能力をドラゴンにならない程度に調節して発揮させると、光の翼と剣を発した。さらにアポリオを上昇させる。光が体の表面にまとわりついた。

 そのまま、凄まじいスピードでAIロシェの後ろに回り込み拳を放った。その拳は簡単に右手で受け止められる。すぐに足払いをするが、跳んで避けて氷の風で吹き飛ばされた。アンドリュは両腕を凍らされる。剣を封じられてしまった。

 「逃げろ、叶わん」

 今度は龍気翔がそう叫んで光弾を放った。AIロシェは避けきれずに両腕で防ぐが、後ろに数mも弾かれた。彼は龍皇の時の力を大剣に封印して、アンドリュが手も足も出ない相手に強烈な一撃を容易に放てるのだ。彼らの強さを思い知らされた。

 ノガードがアンドリュを護るように移動して、炎のブレスを放った。ロシェは高く跳ぶが天井に叩き付けられる。

 さらに龍気翔が追い打ちを掛ける。鎧を纏って剣を出すと切り付けた。AIロシェは目を光らせて光線を両腕から放った。剣は弾かれて、龍気翔は咄嗟に後ろに飛び退いた。

 アンドリュはその光景を見て、勇気ある撤退をすることにした。次元の剣を使えないのでアークの中を光の翼で飛んで逃げる。通路から別の空間に出る。

 そこは動力室のようだった。奥にカプセル、上部に巨大なドラグモーターが見える。

 「そこまでだ」

 アンドリュが振り返ると、そこにはアドネルが立っていた。

 「アドネル…、まさか」

 彼は微笑む。

 「そうだ、アークを呼んで今の状態を作ったのは私だ。そして、ここに我が組織を作る」

 「何を言っている」

 「私には無理と思っているな。しかし、アークを呼び寄せるのは実は簡単だ。次元の不安定な状態に弱いアークはそれに引き寄せられる」

 そこで、彼がセブンズドラゴンを集める為にニクドを吸収して、7つのバアルのラッパを集めた時のセブンズドラゴンを同時召喚出来る強大な力を一時的にも持って、その短時間に次元を大きく歪めたのだ。

 アークがここに不時着をしたのは偶然ではなかったのだ。

 「しかも、セブンズドラゴンが集まった時に私は理界の下の科界の民を多く召喚しておいた。彼らは我を神として崇め、思い通りに動いてくれる」

 「それも、2柱のセブンズドラゴンに阻まれるさ」

 「そうだといいがな」

 彼は指を弾くと奥からもう1体のAIロシェが現れた。

 「そんな…」

 アンドリュは両腕の氷を必死に解除しようとしたが、普通の氷ではないので解くことは出来なかった。

 「仕方ない」

 彼は全力を発揮する。1柱のドラゴン、カリスに変化した。

 「ほう、3柱になったから、ドラゴンになっても大丈夫だと判断したか」

 アドネルはAIロシェの後ろに跳んだ。ロボットは戦闘の構えを取った。氷が解けたのですぐにダーインスレイヴを出した。

 「次元の彼方に消えろ」

 振り下ろすが、次元の切れ目を避けてAIロシェは光弾を連打し始める。

 強烈なブレスを吐くと、その光弾は全て消滅してAIロシェはブレスの中に消えて行った。

 アドネルが下がり始めると、龍気翔が現れて結界で封じる。

 「ゴーレムはノガードが別次元に連れて行った。理界人はアークの1区画に封じた」

しかし、不安は去らなかった。

 龍気翔は剣を出して封印したアドネルに突き刺した。得意の能力封印の力で強力なアドネルの力を吸収する。その剣を鍵にして次元を超えて行った。

 残されたアンドリュは次元を切ってアークから脱出した。すると、背後から封印されたはずのアドネルも姿を現した。

 「あの程度、すぐに解除出来る」

 2者は対峙していると、巨大なドラゴンが現れた。

 「あなたは?」

 彼はノガードのような四肢龍でも直立龍でもない。ワイバーンに近いが、前足が翼に付いている。

 「かつて、古代龍と呼ぶ者がいた。名はない」

 そのドラゴンはアンドリュに三種の神器を取り出して渡す。1つは鉄弾。1つは三角に目の飾りの指輪。最後は日本刀。能力は複製と自由に操作。指輪は見えぬ者を見る能力、さらに邪視。日本刀は全ての精神能力をキャンセルするもの。

 「これで何を?」

 「下界に降りて3つを預けよ」

 何を言っているのかアンドリュには理解出来なかった。

 「そうか、創生龍グランフォーゼだな。とすると、すでに特異点が始まっているのか」

 ドラゴンが頷く。そして、口を開くとアンドリュの姿は光の粉と共に消えていった。


                      3

 アンドリュは気付くと短い鎖で首、手足が結ばれていた。首の鎖には紐が伸びていて天井の龍のオブジェの口に繋がっている。

 アンドリュは咄嗟に自分が実体を持った存在であり、輪廻のない転生がされたことを感じ取った。本来はありえないことであるが、創生龍の力であれば可能であろう。しかし、何故、グランフォーゼがアンドリュを転生させて3つの神器を下界に広めようとしたのだろうか。理由は分からないがそれが重要なことであると推測出来た。

 そこに兵隊が3人現れる。

 「ここはどこだ?」

 その問いに答えずに、先頭の兵士が剣を向ける。

 「お前は何故、この城にいる?」

 彼らは何も答えるつもりはないようだ。それもそうだろう。謎の存在が懐にいきなり現れたのだから。

 彼はやむを得ずアポリオを高める。光が体を包んで繋がれた紐を引き千切って切断した。手足、首に巻き付いたものを解くが、首のものだけは取れなかった。

 「他の鎖を良く千切れたな。しかし、首のそれは封印の鎖だ、簡単には取れまい」

 しかも、力を封じられている。それでも、アンドリュは全てを持って転生しているので、能力も上の次元の能力を持っている。下の武具で封じられようが、半分の能力でも十分な戦力であった。

 「もう1度訊く。ここはどこだ」

 そこで彼らは黄金のオーラを放って光の翼を広げた。

 「ば、馬鹿な。無詠唱、魔法円もなしで術を発揮することはありえない」

 兵士達は後ろに下がる。

 「本来、魔法円は次元の穴を開けて相手に力を借りるもの。その力を増幅させるのが詠唱。しかし、相手に能力も力も借りる必要がなければ、魔法円も詠唱もいらん」

 「…お前自身が能力を」

 上の次元の存在と同等であると悟ると、彼らは消えて行った。

 次に彼は屋敷の中を歩いて外に出る。

 空界であることが分かった。直下の次元に転生ならあり得ることであった。

 そこに軍隊が次元の穴を開けて進軍している光景が見えた。

 後を付けると、次元の向こうは下界であった。

 温暖な気候で巨大な川が流れている。

 軍隊は何の目的でここに来たのか、岩の影で耳を澄ませた。

 「この次元に我らの神、アスモデウスが降臨されているという話だ」

 その言葉にアンドリュは驚愕した。アスモデウスとは堕転した無界の存在、アスタロットのセブンスクライムの1柱である。神ではなく悪魔と言うべき存在である。

 しかも、最悪の7柱の1柱である。

 

 そこに次元が割れてガドが現れた。

 手には次元剣ダーインスレイヴとリヴァース剣、聖武具リジル、さらに三種の神器を持っていた。それを元眷属に渡した。

 「忘れ物だぞ」

 そこで、視線を軍隊に向ける。

 「悪魔信仰の者が禁を破り並行次元に来ています」

 「裏に何かがいるな。頼めるか?」

 「御意」

 ガドはそのまま消えた。

 道具を仕舞うと光の翼と光の剣を発生させて飛び出した。

 アスモデウスの召喚目的の軍隊の指揮官は叫んだ。

 「Dプラン発動」

 そこで、20人1組で複雑な魔法円を地面に描き始める。そのまとまりは5組。その前に楯を持つ兵士が並んだ。

 アンドリュは光の剣で楯を蹴散らし、兵士を波動で弾いていく。

 「あれは侵入者か。報告では封印を首にしてなお、神の如き力を詠唱や魔法円なしで発する化け物」

 そう呟いた後に振り向いて、指揮官は叫ぶ。

 「第1打、撃て」

 一番前の魔法円から巨大な炎の弾が連打された。

 アンドリュは左手で光の楯を出して防ぐ。1弾を受けるごとに少しずつ後ろに戻されていった。

 「この程度の攻撃で…、流石に転生すると力は落ちるのか」

 楯から光の波動を放つ。前衛の兵士は散って、最初の20組を弾き飛ばした。詠唱をしていた彼らは跳んで地面に落ちて気を失う。そこで、光が納まる魔法円を足で消した。

 「第2打、放て」

 次に魔法円が光り、巨大な黒いドラゴンが召喚された。

 「下級ドラゴンか」

 その口から炎のブレスが放たれる。光の楯と剣を消して全力でバリアを張った。

 炎を何とか防いだ。さらにアンドリュは翼で飛んで光の剣を巨大にして振り下ろす。ドラゴンは地面に伏した。

 さらに、アポリオを高める。ドラゴン、カリスの力が満ちていくと目の前のドラゴンは後ずさりをし始める。アンドリュは炎を手から放つと凄まじい炎の渦にドラゴンは巻き込まれて、高く飛び上がった。

 巨人が次に召喚される。

 流石にアンドリュは冷や汗をかく。

 思い切り凄まじい光のエネルギー弾を放った。巨人は2、3歩下がるが、すぐに拳を放たれた。予想外の早さにアンドリュはカリスの力で受け止めた。彼の地面の足元がめり込んだ。そこに下級ドラゴンが迫ってきた。

 危機感を感じると、彼は飛び退いて距離を取った。

 そこにアスモデウスが召喚された。アンドリュは光の魔法円を発して龍皇を召喚した。龍皇はノガードを召喚してアンドリュと共に立ち向かった。ノガードは一撃で下級ドラゴンをブレスで消滅させた。

 巨人を龍皇は右手を向けてエネルギー弾を放つと、凄まじい勢いで飛ばされて岩山にめり込んだ。

 「下次元に転生しなければ、もっと力を発揮出来るものを」

 アンドリュは歯がゆい思いを拳を握りしめて抑えた。

 「で、あのアスタロットを倒せばいいんだな」

 龍皇がそう言うが、アンドリュは目を細めた。

 「いや、彼らは最後に強烈な魔法円を作成していた。あれでさえ、ダミーで本当はこの世界を納める為に最悪な存在を召喚しようとしているはずだ」

 そこで敵の最後方で強烈な光が発せられた。そこに現れたのは虚界の暗黒を司る存在の魔神アルフォンス-アトバシュであった。

 3柱は流石に息を飲んで後ずさった。その隙にダーインスレイヴのドラグモーターを発動し始めた。

 ノガードは次に魔神を高く飛んで避けて、巨人を尾で弾いた。彼は地に伏すと、そのまま消えて行った。龍皇も羽根を羽ばたかせて、空高くからアスモデウスに凄まじい波動を放った。彼の桁違いの能力は簡単にアスモデウスの存在を無界に返還した。

 残った魔神は腕を横に振った。それだけでアンドリュは次元に影響を与える波動で弾き飛ばされたが、ノガードが刹那かばったので助かった。龍皇は空界の軍に腕を向けて言った。

 「早くアルフォンスを消すんだ」

 そこで、彼らの棟梁が言う。

 「もう、遅い」

 彼らは自らをテモテに封印して地の中に沈んでいった。

 勝ち目がないと悟った2柱とアンドリュは魔神を睨んだ。相手が力を半分以上発揮すれば、下界が破壊される可能性がある。

 勿論、彼らの存在すら無事ではない。

 対峙していると雲が広がり、そこから創生龍グランフォーゼが姿を見せた。

 「つくづく運のない者だ」

 そして、まばゆい光を放つと同じ空間、時間の別次元に全員を移動させた。

 

 そこは何もない荒野である。

 グランフォーゼはアルフォンスを大木に封印した。そして、地下の軍の封印のテモテの上に薔薇の森を広げた。

 さらに、新たな生物を口から吐き出した。それは人間と同様の姿になって、グランフォーゼ、龍皇、ノガード、アンドリュを見ると頭を垂れた。

 「神よ、我々に何を」

 「この神木と聖なる薔薇を護るのだ。けして、破壊をさせてはならん」

 そう言ってグランフォーゼは天の雲の上に消えて行った。

 ノガードは知恵を直接彼らの脳裏に与えて、この荒廃した世界でも生きていけるようにした。そのまま、次元を去っていった。

 新たな生物はチェイサー-エンドと名付けられた。は下界の双子とも言える重次元世界、グランフォーゼ、龍皇、ノガード、アンドリュの4つの名前からグランドラグノガードリュと名付けられた。しかし、長いのでグランド-ラグノ-ガードリュと区切られて、ラグノガードと略されるようになる。

 龍皇は草花を発生させて次元を抜けて、最後にアンドリュは彼らと暮らしをしばらく続けて生活の衣食住や文化が確立されて、大河からの治水を終わらせるとダーインスレイヴで下界に帰って行った。

 

 アンドリュはまず、中央アジアにある集落で過ごしていた。そこで、子供を儲けて平和に過ごしていたが、東から微かに不思議な気配を感じた。その集落を後にして旅することにした。

 東南アジアを東へ旅し続けた。とうとう東の海まで来た。彼は上の次元の心身を持っていたので、下界の生物のように寿命というものがなかった。飲まず食わずでとうとうやってきた海岸線を北上していくと大河が現れた。そこには人間が集まっていた。

 いわゆる黄河文明の始まりである。夏王朝は未だ存在していない。小さな集落の集まりが点々としている状態である。その先を行くと奇妙な感覚のある雰囲気の場所を感じた。

 海を超える為に朝鮮半島を渡り、光の翼で日本列島に渡った。そこは文明どころか、まだ原始的な生活が行われていた。

 少ない集落を抜けてある場所に向かう。森の中を進み続けてある場所に辿り着いた。

 そこには大きな湖が広がり、その先に今まで見たことのない一族が集落を作っていた。

 「これは別次元の世界の者か」

 彼はそこで腰を下ろすことにした。


                   エピローグ

 そこで子孫達に三種の神器を託した。

次に再び並行世界に行くと神殿を建てた。そして、光の剣を持って聖武具リジルを神殿に突き刺してアポリオで封印した。

 元の世界に戻り多くもの年を過ごして、アンドリュは森の民の村から離れた北の山の古い神社に身を置いた。

 しばらくすると、さらに北に教会が出来たことに気付く。エクソシストが住まう場所になったようだ。そこから1人の青年がやってきた。

 「貴方が我が種族の始祖ですね」

 彼らはアンドリュの子孫の血を継いでいるようで、ロシェを扱うことが出来るようであった。

 「ガドの眷属だから。ロシェについて教えよう」

 アンドリュは教会の使徒に機械について話した。

 「アーク、ロシェですか。分かりました。我々の使命を果たしましょう」

 彼は礼を言って去って行った。

 それから、アンドリュは1人で気ままに過ごしていた。

 ―――あの日が来るまでは。



                    了

創生龍やこの先の話の原点の話なので、楽しむとともに知識として頭に入れて頂けると面白いと思います。

これからもこのシリーズを進めますので、楽しみにして頂けると幸いです。

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