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第4話 勇者女組

「女組! 荻原小隊出るぞ!」


 力強く宣言して、機体を前進させる。

 操縦席に座るのは勇者女組の組長『荻原莉緒』二十歳。

 『影崎大和』や『源田仲利』と同様に召喚され勇者の一人だった。彼女はカオスマターにより身体強化の恩恵を受けていた。バイクが趣味であったこともあり、この世界の人型巨大兵器マシーナリィ・スケアクロウ・システムの操縦者に選ばれてしまう。いや、人型巨大兵器というのは誤りだ。その名の通り、機械化された案山子装置なのだから。

 飛竜種などをはじめとするバケモノの脅威から、人村を守るために進化し行き着いた――行き過ぎた感は否めないが――守護者であるのだ。正義とか振りかざす人間の戦争は下らないと思うし、その必要性や利点を理解できない。だけど大切な郷や人を守るためのこの案山子は素直に受け入れられたし、飛竜種と殺し合う恐怖も・・・呑み込めた。


『リ~オ~。この間の補充要員の申請どうだったの~』


 僚機であるマシーナリィ・スケアクロウ・システム――長いので頭文字を取ってMSSと記し『エムスズ』と読むのが一般的らしい――から専用回線で通信が入る。

 発信者は工藤結愛と言い、同じく召喚勇者の一人である。


「村長に打診したら『小娘が盛りおって』ってほざいたんでぶっ飛ばしといた」


『ぶっ飛ばしたらダメじゃん~』


「男手が欲しいって言ったのに、何で夜の相手の話になるかな? 終いにはあのボケ老人共は『そんなに伽の相手を求めるのであればこの老いぼれがお相手しますぞ』とか言うのよ? そのまま死ねって思ったわ」


『・・・それは殺さないと、ダメ』


 もう一機の機体からも通信が届く。若干声のトーンと喋り方が暗いのが特徴の女勇者、高城美咲が乗っていた。

 この三人が駆るMSSこそがカゾリ村の防衛の要。真の主力だった。

 MSSは機械の巨人であり、身長はおよそ人の十倍。鋼鉄の鎧を纏い、その戦闘能力は人間の兵の数百倍から数千倍と言われている。人の身ではどう足掻いても太刀打ちできない存在であった。


『・・・今なら簡単に、できる。取って返して、踏みつぶせば・・・終わり』


 確かにそうだ。そうなのだが、それはそれで困る。


「でも、食べ物も寝る場所もお世話になっている身の上じゃ、そんな不義理はできないじゃない」


 それでも女組はましなのだ。戦闘もMSSという驚異的な防御力と攻撃力を持つ故に、搭乗者の死の危険は圧倒的に低い。男組の連中を見てしまうと、いくら“魔剣”なんてものを与えられても生身で飛竜種とやり合わなければならないなんて御免であった。彼らはまさに、召喚勇者の最底辺と言えた。


『リ~オ~は真面目~』


「真面目って違うと思うけど・・・畜生に落ちたくないだけ」


『・・・確かに、でも・・・こちらの要求も、絶対に必要なモノ。・・・通してもらわなければ、いずれ全滅する』


「分かってるって。ちょうど条件に見合う奴っぽいの、いるみたいだから」


『・・・ぐっじょぶ。・・・ついでに攫って、きて』


『そ~だね~。リ~オ~のおっぱいなら、釣り餌としては十分かな~』


 そう言われ莉緒は自分の乳房に視線を落とした。確かに大きいのだ、男を籠絡するには十分な武器であった。しかし、これで籠絡できそうな男性像と、彼女自身の好みの男性像の乖離が武器の使用をためらわせていた。


「明日にでも当ってみる、さてお喋りはそろそろおしまい。来るよ」


『わっかりました~』


『・・・了解』


 レーダーは最初から飛竜種を捕えており、こちらの攻撃有効圏内に向かって来ていることを知らせてくる。

 MSSの個体識別データが機能し、先日の戦闘で男組が取り逃がした個体であることが分かる。飛竜の名にふさわしく羽根を広げ雄大に舞うが、そこかしこに小さな傷が無数についていた――傷の具合を人に例えるなら、転んで膝を擦り剥いた程度だろう――が、致命傷には程遠かった。


『・・・男組、不甲斐ない』


『やっぱり~MSS使えないのは厳しいよね~』


 男が操縦できないわけではないが、適性は女性の方が高いのだ。しかも召喚勇者の恩恵でさらにその差が開いているために、数が限られているMSSの操縦の機会は男には回ってこなかった。


「ほら、突っ込んできた! 避けるよ!」


 飛竜種は先日やられたい傷の痛みのせいか、怒りを露わに突っ込んできた。高空から一気に高度を下げ襲い掛かる。生身ならそれこそ死の突撃となるのだが、MSSという鎧はその恐怖を遮る。


『けっこう~、大きいかも~』


 それでも体長十五メートル程度。長い尻尾を入れてその大きさであるわけだから、人間と中型犬ぐらいの体格差であろうか。


『・・・任せて』


 美咲の機体が飛竜種の突進を真正面から受け止める、かのように見せかけて素早い足さばきで体を入れ替え、飛竜種の胴体に沿うように実剣を突き入れると、羽根の被膜を裂きバランスを崩し、頭から派手に墜落させる。


「ナイス! 獲った!」


 墜落の衝撃でもがいている隙に、一気に飛竜種の首に実剣を叩き込むと、敢え無く泣き別れになり一撃で絶命する。


『・・・バカな子。・・・怒りに任せ過ぎで、動きが短調に、なってた』


 まだ心臓が止まっていないのか、激しく噴き出す血が気持ち悪かったが、取り敢えず捨て置く。


「全周警戒! まだいるかもしれないから気を付けて」


 一頭だけとは限らないので辺りを見回すが、他に飛竜種の姿は見当たらない。山蔭なんかを歩行しているとレーダーには映らないので、過信は命取りになりかねないのだ。最後は目で確認する他ない。


『取り敢えず~一匹狩ったのは報告しておくね~』


 今までの三人の会話はMSS同士の専用回線を使っていたので、外部――つまりカゾリ村に漏れる心配のないものだったので、村の重鎮を殺す発言とかしても咎められることはない。

 しかし、任意に通信回線を村と繋いでいるときはその限りではないので、自然と無口になる。


『取り敢えず~、向かってきた手負いは始末しました~、もう少し警戒して異常がなければ帰りま~す』


 それからしばらくの間周囲を警戒したが飛竜種の姿は察知できず、傭兵の偵察部隊が周囲の探索に入るまで警戒を続けた。





 女組の荻原莉緒らの要望は、そもそもなんであったのかと言えば、純粋に男手が欲しいという事だった。

 ただ生活するでも、女ばかりの寄合では体力・体格的に向かない仕事があるためだ。それを色ボケどもが盛った牝と揶揄したため余計面倒になったのだ。

 男と女を分けた理由はよく理解している。要するに男が飛竜種との戦いで命を落とすかもしれないから、人肌が恋しくなって女に手を出して風紀が乱れることを嫌ったためである。まだ恋人同士の逢瀬なら黙認できるが、そう毎回毎回そこら中で発情されても困るのだ。子供ができてしまえば、また厄介事が増える。

 このような理由で男女が分けられたのだが、特に女組で問題が持ち上がった。

 女性は往々にしてメカに疎いのだ。自転車一つとっても、外観を奇麗に磨くことはできてもチェーンに油を注すことすらできない場合が多い。そもそも興味がないために必要であるという発想に至らないのだ。

 チェーンが外れたときどれだけの人が直せるだろうか。

 そういう意味では男はこれらの事に興味を持つ者も多く、油を注したり、人によっては部品を交換したりする。

 女性にはMSSの操縦適性が高い者が多かったので、MSSの運用そのものを任されてしまっていたが、まっとうなメカニックが居なかったのだ。

 MSSは手足を駆動させるためにモーターや電磁筋肉を動力としているが、駆動させれば部品の劣化や断裂・破損など人間の筋肉や関節に起こる疲労と同じような現象が発生するため、それをメンテナンスするメカニックの存在は必須と言えた。放置すれば徐々に性能を低下させて行き、最終的には動かなくなってしまう。

 カゾリ村が保有する機体はオーディアスと名称の五十年以上前に製造された機体であったが、名機であり搭載している主機関の性能のお蔭である程度の自己修復機能を備えていたため、経年劣化からも守られてモーターや電磁筋肉が損壊して動かないと言う状態に陥らず稼働できたのだ。


「人手が足りないのよ!」


 そんな女組の中で、稀有な存在である窪田千尋は声を荒げる。

 彼女の出で立ちは綿ツナギにゴーグルという、全身からメカニックマンですと言うオーラを発していた。もともと機械いじりが好きだったと言う特異な趣味の持つ彼女のお蔭で、辛うじてオーディアスは整備され運用されていた。

 しかし、本来は四機あったオーディアスの内一機、一番酷使された機体はすでに動かなくなっていた。そこかしこが破損し修理できないため放置された上に、現在は共食い整備と言われる稼動機の交換部品を取る機体と成れ果てていた。


「莉緒分かってんの? こっちの出した条件でちゃんと交渉してきてよね?」


 手負いの飛竜種を仕留め、帰投したあと取り敢えず返り血なんかを水で洗い流す。

 新しく出来た傷や、内部的な故障個所がないかチェックを済ませていくが、人数が圧倒的に足りない。本来なら一部装甲を外して内部もチェックしたいのだが、故障診断ソフトでざっと見ているだけだった。


「分かってるわよ千尋。さっきも結愛に言われたし」


 莉緒も綿ツナギで油に塗れて作業をしていた。彼女もまだ幸いにして、バイクに乗るのが趣味であったために、日常点検と洗車くらいはしていたので、辛うじて千尋の要求に着いてこられた。

 ボルト一本締めるにも“スパナ”が分からない、規格の違いや適正な道具の選出すらままならないため、他のメンバーはまずそこから教えないと分からなかったが、オーディアスに乗ることを決められたメンバー、予備を入れて十人以外はそもそも覚えようとすらしなかった。興味がないし、自分が命を預ける機械でもない、どうしても整備が必要ならディーラーに持っていけばいいじゃんという考え方が抜けないのだ。

 疲労のこともあるのでMSSの操縦は持ち回りで、整備は可能な限りやると言うのが基本的なスタンスになっていた。


「条件は男であること!」


 女性に対して正常に欲情する人間であることだ。自分たちが女であるために、それを武器に言うことを聞かせられる相手でないと意味がない。何故なら、他に報酬を用意できないからだ。コンビニのバイトでも給料が支払われなければ誰もやらないだろう。金銭でも物品でもいいが何かしらの見返りがなければ、人間の意欲という物は続かない。

 女組が用意できる報酬というのは、少しばかりちやほやしてあげられる程度だった。要するに男の下心を利用しようと言う魂胆である。幸いにして女勇者として召喚された女性は、比較的容姿が整っているためかなりの効果は期待できた。

 突き詰めてしまえば、一機のオーディアスが廃棄寸前になっているのは、巨大な人型ロボットであるために部品単位でも重いというのが理由だ。部品交換をしたくても交換場所で、取り外しや組み付けができないのだ。そんな純粋な力仕事を率先してやってもらう必要がある。


「若い奴がいい、できれば年下!」


 年齢制限も設けたために、男娼を欲していると勘違いされたがそういう意味ではなかった。

 実際は年配でも構わないのだ、確実に機体を整備出来て“おやっさん”と皆が呼べるような人材ならば。だが現実はそんなに甘くなく、都合よく“おやっさん”が見つかる訳はない。恐らく男組全員をテストしても、千尋以上にメカニックが務まる人材はいないと思われた。

 そうなると年上は候補から外れるのだ。千尋以上の才能がなければ、彼女の下に付いてもらうしかないのだが、そんな年上の男がホイホイと言う事を聞くはずがない。まして、千尋は背が低くスタイルも良いとは言い難い。長身でスタイルのいい莉緒と並ぶと完全に子供に見えてしまうのだ、莉緒よりも年上なのに。

 だから年上であると言うだけの理由で、女の自分の言う事をしっかり聞いてくれる必要があった。

 さらに問題があるとすれば、成長期が女性の方が早いという事だろう。ほんの数年であるが、平均でみれば女性は中学生くらいで大よその成長期が終わるが、男性は高校生くらいまで続く。その為、女勇者は十六歳くらい三十歳くらいまで、男勇者は十八歳くらいからから四十歳くらいまで召喚されていた。平均的に男勇者の方が年上なのである。


「そして最大の条件・・・」

「戦闘能力・・・勇者として弱いこと、か」


 これには二つの意味があった。

 まず一つ目は、男組の戦力を削がないこと。別に憎しみ合っている訳ではないし、そのせいで誰かが死んだなんて言われたくないのだ。やはり強い奴には頑張って欲しい。MSSは飛竜種のような大型の外敵には有効だが、もっと小型の外敵が出た場合は役に立たなくなる。そうなると男組の本領発揮となり、女組も男組に守ってもらうことになるのだ。

 下手に諍いの種をまく必要はない。

 そしてもう一つ。女の園に男を招くのだ、下手に強い男を招き入れて、それこそ強姦魔にでもジョブチェンジされたらたまったものではない。MSSに操縦適性があるだけ、女勇者の方が直接戦闘能力は低い。

 莉緒も日本に居た時より強くなった感じはしているが、それでも“嵐の魔剣ストムゾン”を操る源田に生身で、いや魔剣なしでも勝てる気はしなかった。もし源田がその気になれば、何人の女勇者が毒牙にかかるか想像したくなかった。そういう意味で、紳士的な源田が男組の組長を担っている点は感謝していた。


「一応、一人見つけたかな? ぶっちゃけ子供過ぎて役に立つかわからないけど」

「どんな子? どんな子?」

「う~ん、なんというか、つい最近召喚された子らしいんだけど・・・」





 翌日。時は既に夜半。


「おっふぅ、どうしてこうなった・・・」


 大和は馬鹿笑いを上げる膝を叱咤しつつ、どうにか割り当てられていた寝床に到着する。

 今日一日で全身を酷使した結果、体中が悲鳴を上げている。

 朝一でトレーニングを一通り終え軽く朝食を取ったら、荷解きの手伝いをして、女組に運搬を任されなぜか向こうで解放されず、そのままずるずると雑用を押し付けられて気が付けばこんな時間になっていた。


「あのクソおっぱい。いつか揉みしだいてやる!」


 思い返せば、主に食料品の入った荷物を届け「さすが男の子、力持ちだね」の一言で気分が良くなってしまった。その後も、あえて胸を強調するような仕草に、色々誤魔化されて手伝いをしてしまったのだ。

 ばるんばるん揺れるのだ、男ならば無視はできまい。

 しかもそれだけではないのだ。背も高くスタイルが良い、顔も美人なのに声がちょっと可愛い系なのがまたいい。

 そして人型ロボットの整備をしていたので、興味を持って覗いたのが運の尽きだった。同じくらいの背格好の女子に「あれ取って」とか「これ支えてとか」言われるままに手伝い、手伝わされ、疲労が顔に出てくると「すっごい助かるよ~」「・・・いい男の顔だ」とかいわれ、男のプライドを刺激され弱音を封殺される。

 そして言われるままに、ずるずると扱使いされた。日が暮れるまで。

 ようやく解放された後、ユーデントに声を掛けられた『よう、今日は女勇者の集落で一日過ごしたらしいな。羨ましいぞ、このこの!』という一言が致命傷になった気もする。


「ふふふふふふ・・・だが、甘い。俺はこの苦難を耐えて嗜好の品を手に入れた!」


 その手にしっかりと握られたのは、報酬として労いの言葉と共に与えられたペットボトル入りの炭酸飲料だったが、飲む気力はなかったので明日のお楽しみにすることにした。

 疲労困憊に付き夕食を食べる間もなく、そのまま泥の様に眠りに落ちた。



 そして、さらに翌朝。

 目覚めと共に炭酸飲料を一気飲みして、胃が痙攣し悶絶する大和の姿があった。


2016/09/04 一部修正。

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