第40話 反撃の始まり
スティルはブカバルグの街で、空を睨んでいた。
ブカバルグの街にある小さな空港で、風に髪を弄らせながら、飛竜種の向かって来ている方角を睨む。僅かに風か獣――飛竜臭いような気がした。
突如出現した飛竜種の迎撃に部隊の半分を差し向けたまでは良かったのだが。その後、街に直接百匹もの飛竜種が向かっているとの報告を受けた。到底街の残存兵力で防ぎきれる量ではない。
「何という巡り合わせの悪さか・・・いや」
・・・謀られたな。と言葉の後半を口に出すのを憚る。
スティルは明日行われる予定に変更されたカゾリ村との折衝のため、最寄りであるにこの街に戻ってきていた。その一時間後にこのざまだ。余りの時機の良さに、思わず笑いそうになった。よほど自分は疎まれているらしい。そして、よほど自分の命を欲している連中は馬鹿であるらしい。
アインラオ帝国は帝国を名乗ってはいるが、皇帝が最高権力者として君臨してはいるが、その実行政は民主化が進み、皇族も「生まれながらにして国会議員に成ることが決められているだけの人」程度に権威を落としている。
「連中は、未だに私の首一つで帝国がどうこう出来ると勘違いしておるのか・・・愚かだな」
体調不良故に宰相を置いて一歩引いてはいるが現皇帝トーバルトフリートは健在であるし、兄が二人、姉が二人、そして弟が一人と、スティルの他にも子供は居るのだ。今更第三皇女である自分の命が散った所で、現帝国が崩れることはあり得ない。むしろ娘を溺愛している皇帝の取りそうな行動の方が問題だった。
それにルードリアス元帥のような、古き良き時代を渇望し皇族を信奉する者の暴走の方が怖い。もし皇帝が娘を殺されてことに怒り全軍に攻撃命令を出したら、ルードリアス元帥は嬉々としてそれに従うだろう。それこそ帝国の自然の生態系を壊し尽すようなことをしかねない。
現状、ブカバルグの街には、国民に避難命令が公布されている。取り急ぎシェルターに避難を急がせているが、あまりに急な事のためまともに進んでいない。もともとこの街に駐留していた警察や警備隊はそれらにかかりっきり。帝国軍は自治区との境の旧国境沿いに戦力を配備しているが、それも僅かだ。事前にスティルに同行して街に入ったMSS中隊の方が、圧倒的に戦力が多い。
MSSも数だけはそれなりにあるが、いかんせん戦闘能力に乏しい。MSSは基本的に運用でA~Eとランク付けされる。Aランクが軍用、Bが警備隊用、Cが警察用、Dが民間企業用、Eが個人用と決められている。このランクの差は動力炉の位であったり、MPコンバータや発動機の出力であったりと色々な取り決めがあり、基本的にランクが一つ違うと格上の物には絶対に勝てない位の機体性能に違いがある。Aランクの軍用機が数機掛で狩れる飛竜種に、BやCランクが何機あった所で焼け石に水と言うのが現実だった。
状況は絶望的。もはや笑うしかない。
飛竜種は後一時間もすれば、この街に到達するだろう。そうなればどれだけの被害が出るか、想像だに恐ろしい。
「姫様。避難いたしませんと」
イノンドが身を案じて声をかけてくれるが、スティルはその申し入れに首を縦に振れない。
自分が真っ先に逃げるべきではないと思っていた。
この街は、軍事基地ではないため平時にMSS等の戦力を置いていない。スティルの手勢として引き連れてきたMSS中隊の残りの半分が、この街の最大戦力である。その神輿が亥の一番に尻尾をまくる訳にはいかない。
「私が殿をせねば示しが付かん」
それだけを告げるとイノンドはもう何も言わず、すっとスティルの後ろに控える。イノンドもスティルの背負う責務を理解している。だから、先の身を案じる発言も半分は社交辞令・・・様式美と言った方が相応しいかもしれない。
「承知しました。ですが、せめて作戦指揮所にお越しください。こんな開け広げられた場所で、仕掛けられた餌のように居られる理由はございません」
スティルは餌呼ばわりされたことに一度だけ眉根を歪めるが、フンと不遜に吐き捨てると、イノンドへの返事もなく歩き出す。
イノンドもスティルの態度に何ら思う所なく、進言通りに作戦指揮所に向かっている歩みの後を追う。
「連絡はどうか?」
「近隣の基地への報告は済ませ、応援部隊を迅速に派遣してもらう算段になっておりますが、MSS部隊の到着には数時間掛かる公算です」
「航空隊の迎撃は?」
航空隊はMSS隊よりも圧倒的に足が速いが、その分携行できる火力に乏しい。武装は大よそ、機銃と数発のミサイルが限度。これはMSSならば両腕に積める程度の武装の量であり、諸事の理由によりMSSと同等の動力炉を搭載できないことから来る出力不足が原因だ。それは装甲板の厚さや機体強度にも直結しており、防御力・耐久力にも不安があった。
それでも打離を繰り返す、ヒット・アンド・アウェイ戦法を行えば殲滅は不可能ではない。ただ、不可能ではないというだけで、現実的ではないが。対飛竜種戦に対して、航空機で優位を取るためには、ある程度数をそろえた上での打離戦法となるが、今回の様な飛竜種の数であると、延べ攻撃機数は千を超えるだろう。こうなると操縦士の体力や、機体の不調と言った点も考慮するとほぼ不可能だ。
「上がっています。ですが第一波の航空隊が到着するよりも、飛竜種の襲撃の方が早いでしょう」
期待できるのは速力。航空機の利点は速力。だがその速力をもってしても遠い。
それはブカバルグの立地条件に起因していた。広大な国土の内陸部に存在する街であるため、外敵に直接狙われる可能性が低い。
目玉焼きを想像すると良いかもしれない。目玉焼きが大陸であり、帝国であるとすると、外敵は白身の外から襲い来るのだ。航空隊を始め、MSS隊も白身の外に睨みを利かせる様に、白身の外縁部に多く配備されている。しかし、このブカバルグは自治領に程近いとはいえ、黄身の場所にある街なのだ。直接強固な部隊を置く意味はあまりない。だから防衛力も最低限で、配備されている航空戦力も飛竜種に勝てるような機体はない。
普通なら絶対に起こりえない状況だ。つまりは普通でない何かが起きている。
航空隊も、MSS隊も時間がかかるのはブカバルグが内地で程遠いからだ。
「ありがとう。こんなことで散らせるには惜しい命だが・・・」
「私一人生き延びて生き恥を晒す恥辱には塗れたくありません。私が生き延びることで姫様の思惑の何かが遂げられるのであれば、また話は別ですが」
「・・・ないな。すまない。私の読み違えだ。私の浅はかさ故だ。今なら何でも望みを聞いてやれるが・・・」
「私がもしも男であれば姫様を手籠めにしていたでしょう」
「出来ぬことを口にするな。お前が男でも妖魔でも私に手を出すものか。そんな拙い忠誠を受けた覚えはない」
そう言い合い、二人して決死の笑みを浮かべる。
信頼し信頼される感覚は、目の前に迫る死の事実をも、恐怖足ら締めなかった。
――救援に間に合う機体はない。後できる事は神頼み、英雄頼みとムシのいい願望を囀るだけか・・・。いや、一機あったか。だが一機でどうこうできる数ではないし、それに・・・。
スティルは一機だけ思い当たる節があったことを、記憶の底から引きずり出した。もともと沈めておいたはずの可能性に縋ってしまうとは、やはり命を落とすことを恐れているのかと、自分を客観的に見つめる。
その可能性は、至龍王だ。スティルが先生と呼び敬う上野悦子と言う女性と、その愛機。間に合うが、来て欲しくない。
上野悦子はアインラオ帝国の英雄だ。既に何度も帝国の危機を救ってきた。既に帝国は彼女の残りの人生を全てに尽くしても、返せないだけの恩を受けている。だから幼少のころのスティルは彼女に興味を持ち、会いに行った。本物の英雄はとても強く美しいと思った、凛とした雰囲気が放つ研ぎ澄まされた抜き身の刀の様な鋭さが眩しかった。純粋な子供であるが故に憧れたのだ。そして皇女と言う立場が、そのわがままを許した。憧れを抱き彼女の迷惑も顧みず纏わりつき、彼女の母国語――この世界では英雄語と謳われる言葉も教わり、ついには至龍王を譲り受ける内定すら貰う。スティル自身が至龍王に気に入られたこともあるが、それ以上に上野悦子がスティルになら譲ってもいいと思ったことが大きい。それは、とても名誉な事だった。
英雄の後継者、その立場になった自分が、本当に相応しいか自問することが増えた。だから相応しいと誇れるように、民草のために頑張ろうと誓った。例え死ぬような怪我をしても、挫けない、諦めない。後継者に相応しい自分になるために。
かつても先生もそうであったようだ。何度怪我しても、病に蝕まれても、死にかけても決して挫けずに最後まで折れなかった。そして最後は不意に訪れた。身体を壊し、日本に帰れなくなった。
体力の消耗、魔力の枯渇、体質の変化、老いと様々な要因が重なって起きた。今一度至龍王に乗り込み動かせば、身体が持たない、耐えられず命を落とすと、主治医に診断された。そして上野悦子もそれを素直に受け入れられる程度に、自身の身体が弱っている事を自覚していた。もう、自分の時代は終わった、残った命は、役目は、自身の成せなかった国へ帰るということを他者に分け与えることにしたのだ。上野悦子はどこまでも、心優しい英雄だった。
そんな人物だから、スティルは憧れたし、そんな人物だから、自分の教え子がこんな窮地に陥っていると知れば、自身の命を投げ打ってでも助けに来てしまうかもしれない。
そしてスティルは自覚する。自分の胸中に巣食う恐怖以上に感じる感情の正体を。それはもう二度と先生と笑い合える未来がないと理解したから生じた、寂しいという感情だ。先生が至龍王を駆り助けに来なければ、自分は飛竜種に食われ会うことはもうできない。逆に先生が至龍王を駆り助けに来たとしても、先生の残された命の灯は潰えることは確定しており、弱った力では必ず飛竜種を殲滅できる保証もない。
――一つあったか、ともに倒れあの世で慰め合う未来が。
それが慰めに足る未来とはとても思えないが、寂しさから縋るものはそれぐらいしかない。
「まぁ、先生の出撃は博士や葉月が止めるだろう。それに、私もただ無為に食われてやる気はないしな」
スティルは作戦指揮所に立ち入ると、警備の兵に挨拶もそこそこ、上座に設えられた場違いに豪奢な椅子に腰かける。
今からのスティルの仕事は、最期の時を迎えるまでここでふんぞり返って、奮闘する帝国軍人の死に様を見届ける事だった。
「指令。MSS隊の準備はどうか?」
「はっ! 対空兵装で迎撃体制に移っております。警備隊の対空機銃を併用しても防衛線はかなり手前になります」
飛竜種の接近を拒む対空防御兵装は、射程が短く、さらに言えば弾を潤沢に有る訳ではないため、無駄撃ちが出来ない。スティルが連れてきたMSS中隊も、都市防衛用の装備ではなく、行軍して飛竜種や敵MSSなどを撃破する装備、どちらかと言えば軽装な武装しかしていないのも問題だった。
飛竜種の襲撃数は想定していた数の十倍を超えていた。当初はカゾリ村を襲った飛竜種が一番多い時で六匹だったこともあり、それよりも多い数で襲われるにしても十匹程度であると考慮して、十分に撃退できる装備と人員を手配したが、現時点で百二十を超えているのだ。さらに言えば、その百二十匹がどうやってこの地に出現したのかが分からないため、さらに増える可能性すらある。
「最早、彼我戦力の差はバカバカしくてどうしようもないな」
「皇女殿下の御身は必ずお守りいたします」
「貴官らの献身、嬉しく思う」
「各員! 我らは皇女殿下の御身の盾になる栄誉を得た! 奮闘せよ!」
指令の言葉に、わっと歓声が上がり、士気は上がる。良いことだ、怯えては何もできない。
だが、この内の何人生き残れるか、神ならざる身のスティルでは想像すらできない。
現状で取れる戦術は、スティルの引き連れてきたMSS二小隊の対空迎撃で牽制し、他基地からの航空迎撃隊が到着するまで持ち堪えさせる。その後は、航空隊の波状攻撃により、飛竜種が散り散りに拡散しない様に抑え込み、討伐本体となるMSS隊が来るのをひたすら待ち侘びる。既に帝国軍はこの作戦で動いており、百二十匹の飛竜種の殲滅は確定事項だ。
その為に出る犠牲が、ブカバルグの街の壊滅であり、第三皇女の死亡と言う犠牲だ。
スティルは犠牲が出ることは仕方のないことだと納得している。それに自分が含まれていることも覚悟している。
納得しているが、死ぬことが怖くない訳ではない、覚悟しているから、せめて最後まで生き切ろうと足掻く算段をしていた。
自身の魔法について考える。自分の使える魔法を駆使して飛竜種を屠れるかと言う問いだ。答えは是。ただし一匹が限度と言った所だろうか。決死の覚悟でもその程度だ。どんなに常人離れした魔力を持っていても、初歩の攻撃魔法しか使えないのではそこが限界だ。もっと魔法が巧く扱えたなら、先生の身体も治せたのかもしれない。スティルの回復魔法も例えるなら絆創膏だ。魔力が膨大であるから一万枚の絆創膏を持つが、骨折は治せないということだ。
――不甲斐ないな。
戦端が開かれるのも間近、スティルのできる事はもう何もない。下手に口を出せば指揮系統の混乱を招くし、ブカバルグの防衛の任に着く司令官よりも戦術眼が有る訳でもない。ただ趨勢を見つめるしかない。後はただひたすら、散っていく兵士たちが担いで良かったと思える神輿を演じ続けるしかないのだ。
本当に不甲斐ない。
そろそろ飛竜種の群れも視認出来ようかと言う時に、探知機が異常を捕えた。
「所属不明機! 高速でこちらに接近中!」
あり得ない速度で迫る物体を探知。
作戦指揮所はどよめきに包まれる。
「所属不明機・・・違います! この反応は至龍王です!! 至龍王! 音速の五倍の速度で飛竜種の群れに突っ込みます!」
何故来たか、何故来られたか。敵か味方かそれすらも殆どの兵は知らない。
そしてスティルも、影崎大和と言う少年が乗っている事実を知らない。
「・・・先生、何故来たのですか・・・」
思わず零したスティルの呟きを、動揺する頭で指令は聞き取った。
第三皇女が先生と敬う人物がいることは、軍の上層部の人間なら周知の事実だ。そしてそれが誰であるかということも、知っていなければならない。帝国を救ったことの有る英雄、上野悦子の名を知らない者は、軍部に置いて恥ずべき存在であるからだ。
司令官は驚きに枯れた声で伝える。
「・・・至龍王は援軍だ! 英雄が! “寛雅の夜叉”だ勝てる! 勝ちに行くぞ!」
寛雅の夜叉は上野悦子の全盛期、二十代のころに呼ばれていた二つ名だ。
最初の突撃を受け、僅かに飛竜種の群れは怯んだが立て直し、至龍王との乱戦に突入する。
カメラがとらえた映像を映し出され、作戦指揮所の面々がその立ち回りを目にする。
光剣を抜き放ち、飛竜種を切り伏せて行く様は胸が空くような光景だった。
だが、スティルの顔は悲痛に歪みそうになる。
あれだけの乱戦を強いられては、先生の身体が持たないからだ。
高速戦闘で人体に負担をかける物の一つに遠心加速度と言うものがある。それは急激に曲がったり、上昇下降運動をしたりするとかかる遠心力のことだ。車でカーブを曲がる時に、外側に振られる感じのあれを極限まで強くしたものが掛かる。
一般的にGという単位で負荷を現すが、瞬間的になら5G位まで人体は耐えられるらしい。これは地球の重力が五倍になった時と同じ負荷と言われ、その環境下に人が行けば体重は五倍に重くなる。
なぜ人体が耐えられないのかと、簡単に言えば“血”が重くなるからだ。血が重くなり、全身に巡らせるためのポンプである心臓が、その役目を全うできなくなる。荷重のかかる方向に血が溜まってしまい、血流が悪くなるのだ。足に血が溜まれば、脳に酸素が送られなくなり意識を失い、頭に血が溜まれば、脳が血の重さで潰されてしまう。
先生の身体はこの遠心加速度に耐えられなくなっているのだ。
「っ! 先生・・・」
その戦いぶりは、全く精彩を欠いていた。
動きが悪い、隙が多い、判断が甘いと指摘すればそこら中に穴がある。
少なくともスティルが“先生”と師事するようになってから、上野悦子は一度たりとも至龍王に乗っていない。スティルも聖墓で練習のために操縦席を使わせて貰ったことがある程度のだ。
久しぶりで感が鈍っていることもあるだろう。
何より身体が戦闘について行かないのだろう。
それでも飛竜種が地に落ちて行く。命を散らされていく。それは偏に至龍王の機体性能のお陰だ。音の数倍の速度で空を飛ぶことが出来るというだけで、他のMSSを追随させない戦闘能力になる。それが辛うじて、至龍王の優勢を保っていた。
だが、決してそれが安穏として見ていられる光景でないことは素人目に見ても明確だった。
今はまだいい、だがその優勢が後何秒持つか、誰にも分からない。
そして司令官は、士気を高めるために“寛雅の夜叉”の名を出したが、既にかなりの高齢であり、一線を引いた身である事は聞き及んでいた。老いた身体での高機動戦闘は、何時最期が来るか分からない、分の悪い賭けのようなものだった。
もし、ここで至龍王が落ちれば、それだけで士気が崩壊してしまうかもしれない。なんとしてでも英雄を助けなければならない。
「くっ! 対空迎撃! 至龍王の加勢をせよ!」
「ダメです! 至龍王の戦闘空域はこちらの射程外です!」
――ならば、MSS隊を前進させ至龍王の救援を。
そこまで思いながらも、スティルは辛うじて言葉を口内で押し留めた。
至龍王の救援、先生の手助けはしたい。だが、それの代償は、大きく重いのだ。それで街の人間を危険に晒すわけにはいかない。それは当然、先生も望んでいない事だ。自らの危機を顧みず他者に手を差し伸べてきた英雄が、他者の命を危険に晒してまで助けられたいと思うはずがない。
――街の防衛を薄くすることは出来ん。避難もまだろくに済んでおらんのだろう。
街の人間たちは、ほとんどパニック状態で、警察も警備隊もその収拾に全て裂かれているような状況だった。
「飛竜種の群れの一部が至龍王との戦闘から離脱。こちらに向かってきます!」
「射程圏内に入り次第、各個撃破せよ! 戦闘開始!」
了解と景気よく返答し、通信士が復唱する。
そしてまず一匹、群れから突出して迫りくる個体が、不意に墜ちた。
未だ防空射程圏内に届いていないにもかかわらず、撃ち落された。
「ほう。流石精鋭のMSS隊ですかな。良い目を持ったものが居るようですな」
感嘆した声が司令官から上がる。
MSS隊で一番槍を刺した操縦士は、狙撃銃で狙い撃った様だ。途轍もなく正確無比な狙撃だった。
スティルはこの一発が反撃の狼煙に成れと、心に願った。
それは、飛竜種に良いように弄られていた帝国の反撃の始まりだった。
2016/09/13 誤字修正。
 




