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第22話 今度こそは

 巨漢妖魔と対峙した大和に目配せをされ、美咲はその意を酌んで格納庫に居た女性を守るために慎重に構え直した。女性の顔に見覚えはなかったが、西洋系のカゾリ村の人達と違い、どう見ても顔の造りが日本人なので召喚勇者の一人だと認識した。

 美咲は、今日この格納庫まで大和と一緒に妖魔と戦って来て、白兵戦では圧倒的に技量で劣ることを体感してきた。まっとうな戦い方で大和と試合った場合、勝ち目はないと確信に至る。大和は物心付いた時に剣を振るっていたと言うだけあって、異世界に召喚されてから剣を振り出した美咲と、十年は練習期間に開きがあるのだ、幾らカオスマターの恩恵で強くなっていたとしても、この差を埋めるには到底及ばなかった。

 また拳銃による射撃戦でも、大和に一日の長があり、恐らくはここに来る前からも訓練していたのだろう、技量に開きがあると感じていた。こちらは白兵戦ほどの絶望的な差はないと思える程度だ。

 だから大和に目配せで援護を頼まれ、素直に応じられた。強敵と共に戦うには自分では力不足で、確実に大和の足手纏いになると予想できたからだ。的確な指示だと思えれば、仕方ないと諦めもつく。

 口さがない言い方をすれば、邪魔だから引っ込んでいろと言われたのだが、不思議と腹は立たなかった。

 ナイフに着いた血を払うと鞘に納める。しっかりと手入れしなければ刀身がダメになってしまうが、今はその余裕がない。大和から託されている拳銃を握り油断なく構えた。




「・・・ちッ!」


 大和が鋭く舌打ちをする。

 巨漢妖魔が思いのほか頑丈なのだ。筋骨逞しい巨躯により、鉈程度で切り付けたり殴打した傷程度では瞬く間に癒されてしまう。

 ダメージを与えている気が全くしないのだ。

 ニヤリと妖魔が笑う。まるで効いていないと、大和の非力さを笑うかのようだ。

 魔法使いの妖魔がどこかに潜んでいて回復魔法をかけている可能性もあるが、先の戦闘で見たように魔法をかけ続けることは不可能だ。例え百回かけるだけの魔力を持った個体が、巨漢妖魔が傷を負ったタイミングを見逃さずに魔法をかけているのだとしても、その妖魔の気配を感じ取れないというのは、流石に無い。

 もしかして、大和に気配を気取らせない程達者な隠形の使える妖魔の可能性もあるが、それならば直接大和を攻撃した方が確実に殺せるはずなので、攻撃してこない理由がないためにその可能性は低い。

 そもそも巨漢妖魔も後方から回復魔法をかけて貰っている様子はなく、この妖魔の特殊能力の類だろう。超治癒能力か、自己回復魔法が自動発動しているのか、その程度の想像は付いたが正鵠は射貫けない。

 それでも際限なく、無限に回復できるとは思えず、果敢に攻撃を仕掛け手傷を負わせるも、瞬く間に回復されるというループに陥ってしまっていた。


――拙いな。この妖魔の魔力が切れるまで我慢比べか?


 魔力が尽きるという前提が間違っていないことを祈るばかりだが、その思いが焦りを生み出す。

 幾ら大和が常識外れの戦闘能力を持っていようと、精神的にも体力的にも消耗はしているのだ。このまま持久戦に雪崩れ込み、押し負ける事などあってはならない。それどころか消耗しきってしまう訳にすらいかないのだ。

 巨漢妖魔は武器を持っていなかったが、その鋭い爪は人間位なら簡単にバラバラにできそうな凶器になっていた。動きこそ素人臭く、本能のままに腕を振るっていると思われたが、その速度が尋常でないくらいに速い。

 妖魔が雄叫びをあげ、爪を振り下ろす。


「グゴゴオオオオオオオオオオオッ!」


 大和は身を捻ったが、躱し切れずに掠り傷を負い、突き飛ばされるような衝撃を味わう。安物の化繊でできたジャージはあっさり裂けてしまい、たった一撃でボロキレになった。まともに食らったらそれで人生が終わってしまう一撃だ。

 戦闘経験の少なさからくる拙い攻撃で助かった。フェイントなどもなく、馬鹿正直に振り回しているだけの攻撃は読みやすい。しかし、それでも速過ぎる攻撃のため一歩間違えれば、簡単に致命傷を負わされるだろう。まるで丸太のような剛腕からの拳を、紙一重・・・を理想とした体捌きで半歩逸らして躱す。


――ここでやられる訳にはいかないんだよ! まだ後があるんでな!


 せめて顔見知りの無事な顔は拝みたいし、三岡のためにも笹沼美鳥の安否は確認したい。この後にまだ戦わなくてはならない、ここで余力を使い切れない。

 そう思ってしまうと、倒れない妖魔に対して生じた焦りが、恐怖を呼び起こす。もしこのままコイツが倒れなければ、コイツが自分を引き留める囮役だったら、完全に策に嵌まったことになる。今この瞬間に他の妖魔が女組に襲い掛かっている可能性もある。

 時間をかけずに、そして余力を残して倒さねばならず、焦りばかりが集う。

 渾身の力を込めた一撃。会心と言えるほどの攻撃ですら、石のように固い妖魔の骨で刃が止まる。

 妖魔にも痛覚はあるのか思わず苦悶の声を漏らすが、骨を断ち切れないため、期待したよりもダメージが少ない。


――また刃が欠けた! くそッ! 固すぎる!


 骨にまで達したこの傷も、たった数秒で塞がってしまう。心なしか回復に要する時間が増えたような気もするが、それ以上に鉈の刃こぼれの方が深刻だった。これ以上は鉈に負担をかければ、また壊してしまう。

 巨漢妖魔との距離が少しでも開けば、拳銃を取り出し牽制の意味も込めて撃ち込む。格納庫に居た女性と美咲に襲い掛からせるわけにいかず、注意をこちらに引き付けておく必要があるのだ。

 だが、巨漢妖魔のどこに中ろうと致命弾に至らない。

 手足は言うに及ばず、胴体は厚い皮膚と筋肉に阻まれているのか、これもまた致命弾には程遠い。まぐれで眼球に命中して、脳にすら損傷を与えたはずなのに、それすら瞬く間に回復させて来る。


――この妖魔は不死身か!? いや、違う。やっぱり気のせいじゃない。明らかに治る速度が遅くなってきてやがる! 恐らく致死レベルの攻撃を受けても死なずに回復できる回復魔法みたいなやつを重ねがけされ、数十回分チャージされているような状態なんだ。それが蓄積したダメージで効力が弱くなってきている。


 大和は焦りに満ちた心を落ちつかせ観察する。特に銃弾によるダメージの回復は遅い。それもそのはず、拳銃で撃たれるのは同じ太さの針で刺されるのとは訳が違う。拳銃は槍のように、針のよう刺す武器ではない。

 どちらかといえば、先端の丸い金属の棒で突くイメージで、刺突ではなく打突といった方が相応しい。それが針のように刺さるには、かなりの運動エネルギーを内包するため、目標に掛かる衝撃も無視できるものではない。

 例えば人の腹に命中した場合に、その衝撃で内臓が潰れることもあるのだ。

 そしてもう一つ。銃弾というのはかなり高温の状態で目標に命中する。炸薬の爆発により発生した燃焼ガスの圧力によって銃弾を打ち出す仕組みのためだ。つまり簡単に言えば、火傷を負う程度には高温の弾丸となるのだ。銃での傷は、傷そのものと火傷を癒さねばならず、溜め込まれている回復魔法の消費量も大きいようだった。

 だが、


――弾が足りない! 殺し切る前に、弾倉が空になるッ!!


 巨漢妖魔も悠長に詰め直させてくれはしない。

 こちらを捕えようと振り回される腕を掻い潜り、弾倉の交換は可能だったが、弾倉に新たな銃弾を詰め直す作業は無理だ。つまり今弾を詰めてある弾倉だけでカタが付かなければならないのだ。

 しかし、蓄えられている回復魔法と思しき力も徐々に弱まってきているが、完全に消し去る前に弾が切れるという概算になる。

 取り敢えず、武器がない。

 素手で手に負える相手ではない。


――なるほど。カオスマターはこういう時に一撃必殺の力となるのか。悔しいが村長の固執する理由も身に染みたよ。


 正直に言えば、今ここに三岡が居れば、奴の言うホーリークローラーが撃てれば勝てる気がした。だが自分にはそれがない、ならば捨て身にでもなるしかない。

 後のことは考えない。

 余力を残して勝とうなどという、舐めた考えは捨てる。


――どの道、ここで殺し切らなければ次に進めないんだ、後のことは後で考えれば良い。


 持てる全てを使い、ここで殺すと決める。

 瞬きの合間に距離を詰めると、鉈を振るう。掴むのか、爪で抉ろうとしたのか、突き出してきた手首に鉈を立てる。

 骨が断てないのなら、骨を無視すればいい。

 手首から肘へ骨に沿って刀身を滑らせ、肉を削ぎ落とす。振り抜いた速度を殺さずに、その場で回転し膝裏の肉を抉る。よろめけば肩を、踏み止まれば脹脛をまるで解体するように、肉を削り取っていく。

 巨漢妖魔は肉を削ぎ取られた痛みに、悲痛な叫びをあげる。全身を襲う激痛と、失血によるショックが意識を消し飛ばす。しかし、筋肉を少し削り取った程度の怪我は、瞬く間に回復される床に倒れ伏すころには傷の修復は粗方終わっていた。巨漢妖魔は気を失っていたようだが、床に倒れた衝撃で目を覚ますとのそりと起き上がった。


――やはり、肉を削ぎ落とす攻撃は効果が高いみたいだな。完全回復までにかかった時間が明らかに長い。


 削ぎ取られた肉片はピクピクと痙攣していたが直に動かなくなる。巨漢妖魔本体の傷口が盛り上がって、新しい体組織が形成され治癒されるため、切り取られた肉片はそのまま捨て置かれる。

 失った筋肉の分を補充するために魔力の消費も大きかったようだ。

 妖魔の顔に宿った敵意は分かるが、不可解な感情の乱れを見逃さなかった。それは、怒りの感情で覆い隠される。


――恐怖だな。怪我が治ると分かっていても痛覚はあるんだ、その激しい痛みに恐怖を覚えても当然か。この攻撃は効果があるな、なら暫くは、これで削らせて貰う。


 大和は次の一合も後の先を取るために、油断なく待ち構える。

 ふと、大和は巨漢妖魔の不自然さに気が付いた。動かないのだ。あれだけの怒りを露わにしたならば、直ぐに次の攻撃を繰り出してきてもおかしくはない。しかし、動かない。攻めあぐねいてというよりは、完全に怖気付き攻めるのを躊躇っているように見える。

 誘っている、と解釈するには拙すぎる。それに怯えているのは大和にではない、別の何かだ。


――なんだ? おかしい。何があるんだ? 策を企むだけの脳があるのか? ちょっと試すか・・・。


 先手を譲ってやると、大和が構えを解いても打ち込んでこない。

 軽く踏み込んで揺さぶりをかける。

 隙を見せて引く。

 地道に攻撃を当てながらも、巨漢妖魔の動向を探る。

 そして、試行数回に置いて傾向を見つけた。ある一定の場所より外に出ない、出てこないのだ。そこで大和がどれだけ油断しているように見えても、攻撃や追撃に移らないのだ。まるで何かを恐れている。

 巨漢妖魔が踏み込まない境界からは、各坐したオーディアスが視界に入る。


――オーディアス? 誰か乗っている? ・・・機関砲のようなモノが装備されていて使われたのか!


 最初突入した時に嗅いだ、格納庫の死臭の正体。弾け飛んだ妖魔の四肢と思われるモノがあちらこちらに散乱していた。その肉片の飛び散り方も、ある一点を中心に据えた放射状に広がっている。他にも、放射状の先に床や壁に大きな銃弾が当たったような傷ができていた。それが先の異音の正体なのだろう。

 そして、その基点にオーディアスが鎮座していた。


――ここまで頑なに、オーディアスの射界に入りたがらないのは、この妖魔もその攻撃に耐えられないってことか。まぁ物は試しだ、お誂え向きの得物も落ちてるし、やってみるか。


 大和は落ちていたスレッジハンマーの柄を足で起こして手に取る。拳銃をベルトに挟み込み、鉈を巨漢妖魔に投げつけると、一気に距離を詰めた。

 質量のあるハンマーを振り回し、ねずみ花火のように妖魔の足元を回転しながら滑り込むと、その突入力と遠心力で妖魔の膝を横合いから叩き付ける。一瞬よろめき、その隙にハンマーの頭を脇で挟むように持ち、立ち上がりながら柄で妖魔の顎をかちあげる。よろめく妖魔の脇に柄を突き入れ、二の腕を外に弾くとがら空きになったわき腹に、重いハンマーの一撃を捩じ込む。


「どっせいっ!」


 渾身を込め吹き飛ばす。

 膝に受けた一撃で踏ん張りがきかず、顎に受けた一撃で思考に一瞬の空白ができる、そしてあばらを横から脇の下からハンマーの一撃を食らう。構造上あばら骨は横からの衝撃に弱い、巨漢妖魔は本能的に身を守るため、衝撃を逃すために跳んだ。しかし、それは大和の目論み通りオーディアスの射線が通る場所に逃げるしかない。

 巨漢妖魔が頑なに出なかった場所から、忌避していた領域に叩き込んだ。

 咄嗟に体勢を立て直し、逃げ帰ろうとするが、僅かに遅かった。

 轟音が轟く。

 それは何かを発射したという音ではなく、何かが固い床に衝突した音だ。

 巨漢妖魔の姿勢が大きく崩れる。衝撃波が大和すらよろめかせ、辛うじて巨漢妖魔の足が一本消し飛んでいる事に気付いた。

 そして、僅かに妖魔の声が聞こえた気がする。

 だがそれは全てかき消された。連続した凄まじい轟音が、突然発生した爆炎が世界を支配した。声だけでなく妖魔そのものがかき消えていく。不可視の攻撃が雨のように降り注ぎ、巨漢妖魔は身体をバラバラに砕かれていく。原型すら残せず、僅かな肉片と弾け飛んだ血のみを残して消滅した。傷を癒し続けていた力も、その対象の喪失により効果を失ったのか、一瞬で回復可能回数を使い切ったのか、焦げ付いたような僅かな肉片から再生され復活ということは起こらなかった。

 大和が腐心した妖魔の殺し方はこうもあっさり片付いた。あっさりと付いてしまった。

 巨漢妖魔を追い詰めるための手助けになればいいとは思っていたが、まさかこんな結果に結びつくとは思いもしなかった。


「マジかよ・・・冗談じゃねぇぞ」


 格納庫に殺気が満ちていた。

 その殺気が自分に向けられたものでないと分かったが、それでも生きた心地がしなかった。

 オーディアスの“目”が暗い沼のような殺意を湛えていた。




 結愛は妖魔たちを殲滅した後、ただぼんやりと格納庫内を眺めていた。

 オーディアスのセンサーが残り一体の妖魔と、一人の人間を捕えていたが死角に潜んだまま動こうとはしなかった。

 妖魔が射線の範囲内に出てこない理由は分かる、出れば死ぬと理解したから出られないだけだ。だけど、人間が襲われない理由が分からない。

 なぜ、あの人間は餌として認識されないのか。

 自分の知らない論理で、妖魔を仲間にしているのかもしれない。カオスマターでそういう能力に目覚めた人の可能性もある。だが、もしそうならば千尋を見殺しにした理由が説明できない、納得できない。


――あれは~、妖魔側の人間ね~。


 そう、決めつけた。

 もし間違っていても、今更どうでも良かった。自分も千尋を見捨てた人間だ、誤ってあと一人殺したところで罪が変わるとは思えない。一体でも多くの妖魔を殺すことでしか、千尋に対する供養にならない。


――さ~ぁ~。でて~おいで~、殺してあげるから~。


 心の中で舌なめずりをする。

 しかし一向に、こちらの射線に入るような行動はとらず、人間は格納庫から出ようと扉を開けようとしていたが、ロックを解除する操作手順が分からず開けられない様子だった。

 そうそうに諦め、休憩室の有る辺りでプラプラと時間を潰すようになる。


――これは~根比べになるわね~。でも~油断して出てきたら必ず撃ち抜くからね~。


 ただ無為に待つということを、あまり苦痛と思わない性格のため待ち伏せは割と得意だった。

 そして、どれほどの時間がたっただろうか。

 待つと決めて十分、いや五分も経っていないかもしれない。

 オーディアスのセンサーが銃声を感知した。


――よかった~、傭兵の人が救援に来てくれたのね~。


 カゾリ村で銃器によって武装しているのは雇われた傭兵達だけだ。村民は基本的に武装せず、男組は魔剣があるから必要ないといい、女組はよく分からないけどなんとなく銃は怖いから嫌だという理由で誰も使おうとはしなかったから、結愛は傭兵だと思った。

 よくよく観察すれば、反応はたった二人。個人の識別がされ“高城美咲”と“影崎大和”のアイコンが付く。

 恨みと殺意の塊になっていた心が軋む。


――守ると言ったくせに。


 今頃来ても遅いと恨み言が湧き上がる。もっと早く来てくれれば、助けられた人も増えたかもしれない。千尋も死なずに済んだかもしれな。・・・だが、カオスマターを持たず銃器に頼るしか戦う術のない少年に、そんなことまで押し付けるべきではないのではと辛うじて思い止まった。

 そして、二人が格納庫に入ると、即座に妖魔と戦闘を開始する。

 そこに一切の迷いは感じられなかった。

 妖魔に立ち向かったのは大和一人。美咲はもう一人の人間に張り付き、監視しているみたいだった。

 大和はその技術で終始妖魔を圧倒しているように見えた。しかし決め手に欠けるのか倒せない。体勢を立て直すためか距離を取った時に、オーディアスの射線内に大和が入った時。オーディアスの目を通じて大和の姿を見た時。

 涙が溢れてきた。


――本当に~馬鹿な子ね~。


 ここでもし、機銃で攻撃したらどうなるかと、暗い欲望が鎌首を持ち上げる。

 先の妖魔のように、自分の身になにが起こったか分からない内に消滅するだろう。その時に、大和はどんな表情なのだろうかと想像し、それはそれでなかなか愉快なことになりそうだった。

 だが、思い止まる。

 そんなことをすれば、所業がばれた時には二人に攻め立てられる。いやまだそれは都合のいい未来だ。もしここで妖魔を残して大和が死ねば、多分美咲も殺されてしまうだろう。可愛がっていた妹分と弟分を失った莉緒と決別することになるかもしれない。大和は邪魔だが、それは望まない、できれば避けたい未来だ。

 仄暗い妄想していたら、大和がスレッジハンマーを振るい妖魔を射線内に弾き出した。その光景は渇望した好機。

 瞬時にありったけの殺意を込めてレーザー機銃の引金を引き絞った。

 妖魔を粉砕してなお有り余ったエネルギーが格納庫の床を叩き轟音を奏でる。

一撃で殺せなくても問題はない。SFのような帯状のレーザーが照射されるのではなく、普通の機関砲のように連射される。その連射速度は高速の機関砲と大差のない秒間百六十発という凄まじいものだ。

 一秒に満たない時間で大和と戦っていた妖魔は、僅かな肉片を残して消滅した。

 これで少しは千尋の仇を討てたのだろうかと、少しだけ溜飲を下げる。そう思うことで、囚われていた自責も飲み下す。

 格納庫に入り込んだ妖魔は全滅した。大和が来ている以上、男組の救援も直ぐに来るだろうと思え、張りつめていた緊張の糸が緩む。


「・・・ともかくこれで~終わりね~・・・」


 深く息を吐く。安堵が骨身にしみる。声に出すことで、より現実味を帯びた気がした。

 消し飛んだ妖魔の死骸を、死骸の残骸を注意深く観察している大和の元に美咲が歩み寄ってくるのが見て取れた。


「美咲も~拳銃なんか持って~危ないわね~」


 その後ろから“人間”が歩み寄ってくる、その姿を見た時、結愛の顔は凍り付いた。その人間・・・島坂頼加、死んだはずの彼女がぴったりと美咲の後ろに張り付くように立った。


『警告:バイタル異常。対象:高城美咲』


 バンと警告音と取れるイメージと共に異常を検知する。

 美咲は力なく崩れ落ちる。その背中にはナイフの柄が突き出ていた。島坂頼加が美咲のナイフを奪い刺したのだ。刺された場所は恐らく腎臓の当たり、致命傷だ。

 余りに突然の、予想外の出来事に大和の反応も大幅に遅れた。島坂が美咲を刺した後、素早く格納庫から逃げ出していく。状況を飲み込み切れなかった大和が右往左往し、島坂を追いすがり拳銃を撃つが、それ以上は追うに追えず取り乱したように美咲の下に駆け戻る。


――もう嫌だ!


 なんで現実はこんなに辛いのか。これは本当に現実なのか。

 千尋に続いて美咲まで居なくなるのか。


――こんな理不尽。もういらない!


 結愛は半狂乱になりオーディアスの搭乗口を開け、機外へ飛び出した。オーディアスは妖魔を検知していなかったが、危険が潜んでいる可能性はあった。しかし、それはもうどうでもいい。自身の身に降りかかる危険はどうでもいい。

 慌て過ぎたせいで結愛は足を滑らせ、全身を打ち据えながら床に転がり落ちる。打ち据えた場所から血が滲み出していたが、そんなことはどうでもいい。

 たった数十メートルの距離を必死に走り、美咲と大和の元下に辿り着く。

 美咲の息はまだあった。呼吸は荒く脂汗を浮かべ苦悶にもがいている。死相というのだろうか、顔色は酷い。大和が慌ててナイフを抜かなかったことがせめてもの救いだった。傷口が開いて血を大量に失っていれば、失血性ショックで死んでしまう。血の流出が最小限で済んでいるお蔭か、体温はむしろ高いぐらいだった。

 大和も顔色は酷く、普段の悪戯小僧然とした表情はなく、困惑と焦燥と無力にただ涙を流していた。


「工藤さん!」


 治癒の力を使えることを知っているのか、大和の声が希望に縋り気色ばむ。


「・・・どんな・・・妖魔にも・・・負けな・・・かった・・・大和が・・・そんな顔・・・しない・・・でよ」

「美咲、我慢して。大和ナイフを一気に抜いて。私が治癒の力を使い傷を塞ぎます」


 普段と違い間延びしない喋り方に違和を感じながらも、大和は結愛の言葉に従った。


「絶対助ける! 絶対! 絶対に!」


 今度こそは。



2016/09/10 誤字修正。

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