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第21話 後悔と告白

 この話は、グロテスクな描写や残酷な表現を含みます。

 苦手な方はご注意ください。

 MSSオーディアスには永久機関が搭載されている。

 ここでいう永久機関とは、壊れるか、壊すまで決して稼働を止めない夢の機関を差す。

 オーディアスの動力炉の中枢は、俗に魔力と呼ばれる精神エネルギーを無尽蔵に貯蔵もしくは発生させており、MPコンバータと呼ばれる装置で物理的な、いわゆる電気エネルギーに変換することで取り出すことを可能としている。そして不要時はMPコンバータの変換量を、最低値に抑えることで待機状態にするのだ。

 四機目のオーディアスは作戦行動が出来なくなったとはいえ、動力炉が停止したわけではなく精製される電力は無尽蔵であるはずだが、山岳要塞の電力としては活用されていなかった。それは、この動力をには一つ重大な欠陥、いや特徴があるためだ。

 炉心の性能・性質により、単位時間当たりに使用できる魔力の上限があり、精神活動を行っている知的生命体の精神波による炉心への干渉のみが、使用可能魔力の上限を増大させる要素なのだ。高出力の電力を取り出すには、人間による制御が必要不可欠となり、結果的に大電力を消費する機動兵器の動力炉としてしか有効活用できないという代物だった。


 結愛はオーディアスの操縦席の上に三角座で膝に頬を埋めていた。外部の音が一切遮断された操縦席は、明かりもなく平穏な孤独を感じ、恐慌にあった心が少しずつ安定を取り戻していた。

 微かに炉心が稼働する音と振動が、生命の躍動のように感じられ、心地よいノイズとなって心を落ち着かせるのだ。

 少しずつ落ち着きを取り戻していくたびに、少しずつ落ち込んでいった。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 その後悔だけが心を占め、陰鬱な気分は冷え凍り付いて行くような錯覚に眩む。主観的には能力を行使するための練習台を兼ねた人間が死んだ。妖魔がそれらを破壊した。客観的には仲間と呼ばれる者を見殺しにしたのだ。我が身可愛さに全てを見捨てて逃げ出した。世の中には緊急避難という言葉があるが、それは社会的に守るための方便で、人の心を守るための魔法ではない。

 自分が、ただただダメな人間だということを理解した。何もできないし、何もするべきではない。飛竜種なんかと戦っている身の上だ、妖魔の存在も知っていた。当然、こういう未来を予測できたはずなのだ、このような事態に備え準備できることもあったはずだ。だが、それを怠った、自分の身には関係ないと、心のどこかで自分には降りかからない厄災だと決めつけていた。

 だから、ここで黒く固まってしまうべきだ。


『推奨:光学センサとの接続』


 ナビゲートの音声が直接脳内に響く。いや、音声というには些かな違いがあるだろうか、映像としてアイコンのようなものも脳裏に浮かんでいる。操縦者当人に一番負荷にならず注意を引きやすい形態、もしくは分かりやすい表現でイメージされるためだ。

 結愛は自分の目でそれを見ているのかよく分からない。瞼を開けても閉じていても変わりのない暗闇の中で、はっきりとそのイメージだけは視認出来た。


『警告:妖魔を感知』


 一瞬心臓が鼓動をやめた。呼吸ができなくなり、無理に再開させると、荒く乱暴に鼓動が再開された、背中を嫌な汗が流れる。

 何が起こっているか理解が追い付かない。ここは、MSSの格納庫は安全だったはずだ。そういう風にできていると千尋自身が自信を持って言っていたではないか。

 もう十分自分は酷い目にあった、神様が与える罰であるというなら、もう十分に受けた。

 もうこれ以上罰せられる謂れはない。これ以上の罰には耐えられない。

 しかし、妖魔を感知、つまり襲撃が有ったということは、何らかの理由で扉が破られ、格納庫内に侵入されたということだ。


『警告:要救助者の存在を確認。要救助者:窪田千尋』


 千尋がそれに襲われている。助けなければと思うが、根が張ったように腰は重く座席から離れようとはしなかった。恐怖で身体が全く動かないのだ、結愛は完全に怖気づいてしまった。飛び出して行ったところで、腕っ節には全く自信がないどころか、運動能力も他の召喚勇者に比べるべくもなく劣っているのだ、役に立たないどころか絶対に足を引っ張る。犬死する未来しか見えない。

 だから、無理にでも明るい未来を予想する。


――千尋なら大丈夫、ちゃんとここまで逃げ果せてくる。ちょっとくらいの怪我なら私が治せる。だから大丈夫。だから・・・。


 半ば無意識にオーディアスの光学センサーとの接続を許可すると、世界が華やかに色付く。

 結愛は開けた視界にの中の、格納庫の中ほどに、一団の黒山があった。

 しきりに身じろぎしているそれが、妖魔の群れであると認識するのに若干の時間を要した。

 何が起こっているのかよく見えないと思えば自動的にズームされ、脳内のアイコンが黒山の中心を“窪田千尋”と指し示す。

 結愛はただ、千尋の無事を確認したかっただけだ。妖魔に追われていたとしても、MSSの搭乗口を絶好のタイミングで開けられるように構えようとした。

 言葉は何も出ない。

 ただ現実が理解できない。

 妖魔の群れの中から白いリボンのようなモノが数本飛び出している所を見た。

 それが有らぬ方向に折れ曲がった人の手足であると理解するのに、さらに数秒の時間を要する。

 そして、それが窪田千尋と呼ばれていた女性の手足であると、理解する。

 オーディアスはただ淡泊に事実を告げる。“要救助者の存在”の項目が消灯した。


――ひッ!


 悲鳴が零れそうになるが、声が出ない。ただ友人だったモノがバラバラにされ、妖魔の口の中に消えていく様を瞬きすらできず見つめる。妖魔の下卑た笑い顔が、脳裏に焼き付く。下品な笑い声が聞こえてくるようだった。

 また、見殺しにしてしまった。

 涙があふれ出し、頬を濡らす。

 どうせ出ていっても何の役に立たないことは理解している。

 結愛は言ってしまえば治癒の力に特化した召喚勇者だ。直接的な戦闘能力はない。カオスマターの恩恵の一形態である魔剣もなく、肉体強化は常人よりはマシな程度に強化されているが、もともと運動が苦手だったので殆ど常人と変わらない。攻撃魔法のようなモノも使えない。若干のMSS操縦適性があるだけだ。そして頼みの綱である治癒能力も、掠り傷を癒す程度の強さしかない。

 それでも今までは巧くやってこられた。だがそれは、周りが自分の立場を理解し重宝してくれたからだ。誰かに守って貰わなければ、ここで生きていくことすら難しい現実を知らないわけじゃない。だからこそ治癒の力を惜しみなく使った、使ってきたからこそ、女組でそれなりの地位に居たのだ。

 だが、目の前の現実に抗う術はなかった。

 妖魔が攻めて来たら、結愛にできる事は隠れて危機が過ぎ去るまで祈ることだけ。

 目の前で起きた惨劇から目を背け、ただ自分の無事を祈ることしかできない。

 出来なかったから、せめて呪うことにした。

 敵を呪うことにした。

 妖魔から目を逸らさず、ねめつける。ありったけの憎悪を込めた視線で妖魔の死を夢想する。


『推奨:火器管制システムと接続』


 オーディアスが結愛の意志を汲取ったのか、今までにない提案を開始した。

 “火器管制システム”には一応聞き覚えはあった。オーディアス用の銃がなかったために、使わないということで封印されていたはずだ。どのみちこの機体では銃が有ったとしても取り扱うことはできない。飛竜種との戦闘によるダメージが深刻で、脚のフレームに歪みが発生し、左右で足の長さが変わってしまい、まともに立って歩くことは出来なくなっていた。特にダメージの大きい左肩は肩部の駆動モーターが脱落・・・人間で例えれば脱臼した状態で、左腕は動かなくなっている。右手は指が二本ほど損失して、ひじ関節が逆向きに曲がっている。結愛でも分かる様な大きい損壊だけでこの有様だった。

 今更と思ったが、別に構わないとも思った。

 途端に脳裏には『チェック』『コンプリート』『サーチ』『クリア』と何かしらのシステムが呪文のようにプロセスを完了させていく様が告げられる。


『報告:視軸線同期式レーザー機銃使用可能』

『報告:同機銃効力射にて妖魔殲滅可能』


 心臓が飛び跳ねた。

 唐突に断罪の力が腕の中に転がり込んできた。

 何故、こんなものがあるのか。

 何故、今更使えるようになったのか。

 そんなことはどうでもいい。

 ただ妖魔を殺せるなら、望んだ死を与えられるのなら。

 レーザー機銃用に消費される電力を急激に生成しているのか、MPコンバータが甲高い駆動音を上げる。

 それは耳鳴りのようでもあり、オーディアスの心臓の鼓動のようでもあった。それに合わせ、結愛の鼓動も高まりアドレナリンも分泌されていく。恐怖が暗い興奮に呑まれ薄れる。

 憤怒が湧き上がる。殺意の炉に燃料としてくべられ煌々と燃え盛った。

 各坐したMSSの異変に妖魔も気付き、きょろきょろと辺りを見回すが、どんな事態が遂行されているかまでは理解が及んでいない。拳銃すら理解できない妖魔が、より高度な兵器であるMSSについて理解が及ぶはずがない。

 結愛の視線が横に滑ると、狼狽えている妖魔達にそれぞれ照準が固定されていく。一匹たりと漏らさず、決して逃さない。


「発射」


 ぽつりと言霊を漏らし、心の中で強く念じる。


『了解:効力射による掃討を実行』


 不可視の閃光が妖魔に襲いかかる、いや妖魔を通過した。それぞれ肩口や胸に命中し、一撃で上半身が消滅する。それだけにとどまらず壁や床に余波による痕跡が穿たれ、激しい打撃音を奏でる。

 それぞれの妖魔に対してレーザーが照射された時間はミリ秒単位、それでこの威力。掃討に掛かった時間はレーザーの照射装置が照準を付けるのに使用した時間だけ、約二秒。たったそれだけの時間で十数匹の妖魔は全滅する。光速で飛来する不可視の一撃、妖魔に躱せる道理はなかった。

 MSSのレーザー機銃などという兵装は、本来ならばミサイル迎撃用に用いられる防御用の兵装で、搭載される火器の中では最弱の部類に入る。だが人間大の目標ならご覧の結果だ。これが生身の人間では絶対にMSSに勝てないと言われる所以の一つだ。

 余りにあっけない結果、余りに虚しい勝利に、拍子抜けした結愛の自責の念は、揺り戻しで加速する。

 どうして、こんな武器が有ることを今まで知らなかったのか、知ろうともしなかったのか、こんなにも身近に有ったのに。

 もっと早くこの機能が使えるようになっていれば、対飛竜種戦ですらもっと楽に勝てた。これだけの威力があるなら、羽根の被膜を切り裂くことは容易に行えるだろう。鱗を貫けなくとも、牽制として十二分に役に立つ。今は各坐してしまったこの機体も、ここまで壊すことはなかった。

 今回のような妖魔の襲撃にだって、オーディアスでの迎撃は難しくても、侵攻ルートを強制的にオーディアスの前を通過するルートにしてしまえば、それだけで全滅させられた。そういう作戦が立てられた。

 何よりも、後十分。いや五分速くレーザー機銃が使えるようになっていれば、千尋を助けられたはずだ。

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 MSSを扱う才があり飛竜種と互角以上に戦えたことで、傲慢になり、予測すべきことを予測しなかった。治癒の力が有ったことで居場所は守られたため、自信を向上させる努力を怠った。

 そこに気付けたことは僥倖であったが、その代償はあまりにも大きかった。


「本当に~、何やってるんだろ~ね~。私は~」




 二人の侵入者は、まるで嵐の様だった。

 並み居る妖魔達は尽く討ち倒され、近付くことすら許されない。容赦なく慈悲もなく一方的に死を量産していく嵐だった。運良く被害を免れ、生きながらえた妖魔は後ろから忍び寄ったりもしたが全て無意味に終わる。

 火薬の爆ぜる音、空薬莢が床に落ちて立てる音、弾倉を交換する金属の擦れる軽快な音すら恐怖を覚える。

 妖魔たちは二人の人間の使う武器が未だに何なのか判別できないが、抗えないほど危険な代物だとは理解した。大量の同胞の死という代償によって得られたその認識は、矢のごとく伝播し群れ自体を恐慌させると、我先にと要塞外へ逃げるように訴えだす。


「逃げるのは予定通り三岡たちに任せよう」

「・・・ん。・・・分かった」


 それでも、脇目も振らず一目散に逃げる妖魔には、鉛の送り狼をくれてやる。

 中途半端なタイミングで中途半端な量の妖魔が出ていくことが、一番対処に困るのは分かっているので無理せず減らせる敵は減らしておく。

 大和と美咲の息は、即席のペアとしては十分に合っていた。

 走りながら、通路から顔を出す妖魔を容赦なく射殺していく。そして弾倉交換のタイミングも、弾丸の消費を半分ほどずらすことで途切れる時間をなくしていた。これは打ち合わせしたわけではなく、なんとなくそうなっていた。

 角を曲がりある程度の安全が確保されていると察して、足を止める。大和は荷物から紙の箱に入った拳銃の弾を取り出し、空になったが捨てずに持っていた弾倉に手早く詰め直していく。弾丸には余裕があったが、弾倉自体の数は限られているため、細目に補充しておかないと妖魔が大量に押し寄せた時に弾切れになったら目も当てられない。


「美咲! 今更だが、格納庫の扉は開くんだろうな?」

「・・・たぶん。・・・開かなければ撤退するしか、ない。・・・・・・ねぇ、大和。・・・これが片付いたらボクと結婚して、欲しい」


 余りに唐突な告白に、思わず噴き出した。


「・・・ご・・・、こんな、時になに言ってやがる!?」

「・・・こんな時だからだよ。・・・改めて思い知った、いつ妖魔に襲われるか、犯されるか分からない世界に居るんだよ? ・・・お互いいつ死ぬか分からないんだよ? だったらせめて最初は大和で、いい。・・・だから結婚して、欲しい」


 いつ死ぬか分からない、命運がいつ尽きるか不安に思ってないわけじゃない。

 だから、美咲の言いたいことや気持ちはなんとなく察することができた。


――けど・・・俺は、俺にはフォノが・・・。


 フォノがいる。だから断るべきだ。

 だが、今ここでそのことを言うべきではない気がした。言った所で、その機会が回ってこないと思われているだろうから無意味だ。女組の面々も、男組の中で一番活躍した者が、フォノを娶れるという話は知っているはずだからだ。つまり、フォノの婿候補として一番遠いのが影崎大和という、役立たずだ。

 断れば、迂闊な事を言えば、美咲を傷つけるばかりか確実にモチベーションを削ぎ、それは死に繋がるミスを誘発させかねない。


――傷つけることは避けられないというか、多分、美咲も断り辛いシチュエーションだと分かった上で言ってるよな。そんな状況で言質を取りに来ている。女って怖いね。せめて事が終わってから言って欲しかったな。というかこれってさ、結婚って言葉で誤魔化してるけど、初体験の相手が妖魔なのはいやだってしか聞こえないんだが? 俺の扱いというかそういうのがさ“妖魔よりはマシ”って程度じゃないのか? むしろそれはこっちが凹むんですが? え、なにさり気にディスるの?


 むしろ大和のモチベーションが削られたが、仕方ないと覚悟を決めた。


――これは断ることはできないな。やんわりと断るには時間が足らないし、きっぱりと断るには危険すぎる。断らずに、逆に美咲を怒らせるような言い方が必要だ。前回は失敗したが今回は、今回こそは成功させなければならない。真面目に命が掛かってる。失敗は許されない。


 精一杯下衆な男を演じるしかない。


「美咲・・・俺はおっぱいが好きだ。それも小さいよりは大きい方が好みだ。だから莉緒と結愛に次いでの序列に甘んじるというなら、俺の女にしてやってもいいぞ」


 “俺の女”のタイミングに合わせ尻を若干乱暴に揉む。恋人ではなくそういう対象としての女として扱ってやるぞという意思表示を込めて。


――さぁ怒れ。というか怒ってください。お願いします。


 精一杯の虚勢を張る。相変わらず殴られる覚悟はできていたが、鉛弾は勘弁して欲しいと願う。これは流石に無理だ。

 美咲の表情が固まる。普段の若干眠たげな顔が見る見る怒りに染まっていく。目には涙を湛えていた。


「・・・・・・大和の考えは、良く分かった。・・・・・・その言葉、忘れるな」


 美咲は尻を揉んでくる大和の手を乱暴に払いのけると、顔を背け、先ほどの告白などなかったかのようにMSS格納庫に向かって歩き出した。足取りは悪くない、何とか大和が想定した最良の結果が得られた気がした。


――何とか切り抜けたかな? まぁなんにしても生き延びてから考えよう。頭を切り替え直さないとな、流石に死にかねない。


 大和は気を取り直して歩き出す。

 弾の詰め直した弾倉を美咲に突きつけると、ひったくる様に持って行った。


――ああ、これがフラグ圧し折ったってやつか・・・。寂しいと思うのはエゴなんだろうな。・・・でも俺、悪くないよね? いや、そんな事よりMSS格納庫の扉がちゃんと開くかが問題だ。


 緊急時には隔壁を閉じ鍵をかけると言っていた、当然MSS格納庫も例外ではない。

 内側からしか鍵を解除できず、入ることはできなくなっているはずだ。しかし情報管理室からの操作なら開けることができる。つまり莉緒が健在であるなら、監視カメラで二人の動向を察知し鍵を開けてくれるはずなのではと期待していた。

 もし鍵が開かないということは、扉が完全に壊れているか、情報管理室まで妖魔に陥落しており、妖魔の襲撃から守らなければならない人間は全滅し、一人もいなくなっているということだ。そうなれば撤退し、男組の討伐隊と合流後に改めて殲滅に入った方が良い。

 このまま無理に攻め入る利点が毛筋の先ほどもないのだ。

 二人は通用口に辿り着くと、万が一に扉が開いた瞬間攻撃を受ける可能性を考慮し体を扉の正面から外して身構える。


「頼むぞ、開いてくれよ」

「・・・莉緒! 開けて!」


 監視カメラの集音機能に期待して大声を張り上げる、他の妖魔の注意を引くかもしれないが、散々銃声を立てている上にあんな馬鹿な話をしていたのだ、今更関係ないとも言えた。

 しっかりと監視されていたのか、美咲の声がちゃんと届いたのか、それとも何か別の手段で開けられていたのか、取り敢えず鍵は解除されておりドアノブを捻ればあっさりと扉は開いた。

 そっと扉を開け放ち中を伺い見れば、死臭がただ立ち込めていた。吐き気を催すほどの血と肉の焦げた臭い、命が無残に刈取られた臭いが漂う。


――こうもぐちゃぐちゃしてちゃ、気配が読めないな。二つか? 大きい妖魔と小さいの・・・か? 敵と、女組の人か?


 大和の気配を察知する能力も、二十四時間体制で妖魔の群れを撃退した精度を保てるわけではない。人工建造物の中は遮蔽物やノイズが多く難易度が上がり、さらに疲労からその精度がかなり低下していた。

 敵か味方か判別は付かないが、こちらに攻撃してくる気配がないため、二人は格納庫に転がり込む。

 そして妖魔の姿を一つ確認する。

 先ほど大和が倒した隊長格の妖魔よりもさらに大きな体躯を持ち、より悪魔的なイメージを付加した姿をしていた。

 その後ろに、人間らしき女性がいる。面識がないため誰か分からなかったが、女性の姿を確認した二人は即座に動いていた。いや、その迅速さは、妖魔の姿を確認して動いて、その最中に女性を確認したと言った方が近いかもしれない。

 流れ弾を女性に中てる訳に行ないので二人は拳銃を使わず、それぞれ鉈とナイフを引き抜いて、妖魔の左右を駆け抜ける。すれ違いざまの一撃が、アキレス腱と橈骨動脈を切断する。


「ちっ硬い! って何で平然としてやがるんだ!?」


 大和の手に伝わった感触では、確実にアキレス腱を断ち歩けなくしてやったはずだった。

 だが、その傷は見る見るうちに治っていく。通常の生物を超越した回復力を持っているというよりは、先の魔法使い妖魔が使った回復魔法のようなモノが働いているように感じた。

 二人は妖魔と女性の間に身体を滑り込ませると、構え直す。


「・・・貴女、怪我は、ない?」

「っ!? え、ええ。」

「良かった。じゃあアレはさっさと潰すから、ちょっと大人しくしてて下さいよ」


2016/09/10 誤字修正。一部修正。

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