エピローグ
「お前が、影崎大和だな?」
独り自分の世界を作って黄昏ていた大和は、不意に名を呼ばれた。
面倒臭そうに振り返る、その態度が気に入らなかったのか昭和風の不良少年が、襲い掛かって来たことで予期せぬ格闘戦・・・いや学生らしく、殴り合いの喧嘩が勃発する。
自分の閉じた世界で悦に浸って居た所をぶち壊されれば、怒りを覚えるのが人として正常な反応だろう。その後の感情を制御できるかで、凡夫か聖人と評価が変わるのではないだろうか。
他人と自分の間に明確な線引き、関わり合いを拒絶するような境界線を引いている様が鼻にかかる。
巡り会ったと言うには、かなり強引な接触。
袖振り合うと言うよりも、肩で風を切って当りに行く無茶苦茶。
言葉よりも拳を交わす、訳ではなく、悪態や罵詈は凝り出される手数と同じだけ付随する。
最初に二発、良いパンチを貰ってしまった大和だが、その後は巧い具合にいなして、この不良をどう処理するか考えを巡らせる。
――問答無用で意識を奪うのは、多分悪手だ。
理由は簡単だ。相手が負けた理由を理解できない、いや負けた事実を認識できないからだ、そうであれば意識と体力が回復すればまた殴り掛かってくる可能性が高い。
戦場での殺し合いなら、やった者勝ちな所があるだろうが、ここは日本で、お互いに中学生だ。学生同士の喧嘩で、気絶が死亡へ繋がることは、可能性としては低い。
事実、町で絡まれた不良相手では、そのような事が往々にして発生した。相手を瞬殺――喧嘩開始数秒で意識を刈取ってしまうと、何か卑怯な手を使ったに違いないと、随分とずれた認識で敗北をなかったことにされ、卑怯者として罵られた挙句、後日また面倒に――前回を遥かに上回る人数で囲まれたことがある。
中学生のレベルで、負ける過程を理解させなければ、延々と付き纏われることになりかねない。
「めんどくせー奴だな」
「ああ? 屑の貴様が吐いて良いセリフじゃねーぞ? おおっ!」
繰り出された拳を打ち払い、カウンター気味に掌底を顎に見舞ってやる。
「ちっ! 浅い!」
「あめぇんだよ!」
咄嗟の判断が、闘争本能か、掌底が顎を捉える瞬間に四半歩身を引き、衝撃を逃がすように自ら顎を振る事で、大和の狙った脳震盪は不発に終わる。
そればかりか、回避のために崩した姿勢をさらに崩し、その勢いを攻撃に転用し、死角になる位置からお返しとばかりに拳が大和の顎を狙いかち上げられる。
「ちっ! 避けるんじゃねー!」
「態々食らうかよ! 馬鹿が!」
つまりこれは、殴り合って相手を倒すと言う喧嘩ではない。
拳を受け合って、いかに多くダメージを受け、それを平然とした態度で耐え忍ぶ、我慢比べだ。
どちらの根性が優れているかを競うものだと、大和は判断した。
泥臭く、無様だ。
力尽きて倒れた場所に、別の敵が来ればそれで命を落とす。如何にダメージを受けず、如何に短い時間で、如何に少ない手数で敵を倒すか・・・影崎の剣の教えではそうだった。
勝敗に関わらず、昏倒しても命が保障されているというあり得ない、馬鹿げた論理で保証されたルール。ある意味でスポーツのようなものだ。
だが、そうであるなら、それはそれで良いのかもしれない。
男の矜持とまでは行かなくとも、意地の張り合い。簡単に言えば、先に逃げた方が負けと言うルール。
下らない。そう思う。
だが、だからこそ、自分が中学で浮いてしまった一因なのではと思い至る。
影崎のルールだけが正しいと思ってきたようなものだ。
しかし、実際に世界はそんな風に動いてはいない。
影崎が日本は愚か、世界に強い発言権を持つ家であるなら、いや地球圏が影崎家の支配下であるならその考え方は正しいのだろう。
だが、そうではないのだ。
世間は広く多様性に富んでいる。自分がマイノリティの稀有な存在だと、自戒しなければ、世間との軋轢は加速する。
ならば、ここは乗るしかない。郷に入っては郷に従えと言う言葉もあるように、相手の土俵で不利を跳ね除け、力を見せつけなければならない。
――俺は・・・俺が世間との隔たりをこさえていたのか。
だから受け入れられず孤立した。それは火を見るよりも明らかな自業自得、当然の結果だ。
カゾリ村で、アインラオ帝国で、散々突き付けられた事実。役立たずだの、異常だのと、自分の常識が世間一般のそれでないと思い知らされてきた。そして、異世界だから異国だからと受け入れられた。
だから本当は違ったのだ。
異世界だから異国だからとか関係ない。
大和にとって、自身の常識が通用し、それだけで生活が出来る環境は、あの山小屋だけなのだ。分校ですら違う理で動いている。アパートですら部屋に籠っても共同住宅であり、大和の常識だけが通用する場ではない。それを地続きだからと、通用するはずだと決めつけていた落ち度だ。
それはここでも当然適用される物だった。そんなはずはあるか、世間の方が間違っていると喚き散らしていただけだ。
他人と付き合うと言うことはそう言うことだ。
漸くそれを、少しだけ理解した。
不良少年の拳を避けず、頬で受け止める。
衝撃で脳が揺さぶられ、遅れてきた痛みを無視する。
躱され続けた攻撃が当ったことに因る僅かな喜びを不良少年は浮かべたが、大和がわざと受け止めたと察すると、少しだけ感心したような笑みを浮かべた。
――なるほど、こういうことか。
大和は拳を握り、お返しとばかりに不良少年の頬を殴りつけた。
剣術を扱う以上、指は非常に繊細で重要な器官である。
手の筋と腱は武器を取りまわすために存在し、相手を砕くための物ではない。隙あらば当て身すら攻撃に織り込む影崎流だが、その殆どは掌底であり、拳を使うことはない。
大和は拳を鍛えていない為に、十全の力で拳を振り抜けば砕けてしまうだろう。
だからこそ、この場合のハンデには丁度良いと判断した。
「やるじゃねーか!」
「面倒だからさっさと倒れろ!」
「テメーが寝たら考えてやるさ!」
「生憎男に寝かし付けられる趣味はねーんだよ!!」
「ママのおっぱいが恋しいか!」
「どやかましいわ!」
足を止めての殴り合い。防御は無く、いなすことも躱すこともしない。攻撃一辺倒であるが、攻撃の手数の多さは、相手を倒す為ではなく、相手の勝利を呼び起こす物に成る。
勝利条件は、相手よりも多く拳を受け、相手よりも長い時間立っている事だからだ。馬鹿げているが、それがここでのルールだ。従った上で相手を倒さなければ勝利に繋がらない。相手が負けを認めない。
だがそれも、血みどろな殴り合いではあるが、殺伐とした命のやり取りとは違う何かを感じていた。
詰まる所、この馬鹿げた勝利条件の勝負に、大和も少しだけ楽しくなってきてしまった。
バカ二人の殴り合いは結構な時間続いていた。
そうなれば当然、他の人間も気付き様々な思惑の元、見物人として集まってきていた。内情を知っており心配して顔を出した者や、学生内の不良などの勢力図に関心のある者、騒ぎが気になったただの野次馬と呼べる者、その殆どは学生であるが、二人ほど教師――立場上介入しなければならない者の姿もあった。
「・・・あのぉ、先生? そろそろ止めないと、不味いのでは?」
気の弱そうな現国の教師が、隣で嬉しそうに殴り合いを眺める数学の教師に尋ねた。女性であり暴力には忌避感を覚えているせいもあり、この状況下で介入しないのは自身の教師としての生き方に反する。
未だ殴り合いを続ける二人は、口から血反吐を吐き、鼻血を盛大に垂らしている。拳を振るうたびに、血飛沫が舞う。二人とも真っ赤な涎掛けをしたかのように制服を己の血で染め上げていた。
「大丈夫です。全く問題はありません、むしろ陰険ないじめに走るよりはよっぽど健全です」
現国教師は「しかし」と反論しようとするが「じゃあ貴女が止めてください」と振られたとしてもできることはないのだ。自分は背の低い女で、まだ子供とはいえ背丈で追い抜かれた身としては、恐ろしくてあの拳の間に入る勇気はない。
それに、喧嘩を黙認したことがPTAに取りざたされれば自分たちの立場が悪くなるのではいかという懸念がある。モンスターと化した保護者に無茶を言われるかもしれない。そうしたら自分の教師生活に無視できない影を落とすことになる。
「大丈夫ですよ、二人とも危険な人体急所は狙っていないです。・・・やはり学生の喧嘩はこうでなくては」
まるでボクシングの試合を見ているかのような呑気な観戦ぶりだ。
確かに男らしい喧嘩かもしれないが、血まみれで痛々しく見るに堪えない。お互い言い分があるのだから、もっと平和的な手段を講じるべきだと思うが、このような考えも言っても無駄なのであろうと諦める。
「大丈夫ですよ」
安心させるかのように、また声をかけられた。さっきの言葉よりも優しい響きに感じる。
「喧嘩を売った堀内の方も、買った影崎の方も、ここで殴り殺されても文句を言い出すような保護者はいません。僕は二人の保護者に面談したことがありますが、二人ともそういう方でしたよ。それでも心配だと言うのであれば、貴女は保険医さんでも呼んできてください。もう体力も尽きるでしょうし、直に終わりますよ」
現国教師は頷くと慌てて保健室に走って行った。
保健の先生が見当たらずパニックになって取り敢えず救急箱と、なぜか下痢止めの薬を持って屋上に戻ると更なる惨劇が待っているのだった。
数学教師が言ったように、現国教師が保健室に向かって直ぐに大和と不良少年――堀内はほぼ同時に力尽きた。前のめりに倒れ伏し、意識が飛んでいるのかうわ言のように「まだまだ」とか「くたばりやがれ」とか聞こえる。
「全く世話を焼かせるバカどもだな」
そんな二人に上から罵倒するのは、堀内の級友であり、大和と同じ部活動――文芸部という二人に接点を持つ、高蔵という少年だった。眼鏡をかけた割と知的な少年であるが、こいつも結局はバカなのだ。その証拠に水の入ったバケツも二つ持ってきており、迷わず倒れた二人に頭からぶっかけていく。
強制的に意識を取り戻しさせられた二人はそろって「なにしやがる!」と食って掛かるが、すでに立ち上がるだけの体力は残っておらず、どうにか体を起こして座るのが限界の様だった。
痛みのせいか、随分と息も荒い。
「よぉ、お目覚めか? バカども。少しは周りの迷惑考えて殴りあえ」
そう言われ辺りを見れば十数名の生徒が集まっており、心配そうな目でこちらを見つめている。純粋に怪我の具合を心配している女生徒もいるようだった。大和はようやく、無意識に周囲に迷惑をかけていたことを自覚し言葉を失った。
堀内も大和に喧嘩を売った理由で、自分が今度は攻め立てられたのでむくれてそっぽを向く。
妙にばつの悪い空気が辺りを支配し、どう落とし前をつける気だと他の生徒たちが高蔵の背中に集まりだすと、事態を収拾――いやトドメを刺すべく一人の女生徒が動いた。
やや癖のある髪質の元気印の少女だった。たしか――うちの組の副室長だったかと大和は思いを巡らせるが、やっぱり名前は出てこなかった。
「二人の健闘を称えて差し入れでーす。遺恨を残さない様に飲んだら仲直りしなさいね」
紙コップに入った、氷の浮いた黒い液体――コーヒーらしきものが入っていた。鼻血のせいもあり血の匂いしか感じないのが残念に思う。
「・・・すまない。ありがとう」
「へー影崎もちゃんとお礼言えるじゃん。でもまぁお礼なんて言わなくてもいいよ」
向こうはこちらの名前を知っていることに、大和は急に恥ずかしさを感じ、彼女の名前はクラスに戻れば判明するだろうから、しっかり覚えておこうと思う。なに、中々に立派な物をお持ちなのだ、もう見間違うこともないだろうし、後はあのおっぱいに固有名詞を札付けするだけだ。余裕で覚えられると安堵する。
実際別の意味で、二度と忘れられない名前になるのだが。
「おいっ! 明衣! こっちにもさっさと寄越せよ!」
不満げにせっつかれ、副室長の女生徒はコーヒーを飲もうとして堀内に奪い取られてしまうが、その顔には薄らと悪戯を成功させた笑みが張付いていた。
その顔を見た大和は「恋人をからかって遊んでいるんだな」と勘違いをしてしまうが、もうなんというか完全に柵に填められたのであった。
紙コップを受け取るとどちらともなく視線がぶつかる、大和と堀内。なんとなく男同士のシンパシーでどちらが早く飲み干すかという競争が暗黙のうちに成立し、一気にあおった。
「「!!!!!!」」
大和と堀内は、悲鳴すら上げられず倒れる。白目を剥いてぶっ倒れ、引きつけさえ起こしている。殴り合いで口の中も傷だらけのはずだった。コーヒーでも相当な痛みを伴うはずだ。それを見越しての早--我慢飲み対決であったのだが。
流石に此処までの惨事を想定していなかった。
「おい、ちょっと伊角副室長? 何を飲ませた!」
「しょ・う・ゆ!」
「・・・悪魔かお前は」
「いや~匂いでばれるかなと思ったけど、あれだけ鼻血出てれば分かんないよね」
極悪な悪戯を大成功させた伊角副室長は、てへっと可愛らしく笑い誤魔化そうとするが、ギャラリーからの尋常ならざる視線を感じ真面目な顔に戻す。
やり過ぎだと言う醤油を飲まされた二人の身を案じる非難の視線と言うよりも、それにより二人の男に復讐されるのではないかと言う懸念に因るものだ。
「まぁこうしておけば、この二人が事あるごとに殴り合いってことにはならないでしょ? それにやったのが女の私なら二人の性格からして復讐される危険性も少ないし、一番無難に治める方法よね」
そう言われると、そうなのかもしれないと周囲は剣呑な空気を霧散させ感心する。少なくとも堀内は当り散らすようなタイプではないので、気性が良く知られていない大和が暴れても、堀内が良いストッパーになってくれるだろう。
戻って来た現国教師が倒れている二人を見て悲鳴を上げ、有志によって保健室へ運ばれその日は解散となった。
翌日の放課後、大和と堀内は昨日の騒動の責任を追及され、罰当番として屋上の掃除――自分たちのつけた血痕の消去をさせられていた。二人の顔は酷く腫れ上がっており、包帯やガーゼの手当ても痛々しいが、お互い様なのでそのことについては触れない。
二人の勝負は実質引き分けだが、伊角副室長にしてやられた感が強い。二人して女に負かされたと言うのが主観であり、同じ人物に敗北したと言う同族意識か、拳を交えた後に目覚めた友情かは分からないが、少しだけ・・・割と普通に言葉を交わす間柄になっていた。
「くそっ! 明衣の奴、醤油なんてどこから持ってきやがった!」
伊角明衣というのが副室長のフルネームらしい。大和は忌むべき名であると魂に刻んだ。
――やはり、恋人同士なのか・・・いや、それなら醤油は無いよな。
それよりも不良少年――堀内が伊角副委員長の下の名である明衣と呼び捨てにすることの方が興味深かった。
「たぶん、家庭科室だろうな。調味料はそろってるはずだ」
「おい影崎! お前は腹立たないのかよ?」
「腹は立ったがどうすんだよ。相手は女だぞ? 殴りかかる気か? お前本当にバカだな堀内碧海!」
そんなことをすれば身の破滅だ。男同士で納得しあっての殴り合いならまだ言い訳は立つが、さすがに女子に手を出せばどうなるか分かったものではない。彼女が親に泣き付き強姦されそうになったとか嘯かれたら人生が詰む。
「やられっぱなしは気が済まない。・・・何かすごくスッゲー不味いもん食わせるとか・・・なんかこう、手はあるだろ?」
「やめとけ、慣れない手段は失敗の元だ」
大和は妙に実感の籠った声音で吐いた。
流石に昨日の今日であるので、顔中が体中が痛みを訴え、我慢比べなどしなければよかったと後悔していた。
「そもそもお前料理なんてできるのか? それを怪しまれないで食わせられるだけの実績はあるのか?」
「ねーよ! そんなもん!」
「・・・じゃあダメじゃん。つか行き成り料理とかしたら浮気を疑われるんじゃないのか? 伊角ってお前の彼女だろ? 意趣返しで破局とか傍で見る分には楽しいかもしれんが、なんか巻き込まれそうだから嫌なんだよな。だからやるなよ?」
「はあ? かっ! 彼女とかなわけないだろう!? そんな事実はありません事よ、学園白書に物っていない事実をこれ見よがしに言われてもな! つか今話してるのは違うだろう? どうやったら許せるかって話だ!」
――この中学校は男女交際すると白書に記載されるのか・・・怖いな。
話をそらそうとする堀内に対し、大和は下卑た笑みを浮かべようとして、顔面に走った痛みに引きつった。
「じゃぁ、あのおっぱいを鷲掴む! そしたら全部チャラで俺は許す!」
「あっ? 殺すぞ?」
「・・・やっぱりお前の彼女なんじゃねーか」
「・・・・・・ちがう・・・」
二人ともそういう小細工は苦手なせいか何の復讐案も浮かばずに、ただ重い溜息だけが漏れる。
一日経過して、乾いてしまった血痕を簡単には消えず、水をまいてデッキブラシで一心に擦っているが全然落ちてくれなかった。いったい何時になったら終わるのだろうかと、先の見えなさに暗澹とした気持ちが強くなる。
「もう諦めようぜ・・・なあ」
「そうだな、もう帰りたい。疲れた、死ぬ」
昨日の激しく殴り合いをした男はそこにはもういなかった。
根性を見せつけあったはずの二人は、互いに引き際を探って弱音を零していた。
だが許可を出す人は居らず、粛々と作業を進める以外に解放されることはないと分かっていた。
「おーい、影崎。部長がお冠だ、そっちに行ってくれ」
そこへ高蔵が言伝を預かって姿を現す。一瞬解放されるかという期待が膨らむがあっさり破裂した。
「・・・げ、マジで?」
「マジだ、おつかれ。碧海は下校時刻までがんばれだとさ」
「武則、手伝ってくれ」
「無理だ。俺は影崎をちゃんと連行するように部長に厳命されている。じゃあな碧海。帰るときに鍵を閉め忘れるなよ」
堀内を屋上に放置し、廊下をとぼとぼと歩く大和の肩を励ますように、高蔵が叩く。
心配かけて、怒られて、叱られて、励まされて、順風満帆ではないがこういうのが求めていた人生なのだろうか。
今から部長の説教を聞くことになると思うと、それだけで気が滅入って来る。
「部長もあまり態度には出さなかったけどな、それなりには心配してたんだぞ。お前は心配かけた報いを受けなきゃな? まあその顔じゃ、早めに解放してくるるんじゃねーの?」
「・・・それは希望的観測だろうが」
「そこは巧くやれよ」
「出来る自信はないんだが・・・ああ憂鬱だ」
少なくとも虚しさはなく、今日が終われば別れ家に帰り、明日になればまた会うのも良いものだと思えるようになっていた。
大和はようやく気付いたのだ、少しでも自分から合わせようとするだけで、こんなにも世間はあっさりと受け入れてくれるのだと。
だから、これからはここで、自分の人生をしっかりと生き行こうと思う。
錯覚かも知れないが、虚構だとは思えない。
大和は少しだけ自分の居場所が出来たような気がした。
一応はこれで締めになります。
今まで長々とお付き合い有難うございました。
時系列ではプロローグ中盤以降>1~178話>プロローグ序盤>エピローグと言う流れです。




