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第177話 帰還

話しを纏めるのがどうも苦手なようで、更新が延び延びになって申し訳ありません。

「・・・・・・これって・・・振られたってこと・・・なんだよな?」


 思い切って、勢いに任せて言葉にしてみたものの、袖にされ撃沈と言った所だろうか。

 今の大和は、そう呟くのが精一杯だった。

 特に恋愛事に関して疎く、駆け引きなどできそうもないと自己評価していただけに、絶対に相手が断らない状況でなければ吐けた言葉ではなかった。

 互いに好き合っている・・・好意を寄せあっているとは、自惚れでもなく実感していた。身分も立場も、何ら障害にはならない。子爵領の運営は大変だろうが、慎ましく生活するのであれば困窮を極めると言うような生活にはならないという、財政的な生活の支えも確立していた。その上で、自分は帝国にとって有用な龍騎士であるのだから、帝国の利益を最優先するスティルが断る筈はないという打算が、最期の一押しにもなっていたのだが。


 あえなく散った。


 そう評価するしかない返答を突き付けられ、果てしなく落ち込んだ。

 当時のことを思い出すだけで、顔から火を噴きだしそうなほどの羞恥に身を悶えさせる。

 それでも、自棄になって日本へ逃げ帰るような真似は出来なかった。本人は非常に見っとも無いと思ってはいるのだが、そうやって縁を切ってしまえば、二度と会えなくなってしまうのではないかと言う不安が全ての行動を妨げる。

 未練がましいと奮い立たせようとしても、足に力が入らないのだ。


――情けない・・・。


 だが湿っぽく落ち込むことしかできない。

 言葉にさえしなければ、二人の関係は変わらなかった。互いの距離は開かなかった。後悔が地獄の釜を開き、向こう見ずな蛮勇により蹴落とされた。そうして今はただ煮立てられ、煮詰められている。

 もしもタイムマシンがあるなら、勢いに任せて阿呆な言葉を口にする自分を殴り飛ばしてやりたかった。


「・・・随分と、分かり易く落ち込んでいるのねぇ」


 そばを通りかかった女性の声が、心配そうにかけられる。


「・・・上野さん? 出歩いて大丈夫なんですか?」

「私も散歩くらいはするわよ。流石に激しい運動は無理だけれど・・・。それに、全く体を動かさずに引き籠っていたらねぇ、動くこともままならなくなってしまうもの」


 久しぶりに見た上野悦子の顔色は、余り良くないが、心配になる程悪くもない。

 普通に隠居生活をするだけなら、まだまだ元気で居てくれそうである。


「・・・まぁ、あれね。大和君が振られた事は、私からすればとても喜ばしいことだわ」


 大和にとって、その台詞が傷に塩を塗り込む行為だと知っているために、眉を歪めて謝罪の意思表示をする。


「あの子がよ? スティルちゃんが、帝国の利益よりも別の何かを優先したの。今までそんな素振りも見せなかった子がね。それは君に次期龍騎士の座を奪われた嫉妬だったのかもしれない。純粋に君への好意が恋人未満であると判断したのかもしれない。もしくは君が私のような後悔を吐き零す存在へならない為の後押しのつもりだったのかもしれない。私にも本意は分からないけれど、自分の感情を優先したことがとてもね」


 帝国へ利益を供与するための存在。

 そう信じて・・・そう洗脳そだてられされた帝国第三皇女が、ステルンべルギアとしての感情を優先した。

 操り人形、もしくは装置としての行動ではなく、人間としての行動であると、頑なな少女に変化が訪れたのだと感じられた。


 それがとても喜ばしい。


 初めて我が子が、自分の力で人生の一歩を踏み出したような、成長の証を感じ取れたのだ。


「そしてこれは老婆心ながらの助言。大和君が召喚勇者である内は、あの子は絶対に首を縦に振らないでしょうね」

「・・・? それはどういう意味ですか?」

「これ以上は駄目よ。私は君が取るべき行動を教えてあげることはできる。でもね、それをしてしまうと君は私の操り人形になることと、あまり変わらないの。この先は自分で考えて答えを出さないと。・・・いいえ、答えを出すための行動を起こさないと」


 その講釈は酷く抽象的で、要領を得ない言葉だった。

 だが大和は、上野悦子が・・・帰ることが出来なくなった召喚勇者が何を言いたいのか、少しだけ理解できた気がした。


「これ以上は駄目だと言いながらも、しっかりと助言してくれるんですね」

「ふふふ。私は大和君に恨まれたく無いもの。そしてそれよりも私と同じ後悔に苛まれて欲しくないのよ。だから・・・つい口が弛んでしまったみたいね」


 この世界の都合で強制的に呼び込まれた召喚勇者では駄目だ。無理矢理召喚された、言い換えれば世界に拉致された状況では、どうしても覆すことのできない負い目と言うものが出来てしまう。

 それでは対等の関係には成れない。

 恋人・・・と言う関係に、上下関係は必要ない。

 大和がスティルとの対等の関係に成るには、その負い目を解消するために、日本へ還らねばならない。


 そう考え方を変えると、袖にされ落ち込み原因となった言葉も、背中を押してくれる温もりだと錯覚してしまうのだから、存外自分も単純だなと自嘲の笑みを浮かべる。

 それもそうだ。

 固執して執着を見せ、負い目を背負ったまま、どちらかが義務的、責務的に交際するなど、望むところではないのだ。


 憑き物が落ちたような顔で、シーゼルの操縦席に潜り込む。

 龍騎士である大和は、聖墓に有る送還装置で一方的に送り返されると言うことはない。シーゼルに搭載されている世界間の渡航機能を持って、日本へ帰還するのだ。

 そのせいで聖墓の送還装置は心臓部であったシーゼルを欠くため、今までのような送還は出来なくなる。これも大和の送還順が最後に回された理由の一つだ。

 だが博士はこちらの事は心配するなと、胸を叩いていた。多数の実験結果を得られたために、どうとでもなる・・・いや、どうにかしてしまうつもりらしい。

 不安を覚えなくもないが、大人がそう言うのだ。まだ義務教育も終えていない、子供の自分はそれに甘えるべきだと判断する。


 既に手慣れて来た至龍王の起動手順を済ませ、博士から受け取った手引書を頼りに大和は世界間の渡航路・・・イデアゴラの門を展開させる。

 虚空に青白く光る光線が走り、それが曲り図案を・・・魔法陣を形作る。直径百メートルはある巨大な魔法陣が描画され、さらに幾つかの小魔法陣がそれに群がるように展開される。


「そうだな。スティルも変わったのなら・・・俺も変わらないと。変わって行かないとな」


 後ろ髪を引かれる気はする。

 アインラオ帝国に留まり続けたいと言う願望がない訳ではない。

 だがそれよりも、日本へ還ることで自分がより良い方向へ変化・・・成長できると期待が膨らむ。

 大和の心根に比例し、機関出力も驚くほど安定しており、日本への道は安定し形成された。



「これが本来の、正しい方法の世界渡航か・・・」


 幾重にも折り重なった陣が、眩いばかりの輝きを放つ。

 その荘厳さに一時目を奪われるが、かぶりを振り、見据える。

 自分が本来いるべき世界。

 居なければならない世界へ還るのだ。


「まあ・・・色々あったけど。・・・あり過ぎた気もしなくはないけど。去らばだ」


 こうして大和は至龍王を駆り、生まれ育った本来の世界へと帰還する。


 明滅する光の花道を駆け抜けるような感覚。

 他に何も見えず、道も、上下の感覚も、時間の流れも、自身の身体も、何もかもがあやふやになって行く。

 呼吸すらおぼつかず、このまま自分が自分でなくなってしまうのではないかと言う錯覚が恐怖を生み出し、嫌な汗が伝い、操縦桿を握る感覚、じっとりと体温を吸収し、熱を籠らせた金属の感覚だけが意識に残る。

 急速に体が冷えたのか、それだけが指先を焼くように熱く感じる。

 そして閃光に目を細める。

 光の道を駆け抜けたはずなのに、急に目の前が鮮烈な青に染まる。

 

 気が付けば、どこかの青空の下に放り出されていた。


 喪失した上下感覚に戸惑い、随分と高度を落としてしまったが、どうにか姿勢を立て直し高度を確保する。

 シーゼルの情報に間違いが無ければ、そこは日本の本島の上空だった。


「・・・ああ、還って来たんだな」


 感無量。

 この先も嫌なことも多いだろうが、取り敢えずは返ってこれた事に、安堵し心が震える。

 そして緊張が解れたせいか、空腹を感じた。


「・・・なんか、蕎麦食いたいな。豪華に天蕎麦か、鰊蕎麦辺りを・・・」

『接近警報。所属不明機が急速に接近しています。数2』


 帰郷の感慨を、シーゼルの警報音と音声が無遠慮にぶち壊す。


『撃墜しますか?』

「出来るか! この場合の所属不明機って日本国軍機・・・・・だろうが! 自国の迎撃機を破壊してどうする!」

『逃げますか?』

「ステルス的な機能はあるか?」

『了解。隠形術式を使用します』

「・・・何それ?」

『魔術的な熱光学迷彩と解釈して頂ければ近似です』

「じゃあそれで!」


 僅かなやり取りで方針を決め、素早く行動に移す。

 大和は至龍王を太平洋側へ、迎撃機を振り切るように飛行させ、まるで力尽きたかのように適当な海域で自由落下させる。その後隠形術式を海中で起動し、海へ墜落して見失ったかのように演出してみた。


「・・・これで誤魔化されるのか?」

『こちらの世界では魔術的な探査能力はかなり低いので有効な手段のはずです』


 海流に乗り、着水地点から離れる。

 確かに迎撃機は、至龍王が着水した海域を暫く探索した様だが、諦めて帰還していった。


「しかし、海中で熱光学迷彩とかぶっ飛んでるな」

『効果が近似しているだけで別物です。所謂熱光学迷彩では水中は愚か、雨の中で使えなくなります』


 シーゼルが自分の優秀さを誇示するような物言いに微笑ましさを感じながらも、その危険性に思い当る。


――やばいぞ。シーゼルは日本軍とやり合っても勝てちまうかもしれん。


 と言うことは、日本で龍騎士であることがバレれば、それなりに面倒なことに巻き込まれることになる。

 大和の祖父を始めとした、元召喚勇者だった帰還者が存在している以上、捕まれば即牢屋行きと言うことは免れるだろうが、監視くらいは付けられそうだ。


――そうなれば、面倒臭そうだよな。仕方ない。


「シーゼル。このまま機体を海中に投棄されるのと、人里離れた山に隠されるのとどっちが良い?」


 至龍王を匿ってくれる当てがない以上、大和が取れる行動はその程度だった。


――帰って来た筈なのに、面倒事が減らないな・・・。


一応設定上は、この日本には自衛隊ではなく日本国軍が存在しています。

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