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chapter.5 久々の




 過去の仲間とメーヴ孤児院で再会を果たした俺は、昼食がてらに適当なレストランへと向かうことになった。

 その道中、俺とオレリアの間に会話はなく、ただ黙々と歩き目的地であるレストランへ辿り着いた。

 黙っていたのは、どこから話せばいいのかわからなくなったからだ。というか、どう踏み込めばいいのか。昔家族だった人間にいきなり再開して、まともに話せって方が無理である。

 隣を歩く獣人族と人間のハーフの少女は、俺とオレリア同様口を閉じていた。助け舟を期待しても、第三者はシアだ。元々口数が少なく、あまり感情の起伏が激しくないので、こういう場合の空気の変え方など知りようも無い。まずもって期待するのが間違っているのだ。


「……ついたな」


 レストランに到着してからの、俺の第一声がそれだった。

 もうちょっと何かあるだろうと突っ込まれても仕方ない発言だが、さすがに緊張して無難な言葉しか出てこない。


「そ、そうですね。入りましょうか」

「お、おう」


 妙にギクシャクしながら、俺とシアとオレリアはレストランに入店した。

 ウェイトレスさんに指示され、奥のテーブル席へ腰かける。

 俺とシアが横に座り、オレリアが正面の席に陣取る形だ。


「最近、ちょっと暖かいですね。……ふう」


 言いつつ、胸元をはだけさせるオレリア。

 推定Eカップだな。どうでもいいけど。

 しかしだ。アイドルがそんな無防備でいいのかよ。

 そう言いたかったが、オレリアは気にした風も無く胸元をパタパタさせて空気の入れ替えをしている。正直な話、目のやり場に困るんだが。


「――とりあえず、何か食うか」


 俺は視線を横にやりながら言った。


「はい。グレイくんは何にしますか?」


 ようやく胸元から手を離したオレリアが、メニューを取り中身を確認する。

 それから、各々適当に注文し、食事がくるのを待つ段階に入った。

 さて、そろそろこのギクシャクった空気をどうにかしなければならないだろう。

 まずは話題だな。オレリアのような女性にピッタリな話題を的確に俺が出せば、流れも変わるはずだ。

 が、悲しいかな。オレリアが好きそうな話など判るはずがない。

 何が好きだったかを必死に思いだそうとするが、中々記憶が蘇らない。想像以上に10数年という月日は長かったらしい。

 そんな気まずい空気の中、俺はオレリアが身につけていた腕輪が目に入った。宝石のようなものがはめ込まれてはいるものの、外観はどこか安っぽい。まるで、小さな子供が大人ぶってつけるような代物だ。


「その腕輪、まだ持っててくれたんだな」


 だが、俺にとってその腕輪は非常に思い出深いものだった。

 オレリアの誕生日に、俺が渡したプレゼント。今オレリアが身につつけている腕輪がまさしくそれだ。まさか10数年も持っててくれるとは思わなかったので、驚きと感動で一杯である。院長からのおつかいの時に、おつりをさば読んでコツコツお金を貯めたかいがあったというものだ。


「はい。グレイくんからもらった大切なものですから。辛い時はこの腕輪を眺めてグレイくんから元気を分けてもらっていました」

「ま、真顔でそういうこと言うなよ。こっちが照れる」

「ふふ、だって事実ですから。それに、これはお守りなんです」

「お守り?」

「はい。これがあれば、私は何でも出来る。そう願をかけているんです」

「えらく万能なお守りだな」


 残念だが、俺がオレリアにプレゼントした腕輪は、市場で売っていた普通の装飾品だ。しかも、値段でいえばかなりの安値である。間違っても特殊な魔具ではない。何の能力も持たないただの腕輪なのだ。

 だけど、オレリアにとっては違うのだろう。

 俺のことをそんなに想ってくれていることには、感謝しかない。でも、どうしてそんなに想ってくれるのか。他にも孤児院の仲間はいた。家族は、俺だけじゃなかったんだが。


「私にとってグレイくんは特別な存在だったんです」

「え……」


 なにそれ。

 まさか俺に気があったとかそんなのなわけ?

 ここにきて俺の春が始まるのか。

 むさ苦しい帝国で生きてきた俺にも、ようやく潤いが……!


「歳も近かったですしね。特別というのも、そこら辺の理由が大きかったのかもしれません」

「あ、ああ、そっちか」

「……? それ以外に何か?」

「まあ、そうだよな。俺とオレリアは1つしか年齢違わないもんな」


 ちなみにオレリアが1つ年上だ。

 というか、俺と同い年は他にもいたぞ。つまり、そいつらも特別な存在ということか。まあ、オレリアにとっては、孤児院のみんなが平等に大事なんだろうが。


「そういや、他のみんなは今どうしてるんだ?」

「そうですね……。全員を把握しているわけではありませんけど、王都にいる仲間だけならわかりますよ」

「そっか。じゃあ、王都にいるのは誰なんだ?」

「私を含め3人が王都にいます。1人はクレールですね。彼女は養子にはならずに1人で生活しています。たくましいですよね」

「へえ。クレールか。懐かしいなぁ」


 クレール・ドラン。

 俺と同い年でやんちゃな女の子だった。

 男よりも率先して先陣を切る性格だったな。

 今でも逞しいのだろうか。

 是非あって確かめなければ。


「もう1人はレオノールです。姓は変わってロランスになってます。レオくんはパン屋のロランス夫婦に引き取られて幸せに暮らしていますよ」

「もう1人はレオかぁ。あいつも王都にいるんだな」


 レオノール・ロランス。

 前の姓はラスペードだったか。

 レオは俺と同い年の男の子だった。

 前に出たがるクレールとは正反対の性格で、いつも俺の後ろに隠れていたっけか。男なのに、可愛い顔でさらに性格や趣味が女っぽいやつだったのを覚えている。手芸とか得意だったしな。

 

「時間があれば会いに行ってもいいかもしれませんね」

「時間ならたっぷりあるよ。今日にでも2人に会いに行きたいくらいだ」

「今日は2人とも夕方から用事があるので、会うなら明日がいいかもしれませんね」

「そうなのか? まあ、それなら仕方ないな。明日行ってみるか」


 用事ならしょうがないよな。

 でも待てよ。どうしてオレリアが2人の用事を知っているんだ?

 頻繁に連絡を取り合っているのだろうか。

 孤児院の仲間だし、その可能性はあるだろうが。


「そういえば、シアちゃんとグレイくんの関係を詳しく教えてもらわなければなりませんでしたね」

「お、おう……。ここに来る間にすっかり忘れてるものだと思ってたぞ」  

「忘れていませんよ?」

「そ、そうか……」


 何故そんなに天使の笑みなんだ……。

 なんというか、悪いことしてないのに叱られるのを怯えなければならない子供の気分だ。


「元々シアは、帝国の……というよりは帝都から離れた辺境のセルト村で暮らしていたんだ。そこはまあ、なんていうか差別が酷くってな。シアは見てわかる通り獣人族の血が流れてる。だから、色々と酷い目に会ってたんだよ」

「そんなことが……。シアちゃん、いつでも私を頼っていいですからね?」

「……ん、ありがとう」

「か、可愛い……っ!」


 初対面の相手だからかもじもじと上目遣いで答えるシアに、何故か悶絶するオレリア。

 まあ、シアは色々と可愛い。特に全部可愛い。とにかく全部可愛いのだ。一家に1人、いや、個人に1人オススメだ。絶対渡さないけど。


「こ、こほん。それで?」

「ああ。俺も仕事でそのセルト村に行っててさ。確か6年くらい前だったか。そこで色々ありまして、俺がシアを持って帰った」

「持って帰ったって……。犬や猫じゃないんですから。でも、シアちゃんを見てるとなんだか犬や猫のような愛らしさを感じます。かといって、その表現もどうかと思いますけどね」

「まあでも、半ば無理やり連れていったからなぁ。初めの頃のシアは、警戒がすごくてさ。全然笑わなかったし、常に相手を威嚇してたな。おかげでコミュニケーションを取るのにも一苦労だ」

「……ごめんなさい」


 耳をしゅんとさせて、シアは謝ってきた。


「謝らなくていいって。つーか俺の方が謝らないといけない立場だしな。なんてったって。無理やり帝都に連れ帰ったわけだし」

「今では感謝してる。グレイがいなかったら、私はきっとあの村を……」

 

 そこまで言って、シアは口をつぐんだ。

 言いたいことは判る。だが、それ以上のことをオレリアの前でさらけ出す必要はない。俺とシアが理解していればいいのだ。


「つまり、2人の間にやましいことは何もないと?」

「ないよ。シアとは家族だけど、多分オレリアが思っているようなことはないと思うぞ」

「そ、そうなんですね。よかった」


 胸を撫で下ろすオレリア。

 何をそんなに心配しているのか。

 仮に俺とシアがオレリアの思う関係だったとしても、そこまで気にする必要も無いような気がするけどな。

 まあ、確かにシアくらいの見た目の子と……。ゲフンゲフン。一瞬非常にいけないことを想像してしまった。忘れよう。


「シアちゃんがいてくれたから、グレイくんは頑張ってこれたんですね。ありがとう、シアちゃん」


 オレリアの言葉に、シアは頭をふるふるさせてから、


「……お礼を言うのは、私の方だから……」

「まとめると、お礼を言うのはむしろ俺だな。まあなんだ。感謝し合うのは凄く良いことだが、そろそろメシ食おうぜ。ウェイトレスさんが気まずそうにしてるわけだしな」


 いつの間にか料理を運んできたウェイトレスさんがいた。

 なんとなく料理をテーブルに並べずらい雰囲気を悟ったのだろう。気まずい表情で突っ立っていた。


「す、すみません……」

「い、いえ、お気になさらず」


 ウェイトレスさんは慣れた手つきで料理をテーブルに並べ、最後に定番である「ごゆっくりどうぞ」を口にして去っていった。



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