7話
「お帰りなさい。フェイも荷物置いたらちょっとスキル見ましょうよ。カロンタンの鑑定スキルが高くてね、追加情報が見れるのよ。」
「おかえり。」
「ただいまです。それじゃ早速置いて来ますね。」
顔を上げて手を上げた二人に挨拶してからフェイは魔力で灯るランタンを持って自分の部屋に移動した。既に外は薄暗くなっており、家の中に慣れていないフェイが転んで怪我してもつまらない、とクレインがランタンを渡したのである。ダイニングには僅かな魔力で灯せる明かりが既に灯っているのだが、その灯具は比較的高価な為に廊下等には照明が無い。クレインも普段はダイニングで生活し寝る際にはランタンを持って寝室に移動し、枕元に置くという形をとっている。フェイが荷物を置き、制服からラフな格好にささっと着替えて戻ってきた時には二人がちょうどカロンタンのスキルを確認しているところであった。
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カロンタン 18歳 男
レベル 25
体力 240/240
魔力 120/120
体力回復量 30/時
魔力回復量 10/時
筋力 5
頑健 12
器用 65
敏捷 13
知力 89
アイテムボックス (レア) 136/200
鑑定 (レア) 162/200
自然の理 (レア) 25/200
市場原理 (レジェンダリー) 12/200
市場支配 (レジェンダリー)0/200
交渉 (コモン) 51/200
氷結魔法 (コモン) 21/200
解体知識 (コモン) 87/200
木工 (コモン) 1/200
皮細工 (コモン) 3/200
アイテムボックス:亜空間を利用し、アイテムを格納することが出来る。重量は無視する事が出来、念じる事でアイテムを出し入れ出来る。アイテムを出現させる場所は任意。熟練度が上がることで格納出来る量が増える。死亡時、亜空間に格納されたアイテムは全て失われる。
鑑定:あらゆる物のステータスや情報を得ることが出来る。熟練度が上がることで得ることが出来る情報量は増加する。鑑定対象が生物の場合、得る可能性のある一定以上のグレードのスキルの表示も行われる。
自然の理:自然の中で利用可能なものが直感的に分かるようになる。また、生物の生態の理解度が高まり、罠などの設置や生物の飼育に補正として器用+50。鑑定スキルとの併用可能。有資格者の解体知識が一定以上の熟練度になると取得可能。
市場原理:鑑定スキルとの組み合わせで物の相場が分かるようになり、その物品が何処で高値で取引されているか、また何処で安値で取引されているかについても情報を得る事が出来る。有資格者で鑑定スキルが一定以上の熟練度になる事、交渉もしくは政治スキルが一定以上の熟練度になる事で取得可能。熟練度が上がる事で鑑定対象の物品が目の前に無くても情報を得る事が出来る様になり、現在地での相場だけではなく任意の場所での相場や、値段の安い期間、高い期間などの把握が可能となる。商取引関連作業時、知力+50。
市場支配:物品の売買に関わる事によって流通価格の変動を狙った幅で起こさせる率が向上するスキル。市場原理が一定以上の熟練度に達すると取得可能。熟練度が高くなるにつれてより広範な物品や地域に影響を及ぼせるようになる。
交渉:商売などの交渉事に補正が掛かり、成功率が向上する。相手が同じスキルを所持している場合、差分で高い方のスキルが強く働くが、効果が出るのは差分のみであり無効化される事はない。商取引き等に従事する者が取得することが出来る。
氷結魔法:氷系統の魔法が使えるようになる。一定の熟練度毎に使える魔法が増加する。魔法使用時、補正として知力+10。
解体知識:獣やモンスター等、生物を分解する為の知識。解体する際に補正として器用+10。実際に解体するか、有識者からの指導によっても熟練度の向上を行える。誰でも取得する事が可能。
木工:木工細工を行う際に補正が発生する。木工細工をする際に補正として器用+10。有資格者がスキル所有者から指導を受ける事、もしくは一定のレベル以上の作品を完成させることで取得可能。
皮細工:皮細工を行う際に補正が発生する。皮細工をする際に補正として器用+10。有資格者がスキル所有者から指導を受ける事、もしくは一定のレベル以上の作品を完成させることで取得可能。
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長い事掛けて書き写したその情報を見た三人の中に、沈黙が生まれた。単にカロンタンは書き写すのに疲れただけであったが、残りの二人は違う意味での沈黙であった。
「ね、ねえカロンタン…。」
「カロンタンさん…。」
「ん?」
「「なんか凄くない(ですか)!?」」
「確かになんか凄いのが増えてるよね。説明書き見てもオイオイって感じで…。でも、戦闘系が全くなくてさ…。」
クレインは呆れた顔になったものの、カロンタンはあくまで冒険者として必要であった能力に欠けていたことに関してのイメージがまだ払拭しきれておらず、トータルとしてどうこうという方面に目がまだ向いていなかったのである。
「ねえ、確かに戦う系統じゃないけど、これ、商人として考えたら物凄い事なんじゃない?木工とか皮細工とか解体知識は置いておくにいてもね、それ以外が凄すぎるわよ。」
「そ、そうですよ。私、これまで鑑定スキルと併せて発動できるスキルがあるなんて、聞いた事がないですし。これって、高く売買されているところが物を見ればわかるって事ですよね?例えばの話ですけど、麦がハイブでは安かったとして、隣の街で高く取引されてるって情報がスキルで分かればハイブでたくさん仕入れて隣町に行って売れば儲かるってことですよね。しかも」
「カロンタンはアイテムボックスも持ってるんだから、その身一つで大きな荷駄隊を持っているキャラバンと同じって事なわけだしね。」
実際には中堅以上の商人ともなればアイテムボックスのスキルを模倣した鞄ーーといってもスキルのように容量オーバーを気にしなくてよいほど物が入る訳ではないのだがーーを使う為、それ程商隊が大きくなる事は無い。大商人ともなれば逆にアイテムボックススキル持ちを雇うーー無論、持ち逃げされたり誘拐されたりする危険を避ける為に鞄も多く併用するのが普通ではあるがーーことが増え、これまた商隊が大きくはならない。中堅になっても鞄を多く準備出来ない資金の足りない商人くらいしかそこまで大きなキャラバンを編成はしないのであるが。
拳を振り回しながら熱く語る二人に、カロンタンはそうか、とようやく理解した様子で頷いた。
「ハズレスキルも組み合わせと熟練度の高さでこんな事になるんだね。商業ギルドにスキルの事は隠した上で登録して、商売を始めるのが得策なのかな。」
「そうかも知れないわね。あ!…。」
「………。」
急に黙り込んだ二人に、カロンタンは不思議そうな顔でどうしたのか、と尋ねた。
「そ、そりゃ、カロンタンがいい仕事が出来るのはいいのよ。で、でもね。」
「そうなんですよ、でも、その仕事、行商というか、そういう仕事になると、カロンタンさんと毎日会えなくなるんです…。」
「でもねぇ、カロンタンには幸せになってもらいたいし。やりがいがある仕事がある方がきっといいよね?」
「う、うん。働かないってのは僕のこれからの選択肢には無いからね。そんなヒモみたいなのは嫌だから。」
せっかく一緒に住むようになった次の日からいきなりカロンタンが商売の為に居なくなるのであれば、二人にとって勇気を出した意味が無くなってしまうのである。それでも輝いて欲しい、という気持ちは二人にもある。意を決した様な顔でクレインがぼそっと呟いた。
「…あたし、仕事辞めて、砂漠でスキル覚えようかしら。そうすれば商売の護衛としてついていけるわよね。」
「わわわ、私も!何か無いでしょうか!す、スキル鑑定してくださあい!」
慌てるフェイも可愛い、とカロンタンはスキルを書き写し始めたのであった。