6話
昨日の狩りの成果を全てお金に変えた頃には、既に太陽は中天を過ぎてしまっていた。昼食を求めて街に人が溢れる中、カロンタンは屋台で昼食を調達して今朝から住むことになった家へと帰った。
冒険者ギルドから程近いクレインの家には、昼休憩ということでフェイが帰ってきていた。
「おかえりなさい。カロンタンさん。」
「…ただいま、フェイ。」
「うふふ。」
嬉しそうに笑みを浮かべるフェイを見て、カロンタンはクレインと同じように新婚みたいと思っているのかなと考えたが、その考えはフェイの次の言葉で裏付けられた。
「…新婚さんみたいですね。なんか嬉しいです。」
「なんか、そういわれると照れるね。」
「うふふ。」
ダイニングにある小さなテーブルには、昼食であろうお弁当が広げられていた。年頃の女子という感じのちまっとした量で、本当に足りるのだろうかと心配になったカロンタンであったが、自分もテーブルにつくと調達していた昼食を広げた。
「一緒に食べてもいいよね?」
「もちろんですっ。」
軽い雑談をしながらの食事の中で、カロンタンは大事なことを思い出した。
「ご両親は説得出来た?」
「はい。特に母には前から好きな人がいるって話をしていましたので、押掛け女房になるって言ったら応援してくれて、父を黙らせてくれました。荷物は仕事が終わった後に取りに行く予定にしているんですが、元々そんなに必要なものは多くないですからね。母の持っているたくさん入る鞄を借りれば一回で終わる位の量です。」
「そっか、説得出来て良かったね。そういえば、クレインが部屋を準備してくれていたよ。僕は元々アイテムボックススキルがあるから、狭い方の部屋で大丈夫だから、広い方を使うといいよ。寝るのは三人同じベッドにするってクレインが言ってたから、本当に荷物を置いておいたり、着替えをする部屋のイメージになるのかなぁ。」
「なるほど、ありがとうございます。…三人一緒に、ですか。うふふっ、嬉しいですね。」
何人もの女性を囲う事は男の器の大きさを示すということで、一夫多妻がカロンタン達がいる国では当たり前になっているのであり、それがフェイもクレインもカロンタンを取り合うことなく三人一緒でも気にしていない所以である。無論、お互いしか目に入らないといった夫婦も多数存在する。それとはまた逆に、一妻多夫も制度としては認められているが、これは昔女王がたくさんの夫を持つという名目で逆ハーレムを築く為に作られた制度であって、あまり例のない事であった。
「それじゃあ私は午後の部に行ってきますね。…きっと、入れ替わりでクレインさんが来るとは思いますけど。」
「ん、気を付けて行ってらっしゃい。」
手を振り出て行くフェイを見送った後、カロンタンは部屋に入って依頼などで不要になった棚などアイテムボックスに入っていた物品を一部部屋の中に置いた。別に部屋に何も置く必要などは無かったのだが、何も置かずにいれば彼女たちがいつか自分が居なくなってしまうと思ってしまうと考えたのだ。
カロンタンは手慰みに一部壊れている椅子を数脚アイテムボックスから取り出すと、それを直し始めた。壊れていないちゃんとした家具だけではなく、廃材や、狩場で拾った枝や鞣し方の練習台にした皮など売らずにしまっていた物など、椅子を直す程度であれば何とかなるものは結構持っていたのである。貧乏性なカロンタンは限度無く入るアイテムボックスに、拾える物は何でも入れておいたのである。実際にはアイテムボックスにも仕舞うことの出来る上限というものがあるのだが、使うことで熟練の度合が増して上限が徐々に上がっていくためにカロンタンは上限があることに気が付いてはいなかったのである。
考え事をしながら黙々と椅子を直していると、控え目にドアがノックされる音が聞こえてきた。
「カロンタン?いるの?」
「いるよ、どうぞ。」
声の主はクレインであった。彼女は今日の仕事は昼休憩無しの替わりにもう終わり、ということで早く帰ってきたのである。帰りにシーツや三人で暮らすための日用品なども手に入れてきたとのことで、カロンタンは気が付いていなかったが既に日は傾き始め、夕暮れが近くなっていたようであった。クレインはドアを少し開けて中覗いていたが、中にするりと入って近くに置いてあった椅子に座った。きょろきょろと部屋の中を見回し、少し嬉しそうに手の届くところを触ったりしている。
「この家具も依頼か何かで手に入れたの?」
「ああ、この部屋に置いたのはそういうやつだね。というか、家具は買ったことがないや。」
「へえ。…でもしっかりした椅子なのにね。こんなのも要らないって捨てる人がいるんだね?」
「ん?ああ、その椅子は座面が破れてたんだよ。さっき鋲を抜いて、昔鞣してアイテムボックスに入れっぱなしだった皮を張り直したんだ。ちょっと端っこの方が上手く引っ張れなくて皺が寄っちゃってるけど、これ以上力を上手く掛けられなくてさ。」
「ええー?充分だと思うよ。カロンタンってば器用なのね。」
カロンタンが直した椅子をダイニングに持って行って三人で座れるようにするつもりとクレインに告げると、そういえば二脚しかなかったしちょうどいいわね、とクレインは笑った。
せっかくクレインが帰ってきたのに部屋に籠っているのもあまり意味がない、とカロンタンは一度道具類をアイテムボックスにしまってからダイニングに移動し、クレインの遅すぎる昼ご飯に合わせてお茶を飲む事にした。
「あのね、参考になればと思って、ギルドの備品倉庫からスキル鑑定鏡を持ってきたのよ。一応、ギルドマスターには明日まで借りてても問題ないって言われてるから、後で見てみましょう?確か、随分長い間見てなかったわよね?」
「ああ、そういえばここ二年は見てなかった気がするかな?アイテムボックスと、鑑定だけは使ってたんだけど。」
「あれ、鑑定なんて持ってたの?鑑定もレアスキルに入ってたような気がしたけど。」
指を折って二つ数えたカロンタンに、クレインは首を傾げてフォークを咥えた。そもそも、鑑定のレベルが充分に高ければ自分のスキルも鑑定出来るはずで、鏡はいらなかったりする。
「うん、一応ね。でも、鑑定鏡って中規模以上の店に行けば大抵あるから、レアっていってもこれもどっちかといえばハズレ…。」
「自分で言って落ち込むのはやめなさいよカロンタン。」
「ご、ごめん。」
「自分を鑑定なんかはしてないの?」
「あー、その考えは無かったや…。」
もー、といいながらもクレインは食事を片付けると、鏡をテーブルに置いた。スキルを使えば使った本人にしか見えない為、自分も関わりたいクレインは鏡でカロンタンのスキルを見たかった様である。カロンタンも特に隠したい物があるわけでもなく、自分の鑑定スキルの熟練度がどこまで達しているのかも把握してないことから、まずは鏡で見る事に決めた様子であった。
「ええとね、ここに手を置いてもらって。」
「そんな感じだったね。」
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カロンタン 18歳 男
レベル 25
体力 240/240
魔力 120/120
筋力 5
頑健 12
器用 65
敏捷 13
知力 89
アイテムボックス 136/200
鑑定 162/200
自然の理 25/200
市場原理 12/200
交渉 45/200
氷結魔法 21/200
解体知識 87/200
木工 1/200
皮細工 3/200
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「あれ?色々増えてるな。」
「そうなの?」
「うん、交渉とか木工とか皮細工とか自然の理とか。解体知識はまぁ前からあったんだけど、『クレイモア・レザーズ』で色んな獣の解体方法とか教えて貰ったりしてたからかすごい伸びてる。」
「自然の理とか市場原理なんて、聞いたことがないスキルよね。」
「うーん。」
「それにしても、鑑定スキルの熟練度すごい高いじゃない?鏡でわからない情報も読めるんじゃないかしら。あたしのとかちょっと見て書き出してみて?」
「いいよ。」
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クレイン 23歳 女
レベル 5
体力 200/200
魔力 324/324
体力回復量 30/時
魔力回復量 50/時
筋力 8
頑健 10
器用 17
敏捷 18
知力 26
杖術 2/200
灼熱魔法 0/200
事務処理 71/200
料理 12/200
杖術:杖を使った戦闘技術。杖を武器として使用すると器用、敏捷に+10、スキルがあることで自然に戦い方を想像して戦うことが可能になる。熟練度が一定のレベルに達すると奥義が使用可能となる。
灼熱魔法:強大な焔に関する魔法が使用可能となる。一定の熟練度毎に使える魔法が増加する。有資格者が灼熱の砂漠で丸一日生き抜くか、火災にあって生き残るか、火の魔法で一定以上のダメージを受けて耐え切るかで取得可能。取得すると魔法使用時に知力補正+50。
事務処理:事務的な仕事に対する補正がかかるスキル。事務処理に対する補正として知力+50。
料理:料理を作る時に食味に補正が掛かり、完成度が高まる。料理する際に器用に補正+30。
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「灼熱魔法?レジェンダリーって…それにスキル0ってなんだろうね? 杖術もレアなのに、全然使ってないからさっぱりだわ…。」
「使える可能性みたいだよ。取得可能とかなってるね?」
「それにしても、その取得条件っての何なの…? 酷いわね。でも、スキルの説明があるとか嬉しいわよね。」
暗くなり始めた部屋の中カロンタンとクレインが書き取った紙を睨めっこしていると、フェイが荷物を手に帰宅した。その晴れやかな顔に、カロンタンとクレインは自然に笑顔となった。