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39話

 べヘリウムの中心部に程近い、古い街並みの一角にその屋敷は建っていた。中心部に近いという事はそれだけダンジョンにも近いということで、裏通りとはいっても冒険者やその関連施設の人員が多く通る。屋敷とはいえ門は常に開かれており、頻繁に人の出入りがある事で逆に誰がそこに入っていっても不思議には思われないという家の三階のある部屋で、数人の男達が一つのテーブルを囲んでいた。

 室内の調度品の数々はぱっと見では高級そうな感じではないのだが、実際には名工の手によるもので、その品質や使った時の心地よさは群を抜いたものであった。それに気付いているのかいないのか、男達はそんなことは一切気にせずテーブルの上にある大きな紙と、その上に幾つか並べられている人を模した様な駒、それと色々な情報が書かれている名刺サイズのカードを並べては真剣な様子で一人の男の動きに注視していた。



「…それは悪手だな。」

「そうか?」

「見様によっては好手とも見えるが…。」

「ほれ。これが証拠だの。」



 机の上に証拠という言葉を出したちょび髭の男が机の上に置いたカードに、残りの者達が唸りを上げた。



「かぁ~!ダメだな、こりゃあ。」

「負けだ負け。結局は総取りか。」



 各人の後ろに積んであった金貨の詰まった大きな袋がちょび髭男の後ろに積まれると、机の上に置かれたものを召使いが片付け始めた。配られたお茶に一息ついたところで召使いが退席すると、男の中の一人がそろそろ頃合い、と口を開いた。



「王国に圧力をかける件、ありゃあどうも失敗に終わってるようだな。」

「…ああ、報告が上がっている。」

「新入りがせっせと運んでいるようではないか。しかも、ギルドの護衛付きでな。」

「…ふむ、我がギルドの護衛とあらば簡単に消すわけにはいかぬか。」

「周りから崩そうにも冒険者ギルドの監視までついておる。」



 白髪の男は鞄の中から紙束を取り出すと、机の上にバサリと置いた。それを片眼鏡のヒョロっとした男が拾い上げる。



「カロンタン、か。戦闘技能は全くなし。狩りや解体の才能はあるが…アイテムボックスに鑑定か。レアを複数持っているのは兎も角、それがこの組み合わせとはな。そして冒険者ギルドの看板娘二人を誑しこんでいる、と。」

「冒険者ギルドの看板娘はともかく、友人関係や家族で脅しは掛けられんのか?」

「冒険者ギルドからはクビになっているが、ハイブのギルドマスター…あの妖怪から気に入られている様子で、脅迫まがいの推薦状が商人ギルドに提出されたとか。」

「あのババアは怒らせると怖いからの…。」



 ちょび髭の男が腕を掻き抱いて身震いをした。思い当たる節があるのか、白髪の男がその様子を見て苦笑を浮かべた。



「家族の情報はありませんな。友人は…今売り出し中の二人組の冒険者ですな。実力もあるようで、手を出すならばそれなりにランクの高いものを準備する必要が…」

「なに、実際に手を出さなくても、脅す分にはどうとでもなる。装備の一つでも盗ませ、それを見せて如何にも捕らえているように見せかける手もあるしな。」



 ごもっともで、と片眼鏡の男が頷いた。



「それはそれとして、そろそろ麦の収穫も最盛期。放っておいても穀物が出回ります。今回の件が無かったとしても、効果は半減。どちらにしても次の手を打たないといけません。」

「そうだの、それでは、こんなのはどうかの…」



 男たちの密談は暫くの間続いた。



◇◇◇◇◇



 パチパチ、と火花が爆ぜる音がしている。乾いた枝をキリアはポイッと無造作に焚き火の中へと投げ入れた。闇の中に浮かび上がるキリアの顔にはうっすらと汗が滲んでいた。

 二人は街道のすぐ側にある、休憩スペースとして準備されている場所の一つで夜営をしていた。火が熾し易いようにと、かまどのような形に石が組まれており、その周りはよく使われているせいか草もほとんど生えていない。日が落ちたとはいえ、周囲は昼間の熱気が抜けきらず、地面もまだ温かいままである。そんな中、カロンタンのアイテムボックスや、夏という季節柄焚き火は特に必要が無かったのだが、これまで焚き火をしてこなかっただけにキリアの我慢がいっぱいいっぱいになった様子であった。



「…暑く、ない?」

「む、自分は大丈夫だ。」

「…汗、掻いてるよ?」

「いいんだ。…ほら、カロ。腸詰が焼けたぞ。」



 そう言いながらキリアは小枝の先に刺した腸詰をカロンタンへと渡した。カロンタンは渋々といった感じで受け取ると、熱々のそれにかぶりついた。



「…うん、美味しい。」

「だろう? 焚き火はいい。やはり夜営をするなら焚き火をしなくてはな。」

「そんなに好きなのでありますか?焚き火。」

「ああ。…自分が好きなのだ、お前もそうだろう、ホネコロ。」



 半ば呆れた感じで言ったアズに気も止めず、キリアは傍に体育座りをしている綺麗な白いスケルトンに話し掛けた。スケルトンのホネコロはカクっと頷くと、小さな手を伸ばして火にあたる仕草をした。



「まぁ、僕はヴァリスの隣でゴザを引いて寝るから。火の始末はちゃんとしてね。」

「な、そ、そうか…。」

「アズ、寝ずの番、悪いけどお願いね。」

「任しておいてくださいであります、マスター。」

「ホネコロもよろしくね。」

「……。」



 カロンタンは立ち上がり、こくこくと頷いたホネコロの頭をポンポンと軽く撫でてやるとヴァリスの隣にゴザを引いて寝っ転がった。一応お腹を冷やさないよう、薄い毛布をお腹にかけてからヴァリスにもおやすみ、と声を掛けて目を瞑る。



「…マスター即寝たであります。」

「そうか。…カロは何時になったら自分に手を出してくれるのだろうか。やはり、妹御達に聞いた通りに積極的に攻めなければいけないか。」

「どういった風に積極的に攻めるでありますか?少々マスターの妹さん達の入れ知恵というところに不安を感じるのでありますが…。」

「簡単だ。今から裸でカロに抱きついて寝る。」

「…キリア、ここは往来であります。他の旅人から裸を見られるでありますし、マスターもそんな状態で手は出してこないと愚考するでありますが…。」

「む…。ならば、まずは薄着で抱きついて寝るくらいで我慢しよう。」



 アズは苦笑を浮かべつつも頑張って、と声を掛けてから火の始末を始めた。キリアも火の始末を手伝ってからカロンタンの隣へと滑り込もうと近付いたのだが、隣に寝ようとしたところでヴァリスの嘴でゴンゴンと突かれた。手加減をされているのはわかるが、それでも硬いものでゴンゴンと叩かれれば痛い。



「ヴァリス?ヴァリス!?」



 キリアがダメだ、と起き上がってゴザから退いたところで漸くヴァリスはキリアを突っつくのをやめた。どうやらキリアがヴァリスとカロンタンの間に割り込むのが気に入らなかった様子である。



「自分がカロと一緒に寝るのはダメか?」



 ヴァリスが大きく頷いたのを見てキリアはがっくりと項垂れると、少し離れたところに転がって寝始めた。ヴァリス的にはキリアは普段カロンタンと密着しているのだから、こういう時くらいは一緒に寝たかったのである。買ってもらってからしばらく厩暮らしが続いたが、やっと始まった旅にご主人との触れ合いにとヴァリスは心から楽しんでいた。ヴァリスはその長い首をもたげ、大きな嘴をそっとカロンタンに寄せると、寄り添うようにして寝始めた。

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