表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/44

25話

 翌朝、日の出と共に動き出したカロンタンはアズを自分の部屋に連れて行くと、邪魔になりそうなものを全部しまい込んだ上でこれまで手に入れていた機械やパーツ類をすべて積み上げた。



「アズ、君にはここに残ってもらって機械を直したりとか作ったりしてもらうつもりだけど、それでいいかい?鳥さんは希望通り連れて行くからさ。」

「わ、わかりましたであります…!」



 一瞬、ぐぬ、と言葉を濁しかけたアズであったが、その目に決心のような物を浮かべると力強く頷いた。



「またパーツの補充の処、よろしくお願いするであります…!」

「今回は逆方向に行くからそんな簡単には補充できない気はするんだけどね。売ってるのを見掛けたら買って来るよ。」

「それで構わないであります。」



 ふよふよ浮いてついて来るアズを引き連れながらカロンタンは旅装を身に付けると、起きて来ていたフェイとクレインにキスをしてから家を後にした。名残惜しそうな三人を見て、帰ってくる頃にはアズと二人がもう少し仲良くなってくれているといいな、とカロンタンは思った。

 天気も良く、道の両側にある家々からは朝食の準備をしているのであろうか、美味しそうな匂いが漂ってきている。カロンタンは朝食は取らずに来ていたのだが、肩に乗せた鳥型ロボットが本格的に稼働したのか、声が聞こえて来た。



(ちゃんと朝食は取らないとダメでありますよ、マスター。お腹の音が聞こえたであります。)



 一瞬ビクッとしたカロンタンであったが、アズから自分にしか聞こえないと聞いていた事もあってか、周りをきょろきょろ見回す必要を無い事を思い出すとアイテムボックスから焼肉の串を取り出してモグモグと食べ始めた。



◇◇◇◇◇



 途中天気の悪い日もあったものの、旅程としては順調に経過して六日目の夕方、カロンタンはデイムの街へと到着した。デイムの街は人口三千人程でありハイブよりも小さな街であるが、小国であるとはいえ王のいる街ということでハイブとほぼ変わりの無い広さを持っていた。人口五千人規模であるハイブの街よりも人口が半分に近い街であるのにそれ程の規模を誇っているのには理由がある。その一つは奴隷の売買で富が豊かであり、そしてその売買対象である奴隷を人口として数えていないことが挙げられている。公式には三千人、と発表はされているが、実際には奴隷はその倍程の人数がいると言われており、それには多数の戦闘奴隷も含まれていて有事の際には大きな戦力として街を防衛して来たのである。カロンタンは行きで奴隷を購入した場合、旅費が膨らむことを考慮して帰りに購入するつもりで…所謂冷やかしで奴隷商の元を訪れた。ハイブの街で偶に見に行く、と思っていたのが行けなかったというのもあって、眺めるだけでも眺めようという気になったのである。カロンタンが偶然訪れたこの奴隷商は両側に檻が連なっている造りで、檻の前には詳細を書いてあるらしい紙がぶら下がっていた。入り口でも自由に見ろ、という事を言われたカロンタンはスキルを発動させながら端から紙と人を眺めていた。



「な、なあ、自分を買ってはくれないか?ハイブでも見に来ていただろう。」



 三つ程の檻を覗き終わったカロンタンに、一人の女が声を掛けてきた。カロンタンがそちらを見ると、どうやら気にしていた片手首から先がない女性のようであった。ハイブの奴隷商にいた筈では…?と思ったカロンタンはそのことを尋ねてみた。



「ぐ、や、やはり買い手がつかぬと言うことでこちらの奴隷商に転売されたのだ。色々と条項が解除されて、自分がいうのもおかしいがお買い得になっていると思うのだが…。」

「そうでしたか。…それがですね、私は今商売の旅の途中、しかも行きでしてね。帰りであれば六日程度で家に帰れるので、条件が合えば買っても良かったのですが…。流石に、今からだと一ヶ月分の旅費を使わない護衛にかけるというのは商人として間違っていると思うのです。すいません。」

「ぬ、ぬうう…。そ、そうかー…。ぜ、是非に帰りに寄ってはくれまいか?」



 カロンタンは紙を捲り、彼女の物をじっと眺めて前回と何が違うのか確認をしてみることにした。既に鑑定と市場原理のスキルは発動させて彼女の状態は確認しているが、売れずに損切りの意味で転売されたこともあって、この店で再値付けされた段階でかなり相場価格よりも安い状態にはなっているようであった。戦闘のみの縛りは解け、性交についても可能となっている。本来であれば条項が解除されればその分高くなるのだが、それでも安い。ステータス欄を見ると本来の筋力などからマイナスが発生しており檻の中にいることで運動不足になっているのは見て取れたが、食事が万全に与えられているわけでは無い様子で肥ったというような様子は見受けられない。相変わらず左手首から先が無く、傷口についても根元を革のバンドで縛られているだけだが、完治自体はしている様子で傷口が化膿していたりする様子は見受けられない。



(マスター、彼女は手以外に問題が無い様でありますか?戦闘に耐え得る義手なども用意可能でありますが。)



 大きな声を出さなかったカロンタンを褒めるべきであろう。もしも出していたなら不審がられたのは間違いないのであるのだから。カロンタンは頷くと、彼女…キリアの目をじっと見た。無表情に近い彼女だったが、瞳の中が不安そうに揺れる。



「そうですか。…もし、キリア。」

「は、はいっ。」

「貴女が帰りまでに売れ残っている様であれば、私が買い取らせて頂きます。…ところで、何故私の事を…?」



 無表情から一転、頬が薄っすらと紅潮してきたキリアは、はにかんだものの小さな声でボソボソと話し始めた。小さな声であったため、檻の前に来ていたキリアにカロンタンは顔を近づけて聞く羽目になった。じっくりと見たキリアの顔は歴戦の戦士ということもあってか傷は多いものの、意外と整っている様子が伺えた。



「…だ、だってさ…。自分はこ、こんな大女なのに、珍しい物でも見るような顔をしなかったし…。そ、そ、それに…、す、すごく、か、かわいいし…。じ、自分にぼ、母性なんてそんなもの無いと思ってた、のに、ま、守ってあげたいって…思った…。だ、だから…買われるならお前がいい。」

(やるでありますね、流石誑しのマスターであります!! 私としては彼女を買ってあげて欲しいであります!ロボットである私や私が組み上げるロボット達では今は大っぴらにマスターを守れないでありますし、恋する乙女の純情を守ってあげて欲しいであります!!)



 そういうと俯いてしまったキリアをじっと見ていたカロンタンに、アズが囁いた。その半分からかうようで、そうでない口調に少々イラっとしながらも、カロンタンはため息を一つ吐いた。



「さっきも言った通り、帰りに売れ残っていたら、ですよ?もう二十四日間は最低でも掛かりますけど。それでもいいですか?」

「いい、お願い、します…!それまで、売れ残るし、転売されそうになったらその事を話して居座る。」

「…わかりました。余分な日数掛けないようには努力するから。」



 キリアは檻の中から必死で手を伸ばすと、カロンタンの手にそっと触れ、ほんのわずかだが微笑んだ。そしてそっと手を引っ込めると、ひとつ大きく頷いた。



「すぐに実戦復帰出来るよう、トレーニングしながら待つ。必ずだぞ、必ず迎えに…!」

「わかりました。」



 カロンタンはキリアに手を振ると、その場を後にした。その後には腹筋や腕立て伏せなど、その場で出来るトレーニングを猛烈に始めたキリアの姿があった。



 キリアは元々、小国ではあったが歴史のある国の軍人の家系に生まれた。その家では体が大きく力の強い者が多く輩出され、将軍とまでは行かないもののその武勇によって国に大きく貢献している家であった。その国もキリアが十代になった頃に滅び、家族も離散してしまっている。キリアは女子であったものの小さい頃から短槍使いとしての英才教育を施されていたことから、家族がバラバラになった後はその腕一本、冒険者として稼いで生きてきたのである。


 そんな彼女の転機は、言い寄って来ていたある冒険者の男を拳骨でぶちのめしたことであった。キリアにしてみれば命まで取らなかったのを有難く思えという所があったのであろうが、それは相手の男にとってみれば相当な屈辱であった。男は力では敵わない事を知ると、様々な小細工を弄して多額の借金を負わせ、肩代わりする代わりだと称して純潔を奪った挙句、無理な討伐に行かせてキリアが左手首の欠損という大怪我を負ってしまうと奴隷として売り払ったのである。謀には向いていない、まっすぐな心持ちである彼女はその男が騙した結果の借金とは露とも思わず、これもまた人生とその結果を受け入れてはいたのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ