21話
翌朝、日の出と共に起き出したカロンタンは一度商人ギルドへと顔を出すと、露天に関する届け出や料金が必要なのかどうかを確認した。昨日と同じ受付嬢はその顔に笑顔を浮かべると、手続きも費用も必要無いが露天を広げる店や家の出入りの邪魔にはならない様気をつける事、ショバ代がどうと因縁を付けてくる地回りがいるので気を付けてとの助言をしてくれた。カロンタンは礼を言って受付嬢が勧めてくれた場所を目指して街を歩いた。
カロンタンがその場所に辿り着いたのは朝の一つ鐘が鳴る前の事であったが、その時点で既に露天がかなりの数開かれており、客も大勢訪れている様子であった。カロンタンは適当な場所を見つけると、隣の露天の店主に挨拶してから露天を広げた。広げた、といってもカロンタンはそこまで沢山の商品を持っているわけではなく、今まで定期路線の経由した街々で仕入れたものを入れても精々十個程度の物しか準備していなかった。その為、カロンタンはアイテムボックスから机と椅子を取り出すと、机の上に値段とその効果を書き記した薄い板と、その上に商品を置いた物をずらっと並べたのである。カロンタンとしても値切られる事を前提にしていたこともあり、高値で売れる、と分かっている額よりも何割か更に上乗せした価格で書いて並べている。どうせすぐには売れないだろう、と考えていたカロンタンは、のんびりと朝食を食べながらお客が目を留めるのを待っていたのであるが、それを食べ終わる前に最初の客は訪れた。動きやすそうなソフトレザーの鎧を身に付けたブロンドの髪をした女性で、腰には光を帯びた、短剣というには若干長めの小剣を差している。あれは聖属性の魔剣の類だろうか?とカロンタンが想像していると、女性は机に置いている指輪を食い入る様に見つめていた。
「…ねえ、これ書いてあるの本当なの?」
「え?ええ。鑑定した結果ですからね。」
「どこで鑑定したの?冒険者ギルド?」
「いえいえ、私がスキル持ちですからね。」
カロンタンがスキル持ちであると告げると、声を掛けてきた冒険者と思しき女性の眉が胡乱げに持ち上がった為、カロンタンは一言断ってから鑑定スキルを彼女に向かって発動させた。
「レイチェル・サレスキーさん、と申されるのですね。レベルは三十二。筋力四十、器用度九十一。所持スキルは短剣と罠感知、…これは言っていいのでしょうか、歌唱と…」
「わっ、バカ、それ以降はいい、わかったから、確かにそうよ。間違いないわ。…んもう。」
「…すいません。ということで、ここに書いてあるのは全部鑑定した結果でして、間違ってないです。」
少し頬に赤みが差しているレイチェルはゴホン、と咳払いを一つすると気になっていた物を幾つか手に取って状態を確かめた。うんうん、と頷くとカロンタンの方を見ると、ペロリ、と舌舐めずりをした。値切りでもしてくるのか、な。とカロンタンは身構えたものの、彼女はあっさりと言い放った。
「これとこれとこれ、あとこれを頂戴。」
「はい、わかりました。…って値切ったりはしないんです?」
その言葉を意外に思ったのか、女性は苦笑をすると首を振った。
「効果が本当なのがわかってるなら、この値段でも高過ぎるって事はないもの。偽物を掴ませられるかもしれなければ値切りに値切るんだけど、ね。」
「はは、心配だったら冒険者ギルドの鑑定鏡を借りて鑑定してもらってみてください。売り切れてしまえばいなくなりますけど、そうでなければ午前中位はここで商売してますから。偽物だ!と思ったら文句をつけに来てください。」
レイチェルは笑顔になると、財布からお金を取り出して机に並べた。
「そこまで自信を持って言われたら疑うのもバカらしいわよ。ほら、これであってるわよね?」
カロンタンは受け取った額から約一割程をにっこりと笑ってレイチェルへと手渡した。そもそも、高値で売れると言われている額そのものよりも上乗せして書いていたのである。一割程返してもその額よりも上になっているが、みんなが笑顔になる商売をしなさいとアルベルトから言われた事を思い出しての行動であった。
「いくつも買って貰いましたからね、少しオマケです。」
「え、ありがとう。…そうね、友達が欲しがってた効果のアクセもあったから、喋っておくわね。」
「ありがとうございます。」
「それじゃ、ね。」
手を振って去っていくレイチェルを見送ると、カロンタンはまた朝食の続きを食べ始めた。空いたところに補充する商品はない為、空いたところに本を置いて、暇つぶしにしばらく商品が盗まれないように見つつもペラペラとめくって読んでいた所に人の影が落ちた。
「おい、本当にあったぞ。」
「お?そうかそうか。」
「…だから言ったでしょう。」
顔を上げたカロンタンが目にしたのは、先程のレイチェルと、冒険者にしか見えない大柄の女性と男性であった。カロンタンが軽く会釈をすると、レイチェルがニコニコしながら二人にこれこれ、と勧めていた。
「一応、紹介するならってギルドで確認してきたんだけど、間違いなかったわ。だから売れちゃう前にって友達を連れて来たのよね。アクセの質もいいし、効果は間違いないしで言うことないもの。」
「わざわざありがとうございます。どうぞ見てってください。」
二人はさすがにレイチェルのように値切りなしとはいかなかったものの、そこは交渉スキルのあるカロンタンである。のらりくらりとうまく交渉し、一割から一割五分程値引きしたところで手打ちにして商品を売ることに成功した。二人とも幾つも買ってくれた事もあり、残り三個となったところでカロンタンは潮時と判断して早々に店じまいする事にした。この判断には市場原理スキルの隠し項目が影響しているのだが、カロンタンは勿論気が付いていない。
アイテムボックスに仕舞った事で虚空に消えた椅子とテーブルに三人はびっくりした様子であった。カロンタンは笑顔で礼を言って去ろうとしたのだが、レイチェルが名残惜しげに話しかけて来た。
「ねえ、午前中くらいは、ってさっき言ってたけど明日以降はどうなの?まだ商品があるなら見てみたいんだけど。」
「…それがですね、僕は元々商人ギルドの輸送依頼の達成の為にこの街に来たもので、明日の早朝にはこの街を出てしまうんです。定期路線を利用して荷運びをこなして貢献度を上げると同時に掘り出し物を見つけてはこうして捌いて資金を貯めているところでして。」
「…そうだったの。でも残念だわ。せっかく信頼性の高い、いいお店を見つけたと思ったのに。」
カロンタンはしょんぼりしているレイチェルに笑顔を向けた。
「また色々と仕入れたらこの街に来ますからね。その時はよろしくお願いしますよ!」
「そうね。楽しみに待ってる事にするわ。」
レイチェル達に手を振ると、カロンタンは掘り出し物を探しに自らも露天を巡りに掛かった。その後、レイチェルがやけにあの店主のこと気に入ったじゃない、と二人にからかわれていたのはカロンタンの預かり知らぬところである。
よく晴れていた午前中の内早々に幾つかの露天を巡り、めぼしい物を仕入れたカロンタンは一度輸送依頼の荷物を受け取りに指定された商会に出向き、荷物を受け取った。全て受け取り終わった後にそういえば奴隷を探す時間があるな、と思い出したカロンタンは巡回している衛兵に道を聞いて奴隷商へと顔を出した。
予算に見合う奴隷はこの辺りですね、と詳細を書いた紙を手渡されたカロンタンは本人たちを目の前に鑑定と市場原理を働かせながら確認を続けたのだが、ハイブの街の奴隷たちに比べて問題のない奴隷が多かったもののスキルや価値の割に高価だったりと、足元を見られているような感じであったためにカロンタンは結局購入には至らずにその場を後にする事になった。




