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20話

 カロンタンはドアをドンドン叩く音で目を覚ました。ドアの外からはもうしばらくで出発時刻ですよ!起きてください!という声が聞こえて来る。カロンタンは慌てて跳び起きるとドアを開けた。



「すいません、寝過ごしました!」

「急いでくださいね、朝食はテーブルに並べてますから。食べる時間はギリギリあると思います。」

「ありがとうございます!」



 カロンタンは頭を下げるとすぐに着替えて朝食を掻き込んだ。その様子をこっそり護衛している二人が苦笑しながら見ていたのだが、カロンタンが気付くことは無かった。昨夜、隣の部屋に寝ていた二人は部屋で何か起こった事には気が付いてはいたのだが、薄い壁とはいえそこまで正確に言葉が聞き取れた訳ではなく、誰かが部屋に来たらしいが暴れた様な音も無かったし危険性は特になかったのだろう、という認識であった。


 その後、野営などが続いた為にアズの出番は無く、カロンタンもそのまま存在を忘れてしまった。その後経由した街や村では昼食等で降りることはあっても散策したりする時間もなく、仕入れも特に出来ずにそのまま馬車はべヘリウムに予定通り到着した。長い馬車の旅であちこち痛む体を伸ばしながら、何か辛気臭いような感じを受ける空気を胸いっぱい吸い込んだ。初めて訪れたべヘリウムであるが、カロンタンはまずは依頼を終わらせてしまおう、と依頼票を見ながら商人ギルドへと足を向けた。


 べヘリウムの街はその中心部にアンデッドモンスターが多く湧き出すダンジョンを抱えており、その周りを魔法による結界と物理的な壁で中のモンスターが外に出ない様にして管理している。そのランクは精々中級と言われているが、最深部には死霊の王とも呼ばれる強力なアンデッドモンスターが控えている為に最深部だけは最上級に近い扱いとなっている。その外壁の周りに冒険者を相手にした店や宿が作られ発展していったのがべヘリウムの街の由来であるが、今ではその中心部の大きさが霞むくらいに街は拡がっている。その為、特産品としては負の能力の付いた魔法の武具や防具、アクセサリーなどがある。例えば、相手に傷を付けるだけでなく体力や魔力をも吸収する剣であったり、身に付けると魔力が減少する代わりに筋力が増加するアクセサリーなどである。

 街の作りとしては近辺にある石材として切り出すのに最適な岩山が多いため、道も石畳で統一されており、石造りやモルタルがメインの家も多く見られる。また、木材についても特に不足しているというわけでもなく、建築資材は全体的に安く、これも特産品として近年は数えられている。その情報もカロンタンの持っているジョンストンの旅地図には記載されており、カロンタンも現物を鑑定して儲けが出そうであれば幾らか買いたいと思っていたのだが、ティリィで売るにはちょっと困る物を買ってしまったことや、依頼には運ぶだけでは無く調達して納品というものもあり、もちろんそっちの方が実入りがよく資金を貯めておかなければそういった依頼には対応出来ない。商機が巡って来てもがっつり仕入れる事が出来なければ利益は出ないのである。


 夕方近い街中の、二階に洗濯物が干されたりしている石造りの家を眺めながら人の流れに乗って商人ギルドへの道を歩いていると、道沿いの屋台から美味しそうな匂いが漂ってきたのに気が付いてカロンタンはお腹を鳴らした。昼に配られた携行食は味気ない物で、食べたはいいがあまり食べた気はしなかったのである。アイテムボックスには旅の間に食べる為に屋台で買った物が幾つも入ってはいたが、折角来たのだからと値段次第では買う事にしてカロンタンは屋台を覗き見した。



「兄さん、買ってかない?猪の焼肉サンド、三十ギットだよ!」

「むーん…。」



 三十ギット、というのは高くは無いが、正直あまり安くも無いのである。カロンタンが暮らしていた宿は一泊二百ギット。あまり美味しくないとはいえ朝食がついてその値段だった訳であるし、屋台でもハイブの街では十から二十ギット、高いもので四十ギットくらいが相場である。無論、ハイブの街に比べこの街の冒険者達のランクが高い事も物価がそこまで安くない事に影響している。焼肉サンドの相場をは二十五ギットと出ていたこともあって、カロンタンはお腹を押さえつつもやっぱりいらない、と手を振って屋台をスルーすることにした。


 カロンタンは商人ギルドの入り口を開けて中に入ると、ハイブの街のギルドとほぼ同じ様な作りになっている建物の中を受付まで進んでいった。ハイブの時よりも旅装を身に付けて下の装備が隠れているせいか、冒険者がなぜ?というような顔で見られる事はなかったが、やはり若造が来たなという目線にカロンタンは感じられた。

 受付にはこれまた見目のいい、淡い金髪の女性が受付嬢として座っていた。カロンタンはハイブの商人ギルドの依頼で来たことを告げ、倉庫まで案内して欲しい旨を伝えると奥に控えていたらしい男性がカロンタンを案内してくれた。



「ここに積んでくれればいい。荷駄隊は今何処に?」

「ああ、アイテムボックスな物で。僕が全て持っています。」

「ほお!そいつは楽でいいね。手伝うつもりで来たんだが、確認だけで済むなら万々歳だ。」



 中背でがっしりした体格の男性はその綺麗な歯を見せて笑うと、カロンタンがささっと積んだ荷物を素早く確認し、完了札を手渡してくれた。



「うん、間違いない。全量ある。受付に戻ったら札を渡して精算してもらってくれ。まだ次の仕事が決まってないなら、ハイブやその向こうに行く依頼とか、方向は違うがそんなに遠くない輸送依頼があるからそっちも頼むぜ。最近大手の商会があまり手伝ってくれなくて溜まりがちでな。」

「わかりました。手ぶらで帰るよりは絶対良いので受けさせてもらいますよ。」

「そうかそうか、助かるよ。」



 笑顔で背中をポンポンと叩いてきた男性に礼を言い、カロンタンは受付に戻るとティリィの完了札も合わせて提出して依頼を完了させた。定期路線などでのコストはそこまで高額なものでもない為、往復の分を差し引いたとしても相当な額がカロンタンの懐に転がり込んだ。

 本来であればある程度大きな隊商を組んで輸送するのであり、その為には冒険者などを雇って護衛に着かせる必要がある為、定期路線一人分程度のコストで終われば何分の一で済んだのだろう、というレベルであった。しかも、二つ同時の完了である。往復で一月近く掛かるとはいえ、冒険者時代に一月掛かって稼いでいた額とは比べ物にならないその額にカロンタンはクラクラしたが、アルベルトからの助言を思い出して今まで通りの倹約生活を送る事を再度心に誓ったのであった。


 カロンタンは先程の男性職員の言葉を思い出して依頼ボードを確認すると、確かにハイブの街行きの依頼が貼り出されているのに気が付いた。イマイチ地理に詳しくないカロンタンは幾つかの地名をメモすると、近くにある空いているテーブルに腰掛けて地図を広げて確認することにした。カロンタンの持っているジョンストンの旅地図には定期路線の路線図も乗っている為、参考に出来ると思ったのである。実際には数年置きに定期路線も利用状況によって通る街道が変わる事もあるのだが、さすがにまだ地図を手に入れてから五年程度の為にかろうじて変更は生じていなかった。

 カロンタンは路線図を参考にして同じ方向に行く依頼を四つ見つけると、その依頼を剥がして受付へと提出した。受付の女性は少々驚いた様子であったが、先程の男性職員から聞いていたのか何も言わずに冷静に依頼の受注を完了させると、ギルドの持っているものと商会に取りに行くものと別々にある事を説明した。カロンタンはそろそろ寝床も確保しないとならないな、とお勧めの宿を受付嬢に聞いてからギルドの荷物を受け取り、最後に定期路線の次の出発日を確認しに取次店へと向かった。


 定期路線の取次店はチケットを求める客が数名訪れており、受付はそれなりに混雑していた。カロンタンは列に並び、自分の番が来るのをおとなしく待った。



「明日はお休みで、明後日の早朝出発になりますね。今の時期であればスケイルベースまで行きますから、リノリウムもニールセンも大丈夫です。日程としてはここからだとそうですね、二十六日間になりますね。スケイルベースまでだと三十日です。」

「わかりました。それではリノリウムまでお願いします。」

「長距離割が適用されて、二万二千ギットですね。…はい、確かに。乗り遅れのないようお願いします。」



 カロンタンは空きっ腹を抱え、明日一日小さな露天を開くことを考えながらお勧めされた宿へと向かった。







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