19話
カロンタンは指定された宿の自分の部屋に入ると、体を拭いてから今日の戦利品を確認した。それなりにギットは掛かったものの、その相場価格は払ったギットに比べたら天と地の差である。五倍十倍は当たり前、中には百倍でもきかないものもあったのである。カロンタンはその中から気になっているものを取り出すと、弄り始めた。すでに部屋の中は暗くなっているため、手元には冒険者時代に使っていた低魔力でも使える魔法のランタンが置かれている。宿によっては灯りを貸し出してくれるところもあるのだが、この宿では貸してくれなかったのである。
「頭のパーツに入れるって言ってたって事は何処かが開くってことだよね…。」
そう、ガラクタの中にあった人型の機械のパーツである。カロンタンは露天の店主が言っていた、メモリーコアを頭のパーツに嵌める事が出来ないかと考えたのである。動かなくて当然、しかも全体が揃ったわけでは全くないのである。鑑定した結果から、相場と高く売れる値段、それと結果の詳細に出ていたクレセントシリーズ、という名前が同じだった物を集めては来ていたのだが。
頭のパーツには人間のような毛髪や頭皮は無く、ツルッとした金属に彩色したような感じになっている。その色も所々は禿げてしまい、見るも無惨な形になっていたのだが、それが功を奏したのか四角い継ぎ目が後頭部にあるのが見て取れた。カロンタンはそこを開けようと四苦八苦して爪を入れようとしてみたりと頑張っていたのだが、尖っているメモリーコアで何とか出来ないかと隙間に突っ込もうとメモリーコアを頭部にくっ付けたところで強い光が一瞬放射された。
「な、何!?」
『…所有者の心レベルを測定。…基準をクリア。…所有者のスキルを確認。…レジェンダリースキルの存在を確認しました。…資格ありとして頭部ユニットの起動を始めます。…五、四、三、二、一、起動。』
「え!?え!?」
突然の事に慌てるカロンタンに頓着せず、頭からはカロンタンが理解出来ない言葉が流れる。
『…診断プログラム起動。…頭部ユニット以外の存在を確認出来ません。…OSを起動します。』
「むーん…。」
カロンタンが音が聞こえてきた頭部をじっくり見ようと顔を近づけると、その目がカッと開いた。カロンタンはあまりのことにフリーズしている。動かないだろうと思い込んでいた物がいきなり動いたのである。致し方のないことであろう。
『…所有者の言語を特定します。』
「んん!?」
音が漏れるだけでなく、目が開いて何か喋るかのようにパクパクしたことで、カロンタンは何か喋っているのかと頭に向けて問いかけた。
「言葉分かんないけど、何か言いたいのかな?」
『…もう少し、会話を続けてください。』
「うーん…。やっぱりわかんないな。動いたのは凄いけど。これ、どうなっちゃうんだろうな。」
「言語を特定しました。こんばんは、私はクレセントシリーズCSSーDP、シリアルナンバーAZWであります。」
いきなり明瞭な言葉を発した頭部にカロンタンは呆気にとられ、呆然と見つめた。首を傾げたかったのだろうか、頭部に付いている首の部分が少しくにっと動くと、AZWはもう一度問いかけた。
「マスター、どうか致しましたか?」
「あ、あの、あなたは?そしてマスター、とは?」
「私は…、汎用人型アシスタントロボット、クレセントシリーズCSSーDPのシリアルナンバーAZWであります。とはいえ、頭部ユニット以外のパーツがありませんので、アシストするにしても出来る事は非常に限られているでありますが。そして、マスターというのはあなたの事であります。生産されましてから、長い間…そうでありますね、内蔵されている時計では一万と飛んで七百五十二年程経過しているでありますが、今回が初めての起動となるであります。不束者ですが、壊れるまで奉仕させていただきますのでよろしくお願いするであります。」
「え!?え、えと、パーツ幾つか同じクレセントシリーズの物はあるんだけど…。」
「お出し下さいであります。」
よく状況がわかっていないカロンタンは、それでもアイテムボックスから先程購入したパーツを取り出すと、頭部パーツの前に並べた。
「…肩と腕、そして手が揃っているのは上出来であります、マスター。出来れば胸部を入手して頂きたい所ではありますが、片手でもパーツをつなぐことは可能でありますので。さてさて、誘導の通りにパーツをつないでくださいであります、マスター。あ、今付けられないパーツはまた仕舞っておいて頂けると助かるであります。」
「はい…。」
カロンタンは言われた通りにパーツを繋ぎ、繋いだところには魔力を流すなどの作業を繰り返した。すっかり夜も更け、ようやくAZWの完成との言葉が出る頃には魔力も底をつきかけて疲労困憊といった有様であった。何しろ、木工で使うノミや鉋、革細工で使うような工具の一部は持ってはいたものの、ロボットのような物を組み立てられると想像出来る工具など持ってはいないのである。細いノミをAZWの目から照射されたレーザーなどで加工した工具を使い、漸く組み立てたのである。…お気に入りの工具を違うものに加工され、カロンタンが地味にしょんぼりしていたのだが、AZWは見て見ぬ振りをしていた。
「それでマスター、私の愛称を決めていただきたいであります。これまでに流していただいた魔力でマスターとしての登録は済んでいるでありますから、愛称の決定で全て完了となるであります。」
「…そうなんだ。じゃあ、アズで。」
「そ、それはロボットだからロボと呼ぶみたいな感じな気がするであります!」
「アズで。」
「う、ぐ、わ、わかりましたであります…。」
少ししょんぼりした様子なアズを見て、鉄製に見えるのに表情豊かに顔が動くのだなぁ、とカロンタンは思った。カロンタンは少し疑問に思ったところを聞くことにし、アズをベッドのヘッドボードの所に立て掛けてやると、カロンタンはその前で胡座をかいた。
「ねぇ、幾つか聞きたい事があるんだけど。」
「な、何でありますか、マスター。」
体勢を整えてじっくりと構えてから発せられた問いに何故か不穏な物を感じたのだろうか、アズの言葉は吃った。カロンタンとしては特別そういうつもりはなかったのだが。
「ロボットっていうのは機械の事で合ってる?」
「ええ、自律して動く機械の事であります。」
「滅多に動く個体は無いって聞いたんだけど?」
「それは動かすには資格がいるでありますから。それと、特定の条件を満たす必要もあるであります。」
「どんな資格がいるの?それと条件って?」
ぐぬ、とアズが一瞬躊躇したが、カロンタンは真剣な目で応えた。
「…マスターは誑しでありますな。よござんす、お知らせするであります。資格は何らかのレジェンダリークラスに相当するスキルを所有している事、条件は頭部ユニットと、活きているメモリーコアをその所有者が接触させる事、そして解析した所有者の心レベルが一定以上である事であります。ちなみに、先程頭部に挿入されたメモリーコアは程度の低いものでありますから、私をグレードアップしたい場合には高位のメモリーコアを入手して頂く必要があるであります。」
「レジェンダリースキルって…そんな条件でいいの?」
「…マスター、自分が持っているからといってみんなが持っているというものではないでありますよ?レジェンダリースキルの所有率は私の建造時点で一パーセントどころかその百分の一も無かったであります。」
「近くにスキルを取れる可能性のある人がいたからなぁ。そこまで低いとは思わなかったよ。…で、何でそんな理由なの?」
「誰にも彼にも可能であれば我々が悪用される可能性があるであります。特に、心レベルは重視しているであります。我々は譲渡可能でありますが、測定の際に心レベルが低い場合には譲渡出来ませんので注意して欲しいであります。」
よくわからない。カロンタンが思ったのはそんな事であったが、そろそろ寝なければならないだろう、と考えたカロンタンは試しにアズをアイテムボックスに突っ込んでみたが、それは成功した。アズには知性があるとカロンタンは思ったが、分類としてはやはり機械ということなのだろう。納得したカロンタンは明日の為に寝ることにした。




