18話
馬車の定期路線に於いて、基本的に各街で宿は指定されていて全員がその宿に泊まる事になっている。但し、強い希望があれば別途他の宿に泊まることも可能であったが、その場合馬車の発車時刻に間に合わなかった場合でも出発は待ってくれずに置いていかれることとなる。街道沿いを通るとはいえ行程上丁度良い距離に街が無く野営する場合もある程度存在しているが、その場合については馬車の中での雑魚寝となるか、外で寝るかは各個人の判断に委ねられている。
定期路線の旅も六日が過ぎた。その日の夕方、ティリィの街についたカロンタンはこの街で降りるアルベルトと別れ、ヴェール商会へと向かおうとしていた。カロンタンがティリィの街を訪れたのは今回が初めてという訳でもなく、前回も全く同じ定期路線の取次店前で降りていたのだが、それでもカロンタンは新鮮なものを感じずには居られなかった。ハイブの街とは色々と条件が違うが、冒険者たちの集まる街である。それにダンジョンで産出する機械が多いことで知られる街である為に、非常に高価である移動用の機械であったり、その他の機材なども他の街に比べると手に入りやすいという事もあってあちこちで目につくのである。
まだ全体の道程としてはやっと四分の一しか消化していないものの、それでも一つ目の依頼が完了できるということもあってカロンタンは少しうきうきした気持ちで商会への道を進んでいる。依頼票には簡単な地図も描いてあり、少しも迷う事なく目的のヴェール商会に到着した。初めて足を踏み入れた商会は、五、六人程が黙々と事務仕事をこなしている小さな事務所であった。それでも入り口から一番近い所には小さいながらもカウンターが設えてあり、他の仕事も兼任している様子の受付嬢がカウンターのすぐ横にある机で書類を書いているのがカロンタンには見えたのである。
「すみません、ハイブの街の商人ギルドの依頼で参りました、カロンタンと申しますが。」
「ああ、ハイブの…あの輸送依頼かしらね。申し訳ないけど、私について裏の倉庫に回ってくれないかい?」
「わかりました。」
年季の入った受付嬢は何やら帳簿を引き出しから出したのち、カロンタンを倉庫に案内した。受付嬢は場所を指定すると、手伝いが必要かと尋ねたが、カロンタンは首を振った。荷駄隊をこっちに引っ張ってきたら立ち会うから教えとくれ、と言った受付嬢を引き留めてカロンタンは荷物を纏めてアイテムボックスから積まれたままの状態でポンポンと置くと、目を丸くした受付嬢に声を掛けた。
「これで私が受け取ったのは全部です。間違いないか確認お願いします。」
「…あ、ああ。あんたアイテムボックス持ちだったのかい。ビックリしたよ。ちょっと待っておくれね。ゴーダの箱が三十、クレールの箱が四十五、針金小麦の袋が三百、スレート米の袋が七十、後は、細かいのがこの箱の中かねえ。うん、うん。数は間違いないね。それじゃあ一緒に受付に戻ろう。完了札を出さないといけないからね。」
すぐにカウンターに戻った受付嬢から改めて完了札を受け取ると、カロンタンは頭を下げて商会を後にした。普段、これまでカロンタンは皮であったり、肉であったりを売りに店に行っていた際には良く世間話などもしていたのだが、黙々と仕事をしている様子にあくまでもただ荷物を届けて貰っただけというドライな感じで、無駄話が入り込む様な余地が無いように感じられてしまったのである。
◇◇◇◇◇
アネモネはカロンタンに秘密裏に付けられた護衛の一人である。通常の人間よりも身体能力の高い亜人の生まれと小柄な体型を活かして、斥候やダンジョンにおける罠の発見や解除などに力を発揮するスカウトタイプの冒険者であった。彼女はその腕を見込まれて陰日向なく働く商人たちの専属の護衛として雇われていたのであった。彼女は商人たちへの贈り物の中にはダンジョンに存在するような魔法のトラップの仕掛けられた物なども存在しており、そういった物にも対応出来るということで重宝されている存在である。また、相方のイレーズは元盗賊ギルド所属の、ターゲット近辺へ素性を隠して近付いたり、建物へ気付かれないように侵入したりとそういった分野を得意とする人材である。イレーズは今現在もカロンタンの側で気付かれないよう護衛を続けているが、アネモネは依頼の完了札を渡すためにアルベルトについて来ていた。
「ご隠居、彼はどうでしたか…?」
「ああ、真面目そうな好青年だったね。素直で流されやすそうな性格だったけれど、巡り合わせがよっぽど悪くなければ悪い方には流れないだろうね。…ああ、君も護衛任務があるだろう、もういいから行きなさい。」
「ありがとうございました。それでは。」
急いで去っていくアネモネを見やると、アルベルトは独りごちた。
「騙されやすそうだけど、武力的なもの以外は本人がなんとか出来なければ先はないからねえ…。頼って来るなら助けるのも吝かではないというか、守ってあげたくなる様な子ではあるのだけれど、ね。助言が役に立てばいいんだけれど。」
ギルドの義理で果たしたカロンタンへの指導依頼であったが、アルベルトはいい出会いであったと感じてはいた。この先のカロンタンの活躍に期待しつつ、アルベルトは目の前にある自宅へと戻っていった。
◇◇◇◇◇
日はだいぶ傾いてきてはいたものの、沈むまではまだしばらくかかるであろうという時間に宿へと辿り着いたカロンタンは、宿の人間に市場の場所を聞くと何か掘り出し物があるかもしれないと街へと繰り出した。定期路線の馬車は途中で脱輪や非常事態が起こる事を考慮して運行されているため、余裕がある時間に街に到着することから出来た余裕である。もしこれが冬であればさすがに商会に行って更に市場にまで行く余裕は無かったかも知れないのだが、流石に夏を前にした日の長い季節であるために充分な余裕があったのである。
カロンタンがふと目を留めたのは、ダンジョンからの発掘品と思われるガラクタの山であった。ティリィの近くには古代文明の遺跡と思われる施設がダンジョン化したものがあり、そこでは人型の機械仕掛けのモンスターが大量に出現し、倒すとドロップ品として色々な機械やそのパーツが出る、とカロンタンは聞いた事があったのである。無論、カロンタンには到底倒せない強さのモンスターであり、友人達との三人組でも挑戦しようという言葉が出ない程の上級ダンジョンであったため、これまで縁が無かったのであるが。
そんなガラクタの山であったが、もしも全てのパーツを組み合わせれば人型の機械が出来上がり、稀にだが動き出す物があるという与太話に近い噂があったことをカロンタンは思い出したのである。ゴザのような物の上にうず高く積まれたそのガラクタの中には頭のパーツや腕のパーツなど、見てわかるものが幾つかあったのである。そこにはそのパーツ以外にも剣や機械式の時計になんの役に立つかよくわからないような機械類も山とは別に置かれていたが、カロンタンは一番手前のものを見ているふりをしつつこっそりと次々鑑定を働かせ、相場のとんでもなく高かった頭のパーツを一つ掘り出して店主に値段を尋ねた。
「これ、いくらだい?可愛い顔してるよね。」
「ああ、それか。確かに綺麗な顔だよな。…そうだな、三千ギットでどうだい?」
「うーん、そうだね…。こっちのとか、これと、この辺りも買うからもっと安くならないかな?」
「お?それなら纏めて五千でいい。俺もパーツ集めてたんだけどよ、五体くらい大体集めてみたはいいけど動かなくてな…。集まった奴は好事家と研究者にいい値段で売れて、これは残った山なんだ。いっぱい買ってくれるんなら助かるぜ。」
「あはは、でも五体も揃えるなんて大変だったんじゃない?」
店主は苦笑すると、指で鼻の下を擦った。
「まあな、自分でダンジョンに潜りながらだから十年も掛かっちまってい。しかも全く動く気配もなくてよ。とうとう諦めちまった。まぁ、あのダンジョンはそれ以外の機械類が結構いい値段で売れるからな。…ほい、確かに。鞄に入るか?」
「ああ、アイテムボックスがあるからね。」
「なんだよ、羨ましいなおい。…んじゃあ、六つも引き取ってくれたお前さんにサーヴィスだ。」
店主はそう言うと、カロンタンに小さなクリスタルのような物を投げてよこした。中心部からは柔らかな光が漏れ、泡立つかのように水泡がクリスタルの中に見えている。カロンタンは鑑定を働かせると、空に透かして見るかのように掲げ見た。
「これは、メモリーコア、ですか?」
「ああ、これはどの敵を倒しても出る奴だがよ、恐らく必要なパーツの一つだ。そいつを頭のパーツに嵌めるっぽいんだよな、俺も又聞きだから正確なところはわかんねえんだが。」
「ありがとうございます。参考にさせてもらいますね。」
カロンタンはメモリーコアをアイテムボックスにしまい、その後日が沈むまでに幾つかの露天を回って安い雑貨やアクセサリーなどを仕入れに奔走した。




