15話
しばらくの間、二人で神々の箱庭…と浸っていたが、カロンタンは正気に戻ると受付嬢に質問を投げかけた。
「あ、商人ローンって何でしょう。」
「それはですね、所謂借金を商人ギルドにする事が出来る制度なんですよ。互助会ランクと借金の額によって利息はかなり変わってくるんですけどね。」
「利息、ですか。」
「利息というのはそうですね、例えばですけど、百万ギットをカロンタンさんが借りたとしますよ。」
「はい。」
百万、と受付嬢が冊子の隅っこに記入する。
「ただ貸すだけではギルドに旨みがありません。踏み倒されたりすればその分丸々赤字になるだけですから、それでは上手くないわけですよ。そこで、ギルドでは借金を返して頂く時にイロをつけて返して頂くわけですよ。そこのイロというのがいくらいくら、と決まっているのですよ。」
「ふむふむ。」
「例えばですよ。カロンタンは今回互助会ランクがEで登録されました。この場合、百万ギット借りると利息は年間で七パーセントとなるのですよ。」
受付嬢は百万掛ける七パーセントで百七万、と追記する。
「借金は一年後に百七万耳を揃えて返して頂いても、毎月一定額返してもらっても構いません。ただ、早く返すとお得なんですよ。年間で七パーセントですから、半年で返せば百三万五千ギットで済むのですよ。さすがに翌日に返していただいても一ヶ月分の利息は最低でも頂くことになってますから、それ以上利息は安くならないんですけどね。」
「借金の仕組みについては借りる時に聞くことにします…。ちょっと気が滅入りそうなので。」
そんな事をいうカロンタンに受付嬢は苦笑したが、気持ちは分からなくもありません、と説明を続けた。
「次はですけど、ここですね。『互助会員は年間のおおよその売上を春に報告する義務がある。』大事ですよ。いくらで仕入れて幾らで売り払ったか、その経費はいくらで…と計算することは沢山ありますけど、さすがに詳細については商人さんの強さの秘密をバラせということになりかねませんので求めませんが、トータルの総取引額と利益率については報告してもらいます。その取引規模と利益率とかその他の依頼達成状況とかからですね、互助会ランクが算出されるのですよ。」
「依頼達成状況、ですか?」
「ええ。冒険者ギルドでも依頼達成の件数などでランクが上がりますよね?」
カロンタンは頷く。
「商人ギルドでも、大規模な輸送依頼があったり、商会や国からの依頼で例えば穀物などを優先的に買い付ける依頼が発生したりするのですよ。ギルドを通さなくても取引は可能なんですけど、貢献度が高ければローンの利息が安くなったりとか、ギルド所有の物件を安く売ってもらえたり、お客様を紹介してもらえたりとか色々とお得な特典があるのですよ。」
「それは凄いですね。」
「ええ、特に国の上層部や貴族様達を紹介して貰えたりするのはたまに無茶振りもあるらしいですけど儲かるそうですし、それが目当てで頑張ってランクと貢献度を稼ごうとしている方も多いのですよ。」
「なるほど…。」
金蔓を紹介して貰えるというのは確かに大きなアドバンテージなのかもしれないと思ったカロンタンであったが、それと同時に無茶振りがどういったレベルで降りかかってくるのだろう、そもそも礼儀もロクに知らない自分では手打ちにされそうだとも思ったのであった。
「ランクはどういったものなのでしょう。」
「ランクはそうですね、高い順にS、A、B、C、D、E、Fとなってます。カロンタンさんはEランクからのスタートですよ。」
「Fランクではないのですか?」
「ええ。Fランクはですね、紹介状が無かったり、あっても信頼性の低い紹介だった場合に割り振られるランクなのですよ。Fランクの場合は自分が信頼に値する商人である事をまず示さなければなりませんので、ギルドの依頼や商売を成功させてある程度の上納金を支払わなければならないのですよ。」
それを聞いたカロンタンの顔が曇った。それに気付いた受付嬢は慌てて説明を追加した。
「だ、大丈夫ですよ。ランクEより上になりますと、上納金は発生しないのですよ。そもそも互助会費も払いますからね。基本的にはギルドを通じた商談であればマージンとしていくらか引かれますから、貢献度を上げる為に依頼を受けていれば上納しているのと変わらないのですけど。ですから、いくら取引規模が大きくて利益率が高くても、ギルドの依頼を受けていない方はランクがあまり上がらずにギルドの利点をあまり享受出来ないということになるわけですよ。」
「な、なるほど。」
「ちなみに、Aランク、Sランクの商人ともなれば何かあった時には当然ギルドからの庇護を受けられますし、日常的にもギルドから護衛や、必要とされれば事務の得意な方の派遣を受けられたりしますよ。まぁ、大抵そこまで行かれる方が必要とすることはあまりありませんけど、中には費用の節約って事で護衛などは利用してる方もいらっしゃいます。」
「…そこまでになる想像がつきません…。」
受付嬢はまたしても苦笑すると頷いた。
「まあ、Aランク、Sランクの商人さんなんて国に一人いるかいないかですからね。それでもAランクの方に限って言えば百人近くはいらっしゃるんですよ。さすがにSランクは今三人しか居ませんけども。」
「Aランクの方は意外といるものなんですね。」
「ええ、例えばここのギルドマスターなんかも昔はAランクの商人だったそうですよ。…っと、大事なのはこれくらいでしょう。あとは個人の良識にお任せします的な何かなので。何か質問はありますか?」
カロンタンはクレイン達と昨日話していたことを思い出すと、アイテムボックスの事について質問した。
「アイテムボックススキルを持っている人間が関税のある街に行った場合ですか?また際どい所ですね。…そうですね、基本的にはアイテムボックス内の物には掛からない、が正解ですよ。確認のしようが無いわけですからね。もう無いと言われればそれまでになりますし。ただ、アイテムボックスを模倣した鞄の場合はそれほど容量が大きくありませんから、中身を出せと言われる可能性はあります。というか、中を見れますからね。その場合は関税が掛かると思いますよ。」
「わかりました、ありがとうございます。」
受付嬢としてはアイテムボックススキルの所持について聞きたいところではあったのだが、輸送依頼などを受けてくれれば判明する事でもある事から、今はそこまで踏み込んでも仕方がないという判断であった。カロンタンにしてもその調子で質問に絡めてスキルを一つ一つ何を持っているのか聞かれるのは本意で無いために助かったのだが。
カロンタンは礼を言って受付嬢と別れると、カフェの片隅にあるボードに貼られた依頼の中から馬車の定期航路がある街への大量輸送依頼を受ける事にして依頼を探し始めた。こうした依頼については受けて完遂する事で貢献度を上げるという目的の他に、どういった依頼が出ているかによって物の流れやどういったものが今必要とされているのかを判断するための材料として利用する場合があるのだが、そういった事はある程度大きな仕事をこなしてそういった物の流れから世界の情況を読み取れることに気付けた者が行う事であって、カロンタンはそこまで深い事は一切考えてはいなかった。単に、アイテムボックスがあれば大量輸送が出来るが比較的安全な定期航路上にある街や村に対する輸送であれば護衛すら要らずに完遂することが出来ると思いついたのである。
それは、商売の原資を貯めたり、いい奴隷が出てくるのを待ったり、スキルなどを上げる時間を作ることが出来る、といい事づくめに思えたのである。




