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14話

 商人ギルドの建物は、この近辺の流通の拠点として多くの商人が利用することから、街の中でもある程度大きな部類に入る建物であった。冒険者ギルドとは持ちつ持たれつの関係にある為、その場所も近く建物の大きさも似通っている部分がある。カロンタンは冒険者ギルドとは違い、しっかりと閉ざされた大きな門を開けると、商人ギルドの受付カウンターに向かった。

 商人ギルドの受付カウンターは建物の最奥にある。入り口からカウンターまでの間にはカフェが広がっており、その甘味の美味しさから商人ギルド員のみならず、街の多くの女性や甘物好きの人間が色々な噂を携えてそのカフェを利用している。このカフェではアルコールも販売はしていたのだが、有為な情報を聞き逃すまい、と聞き耳を立てる商人達はアルコールなど取ることはまずなく、現在では菓子類にも使えそうなリキュールやブランデーなどが少量メニューに並ぶ程度であった。そんなことから、最奥にあるカウンターまでの間というものは、商人ギルドに対する依頼であったり、商人を志す者がそのカウンターに向かうまでの間に熟練の商人達によって値踏みされる場でもあった。無論、大きな商会の会頭などはここに居ることはまず無く、小規模から中規模程度の商人達が主な構成員であるのだが。


 カロンタンもこれまで先達が経験して来たように、色々な好奇の視線などに晒されながらカウンターへと向かった。殆どの目線はカロンタンの格好からして何故冒険者が此処に?という物であったが、中には如才なく鑑定スキルを発動する人間も混じっていたりする。そういった人間がカロンタンのスキルを気にして見ようとしていたが、冒険者ギルドのマスターからの助言の通りカロンタンは既に鑑定されてもレジェンダリースキルが表示されない様に表示を誤魔化していた為、スキルに気がつく事は無かった。



「こんにちは。今日はどの様な御用向きで商人ギルドをご利用でしょうか。」

「あ、こんにちは。商人ギルドに登録をお願いしたいのですが。」

「それでは、どちらかからの紹介状は御座いますか?」

「あ、はい。」



 カロンタンは冒険者ギルドマスターからの紹介状を鞄から取り出すように見せてアイテムボックスから取り出すと、受付嬢に手渡した。受付嬢は笑顔でそれを受け取ると、蜜蝋と宛先を見て顔色を変えた。



「す、すみません。少々お待ち頂けますか?ギルドマスターにお届けしてくるのですよ!」

「わかりました。よろしくお願いします。」



 受付嬢は不思議そうな顔をするカロンタンを残して大急ぎでギルドマスターの元へと向かった。その紹介状の中身を見たギルドマスターは大きくため息を吐くと、本人に気付かれず影で護衛を付けさせるように指示を出した。その指示に仰天した受付嬢にギルドマスターは紹介状の中身を見せたのだが、その内容は要約して意訳すると以下のようなものであった。



『我々冒険者ギルド職員のアイドルであるカロンタンを断腸の思いで商人ギルドにお任せするが、その身が商人達の勝手な理屈で理不尽な目に遭わされることがあれば冒険者ギルド職員全体を敵に回すと知れ。』



 である。回りくどく書いてあったり別に強要しないような事を書いてあったりはするのだが、それはただの建前であろう、というのが商人ギルドマスターの意見である。

 商人ギルドはその護衛を冒険者ギルドに頼る形になっているし、ギルドで売り買いしている素材の類についても冒険者ギルドからまとめて買い取ったりに依頼を出して収集する事もかなりの機会に及んでいるのである。それを敵に回したりすれば、円滑な商活動が阻害されるのは目に見えている。一部冒険者ギルドに所属していない傭兵団など護衛のアテが全くないわけではないが、それでも傭兵団は基本的には戦争屋であり、護衛の仕事は喜んではくれないというよりも、傭兵団の移動とタイミングが合えば請け負ってもらえるがそうでなければかなり高額な依頼料金を払う羽目になるのである。

 そういう事から、カロンタンが駆け出し商人として悪意のある先輩達からガセネタを掴ませられたり、先輩達によって誘導された結果先輩達は大儲けするがカロンタンが大損して首を吊る、なんて事が起きてはギルドの一大事なのである。無論、ただの失敗であれば何の問題も無いのだが、疑われる可能性のある噂が立つだけでも充分に問題である。



「…愛されてますね。」

「ああ、溺愛にも程があるレベルだ。…頭が痛いな。まぁ保証という面では問題無いどころじゃないから審査については通過させなさい。互助会レベルはそうだな、急いで結果を出さなくてもいいEランク辺りか。」

「わかりました。」



 カロンタンはまだ何もしていないにも関わらず、既に問題児という扱いになってしまったのである。本来であれば、紹介状で約束されるのは身許位のもので、信用を重視する商人ギルドとしては何か問題を起こした場合に連帯責任を求めたり、紹介元が権力者だった場合にはその助力を乞うたりする為に必要とされる事が稀にある位である。カロンタン本人は全く気が付いていないが、後ろ盾としてはハイブの街の領主が保証するよりも上位の物を得た事になる。それこそ、領主くらいであれば流通を支配している商人ギルドとしてはちょっと細工をするだけで音を上げるのがわかっているのであるが、冒険者ギルドともなれば自分の首を絞めるだけである。

 カロンタンの元へと戻った受付嬢は作成したギルドカードをカロンタンに渡すと、薄い冊子を渡した。



「これが規約となります。説明が必要でしたらそこのブースでご説明致しますよ。」

「あ、お願いします。幾つか質問などもありますが、説明していただければ解消するやもしれませんし、疑問のままだとしても質問すればいいので。」

「わかりました。それではこちらへどうぞ。」



 受付嬢はカロンタンを連れてカウンター裏手の、あまり目立たない位置にあるブースで説明を始めた。冊子をもう一冊出すと、そこに説明しながら書き込んだり丸を付けたりと、分かりやすくしようとしてくれた事にカロンタンは感嘆を覚えつつ、聞き逃さないように、自分も冊子にメモを取りながら説明を受けた。



「まずはこれがですね、大事な点ですよ。…ここの、互助会員の義務ですね。」

「はい。」

「『商人ギルド所属のギルド員を互助会員とし、ランクに応じて毎年互助会費を支払う事とする。この互助会費はギルドの運営及び、数年に一度開催される互助会総会に於いて必要とされる経費として使用される。また、商人ローンの原資としても利用される。』です。互助会総会というのはですね、実際には慰労会です。場所が場所なんですけど、高ランクの方なんかは毎年楽しみにいているようですよ。何せ、そこに辿り着きさえすれば飲食費や宿泊費は一切掛からないのですよ。」

「場所が場所、ですか。」


 興味津々なカロンタンに受付嬢が首を傾げてにこり、と笑った。



「ええ、神々の箱庭にある高級宿を貸し切りにするんですよ。私達ギルド職員も大体支部から一人くらいはお呼びが掛かりますので、楽しみにしてるんですよ。…私はまだ行けてませんけど。」

「神々の箱庭!それは確かに辿り着くのが大変ですね…。」

「最低でも中堅クラスにならないと旅費だけでこう、破産するくらい大変みたいですよ。」



 神々の箱庭と呼ばれる地域はこの大陸の中央部に存在する、山脈に囲まれた高地の事である。数千年を永らえている国家がそこには存在し、そこを聖地として旅をする巡礼の旅が一般市民の夢であり、それを実際に叶えられるのは百人に数人といったところである。しかも、その山々を縫って箱庭まで到達するには厳しい山道を越えていく必要があるのである。近年、道を拡張する工事が進められてはいるのだが、工事が可能な期間は年に三分の一も無く、冬季は道が雪で閉ざされる為に遅々として進んでいないのが現状である。






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