12話
リングを目にしたクレインは、布やブラシなど手入れに必要な物を物置から持ってくると、リングを磨いたり緑青を落としたりし始めた。
「昔、お母さんも指輪とかの手入れをしてたの見たことあるのよね。依頼にも雑用っていうか、こういうのたまにあるわよね。」
「…そうだね、確かに僕もたまに気分転換でそういうのもやってたなぁ。」
カロンタンはブローチも取り出すと、クレインと一緒に手入れを始めた。とはいっても、手入れなどはそこまで手の掛かることは出来ないし、すぐに終わってしまうのだが。
カロンタンはアイテムボックスから地図を取り出すと、机の上に広げた。その地図は冒険者になりたての頃に護衛依頼や近辺の依頼にも使えるかもしれないと買った地図だったのだが、ハイブのある地域のみでなく、大陸の四分の一も占めるような地図を買ってしまったことで縮尺が大き過ぎて今までお蔵入りになってしまっていたものであった。
「あら、これってジョンストンの旅地図じゃない。ガイドブックみたいな書き込みが多くてすっきりしないっていう意見もあるけど、名産とかダンジョンとか色々書いてあって商売人向けなんじゃない?」
「冒険者になりたての時に奮発して買ったんだけどね。当時はそんな遠くまでの地図なんて要らないんじゃ?って二人にも言われたもんだけど、今となっては目安に出来ていいかなって思って。」
「そうねぇ、初級冒険者には不要だったかもねえ。」
苦笑するクレインにカロンタンは頷いた。今であれば特産品を仕入れて他所で売るなどいい情報源になるし、この街の近くに何があるからこういった物が必要とされるのでは?と勘案するのにはいいのであるが。
「さっきの指輪とかさ、どこの辺りにその街があるのかちょっと見ようと思ってさ。他にもいろいろ仕入れたら、どういうルートで移動して、とか考えてもいいしね。」
「そうね。移動には時間もお金も掛かるから、うまくルートを取らないとね。街によっては持ち込む商品に関税が掛かったりするから、出入りだけでお金が飛んでいくとこもあるみたいよ、ってカロンタンならアイテムボックスだから大丈夫かしら?」
「その辺りはどういう仕組みになっていたりするのかなぁ。商人ギルドに実際に登録に行って聞いた方が早いかもしれない。」
クレインがハイブの街から少し離れたところにある街を指差した。地図の上では近くに中級ダンジョンが存在する事が描かれている。
「これ、指輪の高値で売れる街の一つにあったわね。」
「そっか、ダンジョンがあればそこでもゲットできるかもしれないけど、ダンジョンに潜る冒険者達が欲しがるから高値で売れるってことか。てことは、残りの二つの街もダンジョン絡みの街かも?」
「でも一つはほら、ドワーフの街よ?職人の街だって聞いた事があるわよ。」
「そうか、器用は職人さんが必要だもんね。」
地図を眺めて色々と妄想を膨らませる二人であったが、売るための品物の仕入れも護衛も、足すらもない段階ではまだまだ、と地図を閉じた。クレインは晩御飯の準備に取り掛かることにして席を立った。
「ただいま戻りました。」
「おかえり、フェイ。」
「おかえり。」
フェイが帰って来たのはそれから間も無く、クレインが晩御飯の準備をしているのをカロンタンが後ろからじっくりと眺めているところだった。フェイは自分も手伝う、とぱたぱたと慌ただしく動くと、クレインを手伝い始めた。その様子を微笑ましいなぁとカロンタンがまた眺めていると、クレインがくるりと振り返って言った。
「カロンタン、さっきから目がやらしいわよ。後でちゃんとエッチさせてあげるから、そんな見ないの。」
「か、か、カロンタンさん!?」
「え!?ご飯を準備する姿も素敵だな、って見てただけだよ!?」
「ふふっ。」
あわあわとする二人だったが、クレインの意地悪な笑顔にからかわれたことがわかるとカロンタンはぐったりと机に突っ伏した。クレインはじっくりと見られて少々気恥ずかしかったところをカロンタンをからかう事で解消したかっただけだったのである。
そうこうしているうちに食事は出来上がり、三人でテーブルに着くこととなった。
「そういえばクルルですけど、いいのを紹介して戴きましたよ。若くて大きい子が居るそうなんです。少々燃費が悪いみたいなんですけど、冒険者ギルドのコネとかも含めて普通の子を買うよりもかえってだいぶ安く買えるみたいでしたので、明日にでもここに見に行っていただけますか?」
「お?ありがとう、行ってみるよ。」
フェイがそう言いながら差し出したのは大まかな地図の書いてある紙であった。地図の下には紹介してくれた人物の名前と店の名前、クルルの大体の値段が書かれていた。カロンタンは頷くとその紙を畳み直してアイテムボックスに仕舞い込んだ。服のポケットなどに入れると無くしてしまうような気がして、大事なものはアイテムボックスに仕舞う癖がカロンタンにはあったのである。
「三人以上で動くことになれば、二匹で別々で移動するか、馬車を大きい子に引かせた方がいいのか悩ましい感じだね。馬車自体は荷物ごとアイテムボックスにしまえるから、いつでも身軽にはなれるんだけどね。」
「荷物ごとしまえるっていうのもいいわよね。露天とか開くにしても、後片付けも一瞬ってことだもんね。雨降ってきてもすぐ退避できるって事よね。」
便利だねぇ、と頷く三人であったが、フェイが思い出した、と言わんばかりにカロンタンに質問をぶつけた。
「そうですよねえ。あ、ちなみに野菜とかに虫がついていたりした時にアイテムボックスに入れようとするとどうなりますか?」
「うーん、ある程度以上の大きさの虫なんかは弾かれるみたいだったよ。キャベツについてる青虫なんかはキャベツは入っても青虫が何匹かそこに残るような感じだね。でも、発酵食品なんかは火を入れなくてもそのままでも大丈夫みたいだったよ。」
「それならいいですよね。虫食いでも、買った時にはもう虫がいないのがわかってるなら安心して置いておけますからね。」
「そうよね。」
この世界においても魔法工学の進歩によって、発酵の仕組みは目に見えないサイズの生物が働いていることは実証されていた。それはある意味思いつきでの研究であったのだが、生物を検知する魔法を並行利用した生物本体に直接打撃を与えるタイプの攻撃魔法の使用によって食品に含まれる生物を根絶した時に発酵が起こらないことを確認した研究者がいたのである。逆に、瓶詰めをしてから生物を根絶する事によって長期保存を可能とするそれこそ缶詰のような食品も生まれてはいたりするのだが、その魔法に使用する魔力が莫大であったために試作段階でそのやり方による長期保存可能な食品というものは販売を諦めてられていたりする。ちなみに、煮沸を利用した殺菌での瓶詰めについてはガラスの瓶がある程度高価である為に一般的とまでは言われないまでも、本来日持ちしない高級食材などの流通で利用されている。




