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文字化け  作者: 天笠 螢
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Prologue

 “超能力者”と言うのは確かに存在していた。

 動物と会話をする。霊と会話をする。

 スプーンを曲げる。体を逆に曲げる。

 未来を視る。過去を視る。

 そんな人たちと同じように山下(まこと)にも超能力者の可能性がある、なんていう事実は、環境保護を訴えている人の目の前で河にゴミのように投げ捨てても良いほどの些細な事である。何故なら、その事実は証明できないからだ。

 例えば、スプーンを曲げるように明確な証拠があるものであれば、特集能力として認められる可能性もあるのだが、真の場合、そんな証拠などありはしない。

 証明できないのなら、自分は超能力者なのだと周りに言ったところで、馬鹿にされるのがオチだ。

 だから、彼は周りの人に自分の“超能力とも言える異常”を話したりはしない。

 少年――山下真は幼い頃によく母親に聞かされていた話があった。


『文字は人の心を写すもの。それは時として、あなたを助けたり、襲い掛かってきたりするのよ?』

 ベッドに寝転んで、その話を聞いていると、傍にあるライトによって描かれる影が怖かったのを覚えている。そして、尋ねかける。

『それはワルモノ?』

『うーん……悪者じゃないかも知れないけど……良い者か悪い者かは人によって違うの。自分の目で見てそれは決めないとね』

 説明するのを諦めたようでそう言葉を濁して、続ける。

『その襲い掛かってくるのを倒すためには本が必要なの。だから、いつ何時も、何が起きても本を持ってて』


 真は幼い頃からその話を聞かされて、毎日、母親の指導によって字の練習をさせられ続けた。いや。“させられ続けた”と言っても、彼は特段それが嫌なわけではなかった。

 しかし、字を練習しても一向にパソコンの楷書に劣らないほどの母親のような綺麗な字に似る事はなく、真の字は母親の血を引き継がなかったような不細工な形であった。

 そしてそれは、彼が高校生である今現在でも変わらない。

 そんな不細工な字であったとしても、絶対に褒めてくれた優しい母親は、彼が小学校に上がる前には既に――――この世には存在しない人となってしまった。

 それから、真の目には“あるもの”が見え始め、その耳は“異様な声”を聞くようになっていった。

 それらは突然ではなく、段々日常へと浸透していくように。そして――


 ――それらは多分、文字を通して伝わる“心の声”だった。

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