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クリスマスストーリー

聖画

作者: 神山 備
掲載日:2011/02/05

「これでどう?」

「いいよ、ありがとう。」

私は念願のマイホームのリビングにお気に入りの絵を掛けるように夫に頼んだ。

その絵は鉛筆書きのイエス様。

思いの外ごついイエス様が満面の笑みを浮かべて手を広げている。横には小さな羊。残りの99匹を置いてでも1匹の羊を探す聖書のお話しの絵。


その絵の作者は木原直人、彼の両親が先生をやっている教会学校に私も通っていた-幼馴染みとでも言えばいいのだろうか。

だけど、彼は話はそっちのけで先生であるお父さんの横で、ニコニコしながらいつも絵を描いていた。

イデオ・サヴァンと言うらしいが、日常生活は出来るくらいの軽度の知的障害だと聞いた。本人の中の時間がゆっくりな分、何か飛び抜けて素晴らしいものを持っていることが多いらしい。直ちゃんの絵は本当に見るものの心を温かくする力を持っていた。


あるとき、直ちゃんはイエス様を書いていた。

「直ちゃん、このイエス様ごっつくない?」

私がそう言うと、直ちゃんは、

「そうかな、イエスさまはどんなひとでもだきしめてあったかくするんだよ。だからごっつくなくっちゃ。」

と言って笑った。そのときの笑顔は絵の中のイエス様と同じだった。

「描きあがったらそれ、私にくれる?」

私はどうしてもその絵が欲しくなった。

「いいよ、かいたらあげるね。」

直ちゃんは即答するとまた絵に集中した。

そしてもらったのがこの絵なのだ。落書き帳に描かれた鉛筆書きのこの絵を私はお小遣いで買った額に入れて自分の部屋に飾った。

私にとっては、どんな巨匠のイエス像より、直ちゃんのちょっとマッチョなイエス様の方が本当の姿だと思えた。

私は不思議そうに絵を見た弟に、

「この絵を描いた子は将来絶対に有名になるわよ。だから、先にファンになっとくの。」

なんて言って笑った。


でも、そんな日は来なかった。誰よりも神様に愛されていた直ちゃんはそれから2年後、突然トラックに撥ねられて天国に帰っていってしまったのだ。神様はこんな荒れた世の中に、愛する直ちゃんを長く置いておけなかったのかも知れない。


直ちゃんのイエス様は辛い時悲しい時、いつでも私を励ましてくれた。

嬉しい時には一緒に喜んでくれているようだった。


-私の小さいものの一人にしたのは、私にしたのである-

『靴屋のマルチン』…彼はイエス様だったのかも。でも、私は彼に悪いこともしなかった代わりに、良いこともしなかったな。


「本当にこの絵、いいよなぁ。見てると心が温かくなる。」

かけ終わった絵を見てしみじみ夫がそう言った。


今度の休みには夫を誘って直ちゃんの好きだった花を持ってお墓参りに行こうと思う。



                         -完-

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― 新着の感想 ―
[一言] この前とは打って変わって、あたたかい、けれど、どこか切ないお話ですね。 イエス様がごつい、それだけはちょっと笑いましたけど(ノ∀`* 自分の時間がゆっくり流れている人は、確かに何か秀でている…
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