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大阪府警AI制御室  作者: velvetcondor guild


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第十五話:存在の証明(ハロー・ワールド)

大阪府警AI制御室


第十五話:存在の証明ハロー・ワールド


1. 境界線の朝

テロ組織「虚無の秤」が解体され、此花の埠頭に静寂が戻った。

サミエル、佐藤、町田の三人は、夜明けの光の中で、ひび割れたアスファルトに並んで立っていた。

「……終わったんですね、本当に」

町田由美が、泥に汚れたタブレットをようやく閉じた。

平和指数は100.0%。システム上、この街から「悪意」は一掃されたことになっている。

だが、サミエルは、イザナギが弾き出したその完璧な数字を、どこか冷めた目で見つめていた。

「町田くん。……AIは『定義された悪』は消せるが、『定義から漏れた絶望』には気づかない。……俺たちはAIを『使って』勝利したが、この瞬間も、システムに『使われ』、切り捨てられている人間がいることを忘れるな」


2. 認識されない悲鳴

その時、佐藤のウェアラブルカメラが、一人の少女を捉えた。

コンテナの影、積み上げられたガラクタの山の中に、ボロボロのコートを着た10歳ほどの少女が蹲っている。

佐藤が駆け寄る。だが、彼の視界(HUD)には、異常な表示が出ていた。

『警告:対象の個体識別不能。DNA未登録。……非実在のノイズとして処理します』

「……おい、町田! どうなってんだ。目の前にガキがいるのに、イザナギは『何もいない』って言ってやがるぞ!」

「……そんなはずは! ……あっ。……管理官、この子……」

由美が震える手で端末を再起動する。

「……この子は、『身代わり屋』によってDNAデータを売られ、戸籍も、名前も、この街での『生存権』も、すべてを精算(消去)されてしまった子供です……」

AIに使われる側ですらなく、AIから「存在しないもの」として定義された、システムの死角。

少女は、血の気の引いた唇を震わせ、サミエルのコートの裾を小さな手で掴んだ。

「……助けて。……私、ここに……いるの」


3. AIを使う者の「精算」

少女の瞳には、最新のAIドローン「ハヤブサ」のレンズには決して映らない、深い絶望と、微かな希望が宿っていた。

システム上、彼女は「ゴミ」ですらない。ただの「無」だ。

彼女を助けるということは、イザナギが導き出した「平和指数100%」という嘘を、警察自らが暴くことを意味する。

「……サミエルさん。……どうする? こいつを助ければ、俺たちの『全域検挙』の手柄は、管理ミスとして全部吹き飛ぶぜ」

佐藤が、静かに少女の肩を抱き寄せながら問いかける。

サミエルは、空を舞うハヤブサを見上げた。

そして、通信回線を開く。

「……川藤、聞こえるか。……今から、管理官権限でシステムを一時停止させる。……この街の『平和』という名の嘘を、一度だけリセットする」

『……了解ですよ、管理官。……AIに使われるだけの人生なんて、大阪人には似合いませんからね』

制御室の川藤が、力強くエンターキーを叩いた。


4. ハロー・ワールド

一瞬、大阪中の街灯とサイネージが消灯した。

そして、再起動。

イザナギのメインフレームに、サミエルと町田が共同で書き上げた、法を超えた「特別救済コード」が流し込まれる。

画面に浮かび上がったのは、複雑な数式ではない。

一人の少女の、新しい**「名前」と「存在証明」**だった。

「……ハロー・ワールド。……ようこそ、大阪へ」

サミエルが少女の前に跪き、その小さな手を握り返した。

「……君の名前は、今この瞬間から、この街のどのシステムよりも優先される。……俺たちが、それを証明し続ける」

少女の頬を、一筋の涙が伝い、朝日に輝いた。

それは、AIの計算式には決して現れない、本物の「生」の輝きだった。


5. 時速60キロの未来へ

再び、新御堂筋に日常が戻る。

パトカーを走らせる佐藤。

制御室で、数字ではなく「人」を見つめる町田。

そして、窓の外の混沌とした大阪を愛おしそうに見つめるサミエル。

AIを使う者と、使われる者。

その狭間で、彼らはこれからも「精算しきれない想い」を抱えて走り続ける。

東三国から住之江、そして此花。

時速60キロの規律の下で、2030年の大阪は、今日も騒がしく、美しく、そして人間臭く、新しい一日を始めていた。

(完)




     後書き


この物語の主人公、サミエル・大貫は、

自分のことを「正しい側の人間」だと思っていない。

だからといって、

「悪役をやっている」という自覚もない。

彼にとって自分はただの現場担当者だ。

マサチューセッツで理屈を叩き込まれ、

FBIで現実に殴られ、

結果として彼は、

「理想は書類の上でだけ完成する」

ということを、よく知っている。

父は合理の国から来て、

母は調整の国から来た。

その間に生まれた彼は、

どちらかを選ぶのではなく、

面倒な役回りを引き受ける癖がついた。

AIは信用している。

人間も信用している。

ただし、どちらも放っておくと必ず失敗する

という前提つきで。

一件の事故も起こさせない。

一人の犠牲も出さない。

それは立派な目標だが、

本人はそれを「夢」とは呼ばない。

「仕様」だ。

そして仕様には、

必ず想定外が起きる。

だから彼は、

必要な時にはAIを止め、

例外を作り、

司法取引という名前の現実的な抜け道を用意する。

それはズルかもしれない。

でも彼は知っている。

抜け道が一つもないシステムほど、

人を簡単に潰すものはないことを。

この物語で、

彼はヒーローではない。

だが、

誰かが後始末をしなければならない場面では、

なぜかいつもそこにいる。

もし読者が、

「この人、信用していいのか分からないな」

と思ったなら、

その感覚はたぶん正しい。

そして同時に、

「でも、現場にはこういう人が必要かもしれない」

と少しでも思えたなら、

この後書きの役目は、

もう十分果たしている。

このくらいなら



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