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第1章 第5話 沈黙の誓い
夜の《ヴェルティア》。
監察局の屋上で、クロトは都市を見下ろしていた。
ネオンの光が網のように街を覆い、空には薄い霧が漂う。
「感情が溢れすぎて、街が泣いているようだ」
ミラがそっと隣に立つ。
「それでも人は、誰かと繋がりたいと思うものですよ」
風が髪を揺らす。
クロトは無言でポケットから古びた糸巻きを取り出す。
母の形見だ。
「縫い直すたびに、少しずつ壊れていく気がする」
「それでも縫い続けるのが、縫師の使命です」
静かな沈黙が二人を包む。
街の灯りの中、見えない糸がまた一つ結ばれた。




