第6話「王都に走る名もなき英雄譚」
――噂には脚がある。
しかも、王都へ向かう脚は、田舎道を走る荷車よりも、衛兵の馬よりも、ずっと軽くて速い。
◆
渓谷での討伐から三日。
レーヴを発って南へ向かう商人の馬車の幌の下で、革袋の酒が一度まわるたび、話は同じところへ戻ってきた。
「聞いたか、渓谷の件。死人ゼロだとよ」
「それがすげえのはわかるが、誰の手柄だ?」
「“名もない女冒険者”が支点になったってさ。後ろを仕切ったんだと」
「名もない、ねえ」
馭者の老人が鼻を鳴らす。
「名がなくちゃ、足ぁ止めらんねえ。だが、戻る道ってやつは名がなくても作れる。昔、隊を率いてた頃にな、後ろの“無名の一人”に何度も助けられた。名前は覚えちゃいねえが、足は覚えてる」
幌の外、道の両脇に麦の青さが揺れる。
商人はそれぞれの町でそれぞれの版を聞き、王都へ向けて噂の綴じ目を固くした。
こうして「名もなき英雄譚」は、車輪の刻む溝に沿って王都へ運ばれていった。
◆
王都北門の詰所。
昼交代の鐘が一度鳴り、槍の穂先に油が差される。門番の若い兵が、頬杖をついている相方へ囁く。
「渓谷の話、聞いた?」
「どれの?」
「“女の冒険者”が合図で隊をまとめたってやつ」
「また合図か。合図はよ、偉そうに言うほど簡単じゃねえ。伝わらない合図ほど役に立たねえもんはない」
詰所の隅、賄いの鍋をかき混ぜる老兵が笑う。
「伝わらねえ合図は“合図ですらない”。――だが、伝わったら、“声より遠くまで行く”。わしの若い頃にもな、ひとり、奇妙な奴がいた。喋りは少ねえのに、動きで全部わからせる。あいつの“無言”は、誰よりもよく聞こえた」
若い兵は、門の外を眺めた。
遠くに小さく見えるレーヴの屋根の連なりの上を、ひとつ風が渡っていく。
噂は、風の形をしている。
◆
王宮の一角――厚い絨毯の上で、靴音は音にならない。
昼下がりの陽が窓の格子を横に割り、壁に金の縞を作っている。
王太子アルノルトは書類の束に目を走らせ、途中で手を止めた。無意識に、指先で机の縁を二度叩く癖が出る。
「殿下、渓谷討伐の報告書の写しです」
侍従の青年が恭しく差し出す。
上に乗っているのはギルドの標準様式、下には近衛の補足。
アルノルトは最初の行を読む前に、目だけで下の補足に落とした。
“死人ゼロ”。
“後方支点”。
“合図の翻訳”。
ふ、と鼻で笑う。
「合図の翻訳? 詩人の言葉か」
青年は目を伏せたまま、声を整える。
「現場の用語です。『前線の“動き”を後方の“言葉”に翻訳し、後方の“言葉”を前線の“動き”に戻す』――そういう意味で」
アルノルトは指先で紙の角を少しだけ曲げ、戻した。
「誰がやった?」
「名もない女性の冒険者、と」
そこで、アルノルトの指が止まった。
否定の笑みが、口の端でひきつる。
「まさか、な」
彼は乾いた笑い声を出すような表情を作りながら、声は出さなかった。
騎士団長代理アルバートの名も補足にある。
“王都の騎士は剣だけではない”――そういう書き方が、丁寧に、しかし情のない筆致で添えられている。アルノルトは紙を置いた。
「殿下?」
侍従が伺う。
「続けろ。――それと、詰所の噂は拾っておけ。拾わなくてよい噂も、拾っておくことがある」
「は」
侍従が下がると、幕の向こうから柔らかな香料の匂いが近づいた。
妹リーナが、やや速い足取りで現れる。
薄い桃色のドレス。唇は同じ色で、目元の化粧は“弱さ”を丁寧に演出している。
「お兄様、渓谷の件って、そんなに大ごとなの? ただのゴブリン退治でしょう? 簡単な冒険を大げさに言って、英雄ごっこね」
「簡単なら、死人は出ないはずだが」
アルノルトが細い笑みを作ると、リーナは拗ねたように頬をふくらませた。
「だって……ああいう“現場”の話って、すぐ誇張されるじゃない。名もない女が隊を救った? どこにでもいるじゃない、そういうお話」
「どこにでもいる“そういうお話”に、どこにでもいない“そういう人間”が混ざることがある」
姉――イリス――の横顔が一瞬、脳裏に浮かんだ。
窓辺で読み物をしているときの、眉間の皺の寄せ方。
舞踏会で笑うときの、角度の低い笑い。
怒鳴らずに、人を止める術を知っていた人。
リーナは兄の表情の一瞬の翳りを見逃さない。
軽い笑いを、薄い刃に変えるのは得意だ。
「まさか、イリス姉様が――」
「口を慎め」
アルノルトの声は静かだったが、廊下にまで届く硬さがあった。
リーナは肩をすくめ、目を伏せる。
「ごめんなさい。……お兄様は、まだ“気にしている”のね」
「気にする、などという言葉は宮廷にはない」
アルノルトは書類を取り、その一番上を別の束に移した。
「あるのは“影響”だ。――影響は、早いうちに見ておくに越したことはない」
扉の陰に立っていた老侍従長は、顔を動かさなかった。
王子の声にも、妹の棘にも、何も反応しない。
ただ、静かに呼吸し、静かに覚える。
“名もなき英雄譚”は、王宮の壁にも届いた。
さて、壁はどちらへ傾くか。
◆
レーヴでは、同じ日の朝、ギルドの掲示板の前に人の輪ができていた。
〈護衛:療院→北門〉
〈修繕:北の橋桁/水嵩注意〉
〈採取:湿地苔/転倒多発〉
〈伴走:負傷者搬送/長距離〉
〈討伐:峡谷外縁の狼〉
紙の端に、ミーナの小さな印が押されている。
私は一枚ずつ目を通し、二歩引いて全体の“匂い”を嗅ぐ。
“派手”は狼と峡谷だ。
“重要”は橋と療院。
“人手が足りない”のは伴走と湿地苔。
――私が行くべきは、こっち。
「選んだ?」
ミーナが、いつもの事務の速度で質問を置く。
私は三枚の紙を掲げる。
「修繕、伴走、湿地苔」
「了解。……ほら、噂の余波」
カウンターの端で、小金持ち風の商人が“討伐”の紙を突きながらこちらを見ている。
「あんたが渓谷で“支点”になったって娘か。名は?」
「リス」
「ふうん。じゃあこっち――狼もやってくれよ。報酬、弾む」
ミーナが視線だけで“やめておきなさい”と告げているのがわかる。
私は短く礼をして、紙を戻す。
「今回は、別の仕事を選びます」
「名が売れるぞ?」
「名で橋は立たないので」
商人は肩をすくめ、鼻で笑い、去っていった。
ミーナはこっそり親指を上げ、すぐに事務顔に戻る。
「伴走の相手は療院の長。負傷者十。距離二里。途中に段差あり。滑落の危険は小。転倒の危険は大。修繕は北の橋桁。昨夜の雨で浮いている。湿地苔は……濡れる。すごく」
「濡れるのは、乾けばいい」
「そう! そういう心だ!」
ミーナは元気よく判を押し、道具袋の補充票を滑らせた。
私は圧縮包帯と滑り止め、携帯担架の布、補強縄、木釘を受け取る。
鏑矢は今日は要らない。
石筆は二本。
羽根ペンは――しまっておく。
◆
療院の裏庭は、朝の陽がまだ優しかった。
木陰に並べられた担架、片端に座る老人、片脚を失った男、腕を吊った女、顔色の悪い少年。
療院長のグレンが短く説明する。
「冬の名残で体力が落ちてる。だが、家に帰れば回復が早い。街道の段差で転ぶな。転んでも、無理に起こすな。呼吸を整えるまで待て」
「合図は?」
「声を短く。『止まれ』『よし』『上げる』『下ろす』だけでいい」
私は頷き、担架を担ぐ若い見習い二人の肩に手を置き、足裏の感覚を確かめる“触合”の小さな印を仕込む。
足で伝わる“止まれ”と“踏め”。
視線が合い、見習いが不思議そうに笑った。
「足が喋るみたいだ」
「足はいつも喋ってる。ただ、聞く耳がないだけ」
二里の道は、平坦に見えて平坦ではない。
石畳は町を離れるとすぐ土に変わり、土は雨上がりの湿りを抱いている。
段差のたびに「止まれ」。
呼吸の乱れを見て「下ろす」。
肩に乗った重みは、人の重みだ。
重みは、言葉を軽くする。
途中、少年が涙を溢し、顔を背けた。
「置いていってくれ」
私は頭を横に振る。
「置いていくのは、道だ」
「道?」
「道は、置いていくほど“戻れる”。今、置いている。君が歩けるようになったら、今日置いた道を、自分の足で戻ればいい」
少年は涙の途中で笑い、肩の力を抜いた。
見習いの足が、触合“止まれ”を踏み、揺れが伝わる。
“足で喋る”言葉は、誰にでも届く。
北門の手前で詰所の兵が道を空け、担架がひとつずつ中へ吸い込まれていく。
息が揃っていた。
揃いは、美しい。
美しい揃いは、人を生かす。
帰り道、療院長が言った。
「名は要らない仕事だ」
「ええ」
「だが、名のない仕事ほど、人はよく見ている。――ありがとう」
私は礼を言い、療院を後にした。
空は少し高く、洗濯物の白がまぶしい。
◆
午後は北の橋桁。
昨夜の雨で一部が浮き、馬車の轍が斜めに刻まれている。
橋の下を流れる浅い川は、昼を飲んでいる音がする。
私は職人たちと一緒に木釘を打ち、桁を噛み合わせ、縄で補強した。
「斜めの力は斜めで受ける」
若い職人が首を傾げる。
「斜めで受けると、流れる?」
「流していい。受け止めると折れる。流すと、逃げる。逃げる力は“消える”」
彼は試して、目で理解し、手で覚えた。
覚えた手は強い。
強い手が増えると、橋は長持ちする。
夕方、私は湿地へ向かった。
苔は滑る。
靴は沈む。
腰袋は重くなる。
でも、やる。
“地味”は、街の背骨だ。
背骨が折れた街は、どんな名声でも立て直せない。
苔を袋に詰め、腰を伸ばす。
遠く――王都の方向へ目をやる。
夕陽の向こうに、まだ小さく、しかし確かに、灯の群れが揺れているように見えた。
空気が澄んだ日だけに見える“遠い灯”。
過去の声は、その灯の方角から聞こえる。
“戻ってきてくれるなら、すべてを水に流そう”
“あなたの年月を?”
――振り返るな。
そう言い聞かせるのでもない。
“今は、こっちを向く”――それだけだ。
◆
夜。
“山猫亭”の窓辺に椅子を引き寄せ、私は湯気の立つカップを両手で包んだ。
湯気は誰にでも平等だが、受け取る手の温度は人それぞれだ。
今日の湯気は、橋桁の木の匂いを連れてくる。
湿地の土の匂いも混ざっている。
療院の薬草の粉の匂いも、少し。
帳面を開く。
・伴走:二里。停止→担架下ろし→呼吸整え→上げる。足裏合図=有効。
・橋桁:斜め受け→流し→応力分散。若手の吸収早。
・湿地:滑り多。苔採取→乾燥保管。
・学び:“人手が足りない”の裏には、“人の気力が足りない”が潜む。足りないのは腕だけではない。
・噂:商人/詰所/王都方面へ。
・心構え:名声は派手さで稼げるが、信頼は地味さで積む。
・合図:触合=現場に浸透の余地。
・注意:王都の灯=過去の呼び声。今は振り返らない。
書き終えると、窓の外に目をやった。
王都の灯は、遠く微かに揺れている。
あの灯の下で、王子がどんな顔をしているか――想像はできる。
けれど、それは想像のままでいい。
今、ここで私が触れているのは、“今日の街”。
名のない手。
名のない足。
名のない汗。
それらに名前をつけるのは、いつも“遅れて”やって来る。
◆
王宮の夜。
アルノルトは執務室の窓を少しだけ開け、外の空気を吸った。
王都は静かではない。
騒音のひとつひとつに階級があり、匂いがあり、意地があり、縁がある。
彼は机に置いた紙の端を指で抑え、目だけを滑らせる。
「殿下」
老侍従長が一歩、進み出た。
「噂、拾ってまいりました。『女の冒険者』『後ろを仕切った』『死人ゼロ』『近衛の代理が剣で“間”を作った』――以上が主要です。名は出ておりません」
「出ていないほうが、動く」
アルノルトは独り言に近い声で言った。
「名が出ると、狙われる。名が出ないうちは、噂が“街の栄養”になる」
侍従長は、表情を動かさない。
「殿下は、噂を好まれませんでしたな」
「憎むほど嫌ってはいない。だが、信用はしない」
アルノルトはペンを指の間で回し、止めた。
「信用するのは、現場だ。――近衛の代理は?」
「渓谷の翌日、レーヴのギルドにて報告。後方の『支点』を評価。名は明かさせず、助言のみ」
「“余計な感傷はない”」
アルノルトは笑った。
「やりそうだ」
侍従長が、わずかに沈黙してから続ける。
「殿下。申し上げづらいことですが――“イリス様では”との憶測が、市井のごく一部で出ております」
紙の音が、小さく部屋に落ちた。
アルノルトは目を閉じ、一度だけ浅く息を吐いた。
「まさか、と言いたいところだが」
彼は目を開く。
「『まさか』は王宮でいちばん信用ならない言葉だ。――いい。噂は噂のままにしておけ。こちらから追えば、噂は“主語”を得る。主語を与えるのは、政治の言葉だ」
「は」
侍従長は下がった。
アルノルトは窓の外の灯を見た。
灯は、遠く微かに揺れている。
その微かな揺れのひとつが、誰かの“戻る道”であるかもしれないことを、彼は知っている。
◆
翌日。
ギルドの扉を押すと、ミーナが指で“こっち”と小さく合図した。
「依頼、増えた。……『名もなき英雄譚』の尾ひれつきで」
カウンターの前に、三人の代表者が並んでいた。
水路組合の親方、孤児院の主任、旅籠の主。
“派手さ”はないが、それぞれ“崩れると街が崩れる”場所だ。
親方が帽子を胸に押し当てる。
「北の水路、詰まりがちでよ。人手はいるが、道具もいる。人の段取りを組める奴が一人要る」
孤児院の主任が続ける。
「子らの医療の伴走。薬はあるけど、人手がない」
旅籠の主が頭を掻く。
「荷車の出入りの路地が悪くてな。石を入れて平らにしたいが、道順の管理が……」
私の答えは、決まっていた。
「やります。――三つとも」
「三つ!」
旅籠の主が目を剥く。
ミーナは肩をすくめる。
「彼女は“時間の配分”がうまい。無理はしない。場所を重ねる」
私は三つの地図を受け取り、順路の矢印を自分で引いた。
水路→孤児院→旅籠→ギルド仮置き所。
時間は午前の長い影と午後の短い影で切る。
“戻る道”を最初に半分作る。
水路は、泥の匂いと藻の匂いで鼻が慣れる前に作業が始まった。
詰まりを取る。
杭を打つ。
人を配置する。
「斜めの力は斜めで受ける」
「受けてから逃がす、だろ」
「そう」
親方はうなる。
「それ、前の工事の時に誰かが言ってたな」
「街は、言葉でも支えられている」
孤児院では、子らの手を握る。
手は、小さい。
小さい手は、汗がすぐに冷える。
温める。
待つ。
歩く。
歌を一つ、短く。
“止まれ・よし・上げる・下ろす”――子どもでも覚えられる四語で。
旅籠では、荷車の順番を“足で”管理した。
触合“止まれ”の簡易版を石畳に薄く仕込み、交差点の“迷い”を減らす。
「足が喋る!」
女将が笑い、荷車の馭者が目を丸くした。
“足で喋る”町――悪くない。
夕方、ギルドに戻ると、また噂の波が来ていた。
「王都の門で話題だってさ」「名もない女が町を軽くしている」「近衛も一目置いてるらしい」
ミーナが袋を滑らせる。
「はい、報酬。少なめ。でも、重め」
「重め?」
「街に効く。――それと、手紙」
差し出された封は、公爵家の紋。
胸の奥に、冷たい指が一本、すっと置かれた気がした。
封は開けない。
今は、開けない。
私は封を丁寧に畳み、腰袋の奥に入れた。
「開けないの?」
「今は、こっちを向く」
ミーナはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、カウンターの端に“温かいミルク”を置いた。
湯気は、誰にでも平等だ。
◆
王都の酒場。
「名もなき英雄譚」は今夜も新しい脚を得た。
語り部の若者が、リュートを爪弾きながら、声を低く上げる。
「渓谷に吹いた風は、剣の色。
風の合図に、人は動く。
後ろに一人、名もなき者。
前に一人、剣の者。
間にあるのは――“戻る道”。」
客の一人が鼻で笑い、別の一人が杯を掲げる。
「名もないのがいいじゃないか。名がついた途端に、誰かが踏みにじる」
王都は複雑で、まっすぐではない。
噂は、誰かを救い、誰かを傷つけ、誰かの“明日”を少しだけ軽くする。
それでも、街は回る。
誰かが“無難”を積み上げる限り。
◆
夜更け。
“山猫亭”の窓辺の灯が小さくなる。
私は封を取り出し、表だけを撫で、また戻した。
窓の外、遠くの王都の灯が、やはり微かに揺れている。
過去は呼ぶ。
でも、今は振り返らない。
帳面の最後の行に、短い文を足す。
《名声は飾り。信頼は筋肉。
筋肉は、毎日、地味に鍛える。》
カップの底に残った温かさを掌に移し、私は灯を落とした。
明日も、地味に鍛える。
戻る道を、最初の一歩から。
“名もなき英雄譚”は、私のものでなくていい。
ただ、街が少しでも軽くなるなら――それでいい。
◆
王宮の夜も、同じように更けていく。
アルノルトは窓を閉め、灯を一つ消した。
遠くで、犬が二度吠えた。
彼は耳を澄まし、静かに言った。
「戻る道は、誰のためでも、街のためだ」
侍従長はやはり表情を動かさず、静かに頷いた。
噂の脚は、今日も王都を走る。
その脚の先に、名もない背中がひとつ、またひとつ増える。
――それが、王都を軽くしている。
それを、知っている者は知っている。
知らない者は、知らないまま生きていく。
どちらであっても、街は回る。
誰かが“無難”を積み上げるかぎり。
そして、その“無難”に、ほんの少しだけ、風の色が混じった。
渓谷で見た、剣の色に似た風――合図の届く、戻る道の風。
夜は静かに、次の朝のための余白を増やしていく。
余白は、恐れではない。
書ける場所だ。
明日、また書くための。