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転生したからと言って好きな人を忘れられるわけがない。

作者: 高梨恋鳥

ある日突然、はねられた。車に。もちろん、あっけなく死んだ。

東村大和の人生は、そこで終わった。若い…まだ19歳のときのことであった。

最愛の人…楠木里愛とも高校生からの付き合いが続いていたのに…


「儂は神じゃ。」

「は?」

神だなんて名乗るやつ、信用できるのか?

「お主を転生させてやろうと今思っているのだが…」

「本当ですか!?」

いや、こいつはきっと本当に神だ。じゃないと転生なんて出来るわけがない。

「あぁ、実はな、ここ最近まで王族同士で争ういがひどくてな…誰もなってくれないのだ。そんな王族だが、なってくれるか?もうすぐ落ち着くと思うんだが…」

「なります!」

こんな俺でも、一回くらいはいい思いしたいからな。

だけど…


「そこでじゃ。面倒事を受けてもらったからの、なにか一つ頼みを聞いてやろう。」

「本当か!?」

これだったら気がかりだった里愛のことも解決できるかもしれない。


「里愛と…里愛の記憶を残したまま、また俺と出会えるところに転生させてください。」

「うーむ…どうじゃろうなぁ。距離は遠くなるかもしれないな。あと…記憶に関しては…とりあえずお主の記憶は残しておいてやろう。」

あ…。つい、俺の記憶は残っている前提で話していた。

そうだよな。俺の記憶が残っていないと意味がないよな。


「ありがとうございます。絶対…里愛を見つけ出してみせます。」

「そうか、精進しよ。」

「はい!」

「では、転生させるぞ。」

「お願いします。」


「あちらもすぐに到着しそうじゃな。」

神様が何かを呟いたのを聞いた。


◇◆◇


懐かしい夢を見た。

ってあれ?俺は第一王子ザイレル・ダンジェスターだよな?ん?俺?私ではなくて?どうなっている?しかも懐かしい?確かに昔あったような気はするが…


考えないことにした。


次の日。

また同じ夢を見た。何かが腑に落ちてた。

今日は昨日とは違って混乱はしない。受け入れられたから。

そっか、俺、神様に会って、転生させてもらったんだ。


なら、里愛を探さないと。今の俺は15歳。里愛はまだ生きているだろう。見つけられるのはもっと後だな…

あれ?俺って王族だよな?これじゃあ里愛と結婚できないのでは…?


ああ…あのときの俺よ…なぜ受け入れてしまった…。いや、受け入れたから記憶が今残っているのか…。だったら悪くは無いのか。

でも…結婚か…どうしよう…まあまだ先だ。


「里愛…」

「殿下、一体どうしたのですか?」

庭でボーっとしていると、公爵殿が話しかけてきた。

「いや、何でもない。」

「そうですか…。ふむ。」

「なんだ?」

「今のため息、私には分かりますぞ。殿下は恋をしていらっしゃるのですな。」

な!?間違ってはいないな…

しかしどう答えるのがいいだろう。そう考えて何も返事しないでいた。

「おや?では恋に恋しているのですかな?」

いや、それはないな。だけどここで否定したら始めのやつはなんて答えればいいのだろう?


「おぉ!そう言えば!」

公爵殿が急に叫んだ。

「何だ?」

「確かもうすぐ婚約者を決める会議が開かれる…」

「公爵殿、頼む!婚約者はまだ決めないでくれと言っておいてくれないか。」

「なるほど、殿下は恋に恋していらっしゃるのですな。王族とは言え人の身。それを追い求めるのは悪いことではない。応援しましょう。」

「ありがとう」

これで少し、時間を稼げるだろうか?

だけど里愛はきっとこの世界にはまだいない。俺は…どうすればいいんだ…


5日後。

夕方ぐらいに、庭にいると、

「殿下、済まなかったなぁ、婚約者が決められてしまったぞ。」

また公爵殿が話しかけてきた。

「そうらしいな…」

「頑張ってその令嬢と恋をしてくれ。」

「うん…」

父上が教えてくれた。

決まってしまった…。願わくば、里愛のように優しく、しっかりとした令嬢であることを…。強く祈る。


この5日間、頑張って考えた。

だけど、何もわからなかった。俺は、今、地球がどうなっているのかも知らない。

そして、里愛がいつ死ぬのかも、この世界でどのような姿になっているのかも知らない。

こんな俺に里愛を探せるのか…?不安ばかり募っていく。


何か…何か…意見をくれよ…誰か…


「殿下、明日は婚約者様とのお茶会がありますから。」

「…分かった。」

侍女に言われ、しぶしぶ頷く。


次の日。

「こんにちは。第一王子殿下。」

「こんにちは。シーモア・パルテイン。シーモアと呼んでもいいか?」

「えぇ、構いません。わたくしも殿下とお呼びしても?」

「この度は私の婚約者を引き受けてくれてどうもありがとう。」

そんな社交辞令から始め、当たり障りのない会話をして過ごした。


「殿下は…どこか覚めた目をしていますね。何か理由があるのでしょうか?」

「きっとシーモアの気に障ることだからな。言わないほうがいい。」

というか私に自ら婚約者を傷つけるような真似はさせないで欲しい。

「そうですか…しかしわたくしと殿下は婚約者の身。そういうことも是非お聞きしたいです。」

「これは…政略結婚だろう?必要ないことを話す必要はない。」

「あります。政略結婚から愛が生まれることもあリますよね?そのためにはまず相手をしる必要があります。相手を知ることで、恋ができ、政略結婚を楽しめるのです!」

シーモアがいきなり饒舌になった。

「しかし、私はシーモアとは多分恋ができない。」

「理由をお聞きしても?」

「昔…大好きな人に出会ったのだ。今もそれが忘れられない。君を傷つけてしまうことだろう。すまない。」

「だから殿下は目が冷めていらっしゃるのですね。」

「かもしれないな」

「ですが…わたくしわ構いませんわ。ただ、わたくしが殿下に恋をする機会を与えていただければ、と思いまして…。はじめにそのことを話してくれたこと、感謝いたします。」

「それだけでいいのか?」

もっと…相思相愛を求めているのかと思っていた。

「はい。一緒に暮らすとしても自分が好きな相手か嫌いな相手かでは大違いですもの。」

「ならいい。」

「あと…殿下にとってもこれはいいお話だと思いますわよ?わたくしが王太子妃としていることでその懸想されている方を妾とすることができますもの。」

「それもそうだな。」

シーモアか…。いい令嬢が来てくれたな。

彼女は信頼できそうだ。もしかしたら里愛を探すのも手伝ってくれたり…いや、それは我が儘だというものだ。きっと無理だろう。

「ではさっそく、明日、城下に視察に一緒に行きませんか?」

「どうしてだ?」

デートということか?

「もちろん多少の変装は致しますわ。ですが、平民の方々は好きな相手と2人きりでデートというものをするらしいのよ。わたくしたちもそれを出来ないかな…と考えまして…」

「まあいいだろう。」

その時、シーモアの付き添いとして来ていた侍女の視線が厳しくなった気がした。

俺はお嬢様の相手として不適切だ…とか考えられているのだろうか。

少し残念だ。できることならば侍女ともいい関係を築いておきたかった。


「こんにちは。」

「こんにちは、殿下。今日はよろしくお願い致しますわ。」

「あぁ、よろしくな。誘ってくれてありがとう。」

「どういたいしまして。では行きましょうか」

「そうだな。」


そしていろいろ出かけた。裕福な商家の娘とその婚約者…というふうに変装した。

護衛は後ろからついているから完全とは言えないが、基本的には安心だ。


「まあ!これは綺麗ね!」

「シーアに似合いそうだな。買おうか?」

「まあ!いいですの?ザイ様」

イヤリングを買ってあげることにした。

あと、偽名はシーアとザイにした。

「あぁ、私からのプレゼントだ。」

「ありがとうございます!嬉しいわ!」

可愛いな。ほだされそうだ。里愛がいる限り絶対そうはなりたくない…ならないが。


「あ、少し離れてもいいでしょうか?少し行きたいところがあるのです。」

「ああ、いいぞ。」

「護衛を一人お借りしますね。」

「分かった。」

侍女を置いていっているが…いいのだろうか?


「あの…」

侍女に声を掛けられた。シーモア付きの方の侍女だ。

「殿下…いえザイ様は里愛を知っていますか?」

「え?」

「やはり知りませんか…」

「なぜその名前を知っている?」

どういうことだ?

俺は里愛の名前は公爵殿に出くわした一回しか呟いていないと思うのだが…

「それは…夢でその名前の少女を見たのです。」

俺と似たようなものか。

「だがなぜわたしが里愛を知っていると考えた?」

「老人が…その夢で見た老人が、大和は王族に転生したと言っていました。」

「そうか…それは確かに俺しかいないな。」

この王家、兄弟争いが終わり、今生きているのは俺と今の国王だけだ。

だが…

「お前は誰だ?」

神様は里愛の記憶を残すとは言わなかった。だったら記憶があるこいつは誰だ?

「シーモ…シーア様の侍女であり、でん…ザイ様のお知り合いでいらっしゃる里愛の夢を見た者です。」

里愛の夢…ね。俺も1日目はただの変な夢だと思っていた。

「その夢は、いつ見た?」

「今日が初めてかと…」

なら明日まで分からないな。


「ただ今戻りました。お待たせしました、ザイ様。」

シーモアが戻ってきた。お陰で話はなあなあになってしまった。

「明日、時間をいただけるか?」

今夜、あの侍女は俺と同じならきっと夢を見る。だったら明日会わなくては分からない。

「まあ!いいのですか!嬉しいですわ!」

「さすがに場所は王宮だが…。何をしてきたのだ?」

「内緒ですわ。まあお買い物ですわね。楽しめましたわ。」

そう言ってシーモアは笑う。

「そうか。」

何を買ってきたんだろうなぁ。


「最後に向かいたいところがありますの。」

「連れて行ってくれ。」

「かしこまりました。ただ…秘密の場所ですので。目を閉じて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あぁ。」

そう言って目を瞑った。


「今日一日、殿下と過ごし、殿下が誠実であることが分かりました。」

「それは嬉しいな。」

目を瞑ったまま会話に乗じる。

「きっと、わたくしは幸せ者でしょうね。このような方が婚約者であるのですから。」

「不誠実者だがな。」

「それをはじめに伝えてくださったのですから誠実だと言うのです。」

「…。」

「さらに、懸想されている方がいらっしゃるようですが、わたくしにも誠実に対応して下さいました。」

「それは…婚約者だからな。」

「これならわたくしが蔑ろにされることはなさそうだと安心いたしました。」

「婚約者を蔑ろにはしない。」

「皆がそれをできるとは限らないのですよ。」

「そうかもしれない。」

「さあ、到着いたしました。あの…ご不便をかけますが、まだ目を閉じてもらっていてもよろしいでしょうか?」

「歩くのか?」

「えぇ、少々。」

「分かった。護衛についてもらえば大丈夫だ。」

そして、護衛の者に伝える。

「もし危険だったら判断は任せる。」

「「かしこまりました。」」

念には念を。シーモアは信頼に値するが、それでも王族として、危険を犯すわけにはいかないからな。


護衛の者二人に支えられて10分ほど歩いた。

「到着いたしました。目を開けても構いません。」

そう言われ、目を開ける。

「…すごいな。」

そこからは街を…城を見渡せた。夕日に照らされ、綺麗な景色があった。

そっか…いつの間にか夕方になっていた。

「どうです?お気に入りですのよ。」

「素晴らしい景色だ。連れてきてくれてありがとう。」

「どういたしまして。そして、こちらをどうぞ。」

シーモアがあの時…俺が侍女と話していた時に買いに行っていたと思われるものを手渡された。

「ザイ様…いえ、殿下がわたくしに買ってくださったもののお返しをしなくては…と考えまして…」

「開けていいか?」

「はい。ありきたりなものですが…」

それは、ブローチだった。

シーモアの髪の色と同じ…いや、少し違うか。ただ、何か親和感を抱かせる色だった。

「…すごいな。どこで見つけた?」

「殿下がわたくしにイヤリングを買ってくださった店にあったわ。」

「そうなのか…。気づかなかったな。」

「そのお陰でわたくしは殿下にプレゼントすることが出来たのです。助かりましたわ。」

「ありがとう。ところでなぜこれを?」

「どこか…わたくしみたいに感じたからです。」

「そうか。大切にするよ。…あ。だったら今度また私を思い起こさせるものを買わなくてはならないな。」

「いえそんな、結構ですわ。そこまでしていただなくても構いません。」

「私が気にするのだ。贈らせてくれ。」

「…はい。分かりました。」

そして、しばらく夕日が沈むのを眺めていた。


「では帰りましょうか。」

「そうだな。」


城に戻った。



「シーモア嬢はどんなだ?」

「素晴らしいです。彼女を選んでいただき、ありがとうございます。」

週に一度の、父上との夕食。そこでさっそくシーモアについて聞かれた。

「そうか。気に入ってくれたか。そういえば今日は1日中出かけておったようだな。シーモア嬢と。」

「はい。素晴らしい時間を過ごせました。」

「それは何より。これからどんどん愛を育むがよい。」

おいおい。一体何人ぬそれを言われ続けなければならないんだよ。



「おはようございます。今日は午前中に勉強が、午後は婚約者様とのお茶会があります」

「分かった。いつもありがとう。」

「…ぇ?」

侍女はボソッと呟いた。


午後。

「今日はよろしく頼む。時間をもらえたこと、感謝する。」

「こちらこそ、殿下とのお時間をいただけて嬉しいですわ。」

「今日は…シーモアには申し訳ないが、数分、侍女と話してもいいだろうか?」

「ええ、構いませんわ。わたくしは少し離れておきますね。」

「助かる。」


「さて、侍女…名前は何だ?」

「フィリーと申します。」

「そうか、ではフィリー、今朝も夢を見たか?」

「はい。」

「それで、どう思った?」

「私は…里愛が前世なのだと理解しました。」

まさか…

「神が出てきたか?」

「はい。」

「どんなことを言っていた?」

「話すなら…始めからでもよろしいでしょうか?」

「ああ、分かった。」


◇◆◇


私の目の前で恋人の大和が車にはねられて死んだ。

それから1週間。おおかたの葬儀は終わったけど、私は立ち直れずにいた。

「早く…会いたいな…」

自殺することにした。選んだのは飛び降り自殺。

首吊りより確実に死ねるからだ。


そして、気付いたら老人が目の前にいた。彼は神だと名乗った。そして…

「お主を転生させてやろう。」

「いいんですか?…だけど、転生したら大和がいないじゃない。」

「いるぞ?」

「え?」

「大和が不人気なところに転生してくれてな、その分お願いを飲むことにしたのじゃ。」

「それは…?」

「里愛…そなたを同じ世界に転生させる、とな。」

「え?」

「ちなみに大和の記憶は残してある。だが…お主の記憶は残せない。すまぬな。」

「あの…!」

「なんじゃ?」

「大和に会える範囲内で、不人気なところはありますか?」

「そうじゃなぁ。幼いころに奴隷になることになって、だが、その後侍女までになるコースならあるぞい」

「じゃあそれでお願いします!そしたらお願いも聞いてもらえますよね?」

「ふむ、確かにそうじゃな。」

「記憶は、子供の時からあるのですか?」

「いや、15歳と半年のときに戻るようになっておる。」

「だったらそれでいいです。」

「いいのか?」

「はい。その代わりに私の記憶を残して下さい。」

「分かった。ではお主を転生させよう。」


◇◆◇


「こんな内容でした。」

「フィリー、君は奴隷だったのか?」

「そうです。」

「辱めを受けたのか?」

「幼いうちですから…裸を見られるくらいでした。一番最初の買い取り手がシーモア様でしたので。」

「そっか…辛い目に合わせたな。そんなことまでして記憶を残してくれてありがとう。」

目頭が熱くなる。

「どういたしまして、大和。」

「ありがとう、里愛。…だけど、死ななくて良かったのに。」

「いいじゃない。こうして出会えたんだから。」

「それもそうだな。」


「すまない、ありがとう。お陰で満足に話し合えた。」

まだ少し涙目だが、なんとかしてシーモアに戻る。

「殿下…どうされたのですか?」

「フィリーが…大好きな人だった。」

「フィリーですか?失礼ですが、どこに接点があったのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「夢だ。」

「はい?」

「フィリーもそうだよな?」

「はい。」

「夢…ですか?一体どういう…」

「まあそういうことだ。」

「いえ、分かるわけがありませんわ。ただ、泣いてしまわれたことを見るに、フィリーがお相手なのですね。」

「あぁ。」

察しがよくて助かる。


「そこでだが…フィリーをもらってもいいだろうか?」

「フィリーは元は奴隷でしたが?」

「構わない。もちろん君も大切にする。だから、どうか貰わせてくれ。」

「そうですね…殿下が国王になられ、わたくしが王妃になることが出来た場合はそれで構いませんわ。」

「ありがとうシーモア。」

ちゃっかり自分が王妃になることを確実にしているが、まあどうせ確実なのだから許そう。



2年半がたった。

俺は18歳になり、先日結婚式が行われた。まだ即位は先だが、シーモアと結婚することができ、これでフィリーを妾にすることができる。


シーモアは無事俺に恋ができたようだ。有言実行。素晴らしいと思う

何もかもが上手く行っている。


里愛ともまた過ごせて今、最高に幸せだ。

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