脱糞ガール
大学で出来た二人目の彼氏のアパートでイチャイチャしていると当然濡れてきて、昼間だったけど当然始まる。でも、足を開いて彼氏を受け入れようと待っていると、唐突に強烈な便意に襲われ、これは我慢できないなと思い「ちょっとごめん。お腹痛い」と立ち上がるが既にもう危険ゾーンに達していて、お尻の穴がブルブル震えて体中を移動して回っているみたいに感じるほどだ。慌ててパイプベッドから降りるけれどベッドが思ったより高くて抜こうとした足がシーツに引っ掛かる。もつれる。私はつんのめり、床にお腹を強打する。やばい、と思ったときにはもうお尻の穴の感覚なんてなくて、音もなく、出てはいけないものが外へ出ていっていた。パンツなんて当然穿いていなかったから全部が余すところなく外だ。硬いコロコロしたやつならまだマシだったんだけど、水っぽいうんちがいつまでも排出されていて、私は立ち上がることもままならずうつ伏せのまま静かに涙を流す。彼氏の部屋の白いカーペットには黄ばんだ茶色が染み込んだだろう。
どちらかといえば便秘気味で、こんなふうにお腹が緩くなってドバっと出てしまうことなんて今までなかったのに。直近で変なものを食べた覚えもないし、そもそもそんな感じじゃなかった。決壊寸前の便意がいきなり出現したみたいだった。うんちも同様にお腹の中へ瞬間移動してきたかのようだった。なかったものが突然現れた。そして出た。
私がようやく立ち上がったとき、彼氏はカーペットの角を摘まんで折り曲げ、汚れた箇所を見えないようにしてから「大丈夫だよ。お腹痛かったの?」と優しく訊いてくれたけど、私はもう全然大丈夫じゃなかった。汚れたお尻のままパンツを穿き、服を着て、財布にかろうじて入っていた一万円札二枚をテーブルの上に置いて、彼氏の部屋を出た。逃げ帰った。無理だった。そんなのあの場にいられない。
彼氏からスマホにメッセージが届く。『俺は全然気にしてないよ。だからササも気にしないで。こんなことで別れたくないよ。本当に好きだから』。私はそれを見ながらまた泣くけど、申し訳ないし情けないし恥ずかしいし、もとには戻れないと強く思う。気にしないと言ってくれているが、私の顔を見るたびに絶対いっしょにうんちも連想するじゃん。少なくとも、イチャイチャするときには間違いなく思い出すでしょ? 私がそうなんだから彼氏だってそう。確実に。そんな、うんちを頭の片隅に置きながら付き合い続けられない。
私も本当に大好きだった。うんちへの対応からもわかる通り、本当に優しい人なのだ。高校のときに付き合っていた人は自分が気持ちよくなったらはい終わり、みたいな人だったけど、今の彼氏は私をずっと気持ちいいままにしておいてくれる。丁寧で気配り上手。
そうはいってももう破綻してしまったし、でも、だからといってずっと一人ぼっちでもいられない。大学に通っているとまた別の彼氏ができる。けれど、あの瞬間になるとやっぱり大波のような便意が押し寄せてくる。男の人のが私に入ってくるとき、その分を押し出すようにうんちが外へ出ようとする。穴は別だ。でも連動しているかのように、私のキュンキュンはお尻の穴にも響いてうんちを門の方へと吸い寄せる。
誰とも付き合えない。いや、付き合えはするんだけど、イチャイチャして交わることができない。私はそれがけっこう好きなので、だから苦しい。精神に傷を負って、いざとなると悲劇が再現するようになってしまったんだろうと思う。本気でメンタルクリニックに行こうかとも考えるが、先生がなんと言うかもだいたい予想がつく。けっきょくは私自身が乗り越えるしかないのだ。
大学の仲良しグループで飲んでいるときに、アルコールが回って、食事中なのも気にならず、ついあの話をしてしまう。最中になると便意が来て撒き散らしてしまいそうで悩んでる云々。すると向かいに座っていた男子が嬉しそうに話に乗ってくる。「そしたらササ、俺と一回やらない? 俺ウンコとかもいけるし、俺ら絶対相性いいよ」
本当にアルコールが回っていたんだろうか?と不思議なくらい簡単にブチギレてしまう。私は現状を悲しんでいて憂いでいて恥じらっていて、それを悩みとして打ち明けたのに、お前はなんで話をそういう方向に持ってくの!? 一回たりともやるわけないだろ!
私はそのまま帰ってしまい、仲良しグループからも浮いてしまう。元カレから優しいメッセージがまた届くが、元カレが優しければ優しいほど私は悔しくなり、なんかお腹も緩くなる。元カレに慰めてもらいたい。だけど私は元カレにとって『うんちを漏らしたけど大好きなカノジョ』以上にはもうなれない。
誰も話しかけてくれなくなるが、ウンコ好きのあいつだけはときどき声をかけてくれて、私はムカつくから最初は無視していたんだけど、あまりにもしつこいので飲みに行ってあげることにして、なんか、気がついたらそいつの部屋でキスされてしかも私はちゃんとたっぷり濡れている。
そいつは大量のゴミ袋を用意していて、それをベッド周りに敷き詰めて万全の態勢を取る。で、始まるのだが、奇妙なことに便意は微塵も来ない。漏らしても大丈夫な安心感が私を逆に正常にしているんだろうか?などと考える暇もなく普通に気持ちいい。すごく久しぶりの快感で、こいつの前で顔とか声に出したくなくてムッツリしてるんだけど絶対にバレている。そいつも嬉々として私を抱いてくる。
「漏らしてもいいんだぞ?」
「漏らさないもん。バカ」って返しながら、いやお前は漏らしたんだよと自分でツッコむが、それよりも自分の声色が艶やかで、明らかにこいつに媚びていて、ああ私こいつと付き合っちゃうなと思う。
便意はずっと訪れない。こいつがどんな動き方をしても、私がどれだけ気持ちよさに足の指をピクつかても、肛門が震えることはない。あのときから延々と私に介入してきたうんち。そのうんちが今回、私の快楽の邪魔をしないということは、こいつこそが私の運命の人なんだ……と私は半ば無理矢理思い込もうとしているけれど、同時に本当は知っている。検便とかじゃないんだからうんちが何かを決めることなんてありえないのだ。うんちはうんちだ。何も導かない。知ってるのになあ。