〇 5分で語る、前回のお話と世界観
◆【 華瓊楽って、どんな国? 】
華瓊楽暦・一六三十四年――――清豊明八年。
この国の年号は、王の即位の他、天災・事変・祥瑞などの象徴的出来事が起こるたびに改められ、大旱魃をきっかけとする災異改元から、今年で八年。
都市部の臣民は平穏な暮らしを取り戻しつつあるが、ともすればまた、命そのものと言っていい、水と大地の恩恵を失うかもしれない明日を想像しながら、不安な気持ちをやり過ごす日々を送っていた。
最悪の状況は脱したものの、すべての危機が完全に去ったわけではなく、ほんの数年前まで、未曽有の国難に喘いでいたのである―――。
「あれは―――………」
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※)ごく普通なつもりで暮らしてきた高二男子、皐月は異界国・華瓊楽で目覚め、王都に導かれた。
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正面の青空にくっきりと映える山脈――その稜線を、白亜の柱廊のような建造物が飾っている。
そんな大パノラマの山腹に、天を突かんとする厳めしい台閣を背負って、壮麗な大宮殿が鎮座していた。
広大な盆地は雲の影を落とし、遥か遠くまで種々雑多な人工物に埋め尽くされている。
目立つ建物は神社仏閣に似た古代東洋風の大廈高楼で統一されているが、縦横無尽な構造で、いたるところに五色の三角旗を連ねた飾りが吹き流されている。都市を挙げての国際的な祭典でもやっているかのような賑わいが見て取れた。
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※)大自然の中の大都会…? 皐月は城郭内を散策してみることにした。
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砂漠圏の装いをしている異邦人ともすれ違うが、都民の一般的な着衣は、質素な筒袖や着物の類が多い。
子どものはしゃぎ声がした路地を覗けば、古き良き風景。レンガ造りの建物の軒先で、お茶を片手に囲碁を打っている老人の姿なども見られる。
別の道に出たところで、足を止めた。
そこは一段と人通りが多く、ガヤガヤと賑わっていた。天秤棒で野菜類を運ぶ、城外の村人たちが行き来している様子だ。
◆【 花人って、どんな種族? 】
「夜覇王樹の民がその支配力を誇っていたのは、四千年前の神代崩壊以前―― “四生界” の時代……」
そして、最も恐れられていたのが、神代崩壊直後から一千と数百年――、化錯界時代の中期を迎えるまでと思われる。深い森に棲み、人間に禍福をもたらす “神” と慰撫されていた。
水を崇め、聖樹を奉り、豊穣神の中でも最強と謳われる万物化育の神であると同時に、人を害する半神半鬼。夜を掌握する力を持つとされた。
「後に “夜叉” と呼ばれるようになるこの類は、様々な世界で独自の神格を得るようになるが、神代崩壊から二千年が経つ頃、夜覇王樹の民の中では “花人” と名乗り始める動きが広まった。以来、袂を分かつことになった反勢力は、今も凶悪な力に固執しているが――……」
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※)皐月を召還したという男・飛叉弥は時おり煙管を口に運んでは、とんでもないことを打ち明けていった。
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「萼という軍事国家を拓き、人間と共存を目指しながら世界平和に貢献を誓ってきたのが、俺たち――王家勢力の末裔だということを、まず押さえてくれ……」
救国救民のためなどと聞けば、大層な勤めを背負ってきたように思うだろうが、ただ単に、甚大な力を体よく発散してきた好戦的な輩だと解釈してくれても構わない。
花人が、侮辱されたくらいで牙を剥くことはない。そうやって徹底的に己を律することで、悪鬼との違いを示してきたのだ。
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※)神代崩壊前の夜覇王樹の民の長は、四生界の中核に “世界樹の役割を担うもの” として存在していた鬼神であり、花木の精霊のような姿であった。
彼が祖先と考えられている一方で、花人となってからの夜覇王樹の民は、花神の所有物である天花園と、不老不死の霊薬・甘露を奪い取ろうとした罪深き人間の末裔を名乗ってきている。皐月はこれを聞いて、不敵に返した。
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「俺は “ただの迷子” だ……」
どうして初対面のあんたたちに、いきなり “仲間になれ” だなんて言われなきゃならないわけ―――?
「お前が俺たちと同じ、花人の末裔だからさ。これからなるんじゃなくて、もともと仲間なんだよ」
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※)華瓊楽に緑と平穏を取り戻すため結成された花人の一部隊、対黒同舟花連隊長の飛叉弥は、皐月を引き入れようとするだけでなく、新隊長に迎えようとする。が、同族であると認めさせることすら出来ず……。
◆【 皐月は前回、どうなった? 】
「なんだよこの請求書…ッッッ」
「お前に諸々破壊されたと主張する多方面から届いた。ちょっとした土産のつもりで、快く受け取って帰れ」
「なんでッ。俺は何も知らないッ」
「ほれ。またそうやって現実から逃げようとする。いかんなぁ。責任逃れしようとするなんて、花人として以前に、人間としてどうかと思うぞ」
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※)華瓊楽を中心国とする南壽星巉。皐月は、この一世界を支えている椥の世界樹の守り人であることが隊士らに明かされた。そして、皐月はどう考えても人間には不可能な驚異的超常現象を起こし、都の一部を破壊した。(当人は自分が守り人であることを含め、まだ何も自覚していない。……ように見える)
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「さ…っ、……皐月、おにぃ……、――……」
「おにー……鬼?」
「ち…、違う違うっ! あ…、あの…っ」
分かっている。皐月は微苦笑を漏らした。
「ひいな――……」
お前は善い人間だ。いいか?
「それでも、人ってのは、あまり眼が良い生き物じゃない……」
この世界は人と鬼、善と悪が境を失っている。よほどの眼力がなければ、見つけ出すことも、見定めることも難しい。迷い人には余計に――……。
「お前は悪者じゃないんだから」
胸を張って、堂々として見せてくれ―――……。
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※)ひいな少女の父は国難のさなか、盗賊にまで貴重な食糧を分け与えていたことを、人々に批難されながら死んでいった。未だ白眼視されている彼女は、皐月と出会い、最後にこんな言葉を投げかけてくれた彼に、大好きだった父の面影を重ね見たのだった―――。
〔 参考資料 〕
※)随時、ここに記載していきます。
・鬼灯とは?花言葉と気になる効能をご紹介!どこに毒がある? | 暮らし〜の (kurashi-no.jp)
・本当に安全?STOP毒きのこ:農林水産省 (maff.go.jp)
・アメリカデイゴの特徴と育て方!似てる植物サンゴシトウとの違いも解説! | 暮らし〜の (kurashi-no.jp)
・椀貸伝説 - Wikipedia
・竜生九子 - Wikipedia
・環境指標生物 秋とイナゴの話 (bioindicator.co.jp)
・アフリカを襲った「蝗害」 被害内容や生態を解説、そして日本への影響は ELEMINIST
・バッタはどうして大量発生するの?│コカネット (kodomonokagaku.com)
・天津の五大仙─中国北方の動物精信仰 | アジアの街並-東南アジア旧市街・中国古鎮・日本昔町─川野明正の研究室 (ameblo.jp)
 




