◍ 動く描写
『ある花人たちの物語』の、ちょこっと裏話(番外編)です。表のエピソードを違う視点(登場人物)で書き、秘密めいた部分に若干触れてみます。
よろしければ表と裏、併せてお楽しみください。
翠霞漂う深い深い渓谷に、
翼人や猿人の飛び交う影が見える。
彼らは八雲の如き樹冠から、飛花を降らせている。
―――― 額縁の中で ――――
世の中には、様々な蒐集家がいる。
陶器、刀剣、宝石類。
珍しい酒、玩具、昆虫、動植物。
そして、絵画などの美術品。
いずれも、蒐集家たちは自分だけの特別な空間――壺中天にそれを飾り、悦に入る。
だが、ここに少し変わった蒐集家がいる。
彼は世界各地を旅し、風景画を自ら描き集めている。
それを画集や絵巻物、屏風に仕立て、芸閣の壁一面に設けた書架に溜め込んでいる。
砂漠の向こうの緑地。
断崖一面に流れる瀑布。
見渡す限りの花筏と水中の神殿。
白鷺が群れる平原に散在する水鏡。
そして、暁光に染まる雲海から突き出す厳かな山頂――。
いずれも観賞するためではない。すべて、ある目的のために描き上げた。
風景の蒐集家。彼の画は
“越境画” と呼ばれている―――。




