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払雲花伝〈ある花人たちの物語〉【塵積版】  作者: 讀翁久乃
◆ ―――――― 第三鐘 ◇ 奇襲 ――――――
42/197

◍ 天地の鏡


《 ギュァァァァ――…ッ!! 》



 鳥とも(けもの)ともつかない、張り裂けんばかりの断末魔が上がっている。


 この世界にはなぜ、奇々怪々、異類異形といわれる事物が生まれるのか。

 なぜ日々、生滅を繰り返しているのか。

 もはや日常的過ぎて、化錯界かさっかいに拓かれた人原じんばらの民は考えもしないが、鬼魅が存在しないとされる別天地の人間からすれば、摩訶不思議でたまらないだろう。

 なぜ、自分の身の回りにはいないのか――。

 

 いや、昔はいた。

 よみがえった。

 いつの間にかいなくなったり、いなかったのに、突然現れたりする理由。



 そのすべては、 “鏡” が知っている――。



 しかし、これは神代崩壊の折、巧妙に隠されてしまった。手の届かないところに置かれ、今はもう幻の鏡。

 実はそれと向き合っている世界だから、普通は見えないものが見え、知らなくていいことを知り得る。

 天を映せばその天辺まで、地を映せば、鬼が罪人を責め立てる地獄の阿鼻叫喚まで映し出すという。


 人の心の中までも。


 ゆえに、実は誰でも “化け物” となり得るのが、天地の境を失ったこの世。

 清らかなるものも、禍々しいものも、種の交雑とあわせ


 “変貌” によって、生滅しているのである――。





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     :






 旅の途中の修験者が、たどりついた清らかな池の名を老人に尋ねる。

 老人は、自分のような野守が鏡代わりに使うので、 “野守の鏡” だと答え、とある貴人の探し物をこれで見つけ、お褒めいただいたことがあると語る。さらに、


「昔、この野には鬼がいて、昼は人と化して野を守り、夜は鬼として塚の中に暮らしていた。本当は、その鬼の宝物を “野守の鏡” というのだ」と教えた。

 修験者が本物のそれを見たいと請うと、老人は「鬼の持つ鏡なので、見れば恐れをなすだろう。この池が成している水鏡で満足しなさい」と言って消えた。


 あの老人こそ、鬼神に違いない。




 同じ日の夜、同じ場所で強く願っていると、鬼神が応え、塚の中から一面八丈の銅鏡を手に現れた。

 そして、鏡を天地四方にかざし、月光で闇を照らし、「しかと見よ」と言って、天界から地獄の恐怖、目を背けたくなる責め苦の有様まで、知らぬが仏であろうあらゆるものを明らかにして見せた。

 修験者は鬼神に、人として正しい道を歩むことを誓った。

 

「これぞ宝物たるすばらしさ。この鏡は我らが道を照らす。善悪、横道を正すための明鏡なのだ」


 そう言って鬼神は、奈落の底に帰って行った――。




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 この鬼神は自然由来で、人間の執心や怨霊が変化した鬼ではない分、ただ厳めしいだけであったはずだが、語り部は、相対する風情を人々に伝え残している。


 鬼の身ながら “花” があった。

 岩上に、やわなそれが咲くのと同じような面白みが。

 地獄にさえも、力強いだけではない美しい花を咲かせるような、妙な鬼であったと――。




〔 読み解き案内人の呟き 〕


【 野守の鏡 】とは……

能の一演目。「昔々、徐君という王様が、人の心の中を照らし出す鏡を持っていたが、皆が欲しがるので、塚に埋めてしまいましたとさ」というお話や和歌など、いろいろ混ぜ合わされている。


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