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第9話 スイーツは乙女心を呼び起こす 元騎士との出会い

ハルが転生して2ヶ月(くらい?)経った。

まだハルは旅に出ずに街にとどまっていた。

理由はシンプル

この世界の知識をある程度把握しておくためと少しでもレベルを上げておきたいからだ。

まだ新しい人生は始まったばかり

急がずのんびりやっていこうと思う。


隣村から帰ってきてから、ハルとラビはルーティン生活をしていた。

朝起きてまずはギルドで依頼確認。

依頼があれば受け、無ければ岩山に行って特訓。夕方キャンドルに寄ってお菓子を買って帰る、こんな生活だ。

今日も変わらず岩山で特訓だった。

魔力弾を放って動く物体に当てる特訓だ。

周りは人がいないから気にせず撃てる。

二人はお互いに魔力弾を放ちながら集中力を高めていた。


(ふむ。中々な集中力だな)

と、ここでハルとラビを見つめる目があった。

ハルとラビが撃ち合っている場所から少し離れた岩から男が二人を(のぞ)いている。

(やはりあの二人、特殊な魔力の持ち主だな。それにあの髪色にあのゴーレム…)

男はじっと二人を見つめた後、くるっと向きを変えて座った。

「さて!最近はあの二人の観察が日課になっていたが、もう一つの俺の日課を忘れてはならない!」

男はそう言うと、アイテムバックから箱を取り出した。

箱の表面は可愛らしいポップ系でキャンドルと書かれている。

「さあ、俺の毎日の楽しみであるスイーツタイムだ!今日は限定品のいちごクリームタルト!この日をどれだけ待ちわびていたかぁ」

ごっつい体にごっつい顔。

その顔が嬉しそうに(ほころ)び、ごっつい顔が残念な顔になっている。

周りが見たらおそらくドン引きだろう

男は箱のフタを開け中身を確認した。

コーティングされたいちごがツヤツヤなのを見て、興奮し始める。

「キャ~!何このツヤツヤ感!!美しい、上品に(たた)ずんでいる姿、素晴らしいわあ!」


この男

ごっつい体にごっつい顔

普段は口調も男らしいのだが…

甘いスイーツには目がない

スイーツを目の前にすると、彼の中に眠っている乙女心が目を覚ましおネエへと豹変(ひょうへん)してしまうのだ


「それでわぁ、いっただきまーす!」

おネエが口を開けて食べようとする。

と、

ヒュ~ルルル

「ん?」

上を見上げた瞬間、悲劇は起きた


ドォーン!!

「うぎゃあああ!!」

スイーツタイムを楽しんでいた男に何かが落ちてきた。

男はそのまま倒れた。

「ケロ!ヤバイぞハル!!」

「うぇ!何でこんなとこに人が!?」

薄れゆく意識の中、男は黒焦げになったいちごクリームタルトを見つめた。

(俺の、…いちごクリーム…タルト…限定品)

ガクッ

男は気を失った。


「うっ?」

(ここは?)

男は目を覚まし自分の身に何が起こったのか、頭で考えた。

(確か、限定品のいちごクリームタルトを…)

「あ!俺のいちごクリームタルトぉ!!」

男は飛び起きる。

「うぉ!?」

横から驚いた声が聞こえた。

男がそちらを向くと、自分が観察していた二人のうちの一人、ゴーレムがいた。

「ケロ、目覚めたか?ごめんな、俺たちの魔力弾がおっさんにぶつかっちゃったんだ」

ゴーレムは謝る。

「あ、い、いや」

男は周りを見渡す。

いつも一緒にいる少女がいない。

「さっきおっさんが食べてたスイーツ、ハルが買いに行ってる」

(ハル?ああ、このゴーレムと一緒にいる少女の名か)

「俺はラビだ。おっさんは?」

(お、おっさん…)

「俺は(みち)だ」

「みち?ミチか!どっか痛いとこ、ないか?」

「いや、大丈夫だ。普段は鍛えてるから、大したことはない」

「おっさん鍛えてるのか!道理で筋肉ムキムキだな」

(名前言ったのにおっさん呼び)

「まあね」

「ただいまー!」

ハルが帰ってきた。

「おかえり、ハル。おっさん目を覚ましたぞ」

「ホントだ。ごめんねー、集中し過ぎて魔力弾を飛ばし過ぎちゃった!まさか人がいたとは」

ハルは苦笑いし頭をかいている。

「俺なら大丈夫だ」

「そっか!」

「おっさんはミチって名前らしいぞ。それに普段から鍛えてるんだって」

「へぇ、凄いね!道理で怪我しなかったんだね」

ミチはアハハと笑う。

そして改めてハルとラビを見る。

今ハルはフードを取り、珍しい朱色の髪があらわになっている。腰ほどまで長い髪は、太陽の光を浴びて美しいツヤを出している。

そのツヤに負けないほどの美少女でもある。

そしてゴーレムであるラビ。

人と普通に会話しており、自ら魔力を持っている。

魔法を使うことも可能。

自立型…にしては異常。

いや、異端か?

契約はしてるようだけど、特にハルが命令を出している訳ではないようだし。

(自分の意志で動くゴーレムか…)

ミチは思う。

この二人は色々と危ないな。

ハルの見た目に髪色、意志を持つゴーレム

(周りは放っておかないだろうな)

ミチが自分の世界に入っていると、ハルに声をかけられた。

「あ、これ!黒焦げになっちゃってたスイーツ。今日の限定品だよね?」

「!」

ミチは嬉しそうに反応したが、すぐにその感情を抑えた。

「?どうしたの?」

ハルは首を傾げる。

「い、いや。それは君たちで食べるといい」

「へ?何で?おっさんが食べてたじゃん」

(君もおっさん呼びなのか…)

「そ、それは…」

ミチは気まずそうにしている。

今までの職業柄、人前でスイーツを食べるのは避けてきた。

見た目とのギャップに皆が引いてしまうからだ。

「じゃあ、一緒に食べようよ!ね、ラビ」

「ケロ!うまそー」

「別におっさんが甘いもの好きでもいいじゃん。好きな物は好きなんだから、我慢しなくていいと思う。私もラビも好きだし」

「!そ、そうか。し、しかし」

「はい!どうぞ」

ハルはミチの目の前にいちごクリームタルトを置いた。

ハルとラビは美味しそうに頬張っている。

ミチはおそるおそる一口食べてみる。

口がとろけるような甘さ。

美味しすぎる!

ミチは隠し続けてきた自分の素顔を気にすることも忘れ頬張った。

その様子に、ハルとラビは顔を見合わせ微笑み合う。

つかの間のスイーツタイムを楽しむ三人だった。


スイーツを食べ終わった三人は、ゆっくり過ごしていた。

「てかおっさん、この前キャンドルにいたお客さんだよね?フード被ってた」

「あ、ああ。よく分かったな」

「うん、キャンドルのおじさんに聞いたんだー。私たちと同じで毎日買いに来てる客がいるって」

「そうだったのか」

「うん」

「ハルとラビは、この街に今住んでるのか?」

「うん、今はね。あと1ヶ月くらいで旅に出ようとは思ってるけど」

「旅?」

「そ。旅に出る前に体力作りとか戦闘訓練はしておこうと思って。おっさんは?」

「俺は色々あってな。大きな国からこの街に来たばかりだ。世界のスイーツを堪能しようと旅をしているんだ。まだここしか訪れてないが」

「いいね!世界のスイーツ巡りか」

「ケロ!俺も食いたい!」

ラビは目を輝かせている。

「ここ数日、二人の特訓を観察してたんだが、二人とも特殊な魔力を持っているな」

「特殊な魔力?何それ?」

「普通の魔力とは違って、扱える魔法の属性が多いんだ。属性が多いと、使える魔法も増えるからな、たくさん魔法を覚えたい時は特殊な魔力を持っているヤツが有利だな」

「へぇ、だから私もラビも属性が多いのか。知らなかった。まだまだ知らないこと多いなあ」

「そんなもんだ。少しずつ覚えていけばいい」

「ねえ、旅に出て街に着いた時の拠点ってどうしてるの?やっぱ宿屋に泊まるの?」

「それは冒険者によるな。宿屋に泊まるヤツもいるし、人と一緒は嫌だというヤツは家を買ってるヤツもいるな」

「家?」

「ああ。別荘みたいに街ごとに家を持つヤツもいる」

「へぇ!」

「俺は宿屋か野宿が多いかな」

「…ふぅん」

「1ヶ月後にこの街を出るって言ってたが、何か旅に出る目的でもあるのか?」

「特にないよ。ただこの街しか知らないから見てみたいし、面白そうな事とかあるかもでしょ?」

「そうか」

「家か…」

「?」

ハルは何か考えている。


一週間前のことだ。

ハルとラビが出会った街外れにある幽霊屋敷。

今はもう取り崩され更地になっていると聞いた。

その話を聞いた時、ラビは少し悲しそうだった。

だから、

「だから、その屋敷が建っていた場所に新しい家を建てたいなって」

「ケロ!?」

ハルの言葉にラビは反応した。

「あんなに立派な屋敷にはしなくていいから、可愛い感じの家に、ここが私の初めての街でラビと出会った場所でもあるから、旅に出ても最後はここに帰ってくるように。帰ってくる場所にするためにあの場所に家を建てたいなって」

ハルは照れながら言う。

「いいじゃないか、帰る場所を作っておくのは大切だ」

「ケロ!俺も賛成だ!!」

ラビは喜んでいる。

「じゃあ明日詳しい話をギルドに聞きに行こう」

「ケロ!」

ハルとラビは笑い合うと、ハルはすぐにミチを見た。

「おっさん強そうだよね?」

いきなり話題が変わったものだから、ミチは拍子抜けした声を出した。

「え?まあ、ある程度の戦闘経験はあるが」

「ねえ、この街にいる間だけでいいからさ私たちの特訓に付き合ってよ」

「別に構わないが…」

ミチはチラッとラビを見た。

「なあ?ラビは普段は人前で話すのか?」

「え?」

「ああいや、ちょっと気になったというか…」

ハルとラビはまた顔を見合せ、

「「あ…」」

二人は今気づいた声を出した。

「しまった、忘れてた…」

ハルは慌てる。

「普段は話してないよ!私の服の中に隠れるようにしているし、知ってる人も限られるというか」

「そうか」

「やっぱり街の外から来たおっさんから見ても、ラビが話してるのは気になるの?」

「まあ、契約主からの命令で話したり行動したりするゴーレムはいるが、自分の意志で話して行動するゴーレムは見たことがないからな。珍しいと思ってはいる」

「ケケ!俺は何にも縛られないのだー!」

胸を張りながらラビは答える。

「まあ、この先も気を付けた方がいいのは変わりない」

ハルとラビはうなづいた。

「さて、じゃあ特訓の続きをしようか」

三人は特訓しに向かった。


ミチに特訓を見てもらったハルとラビは、更に強くなった。

どうやらミチは相当強い騎士だったらしい。

長年騎士として国に仕えていたらしいが、国王から直々に休むように言われ旅に出たという。

ミチはハルとラビの無駄な動きを指摘したりアドバイスを的確に出したりと、とても経験が豊富なんだと分かる。

二人は師匠を得た感覚になり、楽しそうに特訓に励んだ。


「ふはー!疲れたー」

ハルは地面に倒れた。

ラビもハルの上に倒れ込む。

「二人とも筋がいいな!俺のペースに付いてこれるヤツは中々いないんだが」

「確かにスピード速いし、結界固いし、剣も強いし。隙が全然ない」

「はは!嬉しいな」

「ケロー、腹へった」

「だね。街に帰ってご飯食べよう。おっさんはどこに泊まってるの?」

「今は宿屋に泊まってる。飯は一緒にいいか?」

「うん」

ハルは起き上がり、三人は街に戻って行った。


いつもの店で夕食を食べる。

そこでミチから興味深い話をいくつか聞いた。

一つ目は移動式乗り物、スライディングボード(スライボ)。

二つ目は念話の魔法。

三つ目は毎年この街で起こっている失踪事件のことだった。

スライボにはとても興味が引かれたハルは、詳しく聞く。

また、念話の魔法も興味がそそられる。三つ目は穏やかじゃないなあと思った。

夕食が終わると明日またミチと会う約束をし別れ、二人はギルドの宿舎に向かった。





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