第7話 初めての武器
「ふわあ」
大きなあくびを朝イチからしたハルはベッドから起き出し着替え始める。
ここはギルドにある部屋。ギルドに登録している者が無料で使える宿泊施設だ。
6畳の部屋で、ベッドと机、イスしかないシンプルな部屋だが中々悪くない。
キャンドルというお菓子屋さんを見つけてから5日。
あれからヤタとメルサの家には帰っていない。手紙を出し依頼を集中して受けたいからという理由で帰らないようにしていた。
別に二人が嫌いになった訳じゃない。
ただ、あの家の空気が前世の自分の家の空気と似ているように感じてきてしまった。
帰るのが不安になってしまった。
この世界に来て、自分は明るくなったと思う。前世は暗かったし、今のように誰かといて笑うこともあまりなかったと思う。
今は楽しい、ラビと毎日美味しいもの食べて、特訓して…。
ここでは自分の気持ちを抑えずに生きられる気がする。
だから、壊したくない気持ちも強くて。
結局、逃げているのかもしれないけど、でも…
「ケロ?もう起きてたのか?」
目をこすりながらラビが起き上がる。
「おはよう、ラビ。今日も良い天気だよ」
「ケロ~」
まだ眠そうだ。
「今日は頼んでた靴とグローブを取りに行くよ!さ、ご飯食べに行こう」
ハルの言葉に目をパッチリさせたラビは、ハルの定位置に入り一緒に部屋を出た。
いつもの店で朝食を取り、終わるとすぐに街の西側に向かう。
武器&装備屋の看板を見つけると、一週間前に聞いた金属を叩くような音が響いてくる。
こんなに朝早くから仕事してるのかと少し感心し、店のドアを開けた。
「おはようございまーす」
ハルが挨拶すると奥にいた男性がハルに気づいた。
「おはようございます、品物は完成しておりますよ」
メガネをかけた男性はニッコリ笑うと、奥に行き品物を取ってきた。
すぐに箱を開ける。
「わあ!」
ハルが最初に開けたのはブーツだった。
色は黒で靴底は5センチほど高い。しかし、ほとんどぺったんこに近い。かかと付近には輪っかと羽のアクセサリーが付いていた。
「実はこのブーツは武器として使えるのは当然ですが、必要な戦闘時にだけ入れ替えることが出来ます。普段は普通の靴で歩き、戦闘になると魔力操作でブーツに入れ替わるという仕組みです」
「へえ!」
「それからご要望として、耐水性、耐熱性、軽量と追加アビリティを付加しております」
「はい!」
「それから、こちら」
次はグローブだ。
「こちらもブーツ同様、戦闘時に魔力操作で入れ替わる仕組みです。また、耐熱性、耐水性、軽量の追加アビリティも付加しております」
グローブの見た目も黒い。しかし、指先は空いている。手の甲部分にはブーツと同じ羽の模様が付いていた。
どちらも朱に映える色だ。
「指先は空いていますが、魔力によって守られますので安心されて下さい」
男性はニッコリ笑う。
残りはレインコートを受けとる。
すぐにでも使ってみたくなったハルはお礼を言うと店を出た。
キラキラと目を輝かせて走るハルは嬉しそうだ。一緒に話を聞いていたラビも、自分のことのように興奮している。
街の東側にある岩山まで行くのに、街の中心を通らなくてはいけない。
全力で走っていた。
「わあああああ!!」
と、そこへ、最大の歓声が響き渡りハルは驚いて足を止めた。
「な、なに!?」
歓声が聞こえた所を見ると、大勢の人がいた。一つの場所に群がっている。
「あれは、魔水晶?」
魔水晶…遠くの出来事をリアルに映し出す映像通信装置のことだ。会話も出来るらしい。
簡単に言えば、テレビと電話が一緒になったような感じである。
ハルも近くに行ってみる。
「何かあったんですか?」
近くの人に声をかけてみる。
「ああ、シセルという大きな大帝国があるんだが、そこの英雄王が退位したんだ。何でも戦えなくなったとか何とか。今まで何度か話が上がっていたが、とうとう押しきられて退位まで追い込まれちまった感じだな。今度は新しい英雄王が継ぐ訳だ」
「王さまがそんな簡単に替わっていいの?」
「ああ、あんた知らないのか。英雄王は王様じゃないよ!国の王様は別にいる。英雄王は、強い魔物を何十年も倒し続けてきた将軍に与えられる称号だよ。騎士や冒険者たちの憧れなんだ」
「へえ!じゃあ、めちゃくちゃ強いんだ」
「当然だ!一人で過酷な試練にも打ち勝たなければならないし、ドラゴン討伐もしなくちゃならない。並み半端な者は殺されちまうからな」
「ドラゴン!?ドラゴン討伐もするの?」
「そうさ!英雄王の役目はドラゴン討伐、またはドラゴンからの攻撃から国を守ることだ。これが出来ないと英雄王にはなれない」
「へえ!世の中凄い人もいるんだね」
「まあな。しかし、俺は心配だな」
「?」
「今まで英雄王の存在がドラゴンを抑えていてドラゴンたちも迂闊に手を出せなかったが、ここで英雄王が替わるとなると、退位した英雄王以上の強さ、迫力がないとまたドラゴンに攻められる」
男性は不安そうにため息をもらす。
ハルは魔水晶の映像を見た。
王冠を被った人(王様かな?)とその人の前で膝を付いている人(英雄王?)がいた。
英雄王、立派な黄金の鎧を着ている。髪は黒色で後ろに一つ結び。床には黄金の兜と大剣が置かれている。見た目からして強そうだ。
こんな人と替わるだなんて、相当強いんだろうな。
周りの人々の口からは、不満や不安の声が飛び交っている。
無理もない。それほど、この英雄王の存在は人々に安心と安寧をもたらしていたのだから。
新たな英雄王の紹介に、人々はさらに不安な声を上げた。
見た目は若い、チャラそう。あと弱そう
ハルが見た印象はこれ。
男性がまた教えてくれたが、この新しい英雄王は皆知っている人物だとか。
剣士とかではなく、魔法を主に使う魔導士らしい。
皆、絶望的になっている。
ハルは走り出した。
世の中には仕方のないこともある。
何を考えているのか分からないのが人間だ。
ハルは英雄王とかには全く興味はない。
だから今はとにかく靴とグローブの性能を試したい。
「寄り道してしまった!急げ!」
ハルはまた全力で走る。
魔力操作を行う。
足にはブーツ、手にはグローブが現れた。両方とも黒でカッコイイ!
足と手に炎の魔法を発動する。
炎の色で黒色が朱黒く見える。
炎を調節し飛んでみる。
靴とグローブのおかげで熱くはないし、上手く魔力操作をサポートしてくれている。
武器職人の腕は確かだったようだ。
一時間後
「よし!出来たよラビ!」
コントロールは上手く出来ていた。上下左右、体も自由に動かせている。
ハルは地面に戻る。
「よし!これで準備完了!ラビ、実戦だ」
「ケケ!待ってたぜ」
ラビは風魔法で爪を鋭く伸ばした風刃を発動し、ハルは手足に炎を纏い、格闘技で迎え撃つ。
二人は日が暮れるまで戦い続けた。
「つ、つかれた~」
ハルはベッドにダイブする。
「ケロ~」
ラビも同様だ。
魔力がなくなる直前まで戦っていたものだから、歩いて帰ってきたのだ。
「さすがに魔力は残しておくべきだったね」
ハルの言葉にラビはうなづく。
「でも良い感じに体に馴染んできた気がする。また色々試してみよう」
「ケロ~、魔力は薬屋に回復薬があるんじゃないのか?」
「ああ!確かに!じゃあ、明日の朝買いに行こう」
「ケロ~」
二人はそのままベッドで休んだ。
翌朝
「おはようございまーす」
以前二人が訪ねた道具屋に来た。
確か薬もあったはず
「おう!らっしゃい!」
相変わらず店主の頭は輝いていらっしゃる。
「今日は薬を見に。魔力と体力回復の薬はありますか?」
「こっちだ」
店主の後に付いていく。
体力回復薬
ポーション 200回復 10ミル。
ハイポーション 800回復 50ミル。
メガポーション 1500回復 100ミル
ハルは考える。
魔力回復薬マジックポーション
200回復 9ミル
800回復30ミル
1500回復70ミル
「他にも状態異常を回復させる万能薬がある」
万能薬 30ミル
効果 毒 麻痺 眠り やけど 石化 凍り
「他にもまだあるが、今はこれらが必要なんだろ?どうする?」
「うーん。じゃあ、ポーション10本、ハイポーション5本。あと、マジックポーション200回復が10本と万能薬10個で!」
「まいど!」
ハルは支払いを済ませ、アイテムバックにしまう。
「お前たち東の岩山で特訓してるんだろ?」
「何で知ってるんですか?」
「岩山の方からよく音が響いてくるからな。街の人間も知ってる。ただ以前気になるからと見に行って巻き添えを食らった奴がいたから、誰も見に行かないけどな。フードを被ってる少女がよく行ってるって聞いたから、お前たちじゃないかと思ってな」
「音が聞こえてたんですか、はは」
「ま、無理だけはするなよ」
「はい」
「ケロ」
「あー、それから」
ハルが店から出ようとすると、呼び止められた。
「最近、怪しい老婆がうろついているという噂がある。お前たちなら大丈夫だと思うが、気を付けろよ」
「分かりました」
ハルは店から出た。
怪しい老婆か
ハルは少し気にしたが、すぐに特訓に向けて走り出した。
靴とグローブを装備し特訓して一週間経った。
今やラビとハルは互角にわたり合っている。
ステータスを確認した所、ハルはレベルが20から25に、ラビは14から19に上がっていた。
いつの間にか二人とも、レベルが5も上がっていたのだ。
さすがに驚いた。
今日は特訓は休みにし、街中を歩いている。特訓して鍛えるのも大切だが、体をしっかり休ませることも大切なのだ。
なので、久しぶりにのんびり起きてさっき街に出てきたのだ。
キャンドルの店に来る。
初めて店に来た日から毎日ずっと通い続けている。
もう店のおじさんとは顔見知りである。
「おはよう、おじさん」
「おう、嬢ちゃん!らっしゃい!」
相変わらず元気な人だ。ハルの隣にフードを被った人がいておじさんと喋っていたが、おじさんは返事をくれた。
「今日は何食べようかなぁ」
「毎日ありがとよ!今日は特訓休みかい?」
「うん!体を休めるんだー。明日はギルドの依頼でちょっと出掛けるけど」
「そうかい。なら今日のうちに食べときな。明日は悪いが店は休みにするからな」
「ええー、分かった。じゃあ、マカロンボックスとクッキーボックス」
「あいよ」
支払いを済ませるとハルは走って去って行った。
「悪いねお客さん、待たせちまって」
おじさんはフードを被った人物に話しかける。
「いえ。さっきの子は?」
「ああ、三週間くらい前にこの街にきた子だよ。ギルドの依頼をして生計立ててるみたいだ。よくうちに買いにきてくれる常連だよ」
(あの子の魔力、独特な魔力を感じた。それにフード下から珍しい髪色が見えた)
「今は東の岩山で特訓をしているんだよ」
「へえ」
フードの人物はクッキーを買うと去って行った。
次の日、ハルはギルドの依頼に来ていた。
街の南にある店から特注した道具を受け取ってくる依頼だ。
早々と依頼を達成し、岩山に向かおうかと思っていたら、店から追い出されていた老人が見えた。
「い、たたた」
老人は腰をさすっている。
「大丈夫?」
ハルは近づき立つのを手伝う。
「…ありがとよ、嬢ちゃん」
「どういたしまして」
老人はため息をついた。
「どうして追い出されていたの?」
「分からないんだよ。店に入ったらお前が最近噂になっている奴かと言われていきなり追い出されたんだ」
「ひどいね」
「腹が減っているんだけどねぇ」
「なら私がいつも行っている店に行こうよ!私の顔は店の人は知ってるし、追い出されることはないと思うよ。ちょっと歩くけどいいかな?」
「ホントかい?助かるよ」
二人は歩いて行った。
「ここがお店だよ」
ハルが毎日通っているお店に着いた。
二人は中に入り席に着く。
ハルの言った通り、店員はハルの事を知っていたので追い出されることはなかった。
早速注文し、温かいスープが出てきた。
老人はゆっくりとすする。
「はあ。温まるねぇ。お嬢ちゃんのおかげで空腹で過ごすことは避けられたよ。ありがとうよ」
老人は微笑みながらハルにお礼を言った。
「どういたしまして。お婆さんはどこから来たの?」
「この街からかなり遠くの街さ。ちょっと用事があってこの街に来ていたんだ」
「へえ。そんなに遠くの街から一人で?」
「いや、付き添いはおるよ。ただ隣村にいるんだよ」
「隣村って、一番近い村でも30キロも離れてるらしいけど、その距離を歩いてきたの?」
「途中、馬車が動いていたから一緒に乗せてもらったのさ」
「なるほど!用事は済んだの?」
「ああ、昨日のうちにの。明日この街を出る予定なんだよ」
「明日?じゃあ一緒に行こうよ!」
「お嬢ちゃんも隣村に用があるのか?」
「うん!明日、ギルドの依頼で隣村に行く予定なんだ」
「そうかい。じゃあ、お願いしようかね。誰かと話をしながら楽しめるのが旅の醍醐味じゃて」
老人はホッホッホ と笑うとまた温かいスープを飲むのだった。