第3話 ギルド
朝目が覚めると辺りを見渡す。
(…ああ、そっか。ヤタさんの家だった)
体を起こし身支度を整える。
(今日はギルドに行って身分証を発行してもらおう。それから、依頼書を少し見てお金を稼がなくちゃ。本屋に行ってもお金がなければ買うことは出来ないし)
ハルは部屋を出る。
リビングに来るが誰もいない。出掛けてるのだろうか?まだ早い時間だというのに。
ハルは家の玄関に向かって歩き出した。
その時、
「どこに行くんだい?」
後ろから声をかけられ、ハルは驚く。
「あ、おはようございます。メルサさん」
「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「はい」
「それは良かった。ところで、どこに行くつもりなんだい?」
「ええっと、ギルドに行こうかなと」
「こんなに朝早く行かなくてもいいだろうに。まだ朝ごはんも食べてないよ?」
「え?朝ごはん?」
「ああ!一日の元気は朝ごはんからだよ!もうすぐ出来るから、ソファに座って待ってな。ヤタももうすぐまき割りから戻ってくるはずさ」
「で、でも…」
「いいから!」
メルサに強引に捕まれ、ソファに座らせられる。
メルサはご機嫌で、朝食を作りに行った。
(朝ごはんか)
不思議な感覚にとらわれつつも、ハルは朝ごはんが出来るのを待った。
少し経ってヤタが帰ってきた。そのすぐに朝ごはんが完成し、三人一緒に席に座り朝ごはんを食べる。
ヤタとメルサが話で盛り上がる中、ハルは久しぶりに人と食事が出来たことをまた不思議な感覚で捉えていた。
朝食を終え、ヤタとソファに座って話していたハル。
「今日はギルドに行くんだろう?俺、今日は非番だから一緒に行ってやるよ」
「え?いいんですか!?」
「おうよ!この街の事も、案内してやらぁ」
「ありがとうございます!助かります」
「良いってことよ。そいじゃ、行くか!」
二人はソファから立ち上がり、家を出た。
街中を歩くヤタとハル。
結構賑わいのある街だなと、何となく思う。一軒家の家が並び、店もある。目立つ建物はほとんどないが人の数は多い。店に行列が出来ている所もある。
しかしハルは特に異世界の街を見て嬉しいとか興奮する訳でもなく、淡々と見ているだけだった。
「そういやハルは街の名前は知ってるのか?田舎から来てるくらいだから、もしかして知らねぇか?」
(あ、街の名前…)
「知らないです。何て名前ですか?」
「ここはカザールの街って名前だ。昔は鉱山で有名だった街だ」
「カザール…。鉱山の街。今は違うんですか?」
「まあな。昔は鉱石がたくさん取れてたんだが…、まあ、取りすぎも良くねぇってこった!今はもう取れねえって話だ」
「へぇ」
「昔と比べて魔力があれば魔法が使えるからな、生活に支障はねぇ」
「そうなんですね」
「ああ。お、見えてきたぞハル!あそこに見えるのがギルドだ」
ヤタの示す方へ視線を送ると、古びた建物が見える。一軒家よりも大きな建物だが、あまり目立つ方でもない。建物に近づくにつれ、入り口の上に時計が付けられているのが分かった。
「時計だ…」
何となくハルが言葉に出す。
「すげぇだろ?この時計がギルドのシンボルだ。他の街のギルドにも時計が付けられている。これを目印にすればいい」
ヤタはそう言うと、ギルドの入り口に向かって歩き出した。ハルも後を追う。
ギルドの入り口を開けると、人が数人いた。ヤタは特に気にする様子もなく、ドカドカと進んでいく。ハルも後を追いながら周りを見渡す。三人で何か話し合っている人や、何か広告が貼ってあるものを見つめている人、カウンター越しで話している人様々だ。
「ここだぞ」
ヤタの声で前を向くと、女性が一人座っているカウンターの前にいた。
「よう!こいつをギルド登録したいんだが」
ヤタが話をし出した。
女性はハルを見てニッコリ笑う。
「はい、ギルド登録ですね。どうぞお座り下さい」
ハルは言われるままイスに座る。
「今回ギルド登録を担当します、サワと申します」
「あ、ハルです」
「ハルさんですね、よろしくお願いします。ではギルド登録に関する説明を行います。ギルド登録とは身分証明書の事を言います。ギルドで依頼を受ける時や街から街に移動する時、街に入る時に身分証明書を見せることで持ち主であるハルさんの証明を行います。難しい手続きをすることなく身分証明書を見せることで、スムーズに事を進めることが出来るのです」
「はあ」
「では登録をしますので、こちらの水晶に手をかざして下さい」
「はい」
ハルが手をかざそうとすると、ヤタから通行許可証の事を言われた。サワに渡す。
水晶に手をかざし、じっと待つ。
すると水晶は青く光り、すぐに収まった。
「はい、これで登録完了です。こちらがギルドカードになります。再発行にはお金がかかりますので、無くされないようお願いします」
「カード…っていうか、鍵?」
ハルのいう通り、カードではなく鍵の形をしていた。
「普通はカードなのですが、今は街起こしの期間で、その間だけカードではなく鍵になっているんです。特に珍しいことではなく、他の街でも大事なイベントの時はカードではなく別の形になっていたりするんですよ」
「へぇ。かわいい」
「ハルさんは依頼を受けたりされますか?」
「一応」
「ではあちらの壁に依頼書が貼ってありますので、何か依頼したいものがあれば依頼書を持ってカウンターまでお越し下さい」
「制限とかあるんですか?」
「ございます。ハルさんの能力からすると、現段階ではB級までなら受けれますよ」
「B級」
「レベルや能力を見て判断しますので、さらにA級やS級を目指すことも可能です」
「分かりました。ありがとうございます」
ハルは立ち上がり依頼書が貼ってある壁に近づく。
「すんなり終わってよかったなあ。もう依頼を受けるのか?」
「今の自分に出来るものがあればと。買いたい物もありますし」
「ほぉ。何が欲しいんだ?」
「えっと、魔法書」
依頼書を、確認しながら答える。
「魔法書かぁ、なら俺の家にたくさんあるぞ?」
「へ?」
ヤタの言葉にすっとんきょうな声が出た。
「俺の家にある。好きなだけ見ていいぞ」
「あ、ありがとうございます?」
まさかヤタの家にあるとは、しかしこうして魔法書の事は気にしなくて良くなった。時間が空いている時にでも借りよう。
依頼書の紙をゆっくり見ていると、奇妙な依頼書を見つけた。
「幽霊屋敷の調査 報酬、3000ミル 期限なし
年期が入っている屋敷を取り壊したいが、壊そうとすると事故が起きる。この屋敷は呪われているんじゃないか?誰か調査して欲しい」
「幽霊屋敷調査ね。定番じゃねえか?」
ヤタが言うが、ハルにはそんなことは些細な事だ。ハルが気になっていることはそこじゃない。
(報酬3000ミル…、ミルって、何?)
この世界の新しい単位に首を傾げるしかなかった。
「ヤタさん、聞きにくいんだけど…」
「何だ?」
「この世界のお金の単位、ミルって初めて聞いたんだけど」
ハルの言葉にヤタは固まる。
(そりゃそうだよね~。生活に必要な金を持っていない所か、単位まで知らないとは)
「おま、相当な田舎から来たとは思ったが、金の単位すら知らないとは」
「ハハハ」
「まあ、最初に会ったのが俺で良かったな、ホント」
「ですね」
「いいか、金は世界共通でミルという単位を使っている!」
(おお、世界共通ありがたい)
「で、大体の相場で行くと、一ヶ月必要な金は400ミルあればやっていける。宿代でも10ミルあれば泊まれる」
(10ミル…ん?ちょっと待ってよ。そういえば最初にもらった本、全部読んでない。そこにお金のこと、書かれてたんじゃ)
ハルは本を取り出し開く。
「何だ?書いてあるじゃないか」
ヤタが横から見て言う。
(ホントだ、書いてあった。何々?)
1ミル=10円、50ミル=500円、100ミル=1000円、500ミル=5000円、1000ミル=10000円
(……はあ!?何これ?え、さっきヤタは400ミルあれば一ヶ月生活出来るって言ったよ!?って事は、一ヶ月4000円でやっていけるってこと!?)
ハルは頭が爆発しそうになる。
(しかも宿代は10ミルって、100円で泊まれるって事じゃない?)
ハルは開いた口がふさがらなかった。
ヤタの声で我に返ったハルは、依頼書を確認する。
(報酬が3000ミルってことは、三万円。一ヶ月どころか、半年は生活出来る。でもこんなに報酬が高いとなると、今までの依頼は失敗しているということ。だからこんなに高くしてでも成功させて欲しいんだ)
「どうする?受けてみるか?」
ヤタはハルに聞く。
「やって、みます!」
ハルは勢い良く依頼書を取り、カウンターに持って行った。
(これが私の初仕事!)
ワクワクしているのだろうか?
分からないけれど、やってみたいという気持ちがあるのは確かだった。