第2話 異世界
「う、ここは?」
光の眩しさに目を覚ましたハルは、辺りを見渡す。
光が森の木々に差し込み、綺麗な絵画のようだ。
「ここが異世界」
ハルは自分の姿を確認してみる。
髪は赤髪に近いオレンジ色、腰くらいまで長い。細身の体だ。
(年齢は、確か)
「ステータス」
ハルが言うと、目の前に画面が現れた。
ステータスと書かれており、名前、年齢、攻撃力などが書かれていた。
ハル 14歳 Lv.20 リエスタールの加護
攻撃力 20 魔力 20
防御力 15 薬学知識12
魔法攻撃力 火 12 炎 12 水 11 氷 11 土 10 闇 5 風 6 光 11 雷 10
耐性 15 魔法防御力 15
分析能力 16
持ち物 アイテムバック
※1~5までD級、6~10までC級、11~30までB級、31~40までA級、41~50までS級
「ええと、年齢は、 14歳?今までと変わらない」
年齢を確認したハルは、神に言われた通り本を読み始めた。
この世界の知識は必要だ。街に入る前に見ておこうと思った。
「ええと、まずはこの世界について。」
世界樹と魔力
世界樹を中心に栄える世界、モーテル。
世界樹から発せられる魔力によって、人々は魔法を使うことが出来る。
魔力は人々にとって生命力の一つでもある。
その魔力は生き物全てに影響を及ぼす。動物も同じである。
しかし強すぎる魔力に当てられた者は、人でも動物でも凶暴化することがある。動物ではこれを魔物化と呼び、人では魔人化と呼ぶ。また、魔物化、魔人化には強い願い、想いが干渉し発生するとも言われている。 諸説あるが根本的な原因は不明である。
魔法
魔力を体内で調節し放出することで発生するものを魔法と呼ぶ。
属性は火、炎、水、氷、土、風、雷、闇、光の九属性が存在する。
また武器に魔法を付加する魔法剣士も存在しているが、扱いが難しく扱える者は数少ない。よって希少価値が高い。
神の加護
生まれながら神の加護を持つ者がいる。神の加護持ちは幸運が訪れると言われている。
ギルド
各国に一つは設置されている建物。
年齢制限がなく、人探しから魔物退治まで幅広く依頼を受けることが出来る。
ギルドに登録し身分証を持っておけば、国々で証明書として使うことが出来る。
「ふうん、なるほど」
ハルは本を読み終わり、近くを見渡す。
「確か近くに街があるって言ってたな」
ハルは立ち上がり、森の中を歩いていく。
(転生したてでレベル20っていうのは凄いな。攻撃力とかあったし、街に行く前にどれだけ戦えるのか確認した方がいいかな)
歩いていくと早速広けた場所に出た。
「ここで試してみよう」
ハルは目をつむり体内に流れる魔力を感じることから始めた。
(確か、本には体内で魔力を調節するって書いてあった)
集中する。
周りは風で揺れる木々の音。
「…っ!感じた!これが魔力、何だか血液と同じように自然に体の中を流れている感じ。不思議」
ハルはそのまま魔力を感じ続ける。
(後は属性に合わせて放出する。私には全属性が使えるから、まずは火)
指先に魔力を集中する。すると少しずつ指先が熱くなる。
(今だ!)
そう言い魔力を一気に放出すると、手から火、いや、炎が舞い上がった。
(……凄い)
あまりの迫力に圧倒されるハル。
「よ、よし。街に着くまで魔法を出す練習を繰り返そう」
歩き出したハルは手の平に魔力を集中させながら属性を変化させ続けた。
街が見える頃には魔法を簡単に出せるようになっていた。魔力とは体の一部、そう思えば自然に出来ていた。後は、
「後は魔法書を見つけないとな。こうやって出すだけなら出来るようになったけど、攻撃か技としては使えない気がする。街で本屋を探してみよう」
そう言ったハルの目線は、街の入り口を見つめていた。
「おおー、でかい」
ハルは街の入り口である巨大な門の前に立っていた。
「どうやって入るんだろう?」
そろそろ日が暮れる。その前に街に入りたいんだけどな
入り方が分からないハルは、その場に立ち尽くしていた。
その時、
「おおーい!」
「?」
右側から誰かが走ってくる。
少しすると、中年のおじさんがやってきた。背格好は低く、肌は少し黒い。体には防具を着けているのだろうか?走る度にガチャガチャ音がしている。
「お前さん新顔だな。この街に入りたいんだろ?」
「まあ」
「この街に初めて来たやつは、大概ここら辺で立ち止まってるんだ。入り方が分からないからな」
ニコニコして言うおじさんは誰だろうか?
この街の人か?
不思議そうに見ていると、それを感じとったのだろうおじさんは話してくれた。
「俺は別に怪しいもんじゃねえよ。俺はこの街の門番をしている。名前はヤタだ、よろしくな嬢ちゃん」
「門番ですか!私はめ、じゃなかった!ハルと言います」
「ハルね、よろしく!この街に入りたいんだろ?」
「はい」
「じゃ、俺に付いてきな」
そう言いおじさん、ヤタは背を向け歩き出した。
ヤタが歩き出した方向は、ヤタが走ってきた方だ。
そのまま巨大な門のすぐ横に来た。
「ここが入り口だ」
ヤタが言うと、2mくらいのドアが開いた。
(!?え、あの巨大な入り口は一体何の為に…)
ニコニコ笑うヤタを見てハルは考えるのを止めた。
「ハルは身分証は持ってるか?」
ヤタに聞かれ正直に答える。
「いいえ、持ってないです。ギルドで作れると聞いたので」
「あー、この街で作るんだな。ならこの通行許可証を渡すから待っててくれ。ギルドで身分証を貰えたら、それを見せればすんなり通れるからな、持ってた方がいい」
「そうなんですね」
「ところで、ハルはどこから来たんだ?この街の近くには村とかねえし、近い村でも30キロ先だ。そこから来たのか?」
ハルはギクッとなる。
「えと、もっと山奥からです。村人がいなくなったので、街に出ようかなと」
「ほお。人がいなくなったのか、そりゃ大変だったな」
「い、いえ」
急に出てきた冷や汗を必死に止めようとしている間に、通行許可証が出来たようだ。
「ギルドで身分証を作って貰うときに、この通行許可証を出すといい。時間がかからなくて済む」
「はい」
ハルは通行許可証を手に入れた。
「…そうだ!ハル、今晩泊まるとこはまだだよな?」
「え?はい。宿屋探しはこれからです」
「金はあるのか?泊まるにしても、金がいるぞ?」
「あ」
考えていなかったー!!
そうだ、お金がいるんだった!!
「何だ持っていないのか?」
「はい、お金の存在を忘れていました」
「わーはっは、生活に必要な金を忘れるなんて、相当な田舎暮らしだったなあ」
恥ずかしい…
「……なら、俺の家に来るか?」
「え!?いや、いきなり見ず知らずの人間に」
「はは、なあにお前が悪い人間じゃないことは今までの会話で分かる!それにお前が来てくれたら、カミさんが喜びそうだ」
「奥さん?」
「ああ!子ども好きでな、遠慮はいらんぞ!」
ヤタはニコニコ笑っている。悪意のない笑顔だ。それにお金がないのは事実。忘れていた自分が悪いのだ。
「そ、それじゃあお世話になります」
「おう!まかせとけ!!」
ヤタの笑顔にハルは不思議な気分になる。
人の好意が素直に嬉しい。
「おーい、帰ったぞお」
ヤタの声が一つの家に響き渡る。
「おや、おかえりあんた」
家の奥から出てきたのは少しぽっちゃりとした女性だった。茶色い髪を後ろに一つに束ねて、エプロンをしている。家庭的な雰囲気だ。
私が女性を観察していると、目が合った。
「その子は?」
「ああ、こいつはハル。今日この街に来たんだが、金を持っていなくてな。しばらくここに泊まることになるから、よろしくな」
「あいよ!」
ん?
「ヤ、ヤタさん?しばらくって?今日だけじゃ」
「細かいことは気にすんな!」
(え、ええ~)
「あんたハルって言うの?私はメルサだ、よろしくね」
「は、はあ」
今日だけのつもりが、半ば強引に近い感じでしばらく泊まることになってしまった。
メルサの案内で部屋に入る。
やっと落ち着けた。ベットに転がり今日の事を考える。
異世界に来て初めての街で、初めて人と話して、不安もあったはず。けど、初めて出会った人がヤタさんで良かったとそれだけはハッキリと思っていた。
明日からまた、初めての事ばかりだと思う。だけど今は安らかな眠りを。
ハルは静かに眠りについた。