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第7話 妖精王への進言

 食堂の大テーブルの上に、突然、大きな包みが現れた。

 

「おや。妖精王からのようだ」

 

 レルシュトの手には、封書が届いたようで、送り主の名を確認しつつ、封を開けている。

 

「妖精王さまから、直接、こんな風に届くんだ」

 

 だいぶ瞳を丸くして、ディルナは呟いた。

 包みは、金色の刺繍がたっぷりと施された豪華な布で覆われている。

 

「妖精王への進言が聞き入れられたようだ。ディルナ、ちょっと、こっちへ来てくれ」

 

「はい」

 

 黒い猫の手に手招きされて、レルシュトの後ろから、大きな包みの方へと歩いて行く。

 レルシュトが包みに触れると、自然に布は外れて、中からごうしゃな宝石箱のようなものが現れた。

 

「悪い魔道師の詳細を教えて欲しいとのことだ。分かっていることを、これに向かって喋ってくれればいい。言葉づかいは気にせず普通に喋るだけで良いから」

 

 レルシュトが手紙に書いてあったらしい内容をディルナに伝える。

 

 ディルナが頷いて、宝石箱のようなものの正面に立つと、箱は、一辺だけが繋がったまま、パカっと後ろに折れるように開いた。箱の中には、色とりどりの透明な宝石のような石が入っている。

 ディルナは、一旦、大きく息を吸うと、開いた宝石箱に向かって、喋り始めた。

 

「えーと。悪い魔道師は、名前は、ルドラフ・マラン、っていう男の人だったと思う。

 茶色い髪に、薄茶色いような眼の色で、長い髪は全部、後ろで纏めて縛ってたかな。

 黒い装飾に黒くて大きな宝石みたいのがまった額飾りをしてた。

 

 首輪の枷に記憶を閉じ込めて、帰りたい場所を無くしてから、奴隷として売るんだって。気がついた時には、首に枷が嵌まってた。

 それと、逃げても追いかけられるように、魔法のかかった手枷と足枷を嵌めるって。手首と足首にも、いつの間にか枷が嵌まってた。枷は、悪い魔道師にしか外せないんだって。

 

 悪い魔道師は、ディアリスの街のガラノエ家っていう貴族のところに良く出入りしていたみたいだよ。ボクもそこに売られたんだ。

 使い魔のことは良くわからないけど、色んな所と連絡取り合ってたみたいだから、何か使っていると思う。

 最近は、ボクの働きが良くないから、遊郭に売ろうかって相談を、ガラノエ家の人は、悪い魔道師としてたみたい」

 

 こんな感じでいいのかな、と、綺麗な宝石箱に向かって喋った後で、こそっと、レルシュトに聞いた。

 レルシュトは、少し怒ったような顔をして、黙ってディルナの喋るのを聞いていたようだったが、ディルナの言葉には、ニッコリと笑って頷いた。

 

「了解した!」

 

 不意に、そんな声がして、宝石箱は閉まった。

 そして、ばさりと、鳥のような羽が生えたかと思うと、そのまま壁も扉も通り抜けて、宝石箱は飛んでいってしまった。後には、レルシュトに宛てた手紙だけが残り、包みの豪華な布も消えていた。

 

 

「わぁ、びっくりした」

 

 しばらくして、ようやく、ディルナは呟いた。

 

「妖精王さんって、に住んでるの?」

 

 どこから尋ねていいものか悩みながら、まず訊いたのは、それだった。

 

「妖精王の住む城は、我が輩の屋敷の前から伸びている広い道を、ずっと真っ直ぐ行けば辿たどり着ける。だが、まぁ、相当、遠いから馬車を使ったほうが良いだろうな」

 

「屋根裏部屋から見えてる広い道を真っ直ぐ行くのかな?」

 

「そうだよ。さすがに王宮は遠すぎて、屋根裏部屋からでも、良く見えないとは思うが、一本道だ」

 

 あの道の先に王宮があるんだ、と思うと、なんだか、とてもドキドキした。

 

「王宮では、時々、祭がもよおされることがあるから、出かけて行く機会も出てくると思うぞ?」

 

「え? ボクでも、王宮に入れたりするの?」

 

「祭の種類にもよるが、妖精界の住人であれば誰でも入れるし、勿論、ディルナも入ることができるぞ?  ディルナは、既に妖精界の住人として認められているからな」

 

「ホント? それは、嬉しいな」

 

 妖精王の王宮に入ることができるらしいことも、妖精界の住人として認められている、との言葉も、どちらも凄く嬉しい。

 

「妖精界の住人であればこそ、悪い魔道師の手からまもろうと、妖精王が動いてくれている」

 

 レルシュトは深く頷きながら、心強いことだ、と、小さく呟いた。

 

 

 

「花束を、お部屋に置いてくるね」

 

 食堂のテーブルの上に置きっぱなしになっている花束を手にし、レルシュトにそう告げると、一階から五階まで、階段を駆け上がっていった。

 降りる時より、少し息が切れて、途中からは、だいぶゆっくりな足取りになっていた。桃色の綺麗な花の花束は、一旦、机の上に置いた。

 

 そして、また階段を一階まで駆け下りた。

 可愛いレース飾りが裾についたスカートが、ふわふわと舞う。

 

「レルシュト様、何か、ご用、ありませんか? お掃除でも、お片付けでも、何でもします!」

 

 食堂にまだレルシュトが居るのを見つけて、少し息を切らしたまま、ディルナは聞いた。

 

「そんなに急いで走らなくても大丈夫だよ。そうだねぇ、掃除や片付けは、今の所、あまり無いような気がするよ」

 

 レルシュトは少し思案気だ。

 

 食堂のテーブル横の背の高い椅子から、ザージュが飛び降りて、窓からの光が射す方へと歩いて行くのが見えた。日だまりで丸くなり、毛繕いをしているのは、猫そっくりだ。

 

「明日か、明後日くらいになったら、ちょっと、お使いを頼みたいと思っているが……」

 

 声を耳にし、ザージュから、視線をレルシュトへと移す。

 

「お使いですか?」

 

 ぱぁ、っと嬉しそうに笑みを向けてディルナは問い返した。

 

「そう。直ぐ近くの分かりやすい場所だ。頼んだものが出来上がってからだが、それらを取りに行って欲しい」

 

「わかりました! でも、今日のお仕事は?」

 

 レルシュトは、うーむ、と、また少し、思案気だ。

 

「この屋敷に、仕事らしきものは、特に無いのだが……おお、そうだ」

 

 何か不意に思い出したように、レルシュトは呟いた。が、まだ少し思案気にしている。

 

「そういえば、ちょっと、散らかりすぎている場所が、あるにはある」

 

「どんな所でも、お片付けしますよ!」

 

 散らかっている場所があると聞いて、どこもかしこも綺麗になっているこの屋敷に、そんな場所があるなんて、意外でもあり、ディルナは興味津々だ。

 

「何が出てくるか分からんので、少し危険はあるかもしれないが、行ってみようか」

 

 レルシュトは、食堂の端の方にある棚の中から、古めかしいような大きな鍵を取り出すと、こっちだ、と手招きする。

 

 ディルナは、ワクワクしながら、レルシュトの後について行った。

 

 


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