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第5話 下僕の屋根裏部屋

 ブランケットを持ったまま、ディルナはレルシュトについて階段を上り、四階の端から、更に今までとは少し違う造りの、横幅の狭い、ちょっと急な階段を上がっていった。

 

「この屋敷で、一番、狭い部屋といえば……ここだな」

 

 階段を上がった所には、小さめな踊り場のような場所があり、扉が一つ。レルシュトは、その扉を開けて、ディルナを中へと招き入れながら言った。

 

「わぁ、可愛いお部屋」

 

「普段は使われない、屋根裏部屋だよ。外から見ると、屋敷の上に、ちょこんと乗っかっている部分になるな」

 

 一番、狭い、とレルシュトは言うが、確かに最初の部屋の四分の一くらいの広さだけれど、十分、広いと思う。

 壁や柱の装飾は、控え目だけれど、屋根裏部屋、というには、だいぶ豪華だ。

 

 天井が、その上が屋根なんだな、と形を思わせる変形な形で、ちょっと素敵だった。

 部屋は、ほぼ真四角で、窓らしきはカーテンが掛かっている一箇所だけ。調度類は、何もなかった。

 

「じゃあ、ちょっとベッドを入れてみようか」

 

 レルシュトがそういうと、部屋の奥に、さっきまで寝ようとしていたディルナ用の天蓋付きのベッドが現れて、ディルナは瞳を丸くした。

 

「少し、小さくした方がいいか」

 

 レルシュトが呟くと、天蓋付きのベッドは、小さくなって、この屋根裏部屋に丁度良い大きさになる。ディルナが寝るにも、丁度、収まりがよさそうだ。

 

「ふむ。一応、机と椅子、それと、クローゼットは運び入れておこう」

 

 ベッドの反対側の壁に、それらは並んで、綺麗に配置された。

 

「レルシュト様の魔法だったんだ!」

 

 いつの間にやらディルナの部屋が整えられていた理由がようやく分かる。

 よくよく考えてみれば、レルシュトは、ディルナの前で、何度も魔法を使っていた。

 

 ディルナの言葉に、レルシュトは、黒猫の顔で、にんまりと笑った。

 

「着替えも、そのまま持って来た。家具を入れたから、更に、だいぶ狭くなったと思うぞ」

 

「はい。これなら、落ち着きそうな気がします!」

 

 すごくホッとした気分になっている。広すぎて居心地の悪い感じは、この屋根裏部屋には全くない。

 抱きしめたまま持ち歩いていたブランケットを、一旦、小さく手頃な大きさになったベッドの上に置き、ディルナは部屋の中をぐるっと歩いて回る。

 

「ここは五階だから、一階の食堂や風呂場に行くのに、ちょっと階段が大変だとは思うが。だが、気に入って貰えたようで良かった」

 

 レルシュトは、ディルナよりも余程ホッとした様子で、黒いひげが少し下がっていた。

 

「お手間、おかけしてしまって、済みませんでした。ここ、凄く素敵です。この机も、嬉しいな」

 

 ぺこりと頭を下げ、それから、また机やクローゼットを眺めて、ディルナは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「そうそう。言い忘れていたが、夜の間は、あまりカーテンを開けて外を見ない方が良いだろうな」

 

 ふと、窓が気になり、カーテンの掛かった方へと歩いて行こうとしていたディルナを、レルシュトの声が留めた。

 

「はい! 分かりました。……でも、何故です?」

 

 慌てて歩くのを止めて、レルシュトの方へと振り向いてく。

 

「時々、ちょっと怖いものが空を飛んでいるし、高い場所だと近くまで寄ってくることがあるからな。勿論、見ても構わんよ。どんな怖いものも、この屋敷の中には入って来られないから。ただ、まぁ、夜は窓を開けない方が無難だろう」

 

 怖いもの、の言葉に瞬きし、それから、コクコク頷いて、夜は、外、見ません、とディルナは小さく呟いた。

 

 

 レルシュトに、お休みなさい、を、もう一度告げて、扉を閉めると、無造作に置いたはずのブランケットは、しっかりベッドに綺麗にかけられていた。小さくなったベッドに、合った大きさになっているようだ。

 細かい心使いに感謝しながら、ディルナはベッドにもぐり込む。

 

 心地好い感触のベッドで目蓋を伏せると、今度こそ、すっかり安心してディルナは深い眠りへと落ちて行った。

 

 

 

 カーテンの隙間から、明るい光が部屋の中へとわずかに差し込んでいる。

 ずっと地下の暗い部屋で、多数の奴隷たちとが常だった身は、その暖かな明るさを感じて、飛び起きた。

 

「あ……、夢じゃなかったんだ」

 

 小ぶりになっても豪勢な天蓋付きのベッドも、昨夜、レルシュトが運び入れてくれた調度類も、変わりない。

 枷から変わった首飾りは、とても自然な感じで、少しも眠りの邪魔にはならなかった。

 起き上がった途端に、カーテンが閉められている部屋は、灯りをともしたような明るさに包まれる。

 

 ディルナは、室内履きでクローゼットまで歩くと、割と控え目なレース襟の長袖ブラウスと、裾に白いレース飾りのあるスカートを選んで身につけた。

 靴下を履きながら、足首の金鎖に指が触れると、不意に金鎖は、靴下の折り返しのような白いレース飾りに変わった。

 

「あれ、ボクが触っても、レースに変わったりするんだ」

 

 不思議そうにしながらも、絹のような感触の白の靴下に、よく似合ったレース飾りになって、いい感じだ。

 

 クローゼットの扉の裏は、全面、鏡になっていて、そんなディルナの姿を映していた。

 

「なんだか、まだ、自分の姿に慣れない感じ。うん。でも、好きかな」

 

 クローゼットの中の棚には、スカートと同じ布でできた髪飾りが置かれていたので、昨日と同じように、頭に乗せる。

 

 すっかり身支度を調えてから、夜は見ない方がいいと言われていた窓辺へと向かった。

 

 

 素敵な織りのカーテンを真ん中から左右に開けると、腰の辺りの高さで、台形に張り出す出窓になっていた。

 三面に透明な板がめられていて、外の景色が見えている。

 

「わぁ、綺麗……!」

 

 外は風が吹いているのか、さん々《さん》とした光の中、たくさんの綺麗な花びらが、舞い踊っていた。

 

 正面の窓は、真ん中から外開きになるようだった。風が強すぎるようだけれど、思い切って窓を開け放ち、綺麗な景色を眺める。

 

 花びらの舞う景色とは裏腹に、窓から強い風は入って来なくて、心地好い感じのそよかぜが時折、入り込んできた。

 高い所にある屋根裏部屋からは、沢山の建物と、その真ん中を通る、とても広い道が見えていた。かなり遠くにあるらしいが、かすんだようなやまなみも良く見えている。

 

「あ、椅子、持ってこよう」

 

 机の椅子を持ってきて、靴を脱ぐと、正座のように椅子の上に座った。出窓が調度良い高さになる。

 

 広い道は、ずっと真っ直ぐ伸びていた。細い道は、たくさんあるようだった。建物の多くは道に沿うように拡がり、緑が多い所、森のように木々がこんもりとしている所など、見飽きない。

 

 そんな景色を彩るように、次々と様々な花びらが、どこからか舞い踊って通り過ぎて行く。

 眺めをしばし堪能していると、不意に、束になった花が、根元にリボンを巻かれた状態で、ぽーん、と出窓の窓台に飛び込んできた。

 

 桃色の優雅な花びらがタップリ重なった、とても華やかな見たことのない花が、沢山、開き掛けの、つぼみも一緒に、綺麗にまとめられている。

 

 

「ディルナ、朝食にしよう」

 

 不意に、どこからかレルシュトの声が聞こえてきた。

 

「はーい」

 

 応えては見たが、こちらの声がレルシュトに届いているか、ちょっと分からない。窓を閉め、椅子を降りて靴を履き、椅子を机の方に戻す。

 

「朝食は、昨日と同じ場所だ。一階だから、階段に気をつけるんだよ」

 

 どこから聞こえてくるのかわからなかったが、ちゃんと、ディルナの声は届いているようなので、もう一度、はーい、と応えた。

 ディルナは、出窓に飛んできた花束を手にし、良い香りを堪能しながら、扉から出て、階段を下って行った。

 

 


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