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第13話 妖精界の季節

「四季が無い頃の妖精界って、どんな景色だったんでしょうね?」

 

 屋根裏部屋から眺める景色は、いつも花や花びらが、沢山舞い踊っていて、とても美しい。

 

 食堂から繋がる居間の透明な窓から眺める景色は、屋根裏部屋から眺めるほどには、花びらが舞ってはいない感じだが、それでも、ごくたまに、ひらひらと小さな花びらが舞い落ちてきては、舞い上がって行く。

 

「春と夏の間を揺らいでいたようだという噂を聞いたことがある。ずっと花が咲き乱れるような。だから、丁度、今頃の景色は、割合、いにしえの妖精界の景色に近いのではないかな? ちょっと夏も終わりに近くなってきてはいるが」

 

 ソファーに座ったままのレルシュトは、窓辺で外を眺めながらのディルナに、そんな風に応えた。

 

「それは、ずっとずっと美しい景色のままだったんでしょうね? 四季があるのも素敵ですけど」

 

 きっと屋根裏部屋から眺めるような景色が、ずっと続いていたのだろう、と、ディルナは思う。

 

「我が輩とて、春と夏ばかりの妖精界の様子は、とんと見当がつかん。四季ができてから後の生まれだからな。今は四季がある。とはいえ、人間界に比べれば、冬と秋は短めで春が圧倒的に長い感じだな。楽しみにしているといい」

 

 にんまりと笑みを浮かべながらレルシュトは言った。

 

「はい! 秋も冬も春も、とっても楽しみです」

 

 レルシュトの言葉を頷きながら聞いているうちに、夏の景色がこんなに素敵なのだから、と、とてもワクワクした気持ちになっている。

 

「妖精界の季節は、一万二千年くらい前に取り入れられて、その時、人間界から、色々な植物が持ち込まれた。上手く自生できなかったものは消えていったらしいが、秋には、なかなか美事に色づく」

 

 夏が終わりに近づいている今、どうやら人間界のように、妖精界の秋もこうようするらしいと聞いて嬉しくなった。

 

「ボク、色づく秋は大好きです! 一万二千年くらい前って、妖精界に色々あったんですね。それにしても、四季を取り入れてしまうことができるなんて、妖精王さん、凄いです」

 

 すっかり感心した様子でディルナは応えている。

 レルシュトが嬉しそうな表情で頷き、立ち上がるとディルナの居る窓辺へと歩み寄って来た。

 

「夏は百日紅が咲いて、秋の始まりには金木犀が香る。晩秋に美しいのは銀杏(いちょう)紅葉(もみじ)。春になれば、沈丁花も香るし、梅や桃や桜や林檎の花が一斉に花開く。人間界の植物が、結構、生き残ったようだよ。この屋敷の庭にも、若干、紅葉する樹木がある」

 

 レルシュトは隣にたたずむと、広い庭へと視線を巡らせ、それからディルナへと視線を戻した。ディルナの知らない花も多く咲くようで、花が一斉に花開くという妖精界の春は、とても絶景だろうな、と、嬉しくなる。

 

「不思議なことに、人間界では自生できないような樹木や植物たちが、妖精界では自生していったらしい」

 

 レルシュトは、小さく、独り言めくように、そんなことも呟き足していた。ディルナには良くわからなかったが、人間界では滅びてしまったものが、妖精界では生き続けている、というようなことだろうか、と考えてみたりもする。

 

「ここからの眺めも、屋根裏部屋から眺める遠くの景色も、ボク、すごく楽しみです! 落ち葉とか積もったりするのかな? ちょっと紅葉する所、見られる場所が近くにあると嬉しいなぁ」

 

 屋敷から真っ直ぐに伸びる広い道の両脇に植えられているのは百日紅のようだったから、屋根裏部屋からも、真っ赤に色づく道が眺められるかもしれない。

 

「この屋敷の庭も、多少は色づくし、裏庭の方には彼岸花も咲く。屋敷の前の広い通りも百日紅が真っ赤に染まるが。落ち葉が降り積もるような美事な景色となると、少し遠出して森の入口あたりまで行くのが良いだろうな。良い季節になったら、馬車を用意しよう。紅葉の森と、銀杏の森、どちらもお勧めだよ」

 

 少し遠くでも、落ち葉の積もる森があるらしいと分り、馬車という言葉もあいって、ディルナの顔に、ぱぁっ、と、笑みがこぼれる。

 

「馬車を! すごい! そんなにして頂いてよろしいんですか?」

 

 ドキドキしながらディルナは訊いた。

 

「勿論。ザージュも連れて、皆で出かけよう」

 

 我が輩も落ち葉は楽しみだ、と、黒猫の顔で、にんまり笑いながら、レルシュトは小さく呟き足した。

 

 

 

「そうそう。妖精界には、嵐や吹雪はないから、心配は要らないが、ただ霧の出ている時には、外には出ないようにな。窓もカーテンも開けない方がいい」

 

 窓辺からソファーへと戻ったレルシュトが、不意に思い出したのか、そんな風に窓辺で外を眺めるディルナに声を掛けてきた。

 

「え、そんなに霧、深くなるんですか?」

 

 霧の時には窓も開けない方がいいと聞いて、驚いたようにディルナは聞き返す。

 

「いや、霧が薄い時でも、駄目だな。霧の時は、よくないものが、まぎれて近づいてきているから危ない」

 

 霧が深くなくても、霧が出ている時は危ない、ということだろうか?

 

「よくないもの?」

 

 ますますびっくりして、ディルナは青い瞳を丸くしている。

 

「普段は領地へ入ってこないような、沼に住んでいるものたちとか、山裾に隠れ住んでいるようなものとかが、霧があれば入り込んでくることが可能になるのでな。霧は良くない」

 

 腕組みし、少し眉根を寄せるような表情でレルシュトが言うので、ディルナはコクコクと頷いた。ちょっと、想像するのも怖い気がする。

 

「わかりました! 霧の時は、ボク、窓も開けないし、カーテンも閉めます。外には絶対に出ません!」

 

 レルシュトがそこまで言うということは、余程のことなんだろう、と、肝に銘じる。

 高い所の夜の窓の外とかもそうだが、妖精界には、ちょっと得体の知れない怖い部分もあるのだろう。

 

 それに、何より、ディルナ自身、霧が怖かった。

 迷い込んだら出てこられなくなりそうな、白い闇。

 

 更に、妖精界では、霧が出る時は、何やら本当に怖いものがはいかいすることになるというのだから尚更だ。

 

「霧が急に晴れたら、入り込んできていた、よくないもの、って、どうなるんですか?」

 

 ふと、心配になってディルナは訊いた。

 

「心配しなくても、霧さえ晴れれば、よくないものは、即座に元のすみに戻される。霧が消えたら、直ぐに外に出ても大丈夫だよ」

 

 余程、ディルナが怖そうにしていたのだろう。レルシュトは、いたわるような口調だった。

 

 しかし、そうは言われても、簡単に不安は消えない。霧が出た時は、晴れてもしばらくは外にでるのは止めておこう、と、ディルナは強くそう思っていた。

 

 


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