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小品

夢を見る男が起きるとき

作者: 星野☆明美

シュボッ!

暗闇にライターの炎がともった。

「どうしたの?」

少女が心細げに尋ねたが、その表情はかろうじて炎の灯りに照らされていた。

「しぃーっ。静かに。起きちゃうだろ?」

少年がくすっと笑って言った。

真夜中の遅々として進まない時間の中を、少年と少女は手さぐりで進んでいた。

「起きるって誰が?」

「世界中の人間、あるいは眠り男」

「眠り男?」

「この世はその男の夢でできている」

さらさらさら。

「あっ!星空だわ」

いかにも。いつの間にか夜空の下に佇んでいる。

「ライターいらないな」

「うん」

2人は手をつないであてどなく歩き始める。

「どこへ行くの?」

「どこでもない場所」

「そこへ行って何をするの?」

「冒険。日常生活。闘い。一生を全うする」

「それはどうしても必要なの?」

「きみはきみのしたいことをすればいい。恋愛。結婚。子育て」

「そして一生を全うするの?」

「そうだよ」

「なんのために?」

「なんのためって……」

少年は言葉に詰まる。

「ねえ、眠っている男を起こしましょう!」

「なぜ?」

「だって耐えられないもの。一生ってながくてみじかいもの、私には耐えられない」

「ちぇっ。勝手にしろよ」

「怒った?」

「いいや」

少年は少女の額に軽くキスをする。

白い光。

白装束に身を包んだ2人がつないだ手を離さないままより明るい方へ進む。

リンゴーン!!!

鐘が鳴る。

リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン……。

「わあ、やめろ!起きてしまうじゃないか!」

バリーン!!!

世界にひびが入る。

「待って!私を置いて行かないで!」

少女を取り残して、少年は強力な力で引き寄せられる。


ぱち。

「おはよう。目が覚めた?」

夢を見た。だけど、カスミのようにかき消えてしまった。

男は朝食を用意してくれた妻にキスすると、夢のモヤモヤを振り払おうとした。

「早く起きて」

はっ。

男は暗闇の中にいた。

いつまでも夢から覚めない。いつまでも夢を渡る。救いは彼女がいつも一緒にいてくれることだけ。

彼女?

そんなものはいない。

彼は独り、違う新しい夢を紡ごうと、再び眠りについた。


「帰ってきてくれたのね?」

「うん」

少年は少女の手をとって、安堵のため息をついた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議だ! 不思議な物語…… とても良いですね。 にゃんともいえないこの読後感……。 [気になる点] 少年が夢見る男だったのね。 そして…… [一言] 水渕成分さんのレビュー&割烹からきま…
[一言] 不思議です。 どちらが夢か現か、はたまた、両方が夢か?
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