9:主人公の居場所
「それでアレクシア様…ですか?」
キィ…コ…
「うん
アレクシアはいいところのお嬢様って設定なんだけど、名前に聞き覚えはない?」
キィ…
「う〜ん…アレクシアってもしかしてパーソナルネーム?」
「多分そうじゃないかな
殿下との初対面の時にアレクシアって呼んでないし…えっとなんて言ってたっけ…?」
コ…キィ…コ…
「アレクシアという名前は珍しくないからそれだけじゃあなんとも…」
「えぇい!どうして俺は殿下ルートをもっと周回しなかったんだ…!
まれっちとよく一緒にしてるくせに、クッ!」
「…そのマレッチって人もゲームに出てくる人ですか?」
キィ…コ…
「…というかそろそろさ、降りていい?」
先程からの音の正体を指差しながらバランスを崩さない程度に足をばたつかせる
音の正体__ブランコである
「ダメです
さっきのこともあるから近くでこそこそ話すにはこれが一番なんです
他のだと絶対距離とらせてきます」
よ、と声に合わせて背中をグッと押される
何回も行われた振り子振動に三半規管が悲鳴をあげ始めていた
「なんか酔ってきたんだけど…。」
「我慢して下さい」
「…エルメス君って完璧すぎるから周りの女性に高嶺の花扱いされそうだよね」
他人はもちろん、自分も甘やかすことは大事なのだと人生の先輩として教えてやらねば
「それ、高嶺のを花見ていた僕に喧嘩売ってるの」
ドスッとさっきよりも強めに押される…いや殴られる
やばっ地雷踏んじゃった
「あ、いやいやそういうものじゃなくてね?
ってそれよりもアレクシアの苗字だよねそうだよね!」
「…はやく思い出してください
僕もアレクシアという名前のお嬢様方を思い返しますので」
強引な話題転換に少々イラッとした態度でそれでも言葉通りに思い返しているのか左上の方に視線を浮かばせる
「えっとねー、特徴は…基本的にみんなに敬語で仲良くなったらタメ口になる感じ」
「…それは誰でもそうでしょうに」
「えとー他には〜…髪が…薄い淡い水色っぽい?」
スチルの端に映っている主人公の髪を思い出す
「あぁ〜…なるほど、ちょっと絞れた」
ポォンと背中を押される
「後〜髪は癖のないサラッサラ」
「ハイハイ…」
「髪留めも紺色の地味目なカチューシャで〜」
「…。」
「なんか、紫色の宝石?ついてた
あれ名前なんて言うんだっけ?」
「…アメジストでは?」
「そーそー!それだは多分!
でね他に髪」
「髪の話だけかぁい!」
今度は背中ではなく頭に衝撃が走る
「いったぁ…。」
「人に特徴を教えるのが壊滅的に下手なんですかあなたは!
それともアレ?髪フェチとか?
キモいです、半径7メートルより中に入らないでください!」
コソコソ話のためのブランコとは一体
「ちょ違っ!
会社側が炎上させないために主人公のシルエットは薄めにしてるの!
上位にいるのに唯一声無しだから詳しく分かんないの!
スチルで肩とか髪とかしか見えないの!
正直言って俺は主人公のことも攻略してみたいの!
アンダースタァン!?」
訳を話そうとしているうちに自分の欲求が飛び出る
気づけばエルメスの腕をガッチリ掴んで真正面から叫び声を浴びせていたらしい
フーフーと興奮した俺に驚いたのか無言でコクコク頷くエルメス
「分かればよろしい」
「…と、というか大声は控えて下さいよ
あの人が来たらどうしたものか」
「おや、誰か悩ましい人でもいるのかな?君」
この声はさっき聞いたばかりの…。
エルメスの肩越しに見える笑顔
「随分と元気そうだね
ただ、はしゃぎすぎるのは領地内に収める程度にするんだよ」
さっきまでは優しい笑顔だと思ってたけど…。
「君の考えは当たっていたようだね
本当にあそこの空気が悪くなっていたみたいだね
いやぁ、実に優秀な執事だ。」
…この人、エルメスのことを一切名前で呼ばない
「フフッそれでは悩みのタネもなくなったわけだし私はこれにて失礼するよ」
クルリと踵を返す
「あぁ、それと君」
…寸前にこちらを見つめる
「スピネル家のお嬢様に茶葉をお届けしてくれないか」
よろしく頼むよと言って去っていった
「スピネル家のお嬢様…?」
「…クッ…。」
「?どしt」
「やっぱあの人嫌い…!」
「…今度は何?」
「…スピネル家のお嬢様の名前はスピネル・A・アレクシア
エースのアレクシア」
「アレクシア…ってまさか…!」
「…借りを返してるつもりなんでしょうけど。
僕に気付かれないように盗み聞きしつつ、見つけられない僕に優秀な執事、なんて…随分と言ってくれますね」
主人公見つけれた!
「あの人は褒めながら貶すのが上手いんですよ
だからほんっっとうに嫌い」
…というかなんかこういうやり取り見たことあるような…?
「ゲームの中?…いや違うな〜何だっけ?」
「何ブツブツ呟いているの?」
「あぁ!わかった
R-18イラストのモブおじさんに散々イジられるまれっちの図!」
あのイラストすんごい良かったんだよなぁ!
画像保存は当然のこと
いいねと自分リストにいれて、宣伝するのも忘れてない
「すっごいいいんだよなぁ…。」
「…何を言っているのかわかんないんだけど」
「エルメス君はわからなくていいよ」
まだ穢れを知らない少年に教える必要はない
「…。」
「ちょちょっと!無言で蹴らないで!せめて何か喋って!?」
「サッサとスピネル家に行くぞ、このダメおっさんが。」
「エルメス君、だいぶ口悪くなったよね!?」
「何か喋っただけありがたいと思って」
「酷いっ!」
「…やはり何かあるな」
はしゃぐ二人の会話を「状態把握」の魔法能力を駆使し、聞き取ろうとする
妙に聞こえづらいのはエルメスの魔法能力、「磁波」によるものだろう
この磁波は金属音の波長と重なると周囲の音の波長をかき乱す異分子になる
わざわざ取っ手が鉄の鎖のブランコに乗ってまでして警戒を強めていた
「随分と嫌われたものだね、私も。」
若くも優秀な魔法使いは私から賞賛されるたびに苦虫を潰したような顔になっているのはよく見たものだ
一人の父として娘のことを見守ろうとしているだけなのだがとクツクツと笑う
昔から付いている笑い癖は消えそうにない
そして
『お気遣いありがとうございます』
(その笑い癖は私からの遺伝かい?それとも__)




