1:二次元世界へ!
「やぁ、アレクシア!
今日も来てくれたんだね!嬉しいy!」
ニコニコと笑うイケメン王子
世に言う優等生系、主人公のヒーローみたいな王道なやつ
「はい、今日のログインボーn」
ただ今の時間は深夜零時
そしてこれは女性向けのアプリゲーム『婿うの先へ!』
「イベントがあるみたいd」
先程からセリフが途中で切れているのは操作している人がタップ連打しているせいだ
「応援ありがとう!これからもよろしくっ!」
初めて爽やかな青年の声が最後まで通る
タップ連打が止まった画面に映し出されているのはゲームのキャラの人気投票結果
一位と書かれた表彰台で嬉しそうに頬をかきながらえへへとこちらへ笑いかけるイケメン王子が
操作主の指が画面をスライドさせる
次々に現れるイケメン達
「故郷と同じでお前たちからの愛もあっついな…でも、夜になっても冷めるなよ?」と言う砂漠の王子
「んーよくわかんないけど、とにかくありがとう!お礼にぼくと一緒にお昼寝しよ?」と語るのんびり屋な魔法少年
「ほう?どうやら私の領民となりたがる者が多いようだな…ふっいいだろう、私の駒として使ってやる」と笑い混じりに話す腹黒い金髪公爵
それらに見向きもせずにツツツ…と指を動かす
…と、指がとあるキャラクターをタップする
『…俺なんかに投票するやつがいるなんて…一応、アリガト…くわぁあはっずいなぁ』
キャラクターのセリフが文字で書き起こされる
「うっわーまじかよ!!」
そのとあるキャラクターの順位は21位
今までのキャラクターはボイス付きだったところを考えるとどうやら順位が20位以内のキャラにのみボイスがつくようだ。
「今回もガチったのによー!」
操作主の叫びが部屋で響く
その声は低い
「くっそー…まれっち落ちたか…。」
とても低い
それこそ女性の声とはとても思えないほど
そう、操作主は
「絵描いて順位上げに貢献しよ…そして今度こそ…俺のまれっちの声が聞けるわけだな!」
男だ。
「なぁーんだよ、なぁーんで毎回毎回順位微妙なんだよ
まれっち可愛いじゃん」
男はスマホを放り投げてペンタブを握りパソコンに向かう
「43位から21位ってだいぶ進んだけど…俺的にはまだまだだかんな!」
サッサと下書きなしで書き上げる
迷いのない描き方でこれまで何枚も彼、まれっちなるものを描いていた努力が垣間見見える
「一応俺の推しカプの子と一緒にいさせて…こんでいいだろ!」
少しばかり顔が丸みを帯び可愛らしくなったまれっちと言われている青年と肩に手を乗せ親しげに微笑むイケメン王子のツーショットが出来上がっていた
上出来だと言わんばかりに大きく頷きイラストをSNSに投稿する
数十分もすれば反応が来るだろう
一仕事終えたとばかりに大きく伸びをする男性
彼は柏木 智也
彼はひょんなことからこの乙女ゲーにハマってしまい、時には食費を時には電気代をガチャにまわすちょっとダメなサラリーマンである。
ジャンルがアレなだけに同性に趣味を話せず、かと言って異性に話す勇気のない彼はのほほんと周りに合わせ空気に溶け込んでいた。
孤立するようなひねた性格でもないので周りからは「微妙な距離の人」という認識を持たれていた。
「さぁて、どうかな〜?」
ネットでは女性と偽り、マイブームは趣味全開の絵を載せることだ。
画力はそこそこあったためネタを交え投稿してみると、同志の方々からは好評の嵐
「お、ぬいぬいさん今回もgoodしてくれてる」
今回も例外ではないらしく
『マルエレミア君めっちゃ嫌そうwww』
『マルちゃん可愛いー!!お嫁さんになって(真顔)』
『↑お嫁さんにの前にシャルラットのってつけなきゃ()』
『まるちゃん21位ドンマイ!それにしても今日もともちゃんが楽しそうで良かったw』
などなど投票結果を見終えたゲームユーザーがワラワラと出てくる
いつものように楽しげなコメントに思わず笑みが出てくる
「あー、この人達と一緒に婿先の世界に行きてぇわ…ん?」
そこに
『〔{log in : Ashicrea part (rescue number:3 4 7 )}{target : No.21 No.44←new(your core is controlled by GAMEMASTER;GAMEMASTER is not Game Master)〕』
「…は?」
英文はクリックできるようになっているが怪しすぎる
こういうのは変なサイトに飛ばされかねない
「俺、英語苦手なんだけど…あ〜しくれあ?アシクレアのこと?」
アシクレアとは「婿うの先へ!」の登場人物だ
最初は主人公にツンツンが9割、王子に対するデレが1割というわかりやすい悪役っ子だったが、ストーリーが続くにつれて彼女は主人公を認めてゆき最後には作中で彼女だけ唯一主人公との百合エンドがあるほどストーリーの本筋に関わる重大人物だ。
「レスキューナンバー、三百四十七?…ターゲット二十一と四十四?
コアがゲームマスターに制御されてる?…は?」
ちんぷんかんぷんな言葉に頭を捻るしかない
「しかもゲームマスターはゲームマスターじゃないってどう言うことだってばよ…。」
英文翻訳サイトを開いてる途中でSNSを更新して他のユーザーからの反応を確認してみる
「…あれ?」
しかしいつまでたってもイラストの感想だけ
こういうことに触れる人は少なからず一人はいるんだけど…。
いくら更新しても身内ネタしか出てこない
「…DMじゃないんだけど、もしかして俺しか見えてないとか?
…んなわけないか」
ここでふと気づく
「ナンバー21って21位のこと言ってんのか?」
targetの後に続く数字の既視感の正体が判明する
そして…
「このゲームは43キャラしかいないから44はおにゅーってことか」
だんだん掴めてきた内容
もしやこの英文、みんな知ってるから何も言わないのか?
なら、誰も指摘しないのも理解できる
「俺としたことが…ゲームの情報把握ミスとは…。」
自分のポンコツさにやれやれと頭を振る
ズキリと寝不足が頭に痛みで訴えかける
早い所どんなものか見て寝よう
そう決めて
クリックする
「アシクレア様」
んー…?
「起きてください、アシクレア様」
…アシクレア専属執事のボイス動画流したまま寝ちゃったのかな、俺
「起きてくださいよ、アシクレア様」
「うぅんしゃ……え?」
(あ、あれ…?声上ずりすぎじゃね?)
「おはようございます、アシクレア様
良いお天気ですよ
風も心地よいですし、お昼は中庭で食べますか?」
ブワッという布がなびく音と共に視界が明るくなる
そして今の現状が、情報が脳に飛び込んでくる
サテンのようにツヤツヤしたベッドのシーツ、視界の隅に映り込む長い赤茶の糸…髪?
豪華な絵、絨毯、カーテン、ランプ
思わず肌を触る
自分が自分であるはずだと思いたく無意識に手が動いていた
が、現実は違った。
柔らかい
肌が水気をきった白玉のようにすべすべしている
「?アシクレア様?」
疑問に思った少年が近づいてくる
『んーよくわかんないけど、とにかくありがとう!お礼にぼくと一緒にお昼寝しよ?』
脳内に声変わりを終えていない特徴的な少年声が蘇る
「あ…あぁ…あぁ…。」
キャパを超える情報量
「大丈夫ですか?アシクレア様?」
心配そうに覗き込む少年に構う余裕はない
ただちょっと
「時間が欲しいです…。」
「え?…あ、アシクレア様!?
ちょっとー!誰かー!!
アシクレア様、倒れたよー!!」
遠くでバタバタと音がする
それが意識を失う最後の瞬間だった
どうやら俺は乙女ゲーの世界に入りこんだみたいです。




