おとぎ話
これは昔のお話。
人口50人ほどの小さな村がありました。その村のある家で1人の可愛らしい赤子の男の子が生まれました。
その赤ん坊はとても可愛く家族一同、村人一同にとても可愛がられて育てられました。
名前はマルクと名付けられすくすくと育っていきました。
やがて15年が経過し彼、マルクは立派な少年へと育ち、村の畑作業に勤しんでいました。
明るく元気でいつも笑顔のマルクは村でも人気者でした。
マルクの明るい性格と笑顔と働きぶりもあり村人は明るく楽しく農作業が進み畑は実り、とても豊かな村になっていきました。
ある日、農作物の多い村にリーフ王国と呼ばれるこの世界で5本の指に入るほど巨大な国の一つである国の使者がやって来ました。
使者は村長を呼び言いました。
「我らの国の傘下に入らないか?」
豊かになった村に目をつけたリーフ国の王であるフィール・ロード・リーフが村を守ると引き換えに国に農作物を税として1部収めて欲しいと提案してきたとのこと。
村長はおもいました、非常に嬉しい話だと。
村の隣には大きな森がありその森には時折魔物と呼ばれる怪物が出てきて村が襲われる時がありました。
魔物は強いものから弱いものまで色々いますがこの村の近くにある森で現れる魔物はそこまで強くなく、村人でも数人が固まり農具で叩きふせれば何とか倒せるレベルでした。
しかし戦うのは農作業で鍛えられたとはいえただの村人。相手は本気で殺しにかかってくるため村人も命懸けで戦います。命を落とす者もいました。そして魔物はなにも持っている物はなく得るものは何も無いため失うばかりでした。
そんな中で今回の農作物を渡して村を守れるという言葉は非常に輝いて見えた村長は反対の者がいるかもしれない可能性を考慮して念の為村人達を集めみんなで相談しました
国に所属していないため村自体にお金は一銭もない。渡すものがお金ではなく村人の生活に困るどころかそれ以上にある大量の農作物を払い村を守れるというのであればこれほど嬉しいことは無かった。
村長はこの村がリーフ王国の傘下になることを快く承諾しました。これで村が守れる、魔物に怯える日々が無くなると村人達は大いに喜びました。
次の日村長がリーフ王の元に行き契約書を書きにリーフ王国に向かいました。
やがて無事に契約は終わりました。
次の日、参加に入った村を守るためリーフ王国の軍が一部派遣されまた。元々この村には名前がなかったためリーフ王はこの村に向かった使者がヤグラという者だったためヤグラ村と名付けました。リーフ王国の10軍あるうちの一つである軍の軍隊長であるヤグラはしばらく自分の名が村につくことを嫌がっていました。
長くいる村人達が相談し村人達で決めるべきだと思っていたからです。
しかし王により半場強引に決められました。
ヤグラは見た目はすこし強面で屈強な体をしたおじさんであったが人柄もよく、誰にでも優しく、そして何よりも強かった。
魔法こそ使えないが剣の腕は凄まじく、剣を持った屈強な男100人がかりで襲っても勝ち目はないであろう程の強さだった。
ヤグラはそんな性格が村人に安心感を与えたのと、村が魔物に襲われた時に偶然ヤグラ村に訪れていたヤグラは村を魔物の手から守り、その姿を見た村人達はヤグラを褒めたたえすぐにヤグラを受け入れ村人達と仲良くなりました。
そんなヤグラは自分の名前が付いた村なのと村人自体がいい人ばかりだっため愛着が湧き、村に護衛も兼ねて住み始めました。
ヤグラは農作業を手伝っている途中でマルクと出会いました。マルクも明るく人柄もいい為ヤグラとすぐに打ち解け仲良くなりました。
リーフ王国の税も多くはなくヤグラ村には平和な時が流れました。
しかしそれが続くことはありませんでした。
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リーフ王国の傘下に入って3年後、マルクは18歳になりました。
マルクはヤグラに剣術を教えてもらいながら少しづつ強くなっていき今では1人で魔物の住む森に入ることも出来ました。
ある日マルクはリーフ王国の傘下にあるヤグラ村から1番近い都市ムーンにある薬屋に売るための薬草を求め魔物の住む森の中で薬草採取していました。
マルクは薬草の量が思ったよりも少ないため欲を出しながらどんどん森の奥に進んでいきました。するとマルクはある遺跡を発見しました。
マルクはヤグラから借りた本に勇者が冒険をする本がありそこには遺跡がでてきていました。マルクはその本が大好きでいつも読み直していました。そんな大好きな本に載っているマルクにとっては憧れのようなものである遺跡を発見することが出来たマルクは剣術である程度の魔物を倒せて自信がついているのもあり何があるかも分からない遺跡に危険を承知で入りました。
ある程度遺跡内を進むと広間に出ました。窓も扉もない広間の真ん中にはポツンと1つの小さな黄金の杯があり、その杯の上には浮かぶように不気味な黒い炎が燃え続けていました。
しかしマルクは炎よりも黄金の杯にしか目がいきませんでした。
これを持って帰れば一体いくらで売れるのだろうか…。
金は非常に高い。
売れば村に大きく貢献出来るのではないか…。
マルクは黄金の杯を持ち帰ろうと手を伸ばしました。
すると炎がまるで生きているかのようにマルクを襲いました。
!!!!!!!!!!!!!
黒い炎に包まれたマルクの喉は瞬時に焼け声にならない悲鳴を上げました。余りの熱さ、痛みに苦しみました。いくら暴れても炎が消える様子はなくマルクは燃え続け苦しみ続け意識を失いました。
目を覚ますとあの遺跡でした。
マルクは生きていたのです。
体を起こすと目の前にあの黄金の杯があり上に浮いていた真っ黒な炎はなくなっていました。
体は無事で火傷のあとすらありませんでした。
あれほど痛み苦しみながらも体も無事だったためマルクはリアルな夢だったのだと1人で解決しました。
欲が消えてなかったマルクは目の前にある黄金の杯を恐る恐るを手に取りました。
しかしあの炎が、あの苦しみが、あの痛みが襲って来ることはありませんでした。
マルクは大急ぎで黄金の杯を取ると遺跡を出て村に向かいました。
走る、走る、マルクはとにかく走りました。
早く黄金の杯を見せて大好きな親の驚く顔が見たかった。ヤグラに褒めてもらいたかった。みんなに遺跡を見つけたことを自慢したかった。
ここでマルクはいくら走っても疲れないことに気が付きましたがあまり気にしませんでした。
そしてマルクはヤグラ村に着きました。
マルクは興奮していました。
マルクはみんなの驚く表情がとても楽しみでした。
マルクは村の門に向かうと杯を片手に門番をしているリーフ王国の軍の男、フィニックに話しかけました。
誰とも仲がいいマルクは当然門番をしている彼とも仲が良く、薬草採取に向かう前にも楽しく話していた人でした。
マルクはフィニックにいち早く伝えようと大きな声でフィニックの名前を呼びました。
こちらを振り向きマルクの姿を確認したフィニックは驚愕の顔を浮かべました。
黄金の杯に驚愕の顔を浮かべていると思っていたマルクでしたが彼はマルクの持つ黄金の杯に目がいっていませんでした。
なによりも驚きとは別に恐怖の表情もありました。
何故恐怖しているのだろうか?
その時、フィニックは持っていた槍を構えてマルクに攻撃してきました。かつてフィニックとした模擬戦とは程遠い程の殺意を込めた攻撃してきました。
マルクは肩を刺されました。
肩に鋭い痛みが走りました。
マルクは後ろに逃げるように下がりフィニックになぜ攻撃するのか聞きました。
フィニックは返事をせずにまた攻撃してきました。
話になりませんでした。とても冗談で攻撃している訳ではなく明らかな殺意を向けた攻撃にマルクは恐れ泣きながら森に逃げました。
マルクは走りました。泣きながら走りました。
なぜ攻撃するのか、何故ころほうとするのか。
後ろを振り替えると誰も追ってきていませんでした。
そして気がつくとマルクは遺跡にいました。
これは悪い夢だ、あの炎で包まれた夢の続きだ。早く覚めないと。
マルクは未だに持っている黄金の杯を見ました。
マルクは驚きました。
黄金の杯を持っている自分の手が、自分の体が……………
真っ黒な炎に包まれて燃えていたのです。
マルクは全身を黒い炎で包まれた魔物になっていました。
マルクは黄金の杯を元あった場所に戻しました。
そしてマルクは泣きました。
その黄金の杯の前で…
夢なら覚めてくれと
そして蹲り泣きました。
ーーー
夜になり村では大騒ぎになっていました。その理由は2つありました。マルクが帰ってこない事、そして門番のフィニックの前に突然現れた黒い炎に包まれた謎の魔物の事。
ヤグラとフィニック、そして村人達はこの炎に包まれた魔物がマルクを殺害した、もしくはマルクを人質にしている可能性があるとして村に現れたのは宣戦布告をしに来たのだと結論づけました。
喋ることが出来る様子であったため知能を持つ魔物と判断し警戒レベルをより上げヤグラ村で護衛をしているヤグラの軍の一部、フィニック含む全20名を集めヤグラも含めてマルクを探しに森に入りました。目的は謎の魔物の討伐とマルクの救出。
フィニックの証言の元、ヤグラ達は魔物が逃げていった方向に一直線に進んで行きました。
すると古い小さな遺跡が見えてきました。
ヤグラ達はあの魔物の住処なのかもしれないと思い遺跡の中に入りました。
一直線に進む遺跡の中を進んでいくと段々と奥に進むにつれてすすり泣く声が聞こえてきました。
これは魔物の鳴き声なのか酷く濁った声をしていてとても人間の泣く声ではありませんでした。
ヤグラ達はゆっくりと奥に進むと広間に出ました。
その広場の中心にはあの黒い炎に包まれた魔物がいました。
魔物は蹲りながら泣いていましたがヤグラ達は気にもとめませんでした。
魔物は訳もなく人を殺すモノ。
頭の中にそれが根付いている彼らには魔物に情をかけることなど一切有り得ませんでした。
ヤグラ達は魔物に気づかれないように剣を構えながらゆっくりと近づき来ました。
魔物は泣いているせいかヤグラ達に全く気が付きません。
蹲る魔物の目の前に来ると…
ヤグラは剣の柄を握る力を強めると一気に斬りかかりました。
痛い
痛い
痛い
切られたマルクは悲鳴をあげながら痛みにのたうち回りました。
斬った者を見るとヤグラだったのを視認し友に斬られた事によりマルクはさらに悲しくなり泣きました。
転げ回る魔物に追い討ちをかけるようにフィニックやヤグラの軍の者達が槍を、剣を、弓を構え一斉に攻撃してきました。
攻撃している人達はみんなマルクにとって大切な仲間であり親友だった人達でした。
そんな彼らが今まで自分に向けたことのなかった殺意に満ちた表情で攻撃してきました。
激痛に耐えながらマルクは思いました。
何故自分はこんな目にあっているのか…
何故自分は仲間達に殺されかけているのか…
自分は何か悪い事をしたのだろか…
マルクは悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなり悲しくなりました………………。
そして……
それは次第に悲しみから
大きな怒りに変わりました。
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マルクの怒りにあまりに頭はからっぽになっていました。
今自分が何をしているのか分からないぐらい興奮していました。
そして意識がハッキリした時に視界に広がる光景は…
無惨な姿で転がっているかつての親友達(ヤグラ達)でした。
マルクは泣きながら逃げるように遺跡から飛び出しました。
そして走りました。向かう先は村でした。
マルクは自分の両親に会いに行こうとしたのでした。
血の繋がった父と母なら自分だと分かってくれると信じて。
やがて村に到着したマルクは村の門を常人離れした脚力で飛び越えて我が家に他の村人に気づかれないようにゆっくりと隠れながら向かいました。父と母を確認するとゆっくりと近づき声をかけました。
魔物の姿を見た母は悲鳴を上げました。
父は手に持っていた桑を握りしめ殴りかかってきました。
悲鳴を聞き付けた村人達も農具を握りしめ襲いかかってきました。
マルクはまた泣きました。
マルクは諦めたように手を一振しました。
すると目の前に巨大な魔法陣があがりそしてそれは即座に砕け散り、無数の小さな炎の弾が降り注ぎ、父と母、村長を含む村人達を焼き、穴だらけにし、そして殺しました。
誰もいなくなった村の中心でマルクはまた蹲り泣きました。
炎を纏った体にもかかわらず涙の雫が落ち止まりませんでした。
次の日、魔物が来る前に村人の1人がヤグラが帰ってこないことを不審に思いリーフ王国に救援を求めに行っていました。
総勢5000人。ヤグラ軍隊長の次に当たる軍隊長補佐であるカルカが率いたヤグラ軍がヤグラ村に到着しました。
ヤグラ村の門の前には1匹の魔物が立っていました。
人の形をした黒い炎の塊のような魔物でした。
カルカは魔物に向けて軍を突進させました。
しかし
魔物の腕の一振により魔法陣が生まれ瞬時に弾け散り現れた巨大な火柱により4000人もの命が瞬時に灰になりました。
その光景を見たカルカ達は青ざめました。
ひとつの強大な魔法で仲間4000人が死にました。なんの冗談でしょうか。
そして魔物は残りの軍隊に向けて突撃してきました。カルカ含む1000人程の兵達は恐怖を顔に貼り付けながら逃げようとしました。
しかし魔物は炎に包まれた手を振るい兵達を次々に両断していきました。
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5000人を動員しリーフ王国に帰ってきたのはわずか4人でした。
王様は頭を抱えました。
軍隊長や軍隊長補佐等のベテランや、鍛え上げられた兵士約5000人を持ってしても1匹の魔物に太刀打ちできなかったからです。
リーフ王はその魔物を魔神と呼び恐れました。そして3日後リーフ王は緊急事態として魔神討伐のためベテランの剣士と魔法使い、そしてモンスターや魔物退治専門である冒険者を国中から集めました。数は10万に上り、中には1人で竜を倒したことのあるほどの実力者もいました。
そして彼らは再びヤグラ村に攻め込みました。
しかしヤグラ村には兵士や村人の死体のみで彼らの探す魔神はどこにもいませんでした。
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マルクは遺跡にいました。
魔物と生きていくという選択もありましたがマルクはそれを嫌いました。
そこでマルクは遺跡を改造し誰にも見つけられることの無い地下に続く隠し通路を作りました。
その地下でマルクは長い眠りにつくことにしました。
寿命があるのかどうか分からないこの体でいつまで寝れるのかわかりません。
しかし仮に魔物であれば寿命はありません。
マルクは遺跡の外で有名になりすぎました。
マルクは外の世界の人間達が自分のことを忘れてくれるまで眠ることにしました。それが何十年、何百年、何千年になろうともマルクは待つことにしました。
なによりマルクは誰も信じられなくなりました。
今のマルクは生き物を見ると無差別に襲いかねないほど追い詰められていました。
だからマルクは誰も襲わないように誰もいない地下を作りだして眠るのです。
マルクは願います。
100年、1000年後、世界の皆が自分を忘れてくれているように……。
マルクは願います…
また、自分も外で生きていけるような世界になってほしいと…
元に戻って欲しいと……