“ひかり”に照らされる幻影
ーー女の子?
本の中心。
本を開いた時に真ん中になる部分。
そこに手のひらに乗るサイズくらいの少女が浮かんでいる。
その見た目は、ルイ◯=キャ◯ルの不思議の国に出てくる主人公。長い金髪のフリフリな水色のエプロンドレスを着た少女のような可愛い姿をしていた。
『可愛いなんて言ってもらったら照れるじゃないですか。ありがとうございます。でも、知ってますよね。あなたの思ったその表現。全部文章に記録されていってるんですよ』
ーーそうね。でも、その例えが一番しっくりくるし。それと、もう目の前にあなたがいるのならーー 私とあなたのやり取りを文字と文章でこの本に記していかなくてもいいと思うんだけど。
『そうですね。やめましょう。わたくしとあなたはもうイメージの中で繋がっているので、この本に文章変換をする必要はありませんし。わたくしも手間が省けるのでそのほうが楽です』
そういうと少女はニコっと微笑んで私をみた。
少女の言葉のあとのーーそういうと少女はニコっと微笑んで私をみたーーこの私の表現の文字文章(地の文にあたる言葉)からが本のページに現れなくなった。
「ありがとう。なんか自分で自分の思いや想いを文字で視るのって恥ずかしくて嫌だったから。これでなんかスッキリした」
「わたくしも手間が省けてなによりです。これでお互いがウィンウィンですね」
(……ウィンウィンって、なんか使い方間違ってる気がするんだけど、まあいいかーー)
「その心の声はちゃんとわたくしに伝わってますよ。わたくしとあなたはこの本を通してイメージの中で繋がっているのは変わらないのですからね!」
少女は少し語尾を強めて言った。
「じゃあ極力無心になるように努める」
私がそう答えると少女はまた微笑んで答えた。
「まあ、いいですよ。わたくしもあんまりツッコミを入れないようにしますので」
「じゃあ、ツッコミが入る前にいま私が思ってるちょっと失礼な質問してもいい?」
「いいですよ。なんなりとどうぞ」
「ーーところでその姿って、創世の賢者さんの趣味なの?」
私がそう聞くと少女は一瞬だけ「えっ?」というような顔をしてみせた。
けれど直ぐに我に返って答えが返ってきた。
「違います! 創世の賢者はあくまで物語の蒐集をしてこの本にまとめただけの方です。わたくしの姿はその蒐集されたモノの中に混じっていた魔道書の原本、その原本を書いたマスター【イリス=ラピスラズリィ】の意思から成り立っています」
また私の知らない名前がでてきた。
そのイリスっていう人、たぶん女の人かな?
その人はアリスを知っていたんだろうか?
そんなことを思って私は少女の頰のあたりを人差し指でついてみた。けれどそこに触れることはできない。
「なにをされているのですか?」
「可愛いから、つい触りたくなっちゃっただけ」
「まあ、そのお気持ちはわかりますけど。残念ながらわたくしには実体はないのです。この身は思念の集合体の幻影みたいなモノなので……」
「ーーなんか不思議ね。妖精か精霊みたいな」
「面白い表現てすね。でもまあ、そのようなモノみたいな者です。私のマスターが魔道書に宿した想いからこの存在は生まれたのですから。魔道書phantasmagoriaから名前をとって【ria】と。そうマスターは名付けてくださいました」
「可愛い名前ね」
「ええ。とても気に入ってます」
少女はとても嬉しそうに答えた。そして私にも聞いてきた。
「あなたのお名前は?」
「燈 (ひかり)」
私は答えた。
「ヒカリ。良い響きですね」
少女はやわらかい表情で言葉を返してくれた。
「ーー優しく照らす光。“闇を照らす明るい輝き”。そういう意味を込めて付けた、ってお母さんは言ってた。でも私、名前負けしちゃってる。性格なんて明るくもないし」
「明るくなくても影くらいなら照らせます。無理をしなくても少しずつヒカリは燈 (ひかり)に近づいていけばいいじゃないですか」
「ありがとう。でも、なんか自分より幼い容姿のあなたにそんなふうに言われるのも、むずがゆいような変な気持ちね」
「わたくしのことはリアと呼んでください。いまはヒカリがマスターの“代わり”です。それと、この見た目の姿と、わたくしの内面 (精神年齢)とはかなりかけ離れているので、そこは分けてーーいや、切り離して見てください。因みにマスターはわたくしのことをよく【ロリババア】と呼んでいました」
(最後の情報はいらないと思うんけど……)
「それじゃあ自己紹介も済みましたし、物語の続きへいきますよ」
「ーーそ、そうね」
(彼女のマスターがどんな人物なのか気になったけれど、それを聞くのはやめておこう。また話が長引きそうだし)
「心の声に反応しますけど、マスターはとても優しいお姉さんみたいな人でしたよ。ーーさあ、ページをめくって先へ進みましょう」
「うん、わかった」
私は紙をめくって次のページを開いた。
ーーそれでは勇者の物語の始まりへ