天使と【神書】=≪ファンタスマゴリア≫
14歳の誕生日を迎えたその日の夜。
私が公園で散歩をしていたら突然、目の前の空間が歪みひび割れのような黒い線が現れた。
そしてそのひび割れから空間をこじ開ける様に歪みの向こう側から 一人の少年が姿を現した。
「私は智天使ヨフィエル」
ロイド・アス◯ルンド似の声をした少年だった。
彼は手に本を持っている。
一冊の分厚い本。
智天使ヨフィエルと名乗った少年がそれを私に渡してきた。
「その本の中には世界そのものが詰まっています。君が本を声を出さず黙読で読めば、それはただ本の中の物語で終わり、声を出して朗読すれば声は物語の中に届き、世界に動きが生まれます」
「えっ、あの……」
私が言葉を発する前に天使は微笑みながら、その本を無理矢理に私に押し付けてきた。
「さあ、あなたのお好きな様にその本をお読みなさい」
そう言って、智天使ヨフィエルと名乗った少年はまた、空間をこじ開けるようにして歪みの中に消えていった。
「…………?」
あっという間の出来事に、呆然と立ち尽くす私の手の中には押し付けられた厚い本だけがある。
その本の表紙には
世界を読み直す【神書】 ≪ファンタスマゴリア≫
著 ガブリエル=ウェルギリウス
そう書かれていた。
家に帰った私は自分の部屋に籠る。
今日はお父さんもお母さんも夜勤の仕事だからいま家には私一人しかいない。
だから声を出して本を読んでも、誰にも聞かれないし迷惑にもならない。
そしてここが一番重要。
なにより恥ずかしくない!
学校の国語の授業中に先生に当てられて教科書を読む音読の瞬間。
あれは私にとっては拷問だ。ましてや放課後のホームルームに先生の気まぐれで行われる1日の出来事を纏めて話す[1分間スピーチ]の時間。
あれはもう公開処刑だ!
話すような事もないのに、それなのにみんなの前で声を出して話さなくてはならないなんて。それも1分間も。
あの1分間は恥ずかしさと話すことが思い浮かばない無言の自分と、 周りの視線と沈黙が痛くて。1分間が永遠にも感じられる。
でも、いまは違う。
誰もいないし、誰も聞いていない。だから何も恥ずかしがる必要なんてないんだ。
よし!
あ、うん。……でも……まだ緊張……してるから…。
ちょっと待って。
恥ずかしがる必要がないとわかっていてもやっぱり恥ずかしい。
もし、誰かがどこかでいまの私を見ているとしたら、
多分、この文章を読んでいるあなたには共感してもらえると思う。
だから私が朗読を開始するまで少しだけ緊張をやわらげさせる時間をください!
すぅーー。はぁーー。
深呼吸して……。
よし!!
もう大丈夫。
両方の頰をパチンッ! と叩いて気合いを入れ直す。
これから私は一冊の特別な本を朗読します。
朗読されることによってその本の中の様々な世界が動き出すらしいのです。
それでは皆様! 是非このおとぎ話にお付き合いくださいませ!!
……と、何の意味もない恥ずかしい前口上を終わらせて、私は本の表紙をめくり目次に目を通した。
ーーんっ……?
目次
1.【戦わない勇者】
2.【 】
3.【 】
4.【 】
5.【 】
最初の話にしかタイトルがついてなくて、あとは空白になっている。
思わず手抜きだと感じてしまう。
次にページをめくって本編に入る。そのページを読まずに次のページを見ようと紙をめくる。
ーーえっ、なにこれ……?
とても硬くて紙をめくる事が出来ない。
ーーちゃんと読まないとダメってことかな?
とりあえず本編の始まりから読み始めてみることにした。